トップメッセージ

株式会社 長谷工コーポレーション代表取締役社長 池上 一夫

豊かな住まいと暮らしの実現を通じて持続可能な
社会づくり、企業価値向上を目指してまいります。

株式会社長谷工コーポレーション
代表取締役社長
池上 一夫

当社は、1937年「長谷川工務店」として創業し、1969年に自社第一号マンションを竣工して以来、首都圏・近畿圏を中心に分譲マンションの設計・施工を手がけてきました。施工してきたマンションの累計戸数は2023年に70万戸を超えましたが、ここに至るまでの間、変化する社会ニーズに応えながら、安全・安心・快適な住まいの提供に努めてまいりました。これまでの発展を支えてくださったすべてのステークホルダーの皆様に心より御礼申し上げます。

私は入社以来、一貫して意匠設計の業務に携わり、常に「豊かな住まい方」について考え続けてきました。そして今、社長としてこの理念を長谷工グループ全体で実現することに、より一層の使命感を感じています。

「豊かな住まい方」を実現するためには、物理的な空間を提供するだけではなく、人々の生活に寄り添い、幸せを育む場所を創造することが重要です。私たちは、住まいが家族の絆を深め、個々人の成長を支え、そして社会とのつながりを生み出す基盤になると考えています。

昨今、社会環境や生活様式が急速に変化する中、住まいに求められる役割も多様化しています。コロナ禍を経て社会に普及したテレワークにより、住まいは仕事の場としての機能も求められるようになりました。また、環境への配慮や災害への備えなど、サステナビリティの観点からもそのあり方が問われるようになっています。

国内ナンバーワンのマンション施工実績を持つ企業として、私たちには大きな社会的責任があります。この責任を果たすべく、品質と安全性の追求はもちろん、環境への配慮、働き方改革の推進、そしてガバナンスの強化にも注力しています。

「都市と人間の最適な生活環境を創造し、社会に貢献する。」という企業理念のもと、私たちは今後も変化する社会のニーズに応えつつ、新たな価値を創造し、日本の住まいをより豊かにすることで、持続可能な社会の実現に貢献したいと考えています。

社会変革期における挑戦
~NS計画4年間の振り返り~

2020年4月にスタートした5か年の中期経営計画「HASEKO Next Stage Plan(略称:NS計画)」は4年の期間が終了し、ついに最終年度に入りました。
この4年間は大きな社会環境の変化があったと感じています。計画スタート当初は新型コロナウイルスがまん延し、緊急事態宣言が発出されるなど厳しい状況下に置かれました。ただ、テレワークなどの導入により自宅で過ごす時間が増え、人々の住宅への関心が高まったことや、低金利の支えもあり、計画2期目の2021年度には業績を回復することができました。
一方で、コロナ禍が収束した現在においては、ウクライナ情勢や米中対立などに起因する燃料費の高騰、資材価格の上昇、円為替の変動などが起きています。また、建設業界では、半導体工場や大型再開発事業など国内建設需要が旺盛なことに伴い、労務不足が一層深刻化しています。2024年4月からは罰則付きの時間外労働の上限規制も始まりました。
こうした中、当社では従前から、当社の建設部門・設計部門・技術推進部門に建栄会という優れた協力会社組織を加えて四位一体となり、工業化工法やDXの促進を進めてきました。特にDXについては、14年前からコンピュータの3次元上で設計を行う「ビルディング・インフォメーション・モデリング」(以下、BIM)を導入するなど、業界に先駆けて建設現場でのDXを積極的に進めているほか、現在は人工知能(AI)を活用した自動設計や、建築部材メーカーと協力したサプライチェーンの効率化なども手がけています。
こうした取り組みにより、建設現場の生産性を1割アップさせることは実現できましたが、NS計画が終了する2025年3月期までに2割アップさせることを目指して、様々なチャレンジをしています。生産性のさらなる向上を実現することが、建設現場の労務不足に対応しながら品質と安全を確保するという社会課題の解決にもつながるものと考えています。

日本経済については、長年続いたデフレを脱しインフレに突入したことも大きな変化と捉えています。当社では2023年に引き続き、2024年も従業員の賃金の引き上げを実施しました。昨今の世界的な物価高騰という厳しい状況下での社員の頑張りに報いることが第一ですが、同時に当社の今後の発展・成長のためには、将来を担う人材の確保・定着が必要不可欠です。多様な個性・価値観を認め合い、すべての社員がやりがいを持って、自分らしく活躍できる環境を整えることにより、業績向上と処遇改善が連鎖する好循環を生み出すものと考えています。

社長安全パトロールにおける現場朝礼での訓示

マンションの新たな価値づくりに向けての挑戦

長谷工グループでは、マンションに新たな付加価値をつけるための挑戦を常に行っています。
代表的なものとして、最長15年のアフターサービス期間となる「長谷工プレミアムアフターサービス」があります。単に建物をつくるだけではなく、住まい手であるお客様から直接話を聞いて建物の状態を確かめたり、安心・安全・快適に暮らしていただくための調整や修繕も行っています。累計70万戸のマンションを施工し、高品質の居住環境を提供してきたマンションのトップメーカーとして、つくったあとも長く快適に住んでいただきたいという思いから、常に品質にこだわり、責務を持って取り組んでいます。
また、2024年春には、居室などに配置された収納スペースを集約することで自由な空間利用を可能にする分譲マンションの新たな間取り「Be-Fit」を開発しました。マンションの住戸面積が縮小傾向にある一方、住まいのあり方や働き方に対するニーズが多様化するなか、使い方を限定しない多目的な住空間の必要性が高まっていることを背景に開発したものですが、今後も消費者や住宅供給事業者の皆様の様々なニーズをくみ取り、「Be-Fit」に続く様々な商品企画・開発に積極的に挑戦していくつもりです。

環境配慮と居住性向上の両立を目指して

近年、気候変動による自然災害の頻発・激甚化が、私たちの住まいや暮らしの安全・安心にとって大きな脅威となっており、企業が持続的に事業活動を行う上でも、地球環境を守る取り組みは極めて重要です。
当社では、2021年に気候変動対応方針「HASEKO ZERO-Emission」を策定し、同時に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同を表明しました。本対応方針に則り、温室効果ガス(CO₂)総排出量の削減目標を設定していますが、そのベンチマークである2030年度の削減目標が科学的な根拠に基づくものとして、2022年6月にはScience Based Targets(SBT)イニシアチブより認定を取得しています。
その目標達成に向けた主要技術の一つとして、当社が独自に開発した環境配慮型コンクリート「H-BAコンクリート」があります。H-BAコンクリートは、一般のコンクリートと同等の品質を保ちつつ、建築物の適用箇所を選ばずに使用可能であることが大きな特長の一つです。さらなる環境負荷低減への要求の高まりが想定される中、汎用的に使用できるH-BAコンクリートを普及させていくとともに、より一層のCO₂排出量削減に向けた技術開発を進めていくことが重要だと考えています。
また、2050年カーボンニュートラルを目指す上で、ゼロエネルギーの新築マンションを建築するだけではなく、既存のマンションから排出されるCO₂を低減させることも大きな課題です。2023年、自社賃貸マンション「サステナブランシェ本行徳」では、リノベーション物件としては国内で初めて建物運用時のCO₂排出量実質ゼロを実現しました。日本では、建物をつくっては壊し、壊してはつくるといった「スクラップ&ビルド」の時代が長らく続きましたが、環境負荷低減に向けた行動が企業にも消費者にも求められるなか、住宅性能を維持しながら長く使う、ストックを活用するといった「ストック&リノベーション」の時代への移行も見込まれるところです。既存マンションのCO₂低減リノベーションは、今後需要が増大する分野とみています。
長谷工グループは、環境負荷の低減と居住空間の質的向上を同時に実現する重要な施策として、木造化および木質化の推進にも注力しています。この取り組みは、単にCO₂削減という環境面での効果だけでなく、居住者の心身の健康や幸福感にも大きく寄与するものと考えています。
木材の活用は、建築時のCO₂排出量削減に直接的に貢献します。また、木材自体がCO₂を固定化する性質を持つため、長期的な炭素貯蔵にもつながることに加えて、木材の製造・加工・輸送過程におけるCO₂排出量は、鉄やコンクリートと比較して大幅に少ないことも利点です。

私たちの木造化・木質化への取り組みは、単なる環境対策にとどまりません。木材が持つ独特の質感、香り、温もりは、人々の五感に働きかけ、心地よさや安らぎを与えます。特に、都市部のマンション居住者に対して、自然素材に触れる機会を提供することは、生活の質を大きく向上させる可能性を秘めています。現在、当社ではマンションの共用部分への木材活用を積極的に進めています。エントランスホール、ラウンジなどの共用スペースに木材を取り入れることで、マンション全体に温かみと高級感を演出し、居住者の満足度向上に貢献しています。
また、一部のプロジェクトでは、構造体自体の木造化にも挑戦しています。今後は、この木造化・木質化の取り組みをさらに拡大し、より多くのプロジェクトに導入してきたいと考えています。中層マンションにおける木造・木質ハイブリッド構造の研究開発にも力を入れ、技術的課題の克服に取り組んでいきます。

「HASEKO BIM & LIM Cloud」の構築と“暮らしの最適化”の実現

長谷工グループでは、マンションの設計・施工における生産性の向上や入居者の生活の質向上を目指して様々な取り組みを進めていますが、そのうちの一つである「リビング・インフォメーション・モデリング」(以下、LIM)は、マンションで居住者の生活が始まってからの建物の状態や設備の利用状況、居住者の生活動態など、マンション内で蓄積されるあらゆるハード・ソフトの情報を計測し一元化する仕組みです。住まいと暮らしに関する情報プラットフォーム「HASEKO BIM & LIM Cloud」を構築することで、単なる住空間の提供を超えた、真の「暮らしの最適化」を目指しています。
LIMに取り組む上では、新技術の開発や生活者のプライバシーへの配慮など、克服すべき課題が少なくありません。より確実で価値ある成果を生み出すために時間を要している面もあります。しかし、LIMが持つ可能性は計り知れません。例えば、「サステナブランシェ本行徳」での実証実験では、AIやIoTを活用した睡眠の質向上、自然環境がもたらすリラックス効果の数値化、災害対応システムの高度化など、多岐にわたる検証を行っています。これらの取り組みは、将来的に人々の住生活に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。
さらに、長谷工グループの強みは、マンションのライフサイクル全体をカバーする総合力にあります。設計・施工から販売、管理、修繕に至るまで、あらゆる段階で蓄積されるデータを統合的に活用することで、これまでにない付加価値を生み出せると確信しています。
現在、長谷工グループではこれらのビッグデータをデジタル化し、グループ全体で共有・活用できるシステムの構築を進めています。2030年までの完全実現を目指していますが、その過程で得られる知見や技術は、逐次サービスに反映させていく予定です。例えば、建物の経年変化予測に基づく先進的な予防保全や、居住者の生活パターンに応じたパーソナライズされたエネルギーマネジメント、さらにはコミュニティ形成支援のためのAI活用など、革新的なサービスの開発が期待できます。
LIMの取り組みは、単に長谷工グループの競争力強化にとどまらず、日本の住生活全体の質的向上に寄与する可能性を有しています。超高齢社会への対応、環境負荷の低減、災害レジリエンスの向上など、社会課題の解決にも大きく貢献できると考えています。
私たちは、この挑戦的な取り組みを通じて、「都市と人間の最適な生活環境を創造し、社会に貢献する。」という企業理念のもと、着実に歩みを進めていきます。今後も長期的視点を持ちつつ、一歩一歩確実に前進していきたいと思います。

イノベーションの源泉としての多様性

長谷工グループの特徴的な強みの一つは、建設会社でありながら長年にわたりサービス関連事業を手がけてきたことにあります。建設とサービスの両分野で事業を展開してきたことで、当社は早くから多様な人材の必要性を認識し、特に女性の活躍推進に注力してきました。こうした歴史的な背景が、当社の現在の人的資本経営の基盤となっています。
1980年代後半、当社は女性社員を中心とする「住まい方提案プロジェクト室」を設計部門内に設置しました。このプロジェクトでは、女性社員が実際にマンションに住みながら、日々の生活から得た気づきを商品開発に反映させました。この取り組みは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)という概念が一般化する以前から、当社が多様な視点、特に女性の視点を重視してきたことを示す一例ともなっています。女性活躍推進については、建設業界の中でもリーディングカンパニーとしての地位を確立すべく、より一層の努力を重ねていきます。次世代の女性管理職の育成を加速させるとともに、男性の育児参加促進、外国人材やシニア人材の活用など、あらゆる面での多様性推進に取り組んでいきたいと考えています。
2023年5月に策定した「長谷工グループ ダイバーシティ&インクルージョン推進方針」では、「個性活躍」をキーワードに掲げています。この「個性活躍」とは、単に多様性を認めるだけでなく、一人ひとりの独自の才能や視点を積極的に活かしながら、新たな価値創造につなげることを意味しています。私自身がトップとして、この「個性活躍」の実現に向けた取り組みの旗振り役となることを決意しています。

人々の住まいや暮らしが多様化する現代社会において、新しい価値を生み出し続けるには、多様な人材の視点を結集することが不可欠です。「個性活躍」を通じて、一人ひとりの社員が持てる能力や技術を最大限に発揮できる環境を整備し、イノベーションの創出と持続的な成長を実現してまいります。

現場視察

持続可能な社会の実現と企業価値向上の両立を目指して

社会情勢や環境問題が刻々と変化する中、企業のサステナビリティ経営への取り組みがますます重要になっています。長谷工グループは、「住まいと暮らしの創造企業グループ」としてこの課題に真摯に向き合い、ハードとソフトを連携させた多様な事業活動を通じて持続可能な社会の実現に貢献します。
私たちは、良質な住まいの提供が人々の尊厳ある生活の基盤であり、社会の持続的発展に不可欠であるという認識のもと、サステナビリティ推進に取り組んでいます。具体的には、環境配慮型住宅の企画・開発、多様性に配慮したコミュニティづくり、高齢者や障がい者なども含めたあらゆる人々に優しい住環境の整備などを推進しています。
これらの取り組みは、社会課題の解決に寄与するだけでなく、長谷工グループの競争力強化と新たな事業機会の創出にもつながると考えています。例えば、環境性能の高い住宅は、居住者のエネルギーコスト(光熱費)やメンテナンスコスト(修繕費)の削減をもたらすとともに快適性の向上にも貢献し、長期的な資産価値の維持にも寄与します。また、多様なニーズに応える住まいづくりは、新たな顧客層の開拓や事業領域の拡大をもたらします。
さらに、サステナビリティ経営の推進は、社員のエンゲージメント向上や多様で優秀な人材の確保にもつながり、組織の活性化と生産性向上に寄与すると考えています。これらの相乗効果により、長谷工グループの長期的な企業価値向上を実現できると確信しています。
今後もステークホルダーの皆様との対話を重視しながら、イノベーションの創出と社会課題の解決に果敢に挑戦してまいります。豊かな暮らしと住まいの実現を通じて持続可能な社会づくりに貢献し、企業価値の向上を目指していきますので、引き続きご支援を賜りますようお願い申し上げます。