グループ全体のデジタル化が進展。
本格的なトランスフォーメーション実現へ
大胆な変革を推進する

DXの推進にかかわる設計・建設部門と、長谷工グループを統括する3人が集結。NS計画で掲げた目標の達成に邁進した4年間を振り返り、これからの長谷工グループが進むべき未来のDXの姿を縦横無尽に語ります。

PROFILE

榑松 行雄 取締役専務執行役員(長谷工アネシス)

入社後3年間建設作業所を経験した後、米国で建設工学を学び、帰国後は長谷工コーポレーション経営企画部へ。その後、長谷工アネシス統括部長として、サービス関連事業を担当。価値創生部門創設時より、部門運営の長として携わる。2021年発足のDX推進委員会 副委員長。

堀井 規男 執行役員(長谷工コーポレーション エンジニアリング事業部)

入社後3年間建設作業所を経験した後、エンジニアリング事業部で意匠設計に従事。2012年から設計業務の傍らBIM導入の責任者として「長谷工版BIM」の構築に携わる。

原 英文 統括部長(長谷工コーポレーション 建設BIM推進部・DX推進部・建設IT推進部)

入社以来、建設作業所の第一線で働く。手書き中心の現場で、率先してCADに取り組む。建設BIM推進部立ち上げの際に、現場の経験を求められ現ポジションに着任。

NS計画のもとに取り組んだ4年間のDXの成果とは

榑松 NS計画の初年度を振り返ると、グループ各社とも報告や記録などの業務はアナログのものが多かったので、いきなりDX化を進めることは難しく、まずはこれらの業務をデジタル化していくことからスタートしました。各社とも積極的にデジタル化に取り組んだ4年間だったと思います。
長谷工グループの中でも賃貸マンションの管理運営、分譲マンションの管理運営、シニア事業を行う3社は、経営のあり方も含めて、業務フローそのものを抜本的に見直す取り組みを始めています。現在、基幹システム刷新の為の開発を進めている段階ですが、あと1、2年経つと、その効果が見えてくるでしょう。また、長谷工グループ全体でデータの相互利用が可能なグループ情報連携基盤の構築・運用を目指しています。
さらに新築マンション販売、不動産仲介を行う2社においても基幹システムの刷新、または業務を抜本的にデジタル化・データ活用を進めるプロジェクトに取り組んでいます。そういう意味で、基礎的なデジタル化から本格的なDXに向けたフェーズに入っていると思います。

堀井 設計部門では、DXという言葉が流行る前から、設計図書をBIMで行うことに取り組み、現在は全ての案件をBIMで設計しています。
当社の建設事業は、マンション工事が多く、その中でも設計と施行を一貫して請け負う比率は90%を超えます。一般的な設計事務所とは異なり、建設作業所で必要とされる施工図面も設計部門で作成している他、現場で得られた知見などを全ての設計図書に反映する仕組みも整えました。これを「フロントローディング」と言い、現段階では設計部門に若干負荷がかかっていますが、その分施工現場での効率化が図れていますので、当社全体の生産性は大きく向上しています。この4年間で、BIMに移行した効果が実感できるようになってきました。

 建設業では、「働き方改革関連法」の施行に伴い、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されています。建設部門では社員の労働時間の状況をデジタル化し、工程や作業所の諸条件データなどを収集分析することで残業の多い業務の特性や、どのようなタイミングでどのような業務に時間が掛かっているのかがわかり、一律な対策より効果的なパーソナルな対策を講じています。今後は、データドリブンにより、最適な人員の組み合わせや、所員が最高のパフォーマンスを導き出せるような環境を提供できると考えています。

業務改革こそがDXの本質

榑松 これまでの取り組みで業務の基礎的な部分でのデジタル化は進みましたが、それだけでは本来の意味でのDXにはなりません。デジタル化によって生産性の向上を目指すなら、まずは現在の業務フローの中で、「どういう部分で効率化が図れるのか」を具体的に示す必要があります。これまでの業務フローを大きく変えなければ、デジタル化しただけでは大幅な生産性の向上は期待できないでしょう。したがって、DXを進めるにあたっては、新たな基幹システム・業務システムを完成させるだけでなく、従来の仕事のやり方を変えるという行為がセットになると考えています。こういった業務改革を伴うものが、DXを目指す本質の部分です。

 建築作業所では設計図書がBIMになったことで、生産情報のデジタル化が進みました。例えば、2023年にサッシメーカー4社と共同で構築した、マンション用「アルミ製サッシ生産システム」は、その成果の現れです。これまでは当社からサッシの幅や高さ、取り付け位置などを記した設計図書を提供し、各メーカーがそれぞれ製作に必要な情報を自社システムに手で入力していましたが、長谷工版BI Mとデータ連係することで、直接、生産に必要な情報を自社システムに取り込むことが可能となり、入力・作図時間の短縮だけでなく、入力・伝達ミスなどのヒューマンエラー防止につながり、生産性が大きく向上しました。
前述のシステム構築の話からも分かる通り、長谷工だけで効果的なDXは実現できません。長谷工は、設計と施工の一貫体制に加えて、サプライチェーンである様々な協力会社とも一体となってマンションを中心に物作りを続けてきました。そういった中で仕様の標準化などを進めてきましたので、様々な情報を共有したり活用したりすることに長けています。アナログの時代から設計・建設・協力会社の三者が密に連携していた長谷工だからこそBIMになったことで、これまでより円滑に情報伝達ができるようになったのではないかと思います。そのため他社で長谷工版BIMのような取り組みを真似することは難しいのではないかと思います。

堀井 アナログ時代から、長谷工はお客様の要望や施工上の改善などを常に設計段階にフィードバックしながら進化してきました。いわゆる「アナログトランスフォーメーション」と言えるようなことを、ずっとやり続けてきたのです。協力会社の方々と一緒にPDCAをまわし続け、日々、改善する。そうやって成長してきた会社です。今、これをデジタルに置き換えることで、他社に追随できない速度でトランスフォーメーションが進んでいくと思います。

様々なチャレンジを通してDX人材を育成する

榑松 サービス関連事業では、まずはお客様に満足していただくことがなにより重要です。DX化で効率アップし、余った時間と予算を使って、さらに満足していただける住宅、リフォーム、管理サービスを提供し、「このマンションを買って良かった」と実感していただく。顧客満足に資する価値を創ることが大切なのです。
そのためにデジタルツールを活用することは非常に重要で、長谷工グループは3年前から「DXアカデミー」を開催して、DX人材の育成を続けています。「自律人材の継続輩出と将来の長谷工を担う多様な人材を育成する」を教育スローガンとして、様々な教育計画を進めています。第1弾は全役職員約8,000人を対象とした「DX意識改革プログラム」、第2弾は中堅・若手社員向けの「イノベーションリーダー育成プログラム」、第3弾はマネジメント層向けの「DXリテラシー講座」を開催しました。
昨今、技術の進歩がめざましく、生成AIも初期はテキストのみでしたが、現在では画像、動画、⾳楽まで作れる時代になりました。そういった急速な変化を踏まえて、今年度は、改めてグループ全役職員を対象に、最新情報も含めたDXリテラシー知識の習得・向上を目的にDXアカデミー第4弾を実施いたしました。
さらに今回、グループにおける「生成AI」や「メタバース」などの活用・展開を図るべく、長谷工アネシス価値創生部門内に「DXチャレンジプロジェクト」を発足させ、鋭意取り組んでいます。生成AIに関してはより多くの社員に体験してもらうため、「未来の素敵なリビングルーム」をテーマにコンテストを実施しました。評価には、最終の画像だけでなく、それを生成したプロンプト(指示・命令)の内容も加えました。優勝者のプロンプトがユニークで、欧米の著名な造形作家の名前を入れたことで、その人の作風が生成されたリビングデザイン画像に反映されていました。こうしたアイデアも共有していくことが、AIの利活用には重要です。また「メタバース」に関しては、モデルルームの代わりに活用できるメタバース空間の制作、運用にチャレンジしており、これまでに無かったような体験をお客様に提供していきたいと思っています。

堀井 DX人材というとコンピューターに強いといったようなイメージを持たれますが、私たちはプログラムを組める人を求めているのではありません。プログラムは生成AIで作ることができますが、AIで実現できないトランスフォーメーションの方が大事なのです。デジタル化によって暮らしや社会が変わることを踏まえ、物事を変革する視点を持つ人材が求められていると言えます。

 デジタルは手段であり、トランスフォーメーションには、やはり人がどれだけ変われるのかが重要だと思います。新たなアイデアや創造的な思考を持った人、あるいは、現状に満足せず前向きに変革を追求する人、こういう人材を今、大切に育てているところです。

住まいと暮らしの情報を組み合わせて見えてくる未来

榑松 グループ各社の中に集まっている各種データを組み合わせて分析し、価値あるデータを生みだしていく。それがDX化によって得られる大きな財産です。
現在、約47万戸のマンションを当社グループで管理しています。その中には、長谷工コーポレーションで施工したマンションもあれば、他社が施工したマンションもあります。お引き渡し後、しばらく経過した後に長谷工グループが大規模修繕を行ったマンションも混ざっています。これらの多種多様なマンションに関わる情報をデータとして認識し、さらにお客様の生活情報に紐付けることで、これまでとは違った新たなサービスが提供できるようになると考えています。
また長谷工グループが保有している賃貸マンションやシニア施設など12物件で、試験的にICT技術を導入しています。例えば、顔認証システム×AIによる防犯システムの検証、ゲリラ豪雨対策を組み込んだ排水システムなど、データをセンシングし、収集したデータの分析を随時行っています。今後は、長谷工グループが関わっている物件において、日々行なわれている暮らしにまつわるデータを統合し、お客様にとって暮らしやすい環境を提供することを検討しています。

 建設部門に集まる情報量は膨大でアナログのままでは扱いきれませんが、デジタル化することによってわずかな時間でも解析できます。分譲マンションの建築に必要な情報としては、設計図書以外に、お客様が選択された間取り、壁紙の色、キッチンや洗面台の高さなどがあり、これらの貴重なデータが建設部門に集約されています。
我々が施工している分譲マンションは、首都圏で約30%のシェアがあり、統計学的には「首都圏全体の傾向」が見て取れます。例えば、このエリアではどういう間取りや色が選ばれ、どんなオプションが求められているのかという情報から、お客様がどういう暮らし方を望んでいるのかが想定できます。その結果、住戸のタイプや収納量、標準設置するアイテムなど、他社とは違った特徴のある魅力的なマンションの提供が可能になります。
今の時代、少子高齢化から家族のかたちが変わり、暮らし方そのものが非常に多様化しています。100戸のマンションがあれば、100通りの暮らし方があり、100タイプのニーズに応えることが求められます。これまでは、時間と費用の問題で全戸一律のサービスしか提供できませんでしたが、今後はDX化を通してお客様からの細かいご要望に応じたパーソナルなサービスを提供できるようになるでしょう。大量供給から少量多品種へと社会のニーズが大きく変化する中、長谷工グループが生き残るために重要なことだと考えています。

住まいと暮らしづくりのAI活用、DXと長谷工グループの展望

堀井 設計部門ではAIを活用した自動設計に挑戦しています。手始めに当社で設計した過去5年間の住戸間取りのデータをAIに学習させ、間取りプランを自動生成するAIを作りました。まだまだ、AIだけで完結するレベルには至りませんが、設計者の検討の手助けにはなる、という段階です。今後、学習の精度を上げることで、AIによる様々なチェックや自動設計などが実現する可能性があります。
これまでのAIの研究を通し、AIが効果的に学習する環境の重要性に気付きました。現在、長谷工版BIMのデータをAIが効果的に学習できる環境構築を進めています。AIに学ばせるというのは意外と難しく、AIが理解できるようにデータの持つ意味を言語化し、データベース化する作業が必要です。その言語化についても自動化できれば、24時間365日、AIに学ばせることができます。長谷工版BIMというのは、これまで私たちが作り上げてきた業務に関する知見(ナレッジ)の塊です。それをAIが学習することで、新たに設計する物件のサジェスチョンを与えてくれる。そういう仕組みづくりを目指しています。
マンション関連の事業において、設計と建設はB to B、サービス関連はB to Cです。これまでは、それぞれでデジタル化、DX化を進めていましたが、最終的にはマージしていくことが必要ですし、それが長谷工グループの優位性をさらに高めることになると考えています。
両者のデータを相互活用するために、「住まい情報と暮らし情報のプラットフォーム(HASEKO BIM&LIM Cloud)」の構想を進めています。これはかなり大きな仕組みなので、構築まで時間が掛かりますが、将来的には大変ユニークなプラットフォームになると確信しています。

榑松 今後も様々な活動を続けていきますが、基本的に変わらないのが「住まいと暮らしの創造企業グループ」の一員であるということ、そして「都市と人間の最適な生活環境を創造し、社会に貢献する。」という企業理念を将来にわたって実現していくことです。
時代に合わせたお客様への寄り添い方を常に念頭に置き、サービス改善、改良を続けていく。そのためにDXを進めると同時に人間にしかできない部分の重要性を意識し、育てていく。その両輪をまわし続けることが、今後の企業活動にとって不可欠なのです。