グループ全社で考え、
進化させる「豊かな暮らし」のためのDX2022年度特集

長谷工グループのDX推進のために結成されたグループDX検討推進部会(以下、G-DX部会)の第一線で活躍する3人が集結。設計、施工から管理、修繕、住まい方にいたる、あらゆる場面でDXを活用・発展させ、日本の暮らしをさらに豊かにするべく邁進する長谷工DXの現在地点を語りました。

PROFILE

榑松 行雄 執行役員(長谷工アネシス)

入社後、アメリカで建設工学を学び、帰国後は経営企画へ。長谷工アネシス統括部長として、サービス関連事業を担当。価値創生部門創設時より、部門運営の長として携わる。2021年発足のDX推進委員会 副委員長。G-DX部会座長。
<DXに対する信念>

過去のやり方や発想に捉われず、現場を一気に転換するような意識改革が、DXを進める上で特に重要だと考えています。

堀井 規男 執行役員(長谷工コーポレーション エンジニアリング事業部)

入社後3年間建設現場を経験した後、エンジニアリング事業部で意匠設計に従事。2012年から設計業務の傍らBIM導入の責任者として「長谷工版BIM」の構築に携わる。G-DX部会メンバー。
<DXに対する信念>

BIMは膨大なデジタル情報の塊です。BIMリソースを中核にデジタルで長谷工グループ全体のビジネスモデルを再構築できれば、と考えています。

原 英文 統括部長(長谷工コーポレーション建設BIM推進部)

入社以来、建設現場の第一線で働く。手書き中心の現場で、率先してCADに取り組む。建設BIM推進部立上げの際に、現場の経験を求められ異動。G-DX部会メンバー。
<DXに対する信念>

設計、施工、管理までスムーズに情報共有のできる長谷工グループだからこそ、オリジナリティあふれるDXを構築できます。

設計から施工まで一気通貫が長谷工のスタイル

長谷工版BIMの特徴を教えてください。

堀井 現在では大手ゼネコンや設計事務所などで広くBIMが使われています。しかし、一般的なBIMでは設計BIMと施工 BIMが分離していて一気通貫でデータが有効活用できていない場合が少なくありません。
本来、設計から施工、さらには販売や維持管理までシームレスにデータが繋がっていくのがBIMの理想です。しかし、設計側がBIMに求める要素と施工側がBIMに求める要素が違うため、設計と施工が一つのBIMデータを共有するのは困難です。設計では色や形などデザインイメージが重要で、それらを 3D化してわかりやすく確認しプレゼンに活用したい。一方、施工は細かな納まりや数量、寸法などの数字が重要です。生産現場でそのまま使える程度まで精度を上げなければ利用できないのです。「おおまかな形でいいでしょう」という人と、「詳細に作ってくれないと困る」という人がいて、互いにデータが共有しにくい。その結果、設計が作ったBIMが施工ではほとんど使えないということが発生します。
その点、当社は設計・施工一貫で行う比率が90%以上です。加えて、私たちはマンションに特化した事業が多いので、ルールも決めやすく、データの流用もしやすい。それがまさに長谷工版BIMの最大の特徴で、当社はある意味、BIM向きの組織なのだと思います。
設計施工比率が90%を超えている当社だからこそ、設計の段階から施工部隊と共同利用できるBIMを作っていけるのです。このBIMの共同利用は、初期段階では設計に負荷がかかりますが、施工から販売にいたるまで全体の効率化が図れます。これを「フロントローディング」と呼びますが、そういったことができるのが当社の最大の強みです。
また日頃から協力会社(首都圏148社、関西圏・東海圏143社※2022年3月時点)の方々とも深いお付き合いをしていただいているので、彼らの声が設計の段階で反映され、さらに円滑に進む土壌があると思います。

 まさに、そこが他社の追随を許さない「四位一体」の強さです。当社は設計、建設、技術推進部門、そして協力会社の方々とで「四位一体」となって、情報共有などを四半世紀前からやり続けています。それがBIMの時代にも生きている。たとえば現場の担当者が職人さんの声を聞き、フィードバックをして川上で改善、川下で最適な業務体制に規格化・標準化・効率化し、それがBIMに組み込まれます。元々このような素地が当社にはあります。
またBIMを導入した成果の一つは、設計と建築の垣根をなくしたことだと思っています。フロントローディングやグループ会社との情報共有もスムーズにできます。セクショナリズムが無くなって、グループ一丸となって改革を進めはじめたということです。そのあたりの相乗効果はやはりBIMの存在がトリガーになっています。

全社員8,000人の意識を変えて
DX改革を進めていく

現在、BIM100%導入を実現し、いよいよ第2フェーズに入られたと思います。その中で、G-DX部会はどのような役割を担っているのでしょうか。

榑松 管理や修繕など、サービス関連の労働集約的な事業については、グループ各社を見ても、DXを支援する部隊がありません。そこでサービス関連各社に横串を刺し、長谷工グループ全体としてDXを推進する機能を持つグループDX推進委員会が立ち上げられたのです。活動の目的は、グループ各社がそれぞれの現場でDXに取り組めるようにバックアップ体制を作ることです。トライアルにも費用がかかるので、新たにDX予算という形の研究開発費を設けました。実際にトライして、そこでうまくいけば、次は各社の予算で進めてもらうという仕組みを構築しています。

堀井 半期に一度、関係会社の報告会があって、グループ各社から様々な重点取り組み課題が提示されます。今期はこんな対策を練り、こんなことを実践した、来期はこんな施策を実施する予定というような詳細な資料です。グループDX推進委員会では、それを検討して、この部分ではDXが活用できるのではと提案します。そうやって生まれたテーマごとにワーキンググループを作って、具体的に作業していきます。

 一緒になって改革をしようということを、建設部門から発信しています。あるデジタルツールを現場に提供したとき、従来の業務をただデジタルに替えただけでは、DXによる大きな効果は得られません。自分たちの今の業務のどこを改革して、改革に必要なデジタルツールを提供する、という手法に変更してから、効果がでるようになりました。やはり業務そのものを180度転換してしまうなど、意識改革を伴わないと結果がでないということを痛感しています。

榑松 たとえば手書きしたものを写真撮影したから効率が上がるというものではなく、それをプリントしてファイリングするという工程も含めて、全て不要になるため、一連のプロセスそのものを一気になくしてしまう、というような感性ですね。必要なものはクラウド上に保管すれば、ファイリングの手間もいらないし、検索も飛躍的に簡単になります。

 現状は情報の共有というDXのテーマと、「探す時間」「移動する時間」「待つ時間」を徹底的になくすという効率化に優先的に取り組んでいます。デジタル化の環境は整ってきたので、第二フェーズは活用する社員一人ひとりの意識改革のフェーズだと思います。

堀井 社員の意識を変えるためにも、2021年度には全社員8,000人を対象に「DXアカデミー」を開催しました。標準組込OSとして世界中で活用されている「TRON」を作成した東洋大学の坂村健教授をお招きし、「DXとはなにか」「DX実現への課題」などの基礎をeラーニングで学び、とにかく意識を変えてもらおうという試みです。その後、選抜されたDXリーダー社員のために「イノベーションリーダー育成プログラム」を実施し、更なるDX推進に向けて取り組んでいます。

BIMとLIMを重ね合わせた先に未来の暮らしが見えてくる

現在はBIMに続いて、LIM(リビング・インフォメーション・モデリング)にも力を入れています。LIMというオリジナル概念はどのようにして生まれたのでしょうか。

榑松 もともと当社はマンションを作ったらおしまいではなく、その後の管理などによって適切なアフターケアまで実施するということを大切にしています。施工したマンションのトラブル情報などは、CS促進部という部署に集約して対応し、必要があれば会社全体を巻き込んで解決し、次に活かすために設計や施工にフィードバックするのです。
ただ、この方法だと手間がかかり、時間がかかります。状況によってはお客様からのクレームに繋がってしまうことにもなります。そこで建物に様々なセンサーを設置してセンシングすると、不具合の状態が把握しやすく、現地に行かずとも撮影画像を遠隔で確認できるなどの仕組みを構築することで、マンションのアフターサービス対応、建物の維持管理が格段に向上できる、という発想のもと、LIMの概念が生まれました。仕組み次第で、マンションのアフターサービス対応が素晴らしいものになるのです。これが他社との差別化になっています。

さらに定期的に行う建物設備の点検データ、エレベーターなどの可動データなど、暮らしの情報全てを一元化して見える化する。これがLIMの考え方です。またLIMとBIMの情報を重ね合わせると、その建物の管理情報がプラットフォーム化できるのではないかと考えて、「HASEKO BIM & LIM Cloud」の構築を進めています。現在は長谷工グループ保有の賃貸マンションに地震センサー、環境センサーなどのセンサーデバイスの設置、顔認証システムの実装で、データ活用の実証を行っているところです。
またマンションは概ね12年に一度、大規模修繕をしています。その記録をBIM上に残すと、修繕前後の状態が明らかにわかります。さらに12年後の修繕も同じBIMに履歴として残します。すると建物の歴史がBIM上ですぐにわかり、資産維持や評価に繋がることになります。これは居住者の方にとっても、有用な情報になると考えています。

 建物の壁面温度をセンシングするということも考えています。これは大規模修繕に活用できると思うからです。たとえば建物の南側は高温になり、劣化が激しいということがわかれば、この面は高い耐久性の高価な材料を使って施工する。しかし北面は劣化が少なければ、それほど高い耐久性の材料はいらないかもしれない。場合によっては大規模修繕ではなく、日々のメンテナンスでも同じ結果が得られるかもしれません。経年劣化がデジタルデータになって整理されたら予防保全になり、ロングライフな建物を提供できると思います。

堀井 これはお客様のメリットになりますね。大規模修繕でも、エビデンスベースで「ここはこういう理由で修繕は不要」などと、はっきり見える化できるので、無駄のない修繕に繋がる。
私は「不具合予測」をやりたいと考えています。BIMとLIMを組み合わせると、トラブルが起こりそうな状況を事前に察知できます。まだ問題が起きていない状態のときに、当社のコールセンターからお客様に対して「そろそろ不具合が発生しそうなので、事前に対応させていただきます」とお伝えできれば、顧客満足度も上がるし、ビジネスチャンスも生まれるでしょう。

 LIMデータが集まってくると、そういった新しいビジネスがいろいろ生まれるのではないかなと思うんです。たとえば昨今は住民の方もダイバーシティが広がっていて、人種も言語も異なる方々が一つのマンションに暮らしています。そういう時代のマンション管理と運営を考えると、従来の方法では限界があるのではないでしょうか。「BIM & LIM」で情報を一元化すれば、建物の状態が3Dで見てわかる。言語に関係なく理解しやすいですから、補修などでも理解を得られやすいと思います。

「モノ」を超えて「コト」「トキ」を育むDXへ

今後の長谷工グループにおけるDXの未来像について、お聞かせください。

 「都市と人間の最適な生活環境を創造し、社会に貢献する。」という当社の企業理念の中で、生活環境の中の「モノ」はすでにご提供しています。今後、従来の建物維持管理だけでなく、中に暮らすお客様の生活情報がLIM上にデータとして集まれば「、コト」と「トキ」に対するサービスが誕生すると思います。


榑松 一例をあげると、学生用マンションに地震センサーをつけ、いざ地震が起きたときに、地方に暮らすご両親に現場での震度や被害状況をお伝えするというサービスもご提供可能です。

 将来的には、災害時に住んでいるマンションから避難場所までの最適ルートを示すことができるようになるかもしれません。何階に住んでいる人は、この階段で降りるなどの指示が出せれば、避難用階段の渋滞を改善できるでしょう。今後も意識改革を進め、DXをますます発展させて、「長谷工は次にどんなマンションをつくるのだろうか」「マンション管理でどんなサービスを開発提供するのだろうか」というわくわく感を持って、見守ってほしいと思っています。

榑松 「HASEKO BIM & LIM Cloud」はすでに動きはじめているので、これをいかに価値あるプラットフォームに育てるかが、今後のテーマです。お客様への営業から始まり、アフタークレームまで含めて、全てをデジタル化していくという作業を、今、グループ各社と連携して構築しているところです。我々の作った住宅、もしくは管理させていただいてる住宅で、快適に、豊かに、長く住んでいただくためのサポートを、DXを通じて実現していきたいと考えています。