住めば愉快なスーパースマートシティ「栃木県宇都宮市」

~LRTを基軸としたネットワーク型コンパクトシティ~

2025年03月28日 / 『CRI』2025年4月号掲載

変わるまち・未来に続くまち

目次
  1. 構想から30年を経て開業したLRTライトライン
  2. ライトラインの整備効果
  3. 駅西側延伸計画と都心部のまちづくり
  4. 宇都宮市が進めるネットワーク型コンパクトシティ
  5. スーパースマートシティうつのみや
  6. 2030年頃を見据えたまちの姿「スーパースマートシティ」の実現を目指して
  7. あとがき

宇都宮といえば、餃子のまち。
JR宇都宮駅前には、宇都宮特産の大谷石で作られた餃子の像が立っている。
そんな宇都宮市に次世代型路面電車(LRT)ライトラインが開業してから1年半が経過した。
ライトラインの利用者数は順調に増加し、沿線の人口の増加、沿線の地価の上昇基調の継続とともに、市民生活にも変化が生じている。
鉄道やLRTなどの公共交通で市内の各拠点を結ぶネットワーク型コンパクトシティの形成を進めている宇都宮市は、地域共生社会・地域経済循環社会・脱炭素社会の3つの要素が融合した「スーパースマートシティ」を目指しており、「共働き子育てしやすい街」で全国2位となるなど、都市の評価も向上している。
今回は、「住めば愉快だ宇都宮」を合言葉にまちづくりを進める「宇都宮市」についてレポートする。

北関東で最大の人口51万人が暮らすまち宇都宮市。栃木県の県庁所在都市である宇都宮は、日光連山を間近に望み、豊かで美しい自然に恵まれながら、東京から100km、新幹線で48分という利便性をあわせもち、東京圏への通勤・通学も可能な都市である。

構想から30年を経て開業したLRTライトライン

2023年8月、宇都宮駅東口から芳賀・高根沢工業団地までの14.6kmを結ぶ芳賀・宇都宮LRT「ライトライン」が路面電車としては75年ぶり、全線新設によるLRT(注1)としては国内初の開業を迎えた。1990年代から調査検討を進めてきたものが2010年に都市計画マスタープランで東西基幹公共交通と位置付けられ、2016年に軌道事業の特許取得、2018年に着工。構想から30年を経て、JR宇都宮駅の東側の区間がようやく開業した。ライトラインと呼ばれるこの次世代型路面電車は、各種交通との連携や低床式車両の活用による乗降の容易性、再生エネルギーの活用などの特徴がある交通システムで、時間に正確で環境にやさしい乗り物となっている。

注1 ライト・レール・トランジット

ライトライン路線図(宇都宮駅東口〜芳賀・高根沢工業団地)/出典:宇都宮市ライトライン路線図(宇都宮駅東口〜芳賀・高根沢工業団地)/出典:宇都宮市

ライトラインの整備効果

開業後、ライトラインの利用者数は計画を上回って推移し、2025年1月には利用者数が700万人に到達した。ライトラインの沿線では人口が増加し、地価の上昇基調が継続している。また、沿線では高層建築物の建築確認申請件数が増加しており、特に駅東大通り周辺ではマンションの建設など土地利用の高度化が進んでいる。2023年11月に実施した「ライトライン開業後における生活行動意識調査」(注2)および「ライトライン利用者調査」(注3)によると、開業前と比較して、沿線居住者の外出機会や歩く機会、交流機会の増加といった変化が生じている。生活行動意識調査による歩数を基にライトライン沿線居住者の医療費抑制効果を推計すると、年間約2.9~3.3億円になると試算されている。

注2 対象者:宇都宮市・芳賀町全域およびライトライン沿線住民、回収数:4,653世帯
注3 対象者:ライトライン利用者、回収数:1,305票

駅西側延伸計画と都心部のまちづくり

ライトラインは現在、JR宇都宮駅の東側のみが開業しているが、今後は、JR宇都宮駅西側への延伸が計画されている。西側延伸については、宇都宮駅東口から教育会館付近までの区間を整備区間とし、2030年の開業を目指して計画が進められている。この区間は宇都宮市の都心部にあたり、公共交通の充実によって、都心部の魅力やポテンシャルが向上されるよう、まちづくりと一体的に検討を進めていくこととしている。ライトラインの西側延伸計画も追い風となり、都心部での市街地再開発事業や優良建築物等整備事業の事業化の動きも進んでいる。

ライトラインの駅西側延伸計画/出典:宇都宮市ライトラインの駅西側延伸計画/出典:宇都宮市

宇都宮市が進めるネットワーク型コンパクトシティ

宇都宮市では、市内の各拠点が鉄道やLRT、路線バスなどの公共交通でつながることで、持続的に発展することができる「ネットワーク型コンパクトシティ」の形成を進めている。南北方向の鉄道に加え、東西方向の基幹公共交通としてLRTが整備され、バス路線の再編や地域内交通(乗り合いタクシー)の導入も進めることで、階層性のある効率的な公共交通ネットワークが構築されつつある。また、拠点形成の促進や定住人口の増加を図るため、居住誘導区域等に住宅を取得し居住する世帯に対する「マイホーム取得支援補助」や、居住誘導区域の賃貸住宅に転居した若年夫婦・子育て世帯等への家賃補助、東京圏からの移住支援金、東京圏への通勤・通学の新幹線定期券購入費補助などを行っている。さらに、移住と婚活を組み合わせた宇都宮マッチングツアーや、結婚に伴う住宅取得・賃借費用を補助する宇都宮市結婚新生活支援事業など、様々な施策が実施されている。

出典:宇都宮市出典:宇都宮市

スーパースマートシティうつのみや

宇都宮市は、2023年に改定した第6次宇都宮市総合計画(後期基本計画)で、「子どもから高齢者まで、誰もが豊かで便利に安心して暮らすことができ、夢や希望がかなうまち『スーパースマートシティ』」の実現を目指す新たな指針を定めた。ネットワーク型コンパクトシティを土台としながら、絆を深め共に支え合う「地域共生社会」、人・モノ・情報が行き交う「地域経済循環社会」、CO2排出量を実質ゼロとする「脱炭素社会」の3つの社会を構築し、その原動力となる「人」づくりと「デジタル」の活用を進めていくこととしている。
自転車ロードレースの国際大会「宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース」や、3人制バスケットボールの国際大会「FIBA 3x3ワールドツアー」の開幕戦「宇都宮オープナー」の開催は、スポーツのまちとして宇都宮市の新たな価値を創造し、また、宇都宮の水道水「うつのみや泉水」は、モンドセレクション金賞を受賞した。宇都宮餃子が美味しいのは、宇都宮の水道水が美味しいのも理由の一つなのだろう。
宇都宮市のロゴマーク「住めば愉快だ宇都宮」には、優れた立地特性や豊かな自然、自然災害の少なさ、安全で美味しい水、餃子をはじめとする楽しいモノや人など、宇都宮の生活拠点としての豊かさや楽しさが表現されている。

宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース/出典:宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース実行委員会宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース/出典:宇都宮ジャパンカップサイクルロードレース実行委員会

FIBA 3x3ワールドツアーオープナー/出典:3x3のまち宇都宮推進委員会FIBA 3x3ワールドツアーオープナー/出典:3x3のまち宇都宮推進委員会

2030年頃を見据えたまちの姿「スーパースマートシティ」の実現を目指して

宇都宮市総合政策部長 篠崎雄司 氏

ライトラインの利用者数が順調に増えており、通勤・通学や、生活で使う方の割合が増加し、市民生活の足として定着してきています。
人口減少時代であっても豊かに生活できる都市構造として、ネットワーク型コンパクトシティという構想を立て、ライトラインの整備に着手したのですが、思った以上の成果が出ている点などから、それを信じてやってきてよかったと思っております。また、再生エネルギー100%で走っている点が脱炭素社会にふさわしいと、海外からも高い評価を受けており、国内外からの多くの視察があります。
大阪・関西万博ではこの取り組みを展示する予定です。
今後は、駅西側への延伸による、2030年の開業を目指して、今年中には国に軌道運送高度化実施計画の申請を出す予定であります。
まちづくりについては、東側の好調を受けて、西側でも、民間の開発機運が高まっており、2023年度に市として制度創設した優良建築物等整備事業のご相談も沢山いただいております。こうした開発意欲の高まりと西側延伸を合わせて、都心部のまちづくりの活性化を図っていきたいと思います。西口駅前広場もライトライン延伸に合わせて再整備する予定であり、ライトラインが通る大通りは片側3車線の車道を1車線にする一方、再開発に伴うセットバックを含めて公共的な空間を創出して、歩いて楽しいウォーカブルなまちにしていく考えです。
宇都宮市は、このほかにも高校生までの医療費無料、保育料の軽減のほか、学校栄養士・図書館司書の全校配置や、学力向上や外国語指導のための教職員を市独自に採用するなど、全国トップクラスの子育て・教育環境を整備しております。スポーツを活用したまちづくりにも力を入れており、ライトラインの沿線にアーバンスポーツの国際大会を開催する東部総合公園を整備するほか、バスケット、サッカー、自転車のプロスポーツチームが3つある環境を生かして、スポーツと産業・デジタルなどの新たな価値創出を考えています。こうした取り組みによって、スーパースマートシティの実現を目指していきたいと思っています。

宇都宮市総合政策部長 篠崎雄司 氏宇都宮市総合政策部長 篠崎雄司 氏

あとがき

宇都宮市が2008年に示したネットワーク型コンパクトシティという都市空間形成の理念は、その後、立地適正化計画制度の創設とともに、全国の多くの都市における都市計画の方針となった。
LRTの開業によって、その理念の成果を実証した宇都宮市は、これからの時代の持続可能なまちづくりのあり方を示した好事例と言える。
公共交通の衰退が課題となっている地域は少なくないが、公的関与やDXの活用を含め、そのあり方を考えることも必要と思われる。
LRTとともに、未来に向けて走る宇都宮市のまちづくりをこれからも注目していきたい。(青木伊知郎)