リフォームで実現するマンションストックの価値向上

〜共用部分・専有部分、供給年代の視点から〜

2025年02月28日 / 『CRI』2025年3月号掲載

CRI REPORT

目次
  1. 1. マンションとはどんな住宅なのか
  2. 2. マンションの建物を健全に保つには─共用部分・専有部分、リフォームルール、年代別仕様という視点
  3. ①黎明期(1960~70年代、現状仕様と乖離多く、課題多数)
  4. ②普及期(1980年代、共用部分と関連の高いリフォーム)
  5. ③拡大期(1990年代、バブル期、性能高度化)
  6. ④品確対応期(2000年代、性能表示普及と高層化)
  7. 3. 「マンションリフォームガイド〜1980年代編〜」というアウトプット
  8. 4. まとめ

我が国のマンションストック総数は2023年末時点で約704万戸、1世帯当たり平均人員2.21を乗じると約1,516万人となり国民の1割超がマンションに居住している。
また、東京都のマンションストック総数は2017年に約181万戸に達し、総世帯数の約4分の1に相当している。
このように分譲マンションは都市居住の形態として一般的となっている。
高経年マンションにおいては居住者と建物両方の老い、いわゆる「2つの老い」が起きている一方で、多くのマンションは当面そこに建ち続ける。
そのため、マンションは都市の住宅ストックとして良好に保たれる必要がある。
一方で、分譲マンションは戸建住宅など他の建物とは異なる特徴があり、マンションストックの価値向上を目指すには、管理組合および区分所有者がそれぞれでそれらの特徴を理解して、適切にリフォームを行なう必要がある。
本稿では分譲マンションの特徴、そのうちマンションリフォームに大きく関わる「一つの建物が共用部分と専有部分に区分されている」、「供給年代により仕様が似通っている」などについて述べる。
さらにその考え方を元に実務者向けに作成した「マンションリフォームガイド~1980年代編~」((一社)マンションリフォーム推進協議(REPCO))の紹介を通して、マンションストックの価値向上について考えてみたい。

1. マンションとはどんな住宅なのか

ほとんどの方が何気なく使っている「マンション」という言葉。意外とその概念は難しい。形態から「集合住宅」、所有形態から賃貸の場合「アパート」、統計上「戸建ではない」場合の「共同住宅」などいろいろな似た言葉がある。 
「マンション」は、マンション管理適正化法で「イ「二以上の区分所有者が存する建物で人の居住の用に供する専有部分のあるもの並びにその敷地及び附属施設」ロ「一団地内の土地又は附属施設が当該団地内にあるイに掲げる建物を含む数棟の建物の所有者の共有に属する場合における当該土地及び附属施設」 」と定義されている。また「区分所有や独立の建物が複数あり」、「敷地、駐車場、遊園地、集会場、給水施設、汚水処理場などの附属施設が、所有者の共有になっている」ものを「団地」という。この「マンション」には戸建住宅等と異なる特徴がある。主なものを以下に列記する。

一つの建物を区分所有者が共有している。
区分所有者は同一の管理組合に属している。
管理規約、仕様細則等のルールが定められている。
マンション全体の意志決定は管理組合が行う。
一つの建物が共用部分と専有部分に区分されている。
上下左右に積層した住戸に集まって住んでいる。
同じ建物では、ほぼ同様の仕様の住戸である。
似通った属性の世帯が住んでいる。
意志決定は管理組合の総会による。
供給年代により仕様が似通っている。
管理組合を管理会社がサポートしている。
大規模修繕工事を定期的に行う。
当面はそこに建ち続ける。
中古住宅流通の市場で、他の住宅・マンションと比較され続ける。

はどのマンションにも該当するもの、は建物の形態によるもの、また以降は一定の傾向が見られるもの等である。 
建物の性能維持での特徴には「大規模修繕工事を定期的に行う」がある。各マンション管理組合で長期修繕計画を設定し、概ね十数年に一度大規模修繕工事を実施、建物の維持管理に努めている。これはマンションの利点である。逆に、戸建住宅に比して一筋縄ではいかない点もある。
まず、「一つの建物を区分所有者が共有し」、「同一の管理組合に属して」おり、「マンション全体の意志決定は管理組合が行う」点である。マンションは個人の自由にはならず意志決定は管理組合が行う。さらに「意志決定は管理組合の総会による」。通常定期総会はその機会は少なく、合意形成も必要となる。
また「当面はそこに建ち続ける」という特徴もある。近年は戸建住宅も「長期優良住宅」の概念が普及、長寿命化が志向され「そこに建ち続ける」ことが増えたと思われる。一方、マンションは区分所有関係が続くならば管理組合も同様に続くはずなので、マンションはほぼ必ずその間「そこに建ち続ける」こととなる。
さらに「中古住宅流通の市場で、他の住宅・マンションと比較され続ける」特徴もある。新築住宅は戸建・マンション共に最新仕様のものが毎年住宅市場に投入されている。一方、既築マンションの仕様は供給時点のものであり、仮にその性能を維持していたとしても相対的に陳腐化する。 
もちろん、区分所有者の努力で専有部分の性能向上は可能である。近年、一般的となったリノベーションにより、中古マンションでも間取りの変更や設備機器の更新は当たり前に行われ、断熱改修も内断熱、内窓改修により専有内部から可能である。しかしそれは各住戸での話であり「建物全体の性能向上」というわけにはいかない。省エネ性能を例に挙げると、近年の新築分譲マンションではZEHレベルに達しているが築十数年の中古マンションでも等級3程度である。つまりわずか十数年で大きく性能に差がついており、これはマンション全体の性能向上がなされない限り広がっていく。 
当初から入居している居住者はマンション供給当初の性能で満足されているかもしれないが、中古購入して入居している居住者は、現在の仕様に近い住まいに改善したいと思っているかもしれない。それらのニーズに応えることも重要である。また、住んでいると気に留まらないがマンションの資産価値向上や中古住宅市場における商品性も重要であろう。マンションは、「出生コーホート(※1)」のように「供給年代により仕様が似通っている(※2)」ことから同年代のものは比較されやすいため、同年代に比してバリューアップされたマンションが求められるのではなかろうか。

※1【コーホート】「コーホート」とは、ある期間に出生・婚姻等何らかの事象が発生した人を集団としてとらえたものであり、出生によるものを「出生コーホート」と呼ぶ。(厚生労働省「出生に関する統計」の概況より) 
※2【供給年代】分譲マンションは戸建てに比して供給するデベロッパーや施工する建設会社が限られていることに加えて1件の供給戸数が多いためである。したがって「あの頃供給された物件ならどのような設備がついている」といった相場観が形成される。

2. マンションの建物を健全に保つには─共用部分・専有部分、リフォームルール、年代別仕様という視点

前述のとおり、多くの分譲マンションは長期にわたり使われる可能性が高く、住宅ストックとして健全に保たれる必要がある。供給時の性能を維持するのはもちろんだが、居住者の要望や現状の性能水準に応じてさらなるバリューアップ、性能向上が求められる。しかしそれには様々なハードルがある。 
まず、改修費用や合意形成が挙げられるが、マンションには「一つの建物が共用部分と専有部分に区分されている」特徴がある。マンションは区分所有者で共有するため、建物を共有する部分と個人で専有する部分に区分されている。しかし、「共用部分と専有部分がひと続きになっている」工種等では、改修に当たって共用部分・専有部分両者の摺り合わせが必要となる。具体的には給排水管が挙げられる。図1は排水管の共用部分・専有部分の区分の概念図であるが、専有部分の枝管(横引き管)だけを改修しても排水竪管部分が古いままだと漏水などの問題が起こることがある。逆に、共用部分である排水竪管を更新する際には専有部分との調整が必要となる。管が貫通している壁や床も解体が必要であるし、区分所有者がこの機会に台所等のリフォームを図ろうという意向もあろう。さらに、マンションの築年が古い場合には排水竪管から伸びる枝管が下階のスラブから繋がっている、いわゆる「スラブ下配管」(下図赤線)であることもある。この場合は、排水竪管更新時に「スラブ下配管」を解消するよう分岐をスラブ上に設置することが望ましいが、これも管理組合と区分所有者との個別調整が必要である。
この竪管更新を「本体工事」とすると、壁床解体等は「道づれ工事」、台所リフォーム等は「オプション工事」という3つの工事に分けられるが、これらは表1のとおり所有区分と費用の支払い区分が全部異なっている。したがって、管理組合がその手順、考え方を示すなどの調整が重要である。

また、窓や玄関ドアなどの開口部は共用部分であるが、専有部分とみなして区分所有者が性能向上工事を行うことを認める場合もある。このような場合に重要な役割を果たす「管理規約、使用細則等のルールが定められている」特徴がある。マンションの管理や使用に関するルールである「管理規約」、それに基づいた細かなルールとして「使用細則」、「リフォーム細則」であるが、これも供給年代によって異なっており、それが新しい建物仕様に対応できないこともある。そのような場合は新しい建物仕様に合わせて変えていかなければならない。 
さらに「建物の性能向上目標」もある。マンションは供給年代ごとに仕様が異なるので、どれくらい性能向上を行うべきか検討の必要がある。共用部分は管理組合がマンションの将来を見越して、専有部分は各区分所有者がそれぞれのニーズに応じて設定することとなるが「どこまで改善すべきか」について、その知見や目安が必要となる。 
これらの問題について、長年研究してきたのが(一社)マンションリフォーム推進協議会(以下「REPCO」と表記)である。本件ではまずマンションが「供給年代別に仕様が異なる」ことについて、概ね10年ごとに平面形状や部位別に変遷を整理した。管理規約等のルールについても同様である。(※3)(表2)

※3【REPCOの既築マンションに関する調査研究】そのアウトプットは約10年にわたり日本建築学会大会に発表し続けている。例えば、本稿で取り扱った「80年代マンションリフォームマニュアル」については高橋徹、桒原千朗、宇治康直、秋山哲一「分譲マンション供給時期別リフォーム実用マニュアル作成に向けた分析 その1 総論:専有部分と共有部分双方視点の横断分析」、桒原千朗、高橋徹、宇治康直、秋山哲一「同 その2 1980年代に着目して」(2018年、北陸大会)にまとめている。

これらの情報を、概ね10年ごとの4期に分け、工種別に共用部分・専有部分の部位の整理や使用細則等のルールの整理等を行った。その一部は下記のとおりである。

①黎明期(1960~70年代、現状仕様と乖離多く、課題多数)

旧耐震、省エネ基準未整備で、既に建替えも視野に入る年代。設備面では、在来浴室が多く、いわゆるスラブ下配管となりその移動が難しい。管種も鋼管が多く更新時期を迎えている。直接排気採用でプラン制限もあり、行灯部屋解消など間取り変更の要望が多く大規模リフォームが発生している。

②普及期(1980年代、共用部分と関連の高いリフォーム)

ユニットバスの普及に伴い階上配管が主流となり、専有部分でのリフォームが容易な仕様へ変化。また、個別換気ダクト採用により水回り位置が自由になり住戸内側へ移動。住戸を増やす目的で間口の狭いフロンテージプランが増加。70年代物件と異なり新耐震基準(耐震補強不要)かつ旧省エネ基準が施行されている。

③拡大期(1990年代、バブル期、性能高度化)

新省エネ基準の採用・樹脂管の普及などにより現在の仕様に近い物件が多い。設備配置等の関係ではバリアフリー化が進み水回りの床のみを下げるダウンスラブの採用物件も増加した。また、セキュリティ設備の普及と共にインターホン連動の火災報知機なども普及したことにより一定の注意が必要となった。

④品確対応期(2000年代、性能表示普及と高層化)

2000年の品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)の施行により性能表示採用物件が増加し、様々な新しい技術の採用も進んだ。階高の高い物件も増え、給湯管も樹脂管となりヘッダ導入も進んだ。また24時間換気、次世代省エネ基準も採用され現在の供給物件に近い仕様となった。また高層物件の増加もこのころである。

このように概ね10年をひとまとまりとして整理を行っている。REPCOではこのアウトプットをリフォーム現場に「マニュアル」として提供することを検討、実施した。年代の選定については、4区分のうち、戸数が多くリフォームニーズが高いことに加えて、耐震性やスラブ下配管等の課題が少ない80年代を先行して作成した。これらにより共用部分・専有部分の現状とそれぞれの目指すべき改修手法および性能向上レベルが管理組合、区分所有者に示された。さらにそれを実施するため、共用部分・専有部分の整理を行った。①本体工事、②道づれ工事、③オプション工事のそれぞれの発生、④留意点の整理等を行い、それらをルール化し促進方法および留意点の整理を行った。 
これらのアウトプットとして、留意点の全体整理を行い、適正なマンションリフォーム工事に対応させるために作成したものが、「マンションリフォームガイド~1980年代編~」である。(図2)

3. 「マンションリフォームガイド〜1980年代編〜」というアウトプット

本ガイドは、前項で示した供給時期別のハード・ソフト・法令等の横断的整理と課題整理を行って、リフォーム事業者にわかりやすいかたちで提供するために作成した。これは、80年代というマンションリフォームのニーズが多いと思われる「ボリュームゾーン」を対象に行った。
内容としては図3に示すように各部位別にページを設け、実際の工事写真等を掲載し80年代と現在のマンションの仕様比較を行っている。また、「リフォームトピックス」としてリフォームを促進する施策、そのメリットの他、「リフォーム注意点」、「リフォーム禁止事項」、そして「共用部分・管理規約との関わり」等の項目を示し、会員企業向けに作成した。

また、本ガイドには、現在のリフォームに対応していない管理規約等の改善を促す記述がある。「物理的劣化、機能的劣化を解消しない限り資産価値の向上は見込めない。品質の確保と資産価値向上を図るため、管理規約・細則で基準を明確にする必要がある」として、専有部分リフォームに関わるルールを示している。(表3)

本ガイドの冒頭には下記のように記されている。

今回、供給時期別のハード(建築、設備等仕様)、ソフト(管理規約・細則等)と法令などを横断的に分析しながら、課題の整理を行いました。このような情報は、今後マンションリフォームに参入する業者の方や、共用部分・専有部分併せた建物全体として維持保全を行う管理会社の方々のニーズが高いと考えました。
さらに区分所有者様からのリフォーム申請を受ける立場で、そのリフォームのルール化を検討している管理組合の皆様にも、参考になると思います。
今回、このリフォームガイドを策定するに当たって、適正なリフォームを行いマンションストックの価値向上を図るには、マンションの供給年代に応じた共用部分・専有部分それぞれの修繕工事の方法を示すこととリフォーム工事上の注意点や管理組合での規約・細則のありかた等をわかりやすいかたちで提供することが不可欠だと考えました。マンションリフォームに関わる実務者管理組合、区分所有者に、リフォーム実用マニュアルとして広く使われることを期待しています。

4. まとめ

本稿で述べたように、都市圏の長寿命な住宅ストックとして、分譲マンションは今後一層の性能向上が求められる。そして建物を健全に保つためにも「所有関係が共用部分・専有部分に分かれる」、「供給年代により仕様が似通っている等」の特徴を把握し、管理組合および区分所有者それぞれが適切なリフォームを行うことと、それを促す管理規約等のルール整備などの仕組み作りが必要である。 
その考え方を、実際のマンションリフォーム現場の実態に即して作成したのがREPCO「マンションリフォームガイド」である。マンションの大規模修繕やリノベーションなどの専有部分リフォームに関わる方に参考にしていただきたい。 
マンション管理・運営の中で自らのマンションをより良くするために言及されるのが「マンションの将来像の共有」である。その中には「建物価値向上への意志」も含まれる。 
将来のマンションのあり方や今後目指していく性能水準等を共有することにより、管理組合は大規模修繕工事等を通して建物全体の性能向上を目指し、区分所有者は専有部分をより快適に住めるようリフォームを考える。そしてそれらが円滑に進むような仕組み作りも重要である。それには、平時からマンションの将来について管理組合内で気軽に語り合える間柄、コミュニティの形成がこれまた重要なのだろう。

高橋徹