リフォーム&リノベのプロがこだわり改造した自宅マンション部屋潜入ルポ

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プロが行う自宅リノベには、どんな知恵とテクニックが隠れているのか? リフォーム&リノベーションの会社に勤めるリノベのプロならではのこだわりを伺ってきました。

昨年、東京都江東区にある中古マンションを購入。間取りを大きく変更するリノベーションを経てご夫婦2人の新生活を始めたAさんは、じつはマンションのリフォーム&リノベーションの会社にお勤め。日々リフォーム&リノベの実例を目の当たりにし、数々の暮らしの悩みを解決しているプロフェッショナルです。そんなプロが行う自宅改造には、専門家ならではの知恵とテクニックが詰まっているはず。と、こだわり満載のご自宅を覗かせていただきました。

 

――マンション購入とリノベーションを決めたきっかけは?

 

Aさん(以下、A):色々な町に住み替えることができ、引っ越し自体も大好きなので、もともとは賃貸派でした。でも、仕事で色々なお客様のお話を伺ったり建築資材に触れたりする機会をもつうちに、間取りや設備をリノベーションして、愛着のある家をライフステージに合わせてつくり変えていくスタイルに魅力を感じるようになり、今回思い切って購入を決めました。リフォーム&リノベのキャリアを積む中で、フローリングや壁紙、タイルや建具など、好きなブランドをたくさん見つけてきました。その蓄積を集結した「360度お気に入りに囲まれた暮らし」を実現したいと意気込んで、初めからリノベーション前提の購入計画を立てました。

▲窓辺のステップ、エントランスホールの床、キッチンカウンターなど随所に使われたタイルがAさん邸の印象的なアクセント。すべてAさん自身が一枚一枚貼ったもの

▲グリーン豊かなAさん宅。掃き出し窓の高さに合わせたステップを設けタイル貼りにすることで、プランターからの水漏れによるフローリング劣化の懸念を排除

――家づくりにあたっての最優先事項はなんでしたか?

 

A:マンション購入を決めた時から、住みたい家について夫とたくさん話し合いました。その過程で分かったのが、2人とも、実家にいた頃から自分の部屋よりもリビングにいることが多かったということ。そして辿り着いた結論は「リビングが家族みんなの居場所になる家」でした。常に家族の気配を感じつつ、時にはほど良い距離感も保てるような空間にしたいね、と。

 

――そして、広いリビングを実現できる物件探しがスタートしたわけですね?

 

A:はい。壁をぶち抜いて大きな空間を作れることが第一条件だったので、水回りが部屋の隅に、なおかつ一箇所にまとまっている物件を探して、おおよそどんな間取りにするかを決めてから問い合わせをしていました。リノベーション前提だと部屋の状況を気にする必要がなく、年季が入っていればいるほどテンションが上がりましたね(笑)。内見では、リフォームでは変えることができない部分を重点的にチェック。築年数がそれなりに経過している物件が多かったので、玄関扉からの隙間風はないか、給気口の数は足りているか、配管更新は行われているかなど。また、ごみ収集場所などの共用部の状況、掲示板に騒音や喫煙トラブルがないか、近所のベランダにゴミが溜まっていないか、管理人の勤務時間などもしっかり確認。と、チェックすべきポイントは色々ありますが、今回8件ほど内見してみて一番感じたのは、結局は巡り合わせとフィーリングだなと。

▲妥協することなく好きなものを集めた空間。フローリング材もAさんがひとめ惚れして決めたもの。「目に入るたびにかわいい!と嬉しくなっています」

――まるでホテルみたいにすっきりとした空間ですね。収納家具がほとんど見当たらないのですが?

 

A:ほぼ、すべての持ち物を廊下に造り付けたクローゼット&収納庫に収めています。一般的に収納の広さは部屋の面積に対して10%といわれています。72㎡の我が家で換算すると7㎡、4.2畳ほど。通常だと3畳のWIC+αになるのでしょうけれど、持ち物をリストに書いて、どこに何を収納するかを図面に書き出したところ、我が家にはそこまでの荷物がありませんでした。家を持つ=引っ越しという断捨離のチャンスがなくなること。不用品に部屋の面積を占領されないよう、無闇に収納場所を増やさず「定期量+少しの余白」だけと考えました。子どもが生まれたりして将来、収納が必要になりそうなところには、家具を取り付けられるように壁に下地を入れています。

▲廊下に並ぶ収納スペース。手前2つが夫婦各々のクローゼット、奥がその他の物入れ。限りあるスペースを不用品に奪われないよう「ここに入るだけしか物を持たない」がポリシー

――インテリアに関してこだわったポイントは?

 

A:細部を揃えておくと全体的に統一感が生まれると考えているので、ドアノブや照明器具などの金物は真鍮やゴールドを使用するというルールを決めました。床の見切りもゴールドに。ドアノブや取手ひとつにもさまざまな種類があるので、色を決めておくことで選択肢を絞り込みやすいというメリットもありました。
また、広いリビングがのっぺりと見えないよう、テーマカラーをグリーンと決めて取り入れました。我が家は植物をたくさん育てているのですが、植物ごとに葉のグリーンが違っているように、マットな壁に深い光沢を放つタイルというように、少しずつ異なった印象の緑を入れることで、奥行きのある空間になったと思います。

▲上質な木のテクスチャーと深いグリーンを効かせたカラーリング。明るさと落ち着きが絶妙なバランスで共存する、ギャラリーのような大人空間

▲エントランスから続くホールは、将来的にAさんのワークスペースにする予定。奥の白い扉がシューボックス、手前はゴルフバッグなど大物の収納。左に見えるのが寝室の窓で、開け放すと心地良い空気の流れが生まれる

――他に、空間づくりでこだわった点は?

 

A:暗いトンネルを抜けた先の景色はより鮮明に見えますよね? あのイメージで、体感としてリビングが実際より広く感じられるように、廊下の幅をあえて狭くし照明も暗めに設定しています。LDKから繋がる寝室も、あえて小さくすることで「巣」のようなコージーな印象に。こんなふうに空間にメリハリをつけることで、ひとつひとつの場所がより印象的になると考えています。

▲眠ることに特化したコージーな寝室。暗めに抑えた天井向きの間接照明は、入り口脇の他に、寝た状態でオンオフができる位置にもスイッチを配置。朝になると東向きの窓から朝日が差し込む

――コンクリート剥き出しの天井が印象的です。

 

A:これは夫のこだわりです。もともと貼ってあったクロスを自分たちで剥がしたのですが、ずっと手を上げた状態での作業があんなに辛いとは知りませんでした。しばらく、ひどい筋肉痛が続いて大変だったんです(笑)。壁の塗装も、独特のムラ感が素敵なポーターズペイントを使用してDIYしました。夫の同僚が10人くらい手伝いに来てくれてワイワイと。塗装用クロスを貼ってから施工するので、一般的なクロス仕上げよりも割高にはなってしまいますが、汚れた場合は上から塗り直すことができるので、メンテナンス性を考えるとコストパフォーマンスは悪くはないかなと。講習を受ければ誰でも自分で購入して施工できるので新居の思い出作りにお勧めです。今まで仕事で色々な家にありとあらゆるクロスを貼ってきたので、自分の家ではちょっと実験的なことがしたかったというのも正直なところです。今回、物件自体を想定より安く購入できたため、リノベーションに関しては予算的にも妥協せず、やりたいことは全部実行する! と振り切れたのも、良い結果に繋がった理由かなと思います。

▲ご夫婦のこだわりだというコンクリート剥き出しの天井。カーテンボックス上に天井を照らす間接照明を設置し、光源が直接視界に入らない柔らかな明るさを実現

 

――住みながら自分たちで完成させていく家。より愛着も深まりそうです。

 

 

取材・文:稲生京子 撮影:石原麻里絵(fort)

 

WRITER

稲生 京子
編集者・ライター。「豊かに生きる」に関わるすべてが守備範囲。女性誌でファッション、美容、ライフスタイル記事を企画・執筆する一方、建築専門誌でも取材・インタビューを手がける。

おまけのQ&A

Q.今の家に暮らしてみて新たに気づいたことはありますか?
A.町に頼ってみるのも吉ということ。購入時すでに改修が済んでいた浴室はサイズが小さめで、大きく作り変えるのは難しい状況でした。そんな中、近くのジムに「大浴場あり」の文字を発見し、即入会を決めました。おいしいお惣菜を売っているスーパーやバーベキュー可能な公園…。リノベーションで100%不満をなくせなくても、「近所」に助けてもらえば良いのではと思いました。だからこそ、住む町のポテンシャルや好きかどうかのウェイトは高いと感じています。