管理組合と自治会には、目的や役割に違いがあります。マンション独自の自治会を形成している横浜市の「ブリリアシティ横浜磯子自治会」に、活動内容や思いを聞きました。
マンション自治会とは? 管理組合との違いは?
マンションの住人で構成する「管理組合」は、主に建物の維持や管理などを担う組織です。管理組合は、区分所有法やマンション管理適正化法によって役割や目的が定められており、区分所有者は必ず管理組合に所属しなければなりません。
一方、自治会は任意の団体です。設立も自由、参加も自由。マンションが独自の自治会を形成しているのは、多くの場合、数百戸以上などの大規模マンションです。ブリリアシティ横浜磯子もまた、全13棟、総戸数1230戸の“超”大型マンションです。同マンションの自治会長を務める田形勇輔さんは、管理組合と自治会の違いについて次のように話します。
「自治会がないマンションはどちらも管理組合が担っていることもあると思いますが、ブリリアシティ横浜磯子では、コミュニティ形成や福祉などのソフト面を自治会が、建物の維持・管理などのハード面を管理組合が担っています。防災訓練などは共同で行っています。私たちは、住人の皆さんに『このマンションに住んで良かった』と思ってもらえることを目指して活動しています。もちろん、住人には私たち自身も含まれます」(田形さん)
▲右からブリリアシティ横浜磯子の自治会の会長を務める田形勇輔さん、中学2年生のときから役員を務める学生役員の鈴木梨里子さん
▲海を見下ろす丘の上に位置することから、丘のふもとから頂上までの約60mを一気に昇る専用のグランドエレベーターが設置されている。トンネルを抜けた先のグランドエレベーターでマンションのある丘の上まで昇ることができる
▲マンション敷地内には、ホテルの貴賓館として使用されていた旧東伏見邦英伯爵別邸が残る
同自治会は2022年、当時中学2年生の鈴木梨里子さんが役員に就任したことで注目を集めました。高校生になった今でも役員を務める鈴木さんが自治会活動に興味を持ったのは、自治会が主催するお祭りにボランティアスタッフとして参加したことだといいます。同自治会は当時から今にいたるまで、子どもから大人まで楽しめるイベントや地域の安心・安全を高める取り組みをしています。また、自治会の意義について次のように考えているそうです。
「自治会は、住民の皆さんの思い出や生活を守るためにあるのかなと思います。役員になる前は、単にみんなで楽しいことをやるために自治会があるのだと思っていました。でも、実際に役員になってみて、イベントの企画や運営をしてみると『楽しい』『やりがいがある』という先に、防災・防犯といった効果が得られることが分かったんです。
たとえば、お祭りは企画・運営する側も参加する側も楽しいイベントですが、地域の方々とテントを設営したり、調理したりすることが共助訓練にもなります。私としては、学校では経験できない大人との関わりやイベントの企画・運営などを経験させていただけることにも、とても感謝しています」(鈴木さん)
▲防災訓練で小さなお子さんに手を添えてサポートする鈴木さん
マンション自治会は具体的に何をしているの?
昨年築10年を迎えたブリリアシティ横浜磯子で自治会が設立されたのは、新築から4年後の2017年のこと。7期目となった23年度は、次のような活動を行ったといいます。
- ・4月:新1年生下校見守り
- ・5月:通常総会
- ・7月:夏休み期間中のラジオ体操
- ・8月:10周年記念打ち上げ花火
- ・10月:ブリリア縁日まつり2023
- ・11月:防災訓練・通学路除草
- ・1月:10周年記念フォーラム・タイムカプセル封入・フォトモザイクアート制作
- ・2月:除雪作業・感謝の手紙コンテスト2024
- ・3月:新1年生登校班・通学路説明会・小学校通学路道路塗装支援
- ・随時:夜間の防犯パトロール
- ※ブリリアシティ横浜磯子の自治会の具体的な活動
これらの活動は、田形さんや鈴木さんを含めた30名余りの役員とともに、イベントごとにボランティアスタッフを募って開催されました。役員2期目となった鈴木さんも、イベントの司会や全館放送の大役を担うなど、学業と両立させながら自治会活動に積極的に関わっています。10月の縁日まつりに参加したボランティアスタッフは、なんと200名以上。夏休みのラジオ体操には、延べ2000人以上が参加しました。
▲夏休みのラジオ体操には、毎朝1日平均150名が参加
▲マンションが築10年を迎えた日に、生演奏とともに500発の花火を打ち上げ。田形さんは、頭上間近で炸裂する花火、夜空を見上げる住人の嬉しそうな顔は忘れられない思い出になったと語る
▲10周年記念イベントのひとつとして住人から集めたマンションでの思い出の写真を使いフォトモザイクアートを制作
▲敷地内にある旧東伏見邦英伯爵別邸の写真を1200枚もの住人の写真で表現
自治会の多くは、住人の会費とともに、行政からの補助金によってこうした活動を行っています。管理組合も、省エネ化やバリアフリー化などに際して助成を受けられることはありますが、運営に対して補助金が交付されることはありません。
2016年には、マンション標準管理規約から、いわゆる「コミュニティ条項」が削除されました。これにより、コミュニティ形成やそれに要する費用を支出するのは、管理組合の役割ではないと定義付けられたとも受け取れます。一方で、マンションを適正に維持・管理していくには住人の興味関心や同意が不可欠です。また、鈴木さんの言うように、防災・防犯とともに共助意識を持ってもらうためにも、住人同士の関係性の構築が求められることから、マンション管理とコミュニティ形成は切っても切り離せない関係性にあります。
「自治会活動が活発で、健全なコミュニティが形成されれば、管理組合の活動にも良い影響を与えていくと思います。いくら良いコミュニティが形成されていても、建物に不安があれば良い暮らしはできません。逆に、どんなに建物の状態が良くても、マンションやこの場所に愛着がなければ豊かな暮らしはできないでしょう。『このマンションに住んで良かった』と感じるのは、ハード面もソフト面も充実してこそです」(田形さん)
役員不足・高齢化…自治会の課題は? 対策は「報酬」にあり
全国的に、自治会への加入率は減少傾向にあります。その一方で、台風や水害、地震などの自然災害は多発化・激甚化しており、健全な地域コミュニティを形成する意義は高まっているといえます。多くの自治会は、加入率だけでなく、高齢化や役員の担い手不足などの課題も抱えているのが現状です。
田形さんはこれまでの自治会運営が評価され2月の横浜市自治会長永年在職表彰で感謝状が贈られました。最近は、自治会長や地域政策関係者が集まる研修会に登壇することも多く、2023年の登壇回数は実に12回におよびます。田形さんはこうした研修会で、多くの自治体が抱える課題解決の糸口になるのは「報酬」だと伝えているそうです。
「自治会活動はボランティアです。だからこそ、自治会の運営に携わる方には『報酬』が必要だと考えています。時間や汗、苦労などのコストをかけて得られる報酬は、住人や家族の笑顔や感謝、自分の街に貢献できる心地よさなどです。人は、コストを費やした分だけ愛着がわきます。輪番制でまわってきて役員をされる方も多いと思いますが、これではなかなかモチベーションが保てないと思います。うちの自治会では、報酬の部分を意識的に語り合い、見えるようにすることを心がけています」(田形さん)
同自治会は、こうした自治会運営手法を「自治会レボリューション」と名づけ、企業のようにビジョン・ミッション・バリューも掲げています。こうした思いは、役員の中だけでなく住人の方々にもしっかりと伝わっており、今では自治会役員のすべてが立候補によって選任されているそうです。
▲田形さんが考案した独自のタウンマネジメント手法「自治会レボリューション」。コスト→報酬→愛着UPの好循環が、マンション住人に支持される同自治会のコミュニティ活動の基盤となっている
▲同自治会では、ビジョン・ミッション・バリューや理念を総会などで必ず住人に伝えるようにしている
鈴木さんが役員に選任された当時は1人だった学生役員も8期は6人に増えました。60代、70代の役員も多く、子どもから大人、そしてシニア世代まで輝いている様子からは「自治会レボリューション」の思想が広く定着していることがうかがえます。鈴木さんは役員になってから2年が経ち任期満了となりましたが、3年目も再び立候補。これからもブリリアシティ横浜磯子自治会に携わっていきたいと話しています。
記事後編では、同自治会の総会で聞いた役員や住人の声をお伝えします。
▲子どもから大人、シニア世代までさまざまな年代の方が自治会役員として活動している
▲自治会主催のイベントに登壇する鈴木さんと学生役員
▲鈴木さんは、行政主催の地域づくりフォーラムやさまざまな地域のボランティア活動団体が集うイベントに登壇することもある
取材・文:亀梨奈美 撮影:ホリバトシタカ
WRITER
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。
おまけのQ&A
- Q.なぜ自治会運営には「報酬」が必要だという考えに行き着いたのでしょうか?
- A.自治会活動に携わるようになったきっかけはBBQです。元々BBQインストラクターとして活動していたので、お祭りで住人の皆さんにお肉を焼いて振る舞っていました。煙や油にまみれ、汗をかき……それでも肉を焼くのは、食べていただく方の笑顔が見たいから。この仕組みを自治会活動に取り入れればうまく行くのではないかと考えたのがきっかけです。(田形さん)