多くの自治会が高齢化や役員の担い手不足などの課題を抱えている中、横浜市のブリリアシティ横浜磯子自治会では、中高生からシニアまで多世代の方が役員として活躍しています。会長や役員、住人の皆さんに、マンション自治会運営の秘訣を聞きました。
中高生役員に聞く! なぜ、自治会の役員に?
2022年、中学2年生で同自治会の役員になった鈴木梨里子さんは、この4月に高校生になりました。鈴木さんが役員になってからはさらに中高生の役員が増え、今では鈴木さんに加え、中学2年生の窪塚智祐さん、角田椎香さん、角田さんの弟で中学1年生の朝飛さんが役員として自治会運営に携わっています。
――なぜ、自治会の役員になろうと思ったのですか?
鈴木梨里子さん(以下、鈴木):小学生の頃、お父さんと一緒に自治会主催のお祭りにボランティアとして参加して、スーパーボールすくいの出店を手伝ったことがきっかけです。それが思った以上に楽しくて。その後も何度かボランティアとしてイベントに参加していく中で、役員として携わりたいと思うようになりました。会長の田形さんに、役員の年齢制限はなく、自治会との関わり方は人それぞれというお話を聞いて「私にもできるかもしれない!」と思って立候補しました。
窪塚智祐さん:僕も、お父さんと色々な活動に参加したのがきっかけです。自治会って難しい話し合いをするところなのかと思っていたのですが、皆さん楽しんで活動されていて。楽しみながら、いざという時に助け合えるコミュニティを作りたいと思い、役員になりました。
角田椎香さん(以下、角田):私も、家族でお祭りのボランティアをしたのがきっかけです。あとはやっぱり、鈴木さんが活躍していたことが大きいですね。大勢の方の前で話したり、取材を受けたりしている姿がかっこいいと思いました。
角田朝飛さん:僕は、お姉ちゃんに憧れて自分もやってみたいと思うようになりました。
――学業との両立は大変ではありませんか?
角田:役員会は月に1回なので、負担になるということはありません。
鈴木:うちの自治会は「できる人ができることをすればいい」というスタンス。テスト前とかは学業優先にできるので、両立はできています。
――役員になって良かったことは?
鈴木:自治会の役員になってからの一番の変化は、自分に自信が持てるようになったことです。最初は人前で話すのも得意ではなかったけど、今はイベントの司会や全館放送もさせていただいています。学生生活の中で触れ合うことができる大人といえば、親や先生くらいです。でも、自治会活動をしていると色々な方の意見を聞くことができ、住人の方々の安全や楽しみのために何ができるか考える機会がたくさんあるので、視野が広がります。自治会活動は私にとっての宝です。
角田:昨年はお祭りの実行委員長をやらせていただいたのですが、お祭り当日のことを考えるだけでワクワクしていました。ボランティアとして参加している時も楽しかったのですが、運営する側はもっと楽しいです。実行委員長として皆さんの前でスピーチした時には、皆さんから笑顔や感謝という報酬をいただきました。
▲左から高校1年生の鈴木梨里子さん、中学2年生の窪塚智祐さん、角田椎香さん、中学1年生の角田朝飛さん
▲鈴木梨里子さんは2022年に役員に就任。2024年に任期満了も再立候補し、役員として自治会に携わる
▲朝飛さんは、姉の椎香さんが役員として活躍する姿に憧れて2024年に立候補
▲役員2期目となる窪塚さんは、地域の防災に取り組みたいと意気込む。3月には、神奈川県の防災教育フォーラム2024にも登壇した
▲総会で司会を務める鈴木さん
▲司会を務める総会前には台本を入念にチェック
自治会活動がシニア世代の暮らしの「彩り」に
ブリリアシティ横浜磯子は、子育て世代からシニア世代まで1230世帯、約3300人が暮らすマンションです。同自治会では、シニア世代の役員も多く見られます。
6年前にハワイから移住してきた70代のジョージ・モジャーさんは、自治会に参加したからこそ日本でフレンドシップが形成できたと話します。
――いつから自治会の役員を務められているのでしょうか?
ジョージ・モジャーさん(以下、モジャー):移住後すぐにです。日本で仕事もしていないので、自治会に参加したからこそ、住人の方々と出会い、一緒に働き、仲間意識を持つ素晴らしい機会をいただくことができました。
――学生さんも役員として関わっている自治会の様子をどのようにご覧になっていますか?
モジャー:インパクトありますよね。こちらも刺激になりますし、何より楽しいです。次世代につながる良い連鎖が育まれているのではないでしょうか。
▲長く役員を務めるジョージ・モジャーさん(左)と平野雅久さん(右)
今年、新たに役員に就任された60代の重内博美さんは、自治体の地域振興課に勤めていた頃に、多くの地域コミュニティを見てきたといいます。
――なぜ自治会の役員になられたのでしょうか?
重内博美さん(以下、重内):これまで地域コミュニティに携わってきましたが、なかなか自分の住む地域に還元することができていなかったなと思いまして。自分なんかが役に立てるか心配だったのですが、会長の田形さんが「ぜひ!」とおっしゃってくださったので立候補しました。
――役員として、どのような活動をしていきたいとお考えですか?
重内:私にできることなら何でもやりたいと思っています。例年、夏休みに住人の方々が集まって毎朝ラジオ体操をしているのですが、これを通年にできないかなと考えています。
▲2024年に役員に就任した重内博美さん
「このマンションでの暮らしを愛しています」こう語るのは、4年前にマンションに転居してきた宮木初枝さんです。
――自治会の活動をどのようにご覧になっていますか?
宮木初枝さん(以下、宮木):初めて総会に参加した時に驚いたのは、会長さんや役員さんのお人柄です。皆さんが自信を持ち、輝いていらっしゃるのがとても印象的です。何より素晴らしいのは、子どもたちをとても大切にしていることではないでしょうか。これは「自治会」という枠組みだけでなく、役員をはじめ、ここに住まわれている方々が「人」として素晴らしい心意気をお持ちだからこそだと思います。
――4年前に転居されてきたとのことですが、他の地域と比べていかがですか?
宮木:私は東京の下町出身で、昔はそれこそお祭りなどもよく見られましたが、今では地域の関わりが希薄になってきているように感じます。このマンションの自治会活動や地域の方々のつながりは、日本の原風景に通ずるものがあると思います。まだ引っ越してきて4年で、コロナ禍もありましたが、おかげさまで今ではずいぶん顔見知りが増えました。
▲2024年に役員に就任した重内博美さん
最初は順調じゃなかった!? 自治会に起きた「革命」とは
自治会が設立された2017年から役員を務める平野雅久さんによれば、同自治会も最初から順風満帆な運営ができていたわけではなかったのだとか。今のように、若い方からシニア世代の方まで“巻き込む”運営ができるようになったのは、現会長の田形勇輔さんが自治会活動に参加したことが大きいといいます。
――設立当初はどのような自治会運営をされていたのでしょうか?
平野雅久さん(以下、平野):自治会が設立されたのは、マンションができてから4年後のことです。設立当時は、いわゆる「昔ながら」の自治会。今のように若い人が率先して参加してくれるようなことはなく、特定の人しか活動していませんでした。我々はそのような運営方法しか知らなかったんです。それが大きく変わったのは、田形さんが自治会活動に参加してからです。
――田形さん、どのような「革命」を起こしたのでしょうか?
田形勇輔さん(以下、田形):私はBBQインストラクターとして活動しているので、初めは会長としてではなく、ただお祭りで肉を焼いて振る舞っていたんですよ。汗をかき、油まみれになりながら、それでも肉を焼くのは皆さんの笑顔が見たいからです。つまり、笑顔や感謝が私の「報酬」になるわけです。自治会活動はボランティアですが、肉を焼いて振る舞うのと同様に、時間を費やし、苦労した先に、笑顔や感謝、町に貢献できる心地良さといった報酬が得られます。これを仕組み化したのが、ブリリアシティ横浜磯子独自のタウンマネジメント手法「自治会レボリューション」です。今は、意識的に報酬を還元し、住人の方々の「町への愛着」を育むことを最も大切にしています。
――田形さんが参加されてからの自治会活動をどのようにご覧になっていますか?
平野:ここで大きくなる子どもたちが将来、自治会役員になってくれればいいとは思っていましたが、まさか中学生、高校生のうちに役員をやってくれるとは思ってもみませんでした。私からすれば孫のような世代。子どもたちや子育て世代が頑張ってくれると、やはり町に活気が生まれますね。
――これからブリリアシティ横浜磯子自治会が目指す地域コミュニティのあり方は?
田形:よく「どこまで盛り上げるんですか」と聞かれるのですが、大切なのは注目していただくことではありません。せっかくこうして若い世代が役員になってくれていますし、この町を担っていく次世代を育てていくのが最も大切なことだと思っています。今年は、学生役員だけでイベントの企画・運営をしてもらおうと思っています。少し年上のお姉さん、お兄さんが活躍する姿は、子どもたちを惹きつけ、良い影響を与えるはずです。自治会活動の魅力と心地よさを、大人から子どもへ、そして次世代へと受け継ぐことが、地域コミュニティを永続的なものにするために大切だと考えています。
▲自治会設立当時から役員を務める平野雅久さん
▲総会の後のBBQに向けて肉を焼く会長の田形勇輔さん
▲総会の冒頭では、同自治会のビジョン・ミッション・バリューと独自のマネジメント手法「自治会レボリューション」の考えが共有されていた
WRITER
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。
おまけのQ&A
- Q.学生役員が増えたことで、鈴木さんの活動内容やお気持ちに変化はありましたか?
- A.これまではイベントに一人で登壇することも多かったのですが、今は複数の学生役員で進行させていただくこともあります。とても心強いですし、何より自治会活動のことを共有できる身近な存在が増えたことで、より楽しく取り組めるようになりました!(鈴木さん)