価格高騰の京都マンション最新事情と今後の注目エリアをkyoto1192が解説!

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京都の住宅事情に精通する、京都不動産・マンションブロガー/街散策士のkyoto1192さん。中心部の価格が異常なほど高騰しているという京都のマンションの実態に加え、今後注目のエリアなどを伺いました。

――全国的にマンション価格が高騰しています。京都も例外ではないと思いますが、特に大きく値上がりしているエリアはどこでしょうか?

 

kyoto1192さん(以下、kyoto1192):中心部のマンション価格は、地元住民には手の届かない水準まで高騰しています。行政区でいうと上京区・中京区・下京区のいわゆる「洛中」、その中でも特に高騰しているのが中心部感が強い「田の字エリア」で四条烏丸の交差点を中心として北端を御池通、東端を河原町通、南端を五条通、西端を堀川通に囲まれたエリアです。またその田の字エリア北側に隣接する「御所南小学校区エリア」、御所東側の鴨川に近い「御所東エリア」も高騰しています。特に、鴨川沿いや祇園祭の山鉾巡行ルートの希少なマンションは他府県や海外の富裕層を中心に「高くても売れる」ため、相場が狂ってきています。たとえば、中心部で高さ規制が強化された2007年以前に建設された12階建〜15階建の物件では、もうその高さで建築できないというプレミアがついていて、「リノベ億ション」として販売されるなど、もはや相場がない世界になってきていますね。

▲今回、お話を聞いたのはkyoto1192さん。京都在住25年超(他府県出身)。京都御所まで徒歩10分圏内のエリアに新築分譲マンションを購入→売却→現在は洛外の一戸建てに居住中。一戸建て・マンション等の不動産広告業に長年従事し京都エリアの幅広い不動産知識を持つ。『京都の現在(いま)を不動産からキリトルkyoto1192.com』を運営。更地、解体現場、標識好き!全国の新築分譲マンションを地元ブロガーがレビューする『スムラボ』に京都代表として現在参画中!! X: @kyoto1192

▲鴨川が近いためセカンドニーズが高い御所東エリア。希少性があり世界にアピールできる鴨川かぶりつきマンションは異次元の相場を生み出している

――やはり投資目的での購入が多いのでしょうか?

 

kyoto1192:中心部の物件は投資目的やセカンドハウスニーズが多いと思われがちですが、意外と地元の実需の購入も多いようです。とはいえ、やはり現状の価格で買えるのは会社経営者やその御子息、高齢の富裕層、京都では少ないパワーカップルなどに限られ、地元の子育て世帯はもう諦めているような状況ですね。もともと京都には根強い「土地信仰」があって戸建て派が多いのですが、昨今はそれに輪をかけてマンションへの関心が薄くなっている印象があります。周囲で京都の新築マンションを必死で探している子育て世帯は見当たりません。

 

 

――ただ、kyoto1192さんご自身は、20年前に京都市内の新築マンションを購入されたと伺いました。

 

kyoto1192:購入時、周囲からは反対されました。当時「不動産は購入すれば時間と共に価値が減少する=値下りする」という考え方があって、戸建てなら建物価値がゼロになっても土地の価値が残るが、マンションは何も残らないと言われていました(マンションも土地が共有で残るのですが・・そして誰もマンションが値上がりするなんて思ってもいない時代でした)。京都には代々その場所に住んでいる人も多いため、もともとの傾向として土地に対する愛着が強いのだと思います。ちなみに、20年前はマンション価格が底を打っていたタイミングで中心部でも2,000万円台で買えましたが、今はそれより2倍、3倍にまで高騰しているといった状況ですね。

▲北側は人気の御所南小学校区、南側は田の字エリアの烏丸御池。周辺は20年前に比べ、大幅にマンション価格が上昇している

――中心部はなかなか手が届かない価格になっているとすると、子育て世帯の多くは京都のどのエリアに流れていますか?

 

kyoto1192:マンション派は田の字エリア・御所周辺エリアから二条駅、円町駅、西大路御池駅周辺、京都市南区へ、そして市外・郊外にまで検討エリアを広げたり、さらには滋賀県にまで物件を見に行くファミリーが増えているようです。

 

 

――これまでにはあまり見られなかった動きなのでしょうか?

 

kyoto1192:そうですね。「洛中・洛外」という言葉があるように、もともと京都では「市内中心部(洛中)」と「郊外(洛外)」を分ける感覚が根強く、特に年配の方ほど洛外には行きたくないという思いを持っています。言葉は悪いですが「都落ち」という言葉を使う人は依然います。若い方はそこまで強く意識していないとは思いますが、それでも生まれ育った行政区への愛着が非常に強い人が多いので行政区を越えての移動が少ない印象がありました。ただ、さすがにここまで価格が高騰すると、そうも言っていられません。何せ、京都市内で2023年に分譲された新築マンションの平均価格は5,720万円で、前年より15%も上昇しているそうですから。(参照1)2024年上半期(1月〜6月)の平均価格は5,630万円(参照2)、そして7月の平均価格はなんと7,000万円近くとなりました。(参照3)

 

参照1:不動産経済研究所「近畿圏 新築分譲マンション市場動向 2023年のまとめ」
参照2:不動産経済研究所「近畿圏 新築分譲マンション市場動向 2024年上半期(1〜6月)」
参照3:不動産経済研究所「近畿圏 新築分譲マンション市場動向 2024年7月」

 

 

――では中心部以外で、最近マンションの建設が目立ったり、今後の開発が期待できる注目エリアはありますか?

 

kyoto1192:まず、JR二条駅から西側、西大路通くらいまでのエリアですね。このあたりは開発されきっていない古い街並みが残っていたり西大路通寄りには老朽化した市営住宅があったりと、まだマンション開発が期待できるのでは。西大路駅ではエリアの暗い雰囲気を醸し出す原因ともなっていた「空室が目立つ、老朽化した市営住宅」が取り壊され、マンションが建設されました。京都駅や三条駅や出町柳駅なども老朽化した市営住宅の解体が始まりつつあります。こういったエリアは交通の利便性が良い割に様々な歴史的背景の中で不動産価値が低く見られてきた「歪んだエリア」ですが、非常にポテンシャルを秘めているとも言えます。

▲西大路御池駅近くの団地再生が始まる壬生東市営住宅、近隣に新築分譲マンションが増えてきた

kyoto1192:また、京都市南区と向日市の境目あたりに位置する桂川駅の周辺。2008年に開業した比較的新しい駅で、交通量の多い道路沿いでのマンション開発が増えています。駅前はすでに高騰してそうですが、幹線道路沿いならまだ地元民でも購入できる価格帯ですし、近くに「イオンモール京都桂川」があるため、幅広いエリアからの集客が見込めそうです。

▲南区の桂川駅の開業で、周辺は新たなマンションエリアに

▲2014年「イオンモール京都桂川」開業でエリアイメージが一変した

kyoto1192:あとは、他県になりますが滋賀県大津市ですね。JR大津京駅の前で1000戸規模、JR石山駅でも1000戸規模のマンション建設計画があるほか、西武大津店跡地にできた、現在分譲中のマンションにも京都からかなりの来場があると聞きます。

▲大規模なマンション開発が進むJR石山駅

――2023年には京都駅の南側や市東部などで建物の高さ制限の緩和、容積率の緩和を含む新しい都市計画が施行されました。施行後、新しい高層マンション建設の動きなどは見られますか?

 

kyoto1192:京都市に隣接する向日市のJR向日町駅東側では府内で最も高い128mの高層マンション計画が発表されました。その駅東から総合モーターメーカーニデック(旧 日本電産)の本社がある171号線の間にニデックの新拠点「ニデックパーク」が建設され、将来的には「第2本社」を含む4棟で約5千人が働く街が生まれようとしています。京都市内では大きな変化は見られませんね。最もマンション需要が高い市内中心部の高さ制限は維持されていますし、緩和エリアでタワーマンションが建設されるという話は聞こえてきません。

 

ただ、右京区の西院エリアでは新たな高さ規制に対応した阪急阪神不動産とNTT都市開発が事業主のマンションが計画されています。当初の7階建てから11階建てに変更。戸数も増えて279戸ということです。販売は来年のため価格は未定ですが。

▲右京区西院・五条通沿い「高さ規制緩和マンション」

kyoto1192:今後あるとすれば、山科区や伏見区醍醐エリアでしょうか。外環状線沿いが、タワマン建設可能エリアになりました(開発できるまとまった土地が外環沿いにあるのか?とも言われてますが・・・)。もともと交通アクセスがよく、京都中心部よりも不動産価格は割安でしたが、知名度が低く移住先に選ばれにくかったエリアです。(参照:令和5年 京都市の新しい都市計画)京都市は子育て世帯の市外流出を防ぐため、山科区や伏見区醍醐エリアへの移住を促進するプロジェクトを進めています。ただ、そう簡単にいくとは思えません。

▲高さ規制が緩和されタワマン建設が可能になった山科区の外環状線沿い

――それは、なぜですか?

 

kyoto1192:中心部への交通アクセスは抜群ですが、洛中から見ると「ひと山越える」という心理的距離があり、地縁がない限りかなりのハードルがあると思います。中心部から積極的に移住したい人が多いかというと……なかなか難しいところですね。ただ、僕のように他府県から京都に来た人間はそうした心理的ハードルが低いので、集客力ある商業施設等が増え街の魅力度がUPすれば選択肢には入ってくるのではないかと思います。実際、山科駅前に“無印良品スーパー”が開業し非常に魅力あるエリアになってきたと思います。

 

ちなみに、高さ規制緩和エリアではありませんが、ドラマ「スクール☆ウォーズ」のモデルとされる伏見工業高校跡地(伏見区深草)では、京都市が検討してきた「脱炭素」を徹底する大規模住宅の整備計画が進められています。マンションと戸建てを合わせて549戸の住宅や商業施設などが整備される予定で、ここにも若者や子育て世帯の定住促進につなげたいという市の思惑が見えますね。

▲青春ドラマ「スクール☆ウォーズ」のモデルとなった伏見区深草・伏見工業高校跡地

――最後に、これからの京都のマンション開発の展望について、お考えをお聞かせください。

 

kyoto1192:たとえば、京都駅の東部に京都市立芸術大学が移転したことで一帯のイメージは大きく変わり、京都駅は文字通り「京都の顔」になりつつあります。他にも、歴史的背景のなかでマイナスなイメージがあったエリアでは未活用の土地も多く、マンションを含む今後の開発が期待できるのではないでしょうか。

 

 

取材・文:榎並紀行

 

WRITER

榎並紀行
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。X:@noriyukienami

おまけのQ&A

Q.kyoto1192さんが京都市内で個人的に好きなエリア、住みたいエリアは?
A.マンションなら地下鉄「烏丸御池」駅の徒歩圏内、新風館・エースホテル京都・大丸百貨店近辺です。街中ですが河原町や四条通ほどの喧騒がなく、上質なイメージがあります。私が社会人デビューした会社がこの駅の近くにあったこともあって、思い入れが強いエリアですね。戸建てなら地下鉄「北山」駅の徒歩圏内。1990年代、私が学生の頃はおしゃれなイメージがありました。ビームス、ヴィレッジヴァンガードが撤退し流行の最先端の面影は無くなりましたが、いまだに高級なイメージがあります。植物園・賀茂川も近く、緑や自然に癒されるエリアです。