マンション購入者が避けて通れない大規模修繕ですが、特に初回は分からないことだらけ。準備すべきタイミングで理事になった場合、まず何から始めればいいのか?マンション管理士でもあるブロガーはるぶーさんに聞いてきました。2回にわたってお届けします。
そもそも大規模修繕とは? 何年ごとに行う?
――そもそも「大規模修繕」とは、どのような工事のことを指すのでしょうか?
はるぶー:建築基準法では、「建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕/模様替えをいう」と定義されています。つまり、主要構造部(※壁、柱、床、はり、屋根または階段)の半分以上を改修する工事のことを指します。具体的には、「足場をかけて行う工事」というと分かりやすいかもしれません。たとえば、マンションの場合は新築時から一定期間以内に外壁の補修を行う必要がありますが、足場がないと壁が壊れているかどうか点検することも困難です。また、もうひとつ代表的なのは漏水の問題です。マンションでは築十数年も経過すれば、どうしても屋上やバルコニーなどに水漏れの問題が生じます。より酷いことになる前に大規模修繕を行う必要がありますが、その際にも落下防止のための足場が組まれます。
▲はるぶーさん自宅マンションの大規模修繕時。24階まで足場を立てた総足場方式だったそう
▲マンション管理士のはるぶーさん。自身も500戸の大規模マンションの理事長、修繕委員会のメンバーとして大規模修繕の計画、準備に奔走した経験を持つ。X:@haruboo0
――大規模修繕は最初の1回だけでなく、その後も繰り返し行われます。通常、何年くらいのスパンで工事が必要になりますか?
はるぶー:最近は周期が長くなっていますが、管理会社の推奨どおりに行うなら12年に1回です。管理会社には竣工や改修から10年で外壁の打診調査を行う義務があり、検査結果を受けて数年以内に行うのが一般的だからです。それを遵守すれば12年に1度くらい、延ばせても15年〜18年くらいです。外壁のタイルが落下しないよう特殊な作り方をしているタワーマンションの場合などは、18年くらい引っ張ることも珍しくありません。
あとは、やはり水漏れですね。これに関してはぎりぎり引っ張れても15年くらいでしょう。特に、上階から下階への漏水といった不具合が起こり始めているのに、さらに先延ばしにするのは何のメリットもありません。そうしたこともあり、売主や管理会社が竣工時に作る修繕計画案には「12年に1度、大規模修繕を行う」と記載されているはずです。
鉄則1:まずは「修繕委員会」の発足とメンバー集めから
――大規模修繕は、準備も含めどれくらいの時間がかかるものですか?
はるぶー:100戸を超えるような大きなマンションの場合、時間のかかる設計管理方式での実施の場合、準備に2年、工事に1年の計3年は見ておく必要があります。理事会の立場でいうと、工事が始まってしまえばラクなんです。あとはもう、決めたとおりに業者さんにやってもらうだけですから。大変なのは、それまでの準備です。
――では、まず何から始めればいいのでしょうか?
はるぶー:まずは「修繕委員会」の立ち上げですね。理事会があるから不要と思われるかもしれませんが、理事会の集まりって多くても月に1回程度ですよね。大規模修繕のプロジェクトが始まると決めることや話し合うことが数多くあり、頻繁な打ち合わせが必要になるため理事会とは別に委員会があったほうがいいです。ただ、委員会を立ち上げようと立候補者を募っても、なかなか手を挙げてくれる人は出てきません。特に、建築の知識がある人を集めようとなると、よりハードルが高い。なかには委員会をつくるだけで半年や1年かかったなんて話も聞きますので、余裕をもって進めなくてはいけません。
▲マンションに建築のプロが居住している場合は「お任せしたい」ではなく「知見」をお借りするスタンスでお願いすれば協力していただきやすいそう
――はるぶーさんのマンションの場合は、どうやって委員会のメンバーを集めましたか?
はるぶー:うちの場合は少し特殊な事情があって、新築の頃からすでに委員会を設立し、建築のプロも参加していました。委員会が常設されていると、大規模修繕の時に慌ててメンバーを集める必要がないため、とてもラクでしたね。
ちなみに、建築士や施工管理技士、大工さんなど、日本人の5%は何かしらの形で建築の仕事に携わっているといわれています。うちのマンションでいうと500戸なので少なくとも25人は建築業に従事しているはずです。ですから、探せば見つかるはずなのですが、さすがに「来月委員会を発足させますので、今月中に手を挙げてください」と言っても、名乗り出てもらうのは難しいと思います。それに、仮に見つかったとしても参加を断られるケースも少なくありません。なぜなら、委員会や理事会の業務は基本的に「タダ働き」だからです。普段はそれで報酬を得ているプロからすれば、できれば避けたいと考えるのは当然でしょう。
――プロの方に気持ちよく参加してもらうために、何かいい方法はありますか?
はるぶー:ポイントは「その人が建築のプロとして、報酬を得てやっているような仕事は頼まない」ことです。あくまで「知見をお借りしたい」というスタンスでお願いするといいでしょう。たとえば、打診調査など、自ら体を動かさなくてはいけない仕事はやらせない。それはプロを別で雇います。ただ、できれば良い会社や専門家がいれば教えてください、といった具合ですね。また、その調査結果を受けて、早期の工事が必要かどうかの判断が素人には難しいので、お力を貸してもらえませんか? といったお願いの仕方なら、協力してくれる人も出てくるでしょう。うちの委員会もこうしたスタンスで協力を仰ぎ、現在でも建築士や施工管理技士など5名の専門家が参加してくれています。
鉄則2:「見積もりが安すぎる会社」を選んではいけない
――委員会発足以降の、大まかな流れを教えてください。
はるぶー:細かい工程は割愛しますが、最も重要なステップとなるのは工事などを発注する「会社の選定」と「総会での決議」です。現在の主流となっている「設計監理方式」の場合、はじめに設計や施工管理を行う会社を選びます。次に、実際に工事を行う会社を選びます。大規模マンションの場合は億単位のお金が動きますから、いずれの会社を選ぶ際にも総会での最終決定が必要です。そう考えると、やはりスケジュールに余裕を持って進める必要があるでしょう。
――会社を選ぶ際のポイントはありますか?
はるぶー:まず、設計監理の会社は「値段」で選ぶと必ずといっていいくらい失敗します。複数の候補がある場合は各社から相見積もりを取りますが、なかには明らかに安すぎる金額で出してくる会社もあり、警戒が必要です。大規模修繕の工事にあたって実施するべき調査や必要な人数に対して、できるはずのない値段で見積もりを提示するということは、もしかしたら何かしら裏があるかもしれません。たとえば、とりあえず安い金額で受注しておいて、自社が懇意にしている施工会社に工事を発注し、キックバックをもらうことで商売として成立させようとしている可能性もゼロではないでしょう。ズブズブの関係の会社同士だと、施工監理やチェックが甘くなるリスクも否定できません。
逆にフェアにやっている会社は「適正価格」なので、建築の知識がない人にとっては割高に感じられるかもしれません。でも、それが本当の値段なんです。もちろん、高い順に選べとは言いませんが、設計や監理の価格がマンションの規模から見て妥当かどうか、ちゃんと根拠をもって示してもらえることが最低条件だと思います。安易に「安いから」ではなく、その会社の「志」みたいなところで選びたいですよね。そのためにも、委員会側にも見積もりが適正かどうかを判断できる知識を持った人が必要です。もし、どうしても集められなければ、その判断をしてくれる人を有償で外部から招くのもアリだと思います。それくらい、会社選びは重要です。
▲はるぶーさんいわく「修繕委員会は常設で、恒久的に存続させる」のがおすすめとのこと
鉄則3:修繕委員会は「常設」で恒久的に続く仕組みをつくる
――規模の大きなマンションの場合、大規模修繕のプロジェクトのコアとなる期間は準備と工事を合わせて3年くらいということですが、それ以外の時期にも中長期的視点でやっておくべきことはありますか?
はるぶー:やはり資金計画ですね。ありがちなのは、初回の大規模修繕の工事が終わってから積立金を全額使い切ってしまったことが分かり、2回目以降に向けて慌てて修繕積立金を値上げするパターン。実際の工事の内容やタイミングによってはコストが嵩み、予測していた費用から大きなズレが生じてしまうこともあります。ですから大規模修繕が終わった段階で、その結果をふまえて次回以降の大規模修繕計画を書き換えなければいけません。
特に2回目の工事は、より多くのお金が必要になります。1回目でスッカラカンになってしまった場合、積立金を3倍に上げないといけなくなったケースもあります。そうならないためにも、初回の大規模修繕がスタートする数年前から、2回目以降の工事も見据えた計画を立て、必要であれば前もって積立金を上げておく必要があるでしょう。
つまり、大規模修繕は準備と工事の3年間だけ真剣に考えればいいのではなく、数十年のスパンで分厚い年表をつくり、「いつ、何をすべきか」「やってみて予定と違ったことは何か」など、その時々の状況に合わせて更新し続ける必要があるということですね。
――ただ、理事会はメンバーが入れ替わっていきますし、委員会も大規模修繕の工事が終わった後に解散するケースもあります。常に大規模修繕について考え続けるのは難しいように思いますが。
はるぶー:おっしゃるとおり、1年で全員が入れ替わるような理事会ではとても無理です。ですから、私は「修繕委員会は常設で、恒久的に存続させること」をおすすめしています。もちろん、コアとなる期間以外は毎月のように開催する必要はありませんが、年表と照らし合わせてその時々でやるべきことを確認し合うような場は設けたほうがいいでしょう。
うちのマンションでいえば、竣工時に設立した修繕委員会を今も解散せず、今年で16年目を迎えます。当初からずっと一緒にやっているメンバーも数名います。私もその人たちも、おそらくあと10年くらいはやるでしょうが、それ以降に委員会を引き継いでくれる人も探しておく必要がある。修繕に関する業務に終わりはありませんから、委員会はサステナブルでなくてはならない。そうした意識で、最初にしっかりとした仕組みをつくることがとても大事なのではないでしょうか。
取材・文:榎並紀行 撮影:石原麻里絵
WRITER
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。X:@noriyukienami
おまけのQ&A
- Q.「設計監理方式」のメリット・デメリットは?
- A.はるぶー:メリットはいろんな会社から同条件で相見積もりを取れること。デメリットは時間がかかることです。また、どんな基準で会社を選べばいいか難しいということもあります。今回紹介したポイントをふまえて、提示された監理などの内容と金額をじっくりと精査してみてください。