2024年4月から自動車運転者の労働時間規制が始まったことによって輸送能力が不足するとされる物流の「2024年問題」に加え、かねてから課題が多いマンションなどの集合住宅への配送は効率化が急務といえます。日本郵便に、配送の実情と課題、対策について伺いました。
物流の2024年問題・配達数増加の影響は?
――2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の上限規制等が適用(*)されましたが、影響は出ていますか?
木野俊輔さん(以下、木野):弊社では、従前から業務や労働時間の見直しを行い、労働時間や休憩時間を遵守してきましたので、配達に大きく影響が出ているということはありません。ただ、長距離の配送には少なからず影響が出ています。これまで1人で運行することを前提としてきた長距離運送便については、中継運送などに切り替え、お届け日数の見直しを実施しています。
※2018年改正の「働き方改革関連法」に基づき、2024年4月より自動車の運転業務の時間外労働に年960時間(休日労働含まず)の上限規制が適用された(参考:国土交通省 物流の2024年問題について)
――労働規制が始まったことによる「物流の2024年問題」だけでなく、昨今のEC市場の拡大などから配達する荷物の数も増えていると思います。この影響はいかがでしょうか?
木野:ご指摘の通り、配達する荷物の数は年々増えており、特にコロナ禍に入った2020年度頃から急増しています。ただ、近年は在宅されている方も増えていますので、再配達の数は減少傾向にあります。経済活動の再興に伴って再配達の数は増えてきましたが、それでもコロナ前よりは少ない状況です。
――やはり「再配達」が配送業者の大きな負担となるのでしょうか?
木野:そうですね。弊社としても、再配達を減らすため、ECサイトなどで商品を購入した場合に、対面配達だけでなく、いわゆる「置き配」や配達場所などを選んでいただけるようにしています。また、メールやLINEで配達予告を通知し、お客様のご都合で日時や場所を変更できるサービスもご提供しています。いずれも、受け取りの利便性を高めて再配達となる荷物を減らすための施策です。
――その他に物流の2024年問題への対応や配送の効率化に向けた取り組みはありますか?
木野:サービスの見直しや他社との協業、DXなどに取り組んでいます。一例を挙げますと、2024年10月からゆうパックの配達希望時間帯のうち「20時-21時」を廃止しました。かねてから推進しているドローンの活用については、山間部などで実証実験を続けており、2023年3月には日本初となる有人地帯における補助者無し目視外飛行が可能な「レベル4」飛行も実施しました。現在、実用化を目指しています。
▲2024年3月に新型ドローンを導入。従来のものから最大飛行距離が約25㎞伸び、最大積載重量も5kgとなった
――国や自治体も再配達削減に向けて呼びかけなどをしていますが、効果は感じられますか?
木野:これまで配送に関心を持っていなかった方が、再配達によってかかる負荷などを認識していただけるきっかけになると思います。2024年6月に東京都主催で開催された「減らそう!再配達」というイベントには、弊社も参加させていただきました。弊社としても再配達を減らすためのサービスのご提供や呼びかけをしていますが、再配達の削減は私たち配送事業者の取り組みだけでは達成できません。一企業による発信の効果は限定的ですから、国や自治体が呼びかけてくれるのは非常にありがたいことです。
マンションの配達にはなぜ時間と手間がかかる?
――マンションの配達に時間・労力がかかる理由として、どのようなことが挙げられますか?
木野:集合住宅に荷物を配達する場合は、まず駐車スペースと荷さばきスペースを確保する必要があります。近隣にコインパーキングなどがあればいいのですが、配達前に時間を要することも少なくありません。駐車スペースを確保した後も、マンションのセキュリティなどによっては、在宅確認や各戸への配達に時間を要することもあります。
昨今はマンションの仕様も多様化していますので、二重、三重のロックがあるマンションもあれば、配達の前に管理人さんやコンシェルジュの方にお声がけしなければならないマンションもあります。配送のフローがマンションごとに異なるということもまた、時間と手間を要する理由のひとつになっています。
――どのようなマンションが配達の時間・手間がかかりやすい傾向にありますか?
木野:特にタワーマンションや大規模なマンションは、全戸の配達を終えるまでに時間を要します。大規模なマンションでは、業務用のエレベーターを使用して各戸に配達するのが一般的ですが、業務エレベーターを使うのは弊社だけではありません。高層マンションは特にエレベーターの待ち時間が長くなることもあります。
――宅配ボックスはマンションの配達の効率化に寄与していますか?
木野:宅配ボックスがあれば再配達の割合が下がりますので、そういった意味では配達の負担は軽減されます。ただ、宅配ボックスがあったとしても、駐車および荷さばきスペースの確保や在宅確認は必要です。また、宅配ボックスの空きがないということも少なくありません。特に大規模なマンションでは「早い者勝ち」のようになってしまっているのが現状です。
▲今回、お話を伺った日本郵便 郵便・物流営業部専門役の木野俊輔さん。※所属先・肩書きは取材当時のもの
タワマン・大規模マンションへの配達を効率化するための施策
――マンションへの配達の課題を解消するために行っていることはありますか?
木野:一例として、マンションのコンシェルジュの方に一括して荷物を配達させていただくこともあります。置き配ができるマンションについては、管理組合や管理会社の許諾やオートロックを解錠する仕組みの導入が必要になりますので、まだそこまで多くありません。ただ、一戸建てにお住まいの方は置き配を希望されるケースがかなり増えていますので、置き配ができるマンションも増えていくかもしれませんね。
――2024年6月にはマンションの標準管理規約が改正され、宅配ボックスの設置に係る決議要件の明確化や置き配に関する使用細則を策定する際のポイントなどが盛り込まれました。集合住宅を対象とした宅配ボックス設置の助成制度なども見られます。近年、宅配ボックスが設置されているマンションや置き配ができるマンションは増えているのでしょうか?
木野:宅配ボックスの設置については増えてきている印象がありますが、先述の通り宅配ボックスがあっても埋まってしまっていることも少なくありません。また、宅配ボックスのサイズによっては、大きな荷物が入らないこともあります。冷蔵・冷凍の荷物も、基本的に宅配ボックスには入れられません。宅配ボックスの設置だけでなく、こうした課題を解消するための施策の推進も求められるでしょう。
――政府は2024年度中にも、新築の大規模マンションに物流業者が荷さばきに使用する駐車スペースを確保しやすくするため、自治体に対して条例で義務づけるよう通知を出すとのことですが、これによってタワマンや大規模マンションの配達問題は解消されそうですか?
木野:駐車や荷さばきのためのスペースが確保できれば、一定程度は配達の手間や時間が削減できると思います。ただ、こうしたスペースを必要としているのは弊社だけではありませんので、どの程度のスペースを確保していただけるかは気になるところです。また、駐車スペースの確保だけがマンションの配達の課題ではありません。マンション配達の効率化には、私たち配送事業者や国、自治体、管理会社、管理組合、そして居住される方々の意識の変容や取り組みが求められると思います。
取材・文:亀梨奈美 撮影:高嶋佳代
WRITER
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。
おまけのQ&A
- Q.マンションの配達の効率化に向け、今後どのような取り組みをしていきたいとお考えですか?
- A.木野:まだ試行段階ではありますが、集荷についても置き配バッグなどを活用できないかと検討しています。とはいえ、配達、集荷ともに、弊社の一存で効率化できるわけではありません。管理会社や居住者の方々のご意見やご希望を伺いながら、大切なお荷物をできる限り早くお手元にお届けするとともに、利用しやすいサービスをご提供していきたいと考えています。