フルリフォームとは、壁や床などを解体し、骨組みだけの状態からリフォームすることです。間取りの変更や配管の交換など、大胆なリフォームができるのが大きな魅力です。一方で、フルリフォームは大規模な工事になるため、費用が高いのではと不安に思う方もいるでしょう。工事内容を変更したり、減税制度や補助金を利用したり、ポイントを押さえればリフォーム費用を安くできます。 当記事では、マンションでフルリフォームできる範囲、費用の相場、リフォーム事例、費用を安くする方法、マンションのリフォームに関する注意点について解説します。
INDEX
- マンションのフルリフォームに関する基礎知識
・フルリフォームとは?
・マンションでフルリフォームできる範囲とは? - マンションのフルリフォームにかかる費用の相場
- マンションのフルリフォーム費用を抑える方法
・予算オーバーのときは部分リフォームにする
・設備や建材などでコストダウンを図る
・リフォームのローンを見直す
・住宅ローン減税制度や補助金を活用する - マンションのフルリフォーム事例3選
・1.築44年のマンションがセンスのあるスタイリッシュな住まいに
・2.便利な大容量収納&モダンな和室でくつろげる自宅へ
・3.DIYで費用を抑えてブルックリンスタイルのおしゃれな住まいに - マンションのフルリフォームに関する注意点
・追加工事やリフォーム以外の費用も考慮する
・構造により間取りの変更が難しい場合がある
・リフォームの前に管理組合へ申請する必要がある
・リフォーム期間が延びる可能性がある - まとめ
■マンションのフルリフォームに関する基礎知識
フルリフォームの基本的な工事内容とメリット、マンションでリフォームできる範囲について解説します。
◇フルリフォームとは?
フルリフォームとは、天井や壁、設備などを取り除き、骨組みだけの状態にして全面的にリフォームすることです。スケルトンリフォームと呼ぶこともあります。
部分リフォームとは異なり、壁や床、配管の交換、間取りの変更など、大胆なリフォームが可能です。
マンションでフルリフォームをする場合、現在の住まいで実施するほかに、新たに居住するために購入した中古マンションにする2つのパターンがあります。
近年は新築分譲マンションの価格が高騰しており、新築と比べて価格が安い中古マンションの人気が高まっています。フルリフォームを前提として中古物件を購入すると、費用を抑えつつ理想の住まいを手に入れることが可能です。
◇マンションでフルリフォームできる範囲とは?
一戸建てと異なり、マンションでフルリフォームできる範囲は「専有部分」に限られます。
マンションの専有部分とは、住民のみが使用できる部分のことです。建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)の第二条第三項において、専有部分は「区分所有権の目的たる建物の部分」を指しています。
したがって、専有部分とは「マンション構造部分のコンクリートの天井や壁の内側にある居住スペース」のことです。玄関ドア(外側)、窓、サッシ、バルコニーなどは共用部分であり、原則的にリフォームはできません。
■マンションのフルリフォームにかかる費用の相場
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フルリフォームでは壁や床、天井を解体し、居住スペースを全体的に改修します。そのため、費用は必然的に高くなります。あらかじめ費用の相場を把握しておき、理想のリフォームができるのか検討しましょう。
フルリフォームの費用相場は、1㎡の単価を専有部分の面積で計算して求めます。1㎡あたりの単価は10万~20万円程度とされており、専有面積に対するフルリフォームの費用相場は次のとおりです。
専有面積 | 費用相場 |
---|---|
60㎡ | 600万~1,200万円 |
70㎡ | 700万~1,400万円 |
80㎡ | 800万~1,600万円 |
90㎡ | 900万~1,800万円 |
100㎡ | 1,000万~2,000万円 |
110㎡ | 1,100万~2,200万円 |
2024年以降、円安や原材料の高騰などの要因が重なり、建材や設備機器の値上がりが続いています。フルリフォームの際に設備も交換する場合、費用がさらに高くなると予想されます。
■マンションのフルリフォーム費用を抑える方法
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設備を含めて新築同様にフルリフォームする場合、費用が1,000万円を軽く超える可能性があります。リフォーム費用を少しでも抑えるには、以下のポイントを実践しましょう。
◇予算オーバーのときは部分リフォームにする
専有部分を自由にリフォームできるからこそ、理想を追求するあまり予算オーバーになることも少なくありません。予算オーバーになったときは、要望をすべて洗い出し、優先順位を決めることが大切です。
それでも予算的にフルリフォームが難しい場合は、部分リフォームに工事内容を見直すことをおすすめします。建材の老朽化や設備の故障箇所など、優先順位が高い場所を部分リフォームすると良いでしょう。
部分リフォームが可能な場所とリフォーム内容、費用の相場は次のとおりです。
場所 | リフォーム内容 | 費用相場 |
---|---|---|
リビング ダイニング |
床・フローリング | 10万~20万円 |
壁面収納 | 15万~100万円 | |
和室 | 20万~100万円 | |
水回り | キッチン | 50万~150万円 |
浴室 | 50万~150万円以上 | |
トイレ | 15万~70万円 | |
洗面所 | 10万~30万円 |
◇設備や建材などでコストダウンを図る
フルリフォームの予算が足りない場合、グレードを下げて費用を安くする方法もあります。
水回りなどの設備や建材は、グレードによって価格が異なるためです。グレードの差は品質や機能、デザインなどで、ベーシックなものほど価格が安く、割引率も高くなる傾向にあります。
ドアなどの建具や設備は既存の物を再利用し、コストダウンを図る方法もあります。ただし、周りが新しくなった中で再利用した建具が浮く、設備が故障するなどのデメリットもあるので慎重に判断しなければなりません。
◇リフォームのローンを見直す
フルリフォームは多額の費用が必要になるため、ローンを組む方も少なくないでしょう。金融機関は目的別のローンを用意しており、最適なローンを選ぶことで返済の負担を減らすことが可能です。
リフォームや改修を目的としたローンは無担保型と有担保型があり、以下のように特徴が異なります。
無担保型 | 有担保型 | |
---|---|---|
借入可能額 | 10万~2,000万円程度 | 10万~1億円 |
借入可能期間(最長) | 10年~25年 | 35年 |
無担保型のローンは小規模なリフォーム、有担保型は大規模なフルリフォームに適しています。無担保型は審査に通りやすい反面、有担保型と比べて金利が高く設定されていることが一般的です。
借り入れできる期間と金額に関しては、ローン商品によって内容が異なります。金利は変動金利と固定金利から選べるため、返済金額を考慮して判断しましょう。
◇住宅ローン減税制度や補助金を活用する
フルリフォームにかかった費用を確定申告すると、所得税などが減税される可能性があります。
償還期間が10年以上あるローンを利用してフルリフォームをした場合、所得税が控除される「住宅ローン減税」が適用されます。控除期間は10年間、控除率は0.7%で、最大で140万円が控除される仕組みです。
また、耐震・バリアフリー・省エネ・長期優良住宅化・同居対応・子育て対応のリフォームをすると、「リフォーム促進税制」が適用されます。同居対応と子育て対応は所得税、耐震・バリアフリー・省エネ・長期優良住宅化は所得税と固定資産税が減税される制度です。
リフォーム促進税制に関しては、ローンを使用していなくても減税の対象です。ただし、住宅ローン減税やリフォーム促進税制を利用するには、いずれも所定の要件を満たす必要があります。
また、フルリフォームの内容によっては、以下の減税制度が利用できる可能性もあります。
・贈与税の非課税措置
・登録免許税の特例措置
・不動産取得税の特例措置
自治体によっては、リフォームに対し補助金を支給するケースもあります。フルリフォームで利用できる補助金の詳細については、下記の関連記事も併せてご確認ください。
■マンションのフルリフォーム事例3選
実際にマンションのフルリフォームを成功させた、3件の事例についてご紹介します。
◇1.築44年のマンションがセンスのあるスタイリッシュな住まいに
立地の良さで購入を決めた、築44年のマンションを約995万円でフルリフォームした事例です。
2人暮らしで約71㎡と広さにゆとりがありますが、2つの居室の仕切りを外したことでさらに広々としたリビング・ダイニングを確保しました。キッチンは白い壁によく映えるオールステンレスの物を採用しています。
築44年という古さを一切感じさせない、中古マンションにおけるフルリフォームのお手本といえるでしょう。
◇2.便利な大容量収納&モダンな和室でくつろげる自宅へ
設備の更新をきっかけにフルリフォームを決め、便利で暮らしやすい住まいに生まれ変わった事例です。リフォーム面積は約75㎡、工事費用は約1,340万円と理想を追求したことがうかがえます。
キッチンの向きを変えることで収納のスペースを確保し、広々としたパントリーを設置。玄関付近の洋室と廊下を大容量のウォークスルークローゼットに変更したことで、あらゆる荷物をまとめられる便利な空間も誕生しました。
リビング・ダイニングに接していた和室はモダンな印象にリフォームしたことで、いつでもくつろげる快適な空間を確保。さらに、居室のドアをすべて引き戸にし、和室は段差のないバリアフリー仕様に。将来を見据えた住まいになっています。
◇3.DIYで費用を抑えてブルックリンスタイルのおしゃれな住まいに
水回りの部分リフォームを検討していたところ、メーカーのショールームを見たことでフルリフォームを決意されました。DIYを取り入れたこともあって、約82㎡もの広さを約800万円でフルリフォームできた珍しい事例です。
和室をなくし、リビング・ダイニングに組み込むことで広い空間を確保。キッチンカウンターは、DIYが得意な施主の手作りというこだわりぶりです。また、施主の好みというブルックリンスタイルに合わせ、センスのある壁紙を数多く使ったことでおしゃれな居室を実現しています。
■マンションのフルリフォームに関する注意点
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マンションでフルリフォームをする場合、以下のポイントに注意しましょう。予算や近隣住民との関係性にも影響するため、フルリフォームの際は細部にわたる検討が必要です。
◇追加工事やリフォーム以外の費用も考慮する
現在の住まいをフルリフォームする場合、別の仮住まいが必要になります。賃貸物件に住む場合、引越しの費用、敷金や毎月の家賃などが発生します。
また、建物の内部は解体工事が進まないと見えないため、解体を終えてから問題が発覚することもあります。計画どおりに工事が進むとは限らず、計画の変更で追加工事が発生することも少なくありません。
追加工事が発生してもいいように、余裕を持った額の予算を組んでおきましょう。
◇構造により間取りの変更が難しい場合がある
骨組みだけを残すフルリフォームでは、壁をなくすことで間取りの変更が可能です。しかし、マンションの構造によっては、間取りの変更が難しいケースがあります。
間取りの変更が難しいのは、壁そのものが建物を支えている「壁式構造」です。壁式構造では壁を取り除くことはできず、大幅な間取りの変更ができない可能性があります。
骨組みが柱と梁で構成された「ラーメン構造」の場合、壁を取ったり位置を変えたりして間取りを変更できます。フルリフォームで間取りを変更したい場合、自宅マンションの構造を事前に確認しておきましょう。
◇リフォームの前に管理組合へ申請する必要がある
フルリフォームを検討する時点で、マンションの管理規約にあるリフォームのルールを確認しておきましょう。マンションの専有部分をリフォームするには、管理組合に工事申請を出し、許可を得る必要があるためです。
工事が始まるまでのリフォーム前の基本的な流れは次のとおりです。
1.フルリフォームの内容が規約違反に該当しないか、管理規約を確認する
2.リフォーム会社に工事を依頼する
3.リフォーム工事の申請書類、添付書類を準備する
4.申請書類一式を、管理組合の理事長に提出する
5.理事会での承認後、工事の許可が下りる
6.工事の前に、両隣、上下の階の住民に挨拶をする
なお、必要書類に関しては、リフォーム会社が用意してくれることが一般的です。許可が下りるまで時間がかかるため、少なくとも工事開始の1ヵ月前を目安に書類を提出しましょう。
◇リフォーム期間が延びる可能性がある
マンションのフルリフォームでは、事前の打ち合わせに2ヵ月~3ヵ月、工事期間に2ヵ月~6ヵ月程度の時間がかかります。
そもそもフルリフォームは、壁や天井を解体して骨組みだけを残す大規模な工事です。数日で工事が完了する部分リフォームと比べ、工期が圧倒的に長くなります。
さらに注意が必要なのは、マンションならではの事情でリフォーム期間が長引くことがある点です。リフォーム期間が延びる要因は、以下のものが挙げられます。
・管理組合の申請許可が下りるまでに時間がかかる
・近隣住民からのクレームで、工事の時間帯が制限される
リフォーム期間が延びると、工事代金や仮住まいの費用がかさみます。期間の延長を防ぐには、管理組合に早めに許可申請をする、近隣住民に挨拶回りをすることが大切です。
■まとめ
骨組みの状態にするフルリフォームは、事例のような理想の住まいを追求できます。しかし、部分リフォームと比べて費用が高く、工事期間も数ヵ月はかかると見ておく必要があります。リフォームの費用をなるべく安くするには、建材や設備のグレードを低くするか、減税制度や補助金などを積極的に活用しましょう。
マンションのリフォームは管理組合の許可が必要になるため、工事開始から逆算して1ヵ月前には申請することが大切です。
監修者
高槻 翔太
<保有資格>
- 宅地建物取引士
- FP技能士2級
- 日商簿記2級
<プロフィール>
不動産・建設会社で土地有効活用のコンサルティング営業経験(6年)。売買や駐車場の活用、リフォームの提案などに従事。不動産・金融特化のライターとして不動産系メディアでの執筆実績多数。