今、大きな注目を集めている定期借地権付きマンション『リビオシティ文京小石川』を販売する日鉄興和不動産の八代康佑さんに、その人気の背景を伺いました。
定期借地権付きマンションとは? 所有権や普通借地権とは何が違うの?
――「定期借地権」は「所有権」と何が違うのでしょうか?
八代康佑さん(以下、八代):定期借地権付きマンションとは、土地を期限付きで借りて利用し、建物を所有するという仕組みです。借地期間は借地借家法で「50年以上」と定められており、リビオシティ文京小石川は借地期間が約70年という設定になっています。
リビオシティ文京小石川では、弊社が土地のオーナー様から土地を一括で借り上げてマンションの買主様に土地を転貸する「転借地権方式」を採用していますが、土地のオーナー様から直接、賃貸する定期借地権付きマンションもあります。
――土地のオーナー様が期間満了前に第三者に土地を譲渡した場合はどうなるのでしょうか?
八代:その場合は、新たなオーナー様に土地の所有権に加え権利義務が引き継がれます。たとえば残存期間が30年だった場合は、土地のオーナー様が変わっても30年間住み続けられることに変わりはありません。また、リビオシティ文京小石川のように転借地権方式を採用しているマンションは、土地の所有権が第三者に移行しても、マンションを所有されている方にとっての土地貸主は、弊社であることには変わりありません。
――地代が途中で上がる可能性はありますか?
八代:原則的に、土地の公租公課や評価額などに応じて見直すことになっています。オーナー様の都合などで、有無を言わさず値上げされるようなことはなく、基本的には客観的事実に基づいて判断していきます。転借地権方式では、こうした交渉を直接オーナー様としていただく必要がないという点もメリットになってくると思います。
――「定期借地権」と「普通借地権」の違いについてはいかがでしょうか?
八代:定期借地権には、借地期間のほかに次の3つの条件があります。
・更新による期間延長を行わない
・建て替えによる期間延長を行わない
・建物の買取請求はできない
土地は期間満了後に更地にして土地のオーナー様にお返しするため、期間延長のための建て替えは行いません。しかし、借地期間中に自然災害や劣化などによってその必要性が出てくれば、建て替える可能性もあります。ただ、コンクリートの耐用年数や寿命などを考えると、建て替えが必要になる可能性は低いと考えています。この3つの条件の有無が、普通借地権と定期借地権の主な違いです。
定期借地権のメリット・デメリットとは?
――定期借地権付きマンションにはどのようなメリットがありますか?
八代:土地のオーナー様は、好立地だからこそ所有権を手放さず、借地という形で土地を活用されます。したがって、定期借地権付きマンションは都心部や駅前、駅近など総じて好立地。加えて、所有権と比べて安価に取得できることも大きなメリットになってくるでしょう。新築マンションが高騰し、マンション用地が不足している昨今では、特にこのメリットが大きいと思います。
また、近年では高経年マンションが増えており、その問題の解消に苦慮されている管理組合様も多いことと思いますが、定期借地権付きマンションについては、期間満了時に解体して更地にすることが決まっています。建て替えるのか、敷地を売るのか、その費用はどうするのか……といった議論をしなくていいという点も、所有者様にとってはメリットになってくるのではないでしょうか。
――建物を解体する費用はどのように捻出するのでしょうか?
八代:「解体準備積立金」という形で、地代とは別に月々積み立てていくのが一般的です。リビオシティ文京小石川の例でいうと、現時点で解体にかかる費用を見積もり、それを修繕積立金でいうところの均等積立方式に近い形で毎月の費用を算出し、積み立てていく方式を採用しています。解体工事費も向こう70年で変動していくでしょうから、数年に一度、見直していくことになっています。
――デメリットはどのようなところになってきますか?
八代:やはり、地代および解体準備積立金を支払っていかなければならない点は、デメリットになってくるでしょう。ただ、土地の固定資産税や都市計画税を納める必要はありませんので、一概には定期借地権付きマンションのほうがランニングコストがかかるということはいえません。もちろん借地であるため、土地を区分でも所有することが必須という方にとっては、この定期借地という方式そのものがもちろんデメリットになります。
また、土地の所有権を取得するマンションと比べると、融資の面で選択肢が狭まる可能性があるという点もデメリットになってくるかと思います。これは金融機関次第ではありますが、一般的なマンションと比べて担保評価が下がるということに起因しています。
とはいえ、定期借地権付きマンションは、売却はもちろん賃貸に出すことも可能です。数が増えているということもあって、近年では定期借地権付きマンションの価値が再認識され始めています。
▲日鉄興和不動産 住宅事業本部 再開発推進部 再開発推進第二グループ兼 ライフデザイン総研室 八代康佑さん ※所属先・肩書きは取材当時のもの
定期借地権付きマンションの増加理由と開発意図
――定期借地権付きマンションが増加している理由について、どのようにお考えですか?
八代:新築マンションの高騰や用地不足が背景として大きいと思いますが、住まい方に対する価値観が変化しつつあることも少なからず影響しているのではないでしょうか。土地を所有することが絶対というわけではなく、居住できる期限があって、地代や解体に向けた積立金を支払っていくことはデメリットになる一方で、高経年化した先の未来に縛られないということはメリットとも考えられます。
必ずしも、終の住処としてマンションを取得する方ばかりではなく、最近ではお子さんを持たない世帯も増えています。比較的安価に取得でき、計画的に所有できることを「合理的」と捉える方が増えているように思います。
――市場全体としても定期借地権付きマンションは増加傾向にありますが、日鉄興和不動産は特に近年、注力されているようにお見受けします。方向性や考え方が転換するきっかけがあったのでしょうか?
八代:リビオの取り組みである「LIVIO 4 VALUE for you」のひとつに「今日と未来にうれしい立地を。」というものを掲げています。弊社はもともと、定期借地や普通借地、等価交換を要する土地、建て替えが必要な土地など、多種多様な土地を仕入れてきました。立地が良く、広大で、なおかつ所有権が得られる土地というのは、言うまでもなくマンション用地に適しています。しかし、こうした土地を取得するには、どうしても最後はお金の積み上げになってしまいます。我々デベロッパーも一企業ですから、土地の取得に要した費用は当然ながら販売価格に転嫁せざるを得ません。
言ってみれば、条件調整など難易度が高い「他社があまりがやりたがらない土地」を積極的に扱ってきた理由は、弊社にしかできない方法で、価値あるマンションをご提供したいという思いからです。定期借地の土地にこだわっているわけではありませんが、こうした思いや方針から、結果的に定期借地権付きマンションが増えているという経緯があります。
――今後も積極的に定期借地権付きマンションを開発・販売していくご意向ですか?
八代:希少性の高い立地で定期借地権付きマンションを開発できることは、弊社の強みのひとつと考えています。現在も、港区芝公園にて定期借地権付きのタワーマンションを開発しています。
後悔せずにマンションを選ぶポイント
――白山駅から徒歩10分という立地や全522戸という規模などに注目が集まるリビオシティ文京小石川ですが、定期借地に関するお問い合わせもありますか?
八代:お問い合わせいただく段階で、定期借地について不安や疑問を感じていらっしゃるご様子の方も少なくありません。ただ、公式ホームページやウェビナーなどでしっかり定期借地についてご説明させていただいていることもあってか、半数ほどの方はよく理解されたうえでお問い合わせいただいております。弊社ではこれまで定期借地権付きマンションを多数ご提供してきましたが、年々、ご購入検討者様の定期借地への理解が深まっている印象があります。
――検討されている方からは、どのようなことを聞かれますか?
八代:ご質問事項として多いのは、地代や解体準備積立金についてです。先ほどお話しさせていただいたような現状の設定や値上げの可能性を気にされる方が多いように思います。ただ、公租公課や評価額、あるいは解体工事費など客観的事実に基づいて値上げや値下げがあるということをお伝えすると、多くの場合ご納得いただけます。
――定期借地権付きマンションは、どのような方に向いていますか?
八代:やはり、同様の条件の所有権が得られるマンションと比べると初期費用が抑えられるうえに、そもそも好立地のマンションの希少性は年々高まっているため、この場所に長く住み続けたいと考えている方には向いているのではないでしょうか。一方で、長く住み続けるつもりがなく、5年や10年で転居するご予定の方にとっても、考え方次第では合理的な選択になると思います。いずれにしても、定期借地権付きマンションは、ご自身の今のライフステージやこれからのライフプランの分析や設計ができている方に向いていると考えます。
――定期借地権付きマンションを検討する時に特に確認しておくべき事項を教えてください。
八代:「定期借地権付きマンション」というと一括りにされがちなのですが、物件によって借地の期間も地代や解体準備積立金の値上げに関する規定も異なります。「定期借地」ということを条件のひとつとして捉えるのではなく、こうした細かな規定を確認することが大事になってくると思います。たとえば、同じ「更地返し」だとしても、建物だけ解体すればいいのか、マンションを支えていた杭まで撤去しなければならないのかは、借地契約によって異なります。リビオシティ文京小石川については建物のみの解体という契約になっていますが、杭まで撤去しなければならないとなると、より高額な解体準備費用を積み立てていかなければなりません。
こうした細かな条件や規定は、物件概要などだけでは判別できません。言い方は悪いかもしれませんが、分譲会社に“根掘り葉掘り”聞くことも大切でしょう。私たちもできる限りご理解いただけるようにお伝えしますが、場合によっては第三者の専門家にセカンドオピニオンとして意見を求めるのも良いかもしれません。
▲リビオシティ文京小石川の完成予想模型
▲リビオシティ文京小石川モデルルーム
取材・文:亀梨奈美 撮影:石原麻里絵
WRITER
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。
おまけのQ&A
- Q.定期借地は1992年施行の借地借家法によって定められた仕組みのため、期間満了を迎えたマンションはまだないということになりますが、期間満了時の退去や解体のフローについてはどのように考えていますか?
- A.リビオシティ文京小石川の借地期間は、厳密にいえば70年5か月です。解体にかかる期間は1年半ほどと考えておりますので、69年目ころに退去・解体をしていくフローを想定しています。とはいえ、70年後には解体技術の進歩などで、より早く解体できるようになっているかもしれません。また、本物件が期間満了を迎えるころには、定期借地権付きマンションの退去・解体の事例も増え、スキームも確立されていることでしょう。こうした動きを見ながら、期間満了時の対応についてもブラッシュアップしながら検討していきたいと考えています。