東京の「右半分」、すなわち東側のエリアを中心にマンション情報などを発信する「すまいよみ」さん。自身も10年前から暮らし始めたというこのエリアの魅力や注目の再開発、おすすめの街などについて伺いました。
10年前に錦糸町へ。開放的な街並みに従来のイメージが覆った
――すまいよみさんは「東京イーストマンションブログ」を運営し、墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区を中心としたマンション情報の発信や、無料相談などをされています。いわゆる城東エリアを中心とした東京の東側に注目するようになったきっかけを教えてください。
すまいよみ:もともとは長く世田谷区に住んでいたのですが、10年前に墨田区の錦糸町エリア周辺にマンションを購入しました。それまでは正直、東京に住むなら世田谷区周辺が1番! という思いが強く、東側にさほどポジティブなイメージは抱いていなかったんです。でも、実際に住んでみると、とても快適に過ごせる。錦糸町はもちろん、周囲の開発されたエリアや下町も含めて本当に良い街が多いなと感じました。それが東京のイーストサイドに注目するようになったきっかけですね。
――越してきた当初は、どんなところに過ごしやすさを感じましたか?
すまいよみ:区画が整理されていて、歩道も歩きやすいですし、街が「広い」ですよね。東京都心に隣接していて通勤にも便利ですし、大型商業施設や大きな公園もある。若いファミリー層が多く、東京スカイツリータウンがオープンしていたのでエリア全体から活気を感じましたね。
また、近隣の亀戸や浅草などでは、季節ごとのお祭りがたくさんありました。子どもから元気な高齢者までたくさんの方が参加されていて、子供にお菓子をくれたり、家族ぐるみで親切にしてくれたり、再開発による利便性だけでなく、昔ながらの下町の暖かさがとても心地よかったです。
▲再開発後の押上エリア。今回、お話を伺ったのはすまいよみさん。マンションブロガー。居住性と資産価値の両面から「後悔しない住まい選び」をモットーに活動中。東京イーストマンションブログを運営する傍ら、スムログ、マンションコミュニティ【新築マンション・ブロガー寸評】などにも連載。X:@sumaiyomi
未来の社会課題もふまえた、魅力的な再開発があちこちで進む
――すまいよみさんが東京イーストサイドに注目され始めてから現在までの約10年間で、エリア全体としてはどのような変化がありましたか?
すまいよみ:従来の東側には便利で住みやすい街は多いものの、西側の、たとえば東急グループが沿線のまちづくりを行っているエリアに比べると、イメージや人気、知名度という点ではやや分が悪かったと思います。自由が丘や二子玉川、下北沢など名前を聞いただけで華やかな印象を抱く街がたくさんありますから。
それがこの10年で、大きく様変わりしています。たとえば、有明や豊洲、清澄白河は人気の街になりましたし、金町、小岩など大きな再開発が進んでいるエリアは注目される街に生まれ変わってきました。
――特に、良いまちづくりがなされていると感じるエリアはどこでしょうか?
すまいよみ:まずはやはり錦糸町、押上、曳舟エリア一帯(墨田区)ですね。錦糸町については私が越してきた10年前にはほぼ新しい街が完成していましたが、先ほども言ったように区画がゆったりと整備されている。防災的な観点から最近のまちづくり、再開発ではも区画を広くとっているのではないかと思います。結果、開放的で心地良い街並みになっています。
曳舟は、駅周辺の再開発が段階的に進んで来ましたが、今後も再開発が続きそうです。近隣には東京スカイツリーのお膝元である押上があり、エンタメ施設が充実しているのも魅力ですね。
また、湾岸エリアは、道幅や歩道が広く開放的な街並みと美しい水辺の風景が大好きです。都心に近い場所にいながら非日常感を味わえます。
それから、最近おもしろいと感じるのは足立区の取り組みです。自虐的なフレーズを用いながら、まちづくりを加速させています。千住エリアは、北千住駅周辺から千住大橋、千住関屋町あたりまで、今後も大規模な再開発が進められる予定です。また、つくばエクスプレスの六町は、駅周辺で高島屋グループが手掛ける再開発計画が進んでいて、大型の複合商業施設ができる予定です。新しい賃貸マンションと戸建てが中心の街並みもきれい。湾岸工事や大型公園も整備される予定で、まさに都心に隣接したニュータウンが形成されつつあります。タワーマンションを軸とした再開発の街とは、一線を画すようなまちづくりが行われていますね。
▲六町の住宅街
すまいよみ:あとは金町(葛飾区)でしょうか。2013年に東京理科大学の葛飾キャンパスが開設され、2025年4月には薬学部が移転してきます。駅の北側に大規模再開発も控えています。北千住(足立区)もそうですが、行政主導で大学を積極的に誘致しているのがポイントです。再開発で街をきれいにしてタワーマンションを建て、一時的に住民が流入してきたとしても、将来的な人口減は免れません。そこを葛飾区や足立区は、大学を誘致することで街に若い人を呼び込んで永続的な街の力にしようとしています。
人口減以外にも、防災対策、空き家問題、格差の問題など、今は本当にさまざまな課題が山積しています。将来的な社会情勢を見据えた課題にも向き合っている街は、長く暮らすことを考慮した魅力的なまちづくりができていると感じます。
――確かに、さまざまな社会課題を念頭に置いたまちづくりをしてもらえると、安心して住み続けられます。
すまいよみ:それができるのは、すでに完成された街ではなく、これからまさに未来を見据えた再開発を行おうとしている街ですよね。イーストサイドにはそうした可能性がたくさんあると思います。
たとえば、先ほど挙げた曳舟。空き家問題と格差による地域の分断を同時に解決するようなヒントが見てとれます。駅前には数棟のタワーマンションが建ち、新たな住人層が移り住んできているのですが、その一方、同じエリアの空き家を活用し、リノベーションして暮らしたり、カフェやギャラリーを営んだりする若い人も増えています。彼らはもともとの住民の方ともうまく共存できていて、昔ながらの商店街も活気があるなど、コンパクトなエリアのなかでうまく新旧が融合している。格差による分断もなく、従来の下町全体にあった地域の一体感みたいなものを感じますね。
東エリアは、水害リスクが高いエリア特有の課題もあります。江戸川区の船堀は、新区庁舎の移転とともに、一段階上の水害対策が講じられると聞いていますから、注目しています。
▲「曳舟」。歩道が広く取られ、洗練された町並みに生まれ変わった
東側にもタワーマンションが急増中。人気が上昇し供給不足に
――では、東京イーストサイドで注目しているマンションの動きを教えてください。
すまいよみ:注目エリアや物件はたくさんあるのですが、まずは江東区深川エリアの越中島や門前仲町あたりです。門前仲町は飲み屋や料亭、お祭りの街でとても楽しいところではありますが、暮らしの観点で利便性や雰囲気などを見ると、候補には挙がりづらかったのではないかと思います。しかし、近い将来、三菱地所や野村不動産の再開発、マンション建設によって明るくきれいな街にアップデートされそうで、暮らし目線でも魅力がアップするのではないかと期待しています。
また、江東区の新豊洲エリアでは東京ガス豊洲工場の跡地で大規模な開発が進められる予定です。すっかり人気のエリアになってしまった湾岸エリアですが、新しい場所にタワーマンションが何棟か建つ予定なので、非常に楽しみですね。あとは先ほどお話しした北千住エリア。北千住駅から徒歩10分程度歩きますが、三井不動産中心に数棟のタワーマンションの開発を計画しています。マンションだけでなくまちづくりも楽しみです。
立石は、今後、駅周辺が5年、10年でガラッと変わります。区役所の移転、複数のタワーマンション計画があります。今までのエリアの文化と大きく変わる街になりそうですから、今までの住人とニューカマーが融合してどんな素敵な街になるか楽しみにしています。
――東側エリアでもタワーマンションがトレンドなのでしょうか?
すまいよみ:タワーマンションは東エリアでも本当に増えていますね。相場や売買の動きでは、タワーマンションだけ異質です。また、それに伴って東京イーストサイドのマンション自体への関心も非常に高まっていると感じます。私が錦糸町で買った10年前は、都心寄りの墨田区や江東区あたりですら、モデルルームの営業担当から「周辺エリアでどんな物件でも紹介できますよ」と言われました。
それが今や、江東区や墨田区は用地が少なく需給バランスが逆転、ファミリー向けの物件は希少になってきています。私のところにも「検討できるマンションが少なくて困っています」という相談がたくさん届きます。条件が良い中古の売出し少なくなっているような状況ですね。江戸川区や葛飾区、足立区あたりだと、まだ供給数の方が上回っているエリアも多いですが、やはり少しずつ相場は上昇しています。
▲江東区東雲のタワーマンション群
マンションは「一生に1度」の買い物ではなくなった?
――ここまで東京の東側エリアのリアルな現状と未来への期待について語ってもらいましたが、では、そんなイーストサイドに住みたい時に、どんなポイントで街を選べばいいでしょうか?
すまいよみ:難しい質問ですが、私の経験談からお話しします。私はこれまで東エリアでは物件を3回購入し、それぞれ別の街に住み替えてきました。当初は「住めば都」くらいに思っていましたが、実際に住んでみると街によって特色がまるで違うんです。同じ沿線であっても、本当にガラッと変わります。
たとえば、外からは賑やかでイメージが良く映っても、住み始めてみるとビジネスの街なので昼間の人口が多く、暮らしづらかったこともあります。他にも、エリア全体のイメージとしてファミリー層が多そうと思っていても、実際には賃貸物件が多い地域で単身者が多くが住んでいて、家族では暮らしにくい場所もあるでしょう。下町風情は、実際に住んでみると好みが分かれそうです。
ですからイメージにとらわれず、そうした街ごとの特色を自身の目で確認することが大事だと思います。「やっと新築が出たからここにしよう」と前のめりになるのも分かりますが、街を吟味して自分や家族に合うかどうかを十分に検討してほしいですね。
ただ、そのうえで失敗したとしても、過剰に落ち込んだり後悔したりする必要はないと思います。
――すまいよみさんご自身も「住まいは今や一生に1度の買い物ではない」とおっしゃっていますよね。
すまいよみ:じつは私自身、最初のマンションを買った時に失敗したと感じて、精神的に辛かった時期がありました。当時はやはり「家は一回買ったらそれっきり」という思い込みがあって、すごく後悔してしまったんです。でも、それから複数回の物件売却と購入を経験し、今って本当に住み替えのハードルが下がっているんだなと感じました。今は、買い替えしやすい制度や住宅ローンもありますし、以前に比べて住まいの流動性は高くなっています。
そもそも、一回目の住まい選びで完璧な街と家に出合うことは至難の業です。仮に失敗したとしても、「1度きりの人生だから、いろいろな街に住んでみよう」くらいの気持ちで、気負いすぎずに住まい選びを楽しんでほしいと思います。
取材・文:榎並紀行
WRITER
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。X:@noriyukienami
おまけのQ&A
- Q.すまいよみさんが思う、下町の魅力とは?
- A.イーストサイドの下町エリアは高齢者の方がとてもパワフルな印象です。商店街にも元気なシニアがたくさんいますし、お祭りにも積極的に参加する。年齢を重ねても楽しく過ごせるのが、下町の良さだと思います。