マシンガンズ滝沢さんが聞いた、マンションのゴミを減らす取り組みとは?

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ゴミ清掃員としても活動する、お笑い芸人のマシンガンズ滝沢秀一さんがマンション業界のサステナビリティ事例を取材する連載企画。第2回目は、マンションブランド「Brillia」でおなじみの東京建物さんにお話を伺いました。

ゴミ清掃員としても活動するお笑い芸人のマシンガンズ滝沢秀一さんが今回取材するのは、マンションブランド「Brillia(ブリリア)」シリーズを展開する東京建物が2023年のトライアルを経て、2024年からスタートさせた「すてないくらしプロジェクト」です。プロジェクトメンバーである東京建物 住宅エンジニアリング部の幸地浩一郎さん、平田梢さんにお話を伺いました。

 

<すてないくらしプロジェクトとは?>

分譲マンション向けの廃棄物削減に向けた取り組み。各住戸から出る「廃食油」や使わなくなった衣類・おもちゃなどの生活雑貨を回収しリサイクル・リユースする仕組みの構築、「暗い・汚い」というイメージのゴミ置き場をリデザインし、分別を分かりやすくする取り組みなど、Brilliaを拠点に複数の施策が進められている。

滝沢秀一氏

▲滝沢秀一さん。お笑いコンビ「マシンガンズ」。2023年『THE SECOND〜漫才トーナメント〜』準優勝。2012年からはゴミ収集会社の収集作業員としても働き始め、現在も芸人と兼業。『このゴミは収集できません』『ゴミ清掃員の日常』など、ゴミに関する著作も多数 X:@takizawa0914

東京建物 幸地氏、平田氏、滝沢氏

▲お話を伺った東京建物 住宅エンジニアリング部 建築企画1グループ グループリーダー 幸地浩一郎さん(中央)、住宅エンジニアリング部 建築企画1グループ 平田梢さん(左) ※所属先・肩書きは取材当時のもの

――「すてないくらしプロジェクト」の概要を聞いて、滝沢さんはどう感じましたか?

 

滝沢秀一さん(以下、滝沢):いや、「素晴らしい取り組み」のひと言ですよね。特に、廃食油の回収。というのも、僕はいま各家庭が生ゴミを処理したコンポストを地域ごとに集め、堆肥として有効活用する拠点回収をやりたくて、そのときに使用済みの油も持ってきてもらえたらいいなと思っていたんです。現状、家庭から出る油ってほとんどが捨てられているじゃないですか。これ、なんとかしたいなと思っていて。油も適切に回収すれば再利用できるけど、まだまだそういう発想の人は少ない。でも、こうやってリサイクルできる仕組みがあれば、協力してくれる人は絶対にいるはずですよ。Brilliaのプロジェクトでも、この写真を見るかぎり、かなりの量の廃食油が集まっていますもんね。

すてないくらしプロジェクト

▲総戸数530戸の「Brillia 多摩センター」の住民に協力を仰ぎ、廃食油の回収を呼びかけ。すると1か月でかなりの量が集まった

東京建物・幸地浩一郎さん(以下、幸地):最初は3か月のトライアルという形で管理組合さんに提案しスタートしたところ、はじめの1か月で約45kgの廃食油が集まりました。これは、年間ベースだと約1.5トンのCO2排出量を削減できる量にあたります。100本の樹木が1年間の光合成で吸収するCO2の量に匹敵する削減効果があるんです。

 

東京建物・平田梢さん(以下、平田):始める前は私たちも本当に集まるのか不安でした。ただ、実際にやってみると資源回収業者の方も驚くくらいの量をリサイクルに回すことができて。油を固めたり、牛乳パックに入れたりして捨てるよりペットボトルに移し替えて回収ボックスに入れるほうがラクだし、それが有効活用されるのならばというお声をたくさんいただきましたね。

 

滝沢:そう、さっきも言いましたけど、仕組みさえあれば意外とみんなやってくれるんですよね。ゴミの分別だって全員が面倒に感じているわけじゃなく、やりたがっている人も多い。ただ、自分はちゃんとやっていても、それが適切に回収や活用されていないとガッカリするじゃないですか。その点、自分が暮らすマンションにこういう仕組みがあるのは、本当に素晴らしいと思います。

 

幸地:じつは、この取り組みを始める前に、Brilliaオーナーズクラブ会員向けのアンケートを行い、環境対策への関心やゴミの分別について聞いてみたことがあったんです。すると、想像以上に「仕組みがあればやってみたい」「協力したい」という声が多くて。やはり(地球環境のために)何かやらなきゃいけない、やったほうがいいと考えている人はたくさんいる。でも、やり方が分からなかったり、きっかけがなかったりするだけなんですよね。だったら、まずはご協力いただけるマンションでこういうことをやってみて本当に成立するかどうか、検証してみようと考えました。

廃食油リサイクル

▲ゴミ置き場に集まった廃食油はパートナーの廃棄物マネジメント会社が手配した資源回収業者が回収し、リサイクルされている

幸地:3か月のトライアル終了後、管理組合さんからも資源回収業者さんからも「ぜひ継続してほしい」というお声をいただきました。そこでBrillia 多摩センターでは本格的にこの仕組みを導入し、現在も廃食油のリサイクルを継続しています。今後は他のマンションでも同様の取り組みを展開して回収量を増やし、さらなる可燃ゴミやCO2排出量の削減につなげていきたいですね。

 

滝沢:管理組合、つまり住人側から続けたいという声が挙がってきたというのはすごいですね。意識が高い。

 

平田:コスト面も含め、住人さん側の負担がないというのも大きいと思います。もともと行政がタダで回収してくれるものですから、お金を払ってまでやってくれるかというと難しいと思いますが、今回は協力会社さんに入っていただき、廃食油から運搬コストを捻出できる仕組みをつくれたのがよかったなと。ただ、改善点もあって、資源回収業者さんからは一つひとつのペットボトルから油を移し替えるのが大変だと伺っていますので、今後はゴミ置き場にタンクのようなものを置き、住人の方々にはそこに廃食油を入れてもらうような仕組みも導入していきます。

PASSTO

▲廃食油の次に実施したのが「衣類や雑貨の回収」。「ECOMMIT(エコミット)」の協力を得て、同社が提供する不要品の回収・選別・再流通を一気通貫で行う取り組み「PASSTO(パスト)」を開始。暮れの大掃除シーズンに合わせ、衣類・おもちゃなどの生活雑貨の回収サービスを大規模マンションの共用部に先行導入した

滝沢:あと、この「GOMMY(ゴミー)」っていうのもすごくいい。僕もゴミ清掃員として色々なマンションに行きますけど、なかにはあり得ないほど汚く荒れ果てたゴミ置き場もある。でも、ここまで綺麗な収集所だと綺麗に使わなきゃという気になるし、回収業者の立場としても気持ちよく仕事ができます。分別がいい加減だと、清掃員や回収業者が手作業で仕分けなきゃいけなくなるから、こういう取り組みはありがたいですね。

 

幸地:ゴミ置き場ってどうしても「汚い、くさい、暗い」イメージがあって、できれば長居したくないですよね。それによって、分別がおろそかになってしまう部分もあるのではないかと考えたのが「GOMMY」導入のきっかけです。ゴミ置き場を明るくデザインすることで綺麗に使っていただけますし、「燃やせるゴミ」「ペットボトル」など種類ごとに分かりやすく色分けすることで分別もしやすくなります。

GOMMY

▲Brilliaのいくつかの物件で先行導入されている「GOMMY」。従来のゴミ置き場のイメージを覆し「通いたくなる空間」を創出。コミュニケーションデザイナーによるユニークなピクトグラムやカラーコーディネートで、ゴミの出しやすさや分別のしやすさ、清掃員や管理会社の働きやすさにも配慮されている

滝沢:ゴミ置き場に見えないどころか、もはやカフェですね。

 

幸地:ちなみに、この写真は「Brillia 自由が丘」に設置した「GOMMY」なのですが、ちょっとやりすぎたかもしれません(笑)。ちなみに、天井についているのはエアコンで、温度管理をすることでゴミ置き場特有の生ゴミのにおいも抑制しています。

 

滝沢:やりすぎ、いいじゃないですか。実際、ここなら「通いたくなる」と思うし、においがしないなら長居もできますよね。そこから住人同士や住人と清掃員のコミュニケーションも生まれるかもしれない。実際、奈良県生駒市のゴミ置き場にそういう場所があるんですよ。ゴミ置き場に椅子を置いたらゴミを出しに来た人がそこに座るようになって、清掃員やゴミ出しに来た人同士が世間話をするようになった。そのうち、そこでコーヒーをいれたり、DIYを始める人まで出てきて、ゴミを通じた「ゴミニケーション」が行われるようになったんです。そうやって顔の見える関係が生まれると、へんな捨て方はできないじゃないですか。そういう意味では、この「GOMMY」もゴミニケーションが生まれやすい場だなと感じました。

GOMMY集積所

▲最初に「GOMMY」が導入された「Brillia 西国立」。こちらは郊外のファミリー向け物件ということで、親しみやすいデザインに。今後もマンションごとのコンセプトやターゲットに合わせた「GOMMY」を、順次導入していく予定だという

滝沢:お話を伺っていると、マンションでできることってまだまだありそうですね。特に大規模なマンションだと戸数も多く、たとえば油を回収するにしてもまとまった量になるからリサイクル会社などの協力も得やすいでしょうし。

 

幸地:そうですね。おっしゃる通り、現時点では200戸くらいの規模がないとこうした仕組みをつくるのは難しいのですが、今後はそこをなんとか工夫して、少ない戸数のマンションでも導入できるやり方を考えていきたいですね。そうやって拠点が増えていけば回収効率も上がり、それこそ大規模マンション以外でも色々なことができるようになるかもしれません。

 

滝沢:こういう取り組みって、住人としても気分がいいでしょうしね。やっぱり、ゴミをたくさん出してしまったときってどこか罪悪感があると思うんですよ。自分が住むマンションに油や服などをリサイクルできる仕組みがあれば、ゴミそのものを減らせますし、それがどう有効活用されているかが分かれば、より分別の意識を高めるモチベーションにもなる。そうやって、ゴミをなるべく出さないことが当たり前になると、罪悪感なく堂々と暮らせますからね。

 

平田:それもまさに、私たちがプロジェクトに取り組む理由のひとつです。ですから、住人の方には今後定期的に「回収した油がどう使われたか」「どれくらいのCO2を削減できたか」などの結果をご報告する予定です。

滝沢氏

▲引き続き住人や協力会社とコミュニケーションをとりながら、リサイクルに回せる品目を増やしていくことも検討中という

――それでは最後に、東京建物が描く「サステナブルなマンション」の未来像を教えてください。

 

幸地:東京建物ではこれまで、ZEHマンションをメインに展開するなど建物の省エネルギー化を進めてきました。これからはそれだけでなく、今回の「すてないくらしプロジェクト」のような資源循環につながる取り組みも積極的に実施していきたいと考えています。家庭から排出されるゴミの量をどんどん減らし、資源化していく。エネルギーとあわせてそこに注力することで、本当の意味でサステナブルなマンションを実現できるのではないかと思います。

 

滝沢:僕の希望もいいですか? ゴミ置き場では「燃やせるゴミ」「燃やせないゴミ」みたいなエリア分けをされていると思うんですけど、そこに「わからないゴミ」のコーナーをつくってほしいんですよね。最近、どう分別するかわからないゴミが増えているじゃないですか。本当は自分で調べてちゃんと捨ててほしいけど、なかには「わからない」からとかなり雑な捨て方をされる人もいて。たとえば、モバイルバッテリーやスプレー缶なんかをタオルでぐるぐる巻きにして、燃やせるゴミのなかに入れてしまう人がいるんですよ。それをやってしまうと清掃車のなかで爆発するなど、大きな事故につながりかねません。それなら、判断がつかないものはとりあえずここに入れておけばいいっていう「わからないゴミ」コーナーを設けてほしい。そうすれば、清掃員が判断できますから。

 

あとは、先ほども言ったようにゴミを介して交流ができる「ゴミニケーション」の場を、マンション内に増やしてほしいですね。たとえば、みんなでコンポストに挑戦して堆肥をつくるワークショップをやったりとか。ゴミニケーションによって環境への意識も高まるし、独居世帯の孤立も防ぐことができるはず。マンションに対する愛着や誇りも湧きますしね。東京建物さんはすでに色々とやられていますが、さらに色んな可能性を追求してほしいと思います。

 

 

[あわせて読みたい]マシンガンズ滝沢さん「サステナブランシェ本行徳」でサステナブルな暮らしを考える

 

 

取材・文:榎並紀行 撮影:ホリバトシタカ

 

WRITER

榎並紀行
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。X:@noriyukienami

おまけのQ&A

Q.家庭から回収した廃食油は何に生まれ変わる?
A.適切な処理を行うことで、肥料や飼料、石鹸、SAF(航空燃料)などに生まれ変わらせることができます。今後は、回収した油からリサイクルした石鹸を住人の方にお配りするようなこともできたらいいなと考えています。(東京建物・平田梢さん)