マシンガンズ滝沢さん「サステナブランシェ本行徳」でサステナブルな暮らしを考える

  • XX
  • facebookfacebook
  • BingBing
  • LINELINE

ごみ清掃員としても活動する、お笑い芸人のマシンガンズ滝沢秀一さん。日々清掃員の仕事を通じてサステナビリティについて考えることも多い滝沢さんが、マンション業界のサステナビリティ事例に触れる連載企画がスタート。

ごみ清掃員としても活動するお笑い芸人のマシンガンズ滝沢秀一さんは、環境省サステナビリティ広報大使第一号でもある。そんな滝沢さんが、マンション業界が取り組む最新のサステナビリティについて知る本企画。第1回は、千葉県市川市にある「サステナブランシェ本行徳」を訪ね、「サステナブルなマンション」の未来について考えます。

▲滝沢秀一さん。お笑いコンビ「マシンガンズ」。2023年『THE SECOND 〜漫才トーナメント〜』準優勝。2012年からはごみ収集会社の収集作業員としても働き始め、現在も芸人と兼業。『このゴミは収集できません』『ゴミ清掃員の日常』など、ごみに関する著作も多数 X:@takizawa0914

――2023年に全面改修し、新しい賃貸マンションとして生まれ変わった「サステナブランシェ本行徳」ですが、サステナブルな暮らしをテーマに、数多くの実験的な取り組みをされていると伺いました。はじめに、プロジェクトの概要を教えてください。

 

長谷工コーポレーション・藤田(以下、藤田):ここは築30年以上の建物で、もともとは社宅として運用されていました。それを長谷工コーポレーションが取得し、「住まい方のニーズの変化や脱炭素社会の実現に向けた集合住宅のあり方」を模索するための場として、さまざまなチャレンジを行っています。端的に言うと「マンションはどこまで地球環境に配慮できるか」「マンションはどこまで人の健康に寄り添えるか」「マンションはどこまで快適な空間と安心を届けられるか」。この3つの価値の追求を目指しているのが、「サステナブランシェ本行徳」です。

▲「サステナブランシェ本行徳」の開発を推進した長谷工コーポレーションの技術推進部門 住宅企画推進室 藤田昭さん(中央)と都市開発部門 不動産投資事業部 事業開発部 小島智枝子さん(右)。※共に所属先・肩書きは取材当時のもの

長谷工コーポレーション・小島(以下、小島):まず、地球環境への配慮の部分ですが、大きな柱になっているのが「グリーンリノベーション」です。建物の運用時にかかる全エネルギーを再生可能エネルギーでまかなうなどしてCO₂排出量実質ゼロを実現しています。また、高い断熱性能と省エネ性能によって、BELS認証(建築物省エネルギー表示制度)も取得しました。築30年を超える既存建物の改修でこれを実現したのは、国内でもはじめての取り組みとなります。

▲建物の改修にあたっても、循環可能な木質系サイディングをはじめ、環境にやさしい材料をなるべく使用。また、もともとの躯体を活かしたり、既存のタイルを一部残したりと、可能な限り廃棄物を削減する形でリノベーションを実現している

滝沢さん:再生可能エネルギーの活用などで建物運用時のCO₂排出量実質ゼロを目指すということですが、具体的にどういう仕組みなんですか?

 

藤田:まずは敷地内の発電システムとして、太陽光パネルを屋上と外壁面、5階バルコニーの手すり部分にも設置しています。これは実験も兼ねて、付けられるだけ付けてみようと。また、次世代の非化石エネルギーを用いた発電方法として期待されている「純水素型燃料電池」も導入しています。水素と酸素から水と電気をつくり出すというもので、一般の集合住宅で採用されるのは、おそらく国内初のことだと思います。

 

滝沢さん:ただ、それだけだとマンション全体の電力はまかなえませんよね?

 

藤田:おっしゃる通りです。メインは太陽光パネルなので、曇天時や夜間は発電できません。そこで、足りない分は外から再生可能エネルギー由来のグリーン電力を購入することで補っています。また、夏場など日差しが強い季節は逆に電力が余ってしまうこともありますので、その場合は余剰分をエコキュートの給湯で有効活用する仕組みですね。

 

▲昼間に給電した電力の余剰分を有効活用するため、給湯はセントラルエコキュート方式を採用

▲5階バルコニー手すり部分に太陽光パネルを設置(手すり側面、シマ模様の黒い部分が太陽光パネル)。全面を太陽光パネルにすると真っ黒になってしまい、室内からの眺望が遮られる。そこで、あえてパネルの数を減らしシースルーにすることで、発電と居住性を両立している

▲こちらも実験的に導入された「純水素型燃料電池」

▲その日の発電量や消費電力量は共用部エントランスのモニターで確認できる

滝沢:いやあ、すごい。最近、環境配慮型のマンションの話はよく耳にしますが、ここまでやりきっているのは珍しいんじゃないですかね。そもそも、なぜこれをやろうということになったんですか?

 

小島:もともとは脱炭素社会の実現を目指したプロジェクトとして2021年にスタートしました。当時は、世の中的にも建設業界としてもサステナブルな取り組みが増え始め、当社も2050年カーボンニュートラルの実現に向けて方針を立てたタイミング。そこで、まずはサステナブルや脱炭素をテーマにしたパイロット的な物件をつくろうということで、ワーキンググループが設置されたんです。私も藤田も当初からのメンバーで、さまざまな意見を出し合いながらプランを固めていったというのが経緯ですね。

 

 

――残り2つの価値である「マンションはどこまで人の健康に寄り添えるか」「マンションはどこまで快適な空間と安心を届けられるか」という部分は、どのように実現するのでしょうか?

 

小島:最先端のIoT機器・AI技術等や、ウェルビーイングの視点から、新たな価値創造を目指した住戸「レジデンスラボ(居住型実験住宅)」を導入しています。暮らしのデータを取得・分析し、研究・技術開発に活かすことを目的としていて、そのためのさまざまな仕掛けを共用部や専有部に用意しました。

 

なかでも特徴的なのが、テーマの異なる13の住戸です。たとえば、睡眠環境をとことん追求した「快眠のための家」。全館空調システムやリラックス効果のある木質系内装材、生体リズムに合わせた照明制御(サーカディアンリズム照明)などを採用し、睡眠の質向上に与える影響を検証しています。

▲睡眠にまつわる共同研究を進めるNTT東日本とブレインスリープの協力を得て、活動量・心電図・脳波などから居住者の「睡眠の質」を計測。データをもとに、最高の睡眠を実現するための住環境を定義していく

小島:「快眠のための家」以外にも、家具や照明、エアコン、カーテンの開閉などすべてがAI制御可能な「AIスマートハウジング」の部屋を、INIAD cHuBさん(イニアドシーハブ)と共同開発したり、住まいや家時間の過ごし方をテーマとした「住まい方提案コンセプト住戸」をつくったりと、ワーキングメンバーでアイデアを出し合いさまざまな形の住戸を用意しています。これらの住戸で実際に暮らす居住者のデータを取得・分析しながら、「人の健康に寄り添うマンション」「快適な空間と安心を届けるマンション」を追求していくのが目的ですね。

▲「住まい方提案コンセプト住戸」に設けられた玄関横のボルダリングコーナー。ボルダリングを通じ、親子のコミュニケーションがはかれるアクティブな空間を提案する

滝沢:おもしろいなあ。僕も住みたいですよ、特に睡眠の部屋。環境に配慮することはもちろん大事だけど、マンションである以上は快適に過ごせたり、お客様が求めることを追求したりしていくというところも、同時に突き詰める必要がありますもんね。

 

小島:そうですね。サステナブルって色んな要素があるじゃないですか。地球環境のことだけでなく、人々の健康やウェルビーイングの向上に貢献するマンション。それが、私たちが追求するべきサステナブルな暮らしではないかと考えています。

▲共用部には「バーチャル森林浴」も用意。プロジェクターで天井、壁、床に自然空間を投影し、映像、音、香りを通じた自然に包まれる疑似体験を実現する。こちらもリラックス効果を検証した上で、今後のマンション導入を検討していくという

――滝沢さんはこのマンションをご覧になって、どんな感想を持ちましたか?

 

滝沢:僕がイメージする理想の暮らしに、限りなく近いと思いました。僕も将来は、生活ごみを出さない「ごみゼロハウス」みたいな家をつくりたいと考えていましたから。そんな家に住んでいると、それだけで自分の人生に誇りを持てるようになると思うんですよ。シビックプライドならぬ、マンションプライドですよね。

 

何より、このマンションが魅力的なのは「環境への取り組み」と「人が快適に暮らす」ためのアプローチを両立しているところですよね。CO₂排出量実質ゼロを目指しているのは素晴らしいことなんだけど、それだけじゃ「住みたい理由」にはならないじゃないですか。将来的には、もしかしたら「環境にやさしい暮らしができるかどうか」が住まい選びの価値基準のひとつになるかもしれないし、そうあるべきだと思います。でも、今のところ優先順位はあまり高くなくて、まずは別の付加価値がないと選ばれないですもんね。

 

――「環境」を全面に出すのではなく、誰もが魅力的だと思う付加価値のほうを入り口にする。そして、そこに暮らしていくうちに環境への意識が高まっていく。その順番でもいいわけですよね。

 

滝沢:そう思います。僕もよく、ごみの問題について知ってもらうためのトークイベントなどに呼んでいただいていますが、そこで、いきなり「地球環境のために〜」みたいな話をしても、あまり真剣に聞いてもらえないんですよ。だから、たとえば「金持ちになる人と、そうでない人のごみの出し方はどう違う?」みたいな、多くの人に関心を持ってもらえそうなネタを仕込むんですけど、それで少しでも興味を持ってもらえるならアリだと思っていて。本当に大切なことを伝えるために、色んなアプローチを考えるのはやっぱり大事ですから。

 

そういう意味では、この「サステナブランシェ本行徳」は魅力的なアプローチをしているし、あとは、サステナブルな部分とデザイン性を両立させているところもいいですよね。環境に良いからといって、ダサいところに住みたいと思う人は少ないはずだから。

▲建物入り口の壁面には緑を配置

小島:滝沢さんが、「こういう場所に住むと、人生に誇りを持てるようになる」とおっしゃっていましたが、まさに私たちもそれを期待しています。そして、いずれは地球環境に配慮したマンションに暮らすことが、人生の満足度やウェルビーイング向上につながるという価値観を、社会全体へと広げていきたいです。

 

滝沢:それが不動産の価値のひとつとして世間に認められて、「環境にやさしいマンションだから住みたい」っていうところまでいけるといいですよね。

 

小島:そうなる可能性は十分にあると思います。投資家の間ではすでに、不動産も環境配慮型や脱炭素というキーワードは外せないものになってきていますし、物件のスペックが同等なのであれば、環境配慮型のマンションが選ばれるようになってきています。この傾向は、今後さらに強まっていくのではないでしょうか。

▲テレビ朝日がSDGs施策として取り組む【art to ART Project】とコラボし、番組廃材や建築廃材をアート装飾として活用。本来は捨てられてしまうものを、各住戸の外観装飾や居室の壁面アートとして再利用している

――最後に、「サステナブルなマンションの理想と未来」について考えたいと思います。まずは藤田さん、小島さんに「サステナブルなマンションのあり方」について、改めてお伺いしたいのですが。

 

藤田:この「サステナブランシェ本行徳」がひとつの例ですが、省エネや脱炭素という視点でのサステナブルについての答えは、マンション業界でもだいぶ見えつつあるのかなと思います。一方で、持続性というところで考えると、やはり多くの人に「ずっと住み続けたい」と感じてもらう必要がある。それは、さらなる便利さなのかもしれないし、健康やウェルビーイング、あるいはそれ以外の要素なのかもしれませんが、マンションをつくる側としては人々が住み続けたくなる要素や価値というものを、今後も追求し続けていきたいですね。

 

小島:はい、そして、今回の「サステナブランシェ本行徳」ではまだできていない「子育て」にフォーカスした要素だったり、それこそ滝沢さんのような方のお知恵をお借りして「ごみ問題」にアプローチしてみたりもチャレンジしてみたいです。先ほど滝沢さんが将来「ごみゼロハウス」をつくりたいとおっしゃっていましたが、じつは私たちワーキンググループでも、似たようなことを考えていたんです。たとえば、洗剤容器のごみを出さないようにするため、マンションの共用部に洗剤タンクのようなものを置いて洗剤の量り売りができないかとか、歯磨き粉も液体状にして洗面化粧台にビルトインし、やはり量り売りすればチューブのごみを減らせるんじゃないかとか。今回は見送りましたが、そういうことも考えています。

 

滝沢:それ、めちゃくちゃおもしろい。本当に実現できたら「ごみゼロマンション」も夢じゃないし、世界に衝撃を与えますね。

 

小島:他にも、まだまだできることはたくさんあると思います。ですから、これからは単に建物というハードを建てて終わりではなく、そこに暮らす人のことを考えたソフトの部分にも目を向けて、色んなアイデアを考えていきたいです。

 

――滝沢さんは住まい手の視点から、これからのマンションにどんなことを望みますか?

 

滝沢:サステナブルという観点でいうと、やっぱりマンション内で使うエネルギーの100%自給自足を目指してほしいですよね。足りないぶんを外部から買うのではなく、自分たちで使う電力はすべてそこでつくれるようになるといいなって思います。当然、太陽光発電だけでは難しいでしょうから、色んなものを組み合わせて。たとえば、川沿いだったら水車を使った水力発電なんてどうでしょう。水車なら天候も昼夜も関係ないし、マンションのシンボルになって愛着を持てそうだし。長谷工さんには、そういうことが当たり前になるよう、業界をどんどん引っ張ってもらいたいなあ。

▲「マンションにでっかい水車があったら楽しいじゃないですか」

小島:はい、がんばります。コストのことを考えるとまだまだハードルは高いですが、100%自給自足は本当に理想型だと思いますので。

 

滝沢:現状はかなりの導入コストがかかると思いますが、100%自給自足できれば電気代も払わなくていいわけですもんね。「電気代ゼロのマンション」って最高じゃないですか。「環境に良い」と言われても、なかなかみんなピンとこないかもしれないけど、電気代がタダとなればかなりの訴求ポイントになるんじゃないかな。

 

繰り返しになりますが、まずはそういうところから入って、徐々に環境問題にも関心を持ってもらえばいいと思うんですよ。そのうちに、結局は環境に配慮することで、自分自身が長く健康的に生きていけるという、そんな当たり前のことに気づけるはずですからね。

 

 

取材・文:榎並紀行 撮影:ホリバトシタカ

 

WRITER

榎並紀行
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。 X:@noriyukienami

おまけのQ&A

Q.滝沢さんが、ごみの問題について発信し続ける理由は?
A.シンプルに、日本のごみを減らすっていう目標があるからですね。まずは地域のごみ、個人のごみを減らす必要があって、そのためには分別のことを含めて、ごみについてもっと知ってもらわないといけない。だから、同じことを繰り返し言い続けています。