駅周辺の整備が進み、マンションも増加中。もともとは戸建て信仰が根強いエリアですが、最近はマンション派も台頭。そんな名古屋注目のエリアや物件について聞いてきました。
豪華な仕様はマスト? 名古屋で売れるマンションとは?
――スムハジメさんは「幸せ富動産」の代表として、名古屋をはじめとする東海エリアの居住用マンションを紹介されています。はじめに、昨今の名古屋のマンション事情を教えてください。
スムハジメ:私はもともと住友不動産で不動産営業に従事していて、首都圏で6年、名古屋で3年勤めたのちに独立しました。その経験をふまえてお話しすると、マンションに関しては東京のトレンドが5年遅れで名古屋にやってくる感覚があります。また、名古屋ならではの事情として、もともとが車社会ということもあり、持ち家といえば駐車場がある戸建てを選ぶ人が多かったのですが、最近は少し変化が見られ始めました。かつては家族全員が1人1台の車を所有するのが当たり前だったのが家族で1台になりつつありますし、カーシェアリングなどの普及によってマイカーを持たない世帯も出てきました。また、名古屋駅周辺や栄などの都心部などはコンパクトですので、自転車があれば十分に生活ができてしまいます。こうした背景から、都心部では少しずつマンション文化が広がっていると感じます。
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▲スムハジメさん。新築・中古マンションをワンストップで紹介する「幸せ富動産」代表取締役。名古屋マンションブログ「すむはじめ」では、名古屋や東海エリアを中心としたマンション情報を発信している。X:@estate_rabo
――では、名古屋で好まれるマンションの特徴はありますか?
スムハジメ:全体的な傾向としては、豪華な仕様が好まれます。内廊下だったり、キッチンの天板が天然石になっていたり、そこまで高価格帯の物件でなくてもある程度は仕様を良くしないと売れづらいというのはありますね。また、都心部以外の近郊や郊外エリアでは、今もマイカーの保有率が高く夫婦で1台ずつは当たり前なので、特に高級物件になると駐車場設置率120〜130%でも不足してしまうような状況です。ですから近郊や郊外では、駐車場の設置率が高かったり、オール平置きだったりする物件が売れていますね。
――名古屋の方というと、派手好きというイメージもあります。県民性がマンション選びに影響するところもあるのでしょうか?
スムハジメ:先ほどの仕様の話もそうですし、あとはブランド好きという側面はあるかもしれません。傾向として、大手のブランドマンションが好まれる部分はあると思います。ただ、ブランドであれば何でもいいというわけではなく、シビアな目を持っているのも名古屋で住まいを検討されている方の特徴ですね。というのも、名古屋の住宅マーケットは他の大都市に比べると県外や海外からの流入が少なく、東海3県など近郊の方、何らかの地縁がある方が探されているケースが多いんです。みなさん、それなりに土地勘があってエリアの相場も熟知しているので、下手なものをつくると全く売れません。実際、ここ1〜2年でも駅近で立地が良く、名の知られたブランドのマンションが販売中止になったり、販売戦略を見直さざるを得なくなるケースが何件かありました。自分が本当に良いと思うものにしかお金を払わないという、財布の紐のかたさみたいなところも名古屋の特徴といえそうです。
――名古屋のマンションは主に東海3県など近郊の人たちが買っているということでしたが、どんな理由が考えられますか?
スムハジメ:一番の理由はやはり住みやすさだと思います。他の大都市に比べて人口密度が低く、コンパクトで利便性という点でも魅力的です。その一方で、東京や福岡などと比べると観光資源がやや乏しく、インバウンドを含めて名古屋を旅行先に選ぶ人がまだあまり多くないこと。その結果、名古屋の魅力が広く知られていないというのも、近郊以外からの流入が少ない理由の一つかもしれません。もちろん、実際に住んでみると名古屋の良さに気づく人は多いです。私自身もその一人でしたから。だからこそ、そのことをよく知っている近隣の方々が実需で購入されているのだと思います。
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▲現在、マンションがどんどん建っているという覚王山
都心部は飽和状態。狙い目は都心近郊・郊外エリアへ
――最近の名古屋でマンション建設が活発なエリア、注目のエリアを教えてください。
スムハジメ:少し前までは都心部の供給が活発でしたが、最近は需要が飽和状態になってきました。東京と同じように中心地は高騰していることもあり、現在は中心地からやや近郊に供給の波がシフトしつつあります。具体的には、伏見や栄、久屋大通といったところから上前津(かみまえづ)や矢場町にシフトしていたり、やや東側の今池や覚王山(かくおうざん)あたりの供給が増えていて、盛り上がっている印象ですね。今後は、八事(やごと)や御器所(ごきそ)あたりで供給が増えていきそうという話が出ていて、やはり少しずつ都心から準都心、郊外へと広がりつつあるのを感じます。
――挙げていただいたエリアで、特に注目のマンションはありますか?
スムハジメ:直近でいうと覚王山が一番の激戦区で、三菱地所レジデンスの「ザ・パークハウス 覚王山」や、三井不動産レジデンシャルの「パークコート覚王山山門町」、NTT都市開発の「ウエリス覚王山法王町」など、狭い範囲に新築がかなり出ています。坪単価600万円を超える価格帯のマンションも売れていて、良いものをつくれば売れるという、名古屋ならではの傾向がよく表れているのが今の覚王山の動きだと思います。
今池では少し前に「ザ・ファインタワー名古屋今池」というタワーマンションが建ったり、「ローレルタワー名古屋千種」という大規模マンションの販売が開始されています。他にも、今池駅近くのイオン跡地で再開発計画があり、注目され始めているエリアです。もともとは繁華街のイメージが強いエリアということもあり、まだ相場も上がり切ってはいないのですが、最近になって建ち始めたマンションは見た目も良いですし、これから少しずつ人気が出そうな予感がしますね。
あとは、今まさに増えているところでいうと、矢場町や上前津。上前津駅徒歩1分の「ザ・パークハウス 上前津フロント」や、矢場町駅徒歩4分の「プラウドタワー久屋大通公園南」が人気です。先ほどもお話しした通り、このあたりのブランドになるとやはり名古屋では強いですね。
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▲少しずつマンションが建ち始めこれから注目の街となりそうな今池
リニアの開業で首都圏通勤者の流入も増える?
――2034年以降の開業を目指す、リニア中央新幹線の計画もあります。開業が実現した場合、東海エリア以外や海外からの流入は増えるのか? スムハジメさんの見解をお聞かせください。
スムハジメ:リニアが開業すれば、大阪まで20分、品川まで40分でアクセスできるといわれています。品川まで40分となると、首都圏でいえば埼玉の中心部や神奈川の人気エリアと(所要時間だけで考えると)ほぼ同じですよね。しかも、そうしたエリアに比べて、まだ名古屋のマンションは値頃感があります。通勤コストにもよりますが、東京都心まで40分圏内で、それなりの広さを確保でき、環境の良い中心部に暮らせる名古屋のマンションに注目が集まる可能性は、十分にあると思います。
――それに伴い、名古屋でも今後、戸建て志向からマンション派に移行する人が増えていきそうでしょうか?
スムハジメ:そうですね。正直、名古屋ではまだマンション文化が根付いているとは言えません。だからこそ、これから伸びていく余地があるのかなと。実際、郊外の戸建てから都心に回帰する動きも感じますし、近年は物騒な事件も多く防犯上の理由からマンションが再評価されているところもあります。私に相談に来られる方を見ても、「これまでは戸建て一択だったけど、マンションも悪くないな」という反応が増えていると感じます。これらを考慮すると、今後の名古屋のマンション市場には非常に期待できるのではないでしょうか。
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取材・文:榎並紀行
WRITER
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。X:@noriyukienami
おまけのQ&A
- Q.スムハジメさんご自身が、これから名古屋で住んでみたいエリアはどこですか?
- A.スムハジメ:これまでは正直、将来性のあるマンションを買っては住み替えるということを繰り返してきました。いつか、そういうことを全く気にせずにエリアを選びたいですね。たとえば、覚王山・白壁・南山などの高級住宅街に一度は住んでみたいです。あとは、御器所など都心から少し離れた住宅街も子育て環境として魅力的だと思います。