防犯アドバイザーが指南。安全なマンション生活はこうつくる

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マンションと戸建て、セキュリティに違いはあるか。昨今の凶悪・多様化する犯罪。安全に暮らすために何をすべきか? 専門家に聞きました。

取材・文:稲生京子 撮影:石原麻里絵(fort)

▲京師美佳(きょうし・みか)/防犯対策専門家。日本初の女性防犯アドバイザーであり、日本で初の犯罪予知アナリスト。これまで6000件以上の事案に対応してきた経験から、建物のセキュリティ対策や防犯商品のプロデュース、ストーカー被害やSNSでの誹謗中傷、詐欺被害など、あらゆる犯罪への対策を設計・提案している。
http://www.kyoshimika.com/
@kyoshimika

――マンション居室への侵入強盗やストーカー犯罪のニュースが後を絶たない昨今。「マンションは防犯性が高くて安全」は、すでに過去の神話なのでしょうか?

 

京師さん(以下、敬称略):戸建て住宅では防犯対策を一から自分たちで講じなければなりません。その点、オートロックや防犯カメラなどが最初から設置されているマンションのセキュリティ度は比較的高いといえます。ただ、プライバシーへの配慮から生まれる死角の存在や、隣接する住居からベランダ伝いで侵入される可能性など、集合住宅ならではのリスクも。「オートロックだから」「高層階だから」という気の緩みから、自宅玄関や窓の施錠をおろそかにしてしまう方も少なくありません。犯罪者はそんな隙を狙ってきます。100%安全なマンションは存在しません。マンションのセキュリティ設備を賢く利用しつつ、個々のスペースは戸建て同様自分たちで防犯対策する。できる限り「100%へ近づけていく努力」が必要なのです。

――マンションでは、どんな犯罪を想定しておくべきでしょう?

 

京師:泥棒というと住人の留守を狙った「空き巣」が真っ先に思い浮かびますが、住人の食事時や就寝中を狙う「居空き」や「忍び込み」という手口も意外と多いんです。振り込め詐欺への防犯意識がぐんと高まってきたことで、直接的に金品を奪いに来る「強盗」も増えています。つまり、在宅時も決して安心安全ではないということ。ストーカー被害や盗聴・盗撮を防ぐ点でも、「侵入させない」ことがとても重要です。

 

――侵入を防ぐために有効な対策は?

 

京師:侵入するのに5分以上の時間がかかる時は犯行を諦めるという警視庁のデータがあります。開錠に手間がかかるよう、玄関の鍵はダブルロックに。窓ガラスには防犯フィルムを貼り、サブロックを付けておく。在宅時には必ずU字ロックやチェーンロックを併用しましょう。自分自身が面倒だなと思うことは、犯罪者にとっても面倒でイヤなことなのだと念頭に置いてください。鍵穴が存在せず破壊するしかない電子錠を採用すれば、格段に「狙われにくい家」になります。また、宅配や検針など業者への「なりすまし」による強盗に備えて、在宅時でも宅配ボックスを利用したり、見慣れない業者への応対はドア越しにすると安心です。

 

――おすすめの防犯グッズを教えてください。

 

京師:スマートフォンと連動できる見守り用のウェブカメラは、ペットの見守りだけでなく侵入者の有無を確認することもできる優れた防犯カメラです。「ちゃんと鍵をかけたかしら?」と不安になる人は、携帯電話で施錠を確認できるスマートロックを導入するのもおすすめです。

▲見守り用のウェブカメラと窓用のサブロック。

――犯罪者はどんなところを見てターゲットを決めるのでしょう?

 

京師:駅の近くに建つマンションは、人混みに紛れて逃げやすい。公園や学校の近くは夜間に人目がなくなる。便利で立地のいいマンションは犯罪者にとっても便利な物件だと心得てください。その上で、より防犯意識の低いマンションがターゲットとして選ばれます。ポストにたくさんのチラシが入りっぱなし、ゴミの日が守られていない、自転車置き場が乱雑、違法駐車が多いなど「管理されていない」「ルールを守らない住人が多い」ことが透けて見えるマンションは、部外者が入り込んでも警戒されないだろうと容易に推測でき、犯罪者に目をつけられやすくなります。

――逆に「管理されていることがわかるマンション」は狙われにくいということですね?

 

京師:その通りです。犯罪者は侵入時にかかる「時間」以外にも、「音」「光」そして何より「人の目」を嫌います。手入れの行き届いた花壇や植栽、クリスマスのイルミネーションなど人の視線を惹く装飾は、防犯上もとても役立ちます。ベンチに人が憩っていれば、それは警備員がいるのと同じこと。セキュリティ会社のステッカーや防犯カメラが目に入れば、犯罪者はわざわざそこを狙おうとはしません。防犯意識の高さを「見せる」ことが、とても大きな意味をもちます。

 

マンションは多数の世帯が集まって生活している場所です。個々の家の守りを固めることはもちろん大切ですが、マンション全体を「狙われない物件」に変えていくことが実はとても重要。生活ルールが守られているかを管理側がチェックし、住人への呼びかけがきちんとなされていること。そして、気付いたことがあれば住人側から管理者への働きかけも必要です。皆が「誰かがやるだろう」と放置していたのでは、地域の安全度は下がる一方。ひとりひとりが自分ごととして積極的に関与していくことが大切なのです。

 

私たちにとって便利な暮らしは、犯罪にも利用されやすい。どんなにセキュリティの高いマンションでも、必ずどこかに隙は生まれます。防犯設備が有効に働くかどうかは、使う人次第。住人かどうかわからない人がいるときには不用意にオートロックを開けない、知らない人と2人きりでエレベーターに同乗しない、フードデリバリーを利用する際は部屋番号を教えず建物のエントランスで受け取るetc.…。犯罪に巻き込まれないためには、時には「信用しない」を前提に動くことも大切。対策すればその分、気をつければそれだけ安全性・安心感が高まる。防犯に「やりすぎ」はありません。

 

WRITER

稲生 京子
編集者・ライター。「豊かに生きる」に関わるすべてが守備範囲。女性誌でファッション、美容、ライフスタイル記事を企画・執筆する一方、建築専門誌でも取材・インタビューを手がける。

おまけのQ&A

Q.セキュリティ度の高いマンションを選びたい。わかりやすいチェックポイントはありますか?
A.窓、玄関ドア、雨戸、面格子等の開口部に防犯性能試験に合格した「防犯建物部品」が使われているかどうかを確認してみてください。工具等を用いた侵入行為に対して5分以上の抵抗時間が確認された商品には、Crime Prevention(防犯)の頭文字を図案化した「CPマーク」が付されており、安全の指標になります。