新築、中古ともにマンション価格が高騰する中、売り時や買い時に悩む方も多いのではないでしょうか。マンションの価格がここまで高騰している理由や今後の見通しについて、さくら事務所会長で不動産コンサルタント長嶋修さんに話を聞きました。
「バブル」ではない? マンション価格が高騰し続ける理由
――2024年6月の首都圏新築マンションの平均価格は「8,199万円」、中古マンションは「77.50万円/㎡」。2014年の新築マンションの平均価格は5,000万円程度、中古マンションは「42万円/㎡」程度だったため、いずれもこの10年で大幅に高騰しています。(不動産経済研究所・東日本不動産流通機構調べ)なぜ、これほどまでにマンション価格が高騰しているのでしょうか?
長嶋修さん(以下、長嶋):今のマンション価格高騰が始まったのは、2013年のこと。これは民主党から自民党への政権交代と、それに伴う『アベノミクス』などの政策の開始を受けてのことです。コロナ禍では価格が下がるのではないかとも言われていましたが、蓋を開けてみれば1度目の緊急事態宣言が解除されて以降、もう一段価格が上がりました。この間、一貫しているのは低金利です。基準となる金利は大きく変わらないものの、金融機関の競争が激化し、歴史的な低金利状態が継続しています。
▲不動産コンサルタント長嶋修さん。1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「株式会社さくら事務所」を設立、現会長。2008年、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会設立、理事長に就任。2018年、らくだ不動産株式会社の会長に就任(現顧問)。さまざまな活動を通して中立な不動産コンサルタントとしての地位を確立。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任。新著に「マンションバブル41の落とし穴(小学館新書)」他、著書・メディア出演多数。NHKドラマ「正直不動産」監修
――近年のマンションの高騰率は、土地や一戸建てを凌駕しています。いずれの物件種別も、現在はコロナ禍と比べて在庫数が増加しており、一戸建ての新規登録価格は下落基調にあるようですが、なぜマンションだけいまだに価格が上がり続けているのでしょうか?
長嶋:首都圏でいうと、この20年間で新築マンションの年間発売戸数は9万戸から3万戸に減少しています。近年は共働きが増えたことから、立地を重視し、収入合算してマイホームを購入する世帯が増加しました。このため、近年、供給されるのは都心・駅近・駅前・大規模・タワーといった好立地・高価格のマンションが中心です。
コロナ禍で暮らし方や働き方が変化したこともあって一戸建ても一時的に需要が拡大しましたが、すでに一巡しています。今、なお残っている需要は、やはり利便性の高いマンションです。パワーカップルだけでなく、富裕層や国内外の投資家の需要もこうしたマンションに向いているため価格が落ちないのでしょう。
インフレ・マイナス金利政策解除・円安はマンション価格にどう影響する?
――長嶋さんが2022年に出版した書籍「バブル再び 日経平均株価が4万円を超える日(小学館新書)」で言及されていたとおり、日経平均株価が4万円を突破しました。加えて、2024年に入ってからインフレ、マイナス金利政策解除、歴史的な円安……と、マンション価格に影響しかねないさまざまな事象が見られます。これらの事象は、マンション価格にどのように影響していくとお考えですか?
長嶋:まず金利については、日銀が、2024年7月31日、金融政策決定会合で政策金利を0.25%程度に引き上げる方針を示しましたが、この程度ではマンションの価格にほとんど影響しないと思います。固定系の金利は多少上昇するかもしれませんが、現在7割以上の人が選択している変動金利は大きく変わらないでしょう。
現在、変動金利であれば0.3〜0.4%で借り入れることができます。一方で、現在の住宅ローン減税の控除率は0.7%。つまり、金利負担以上の控除が受けられる“逆ざや”状態となっているのです。変動金利が多少上がったところで、この逆ざや状態は変わりません。したがって、2024年は少なくとも金利上昇によってマンション価格が暴落するといった事態が起こることは考えにくいでしょう。
長嶋:現在は景気が良くない中でのインフレですから、物価が上がっているというより通貨の価値が相対的に下がっている状態です。したがって、インフレはマンション価格の押し上げ要因にしかならないと思います。
円安については、良い影響しかないと思いますよ。これだけ円安になれば、外国人の目に日本の不動産は非常に魅力的に映ります。海外投資家が好む都心のマンション、とりわけタワーマンションの価格はさらに高騰していくのではないでしょうか。
――日銀の追加利上げ決定後、急激に円高が進んでいます。長嶋さんは書籍で「円高を伴う株高」になると予測されていますが、円高になると、現在、旺盛な外国人の需要が低減していき、マンション価格が下がっていくのでしょうか?
長嶋:おそらく、近い将来、世界の金融システムは根こそぎ変わることになると思います。ドルが基軸通貨ではなくなり、既存の体制が崩壊してアジア圏に世界経済の基軸が移るとなると、相対的に日本が浮かび上がることになるでしょう。この過程で円高になるのか、日米欧が共倒れのようになるのかは定かではありませんが、結果は同じだと思います。世界の資産のうち5%でも10%でも日本の資産に向くとすれば、日本の不動産の株も今とは比べものにならない高騰率になるのではないでしょうか。
――日本不動産研究所によると、2023年10月から2024年4月までのマンション価格高騰率が、世界15の主要エリアの中で東京・大阪がトップだったとのこと。日本の大都市のマンション価格の高騰率は、しばらく世界的にも高い水準を維持し続けるのでしょうか? また、長嶋さんが注目している他のエリアはありますか?
長嶋:「上昇率」ということではトップでしたが、他国と比べると日本のマンションはまだまだ安価です。ハイエンドクラスのマンションの価格は、香港やロンドンの半分以下。台北、上海、北京よりも価格水準は低いです。今、世界の都市でどこに投資するか考えた時、日本しかないと思います。ニューヨークもロスも、オフィスはガラガラ。世界的に都市部の治安は悪化しており、他国は金利も高いですからね。
京都や福岡も、外国の方に人気のエリアです。大阪と福岡は国際金融都市構想を掲げており、アジアに近いということで安心感や親近感があるのではないでしょうか。今後の成長率ということでいえば、東京を上回るかもしれません。
今後9割のマンションが値下がりする⁈
――5月に出版された長嶋さんの最新の著書「マンションバブル41の落とし穴(小学館新書)」では『今後9割のマンションが値下がりする』と明言されています。インフレや円安などの影響で価格が上がっていくのは、一部のマンションに限られるということでしょうか?
長嶋:すでに、格差は顕著に見られています。厳密にいえば「価格維持、あるいは上昇の地域」「なだらかに下落を続ける地域」「限りなく無価値、あるいはマイナスの地域」の三極化です。程度の差はあれど、上位10〜15%を除くマンションは今後、価値を下げていくことになると思います。インフレや円高の影響で価格を上げていくのは、上位のマンションです。そして、金利上昇があった場合に影響を受けて価値を落としていくのは、その他約9割のマンションでしょうから、格差はどんどん広がっていく一方だと思います。
――7月に公表された2024年路線価は、大都市部に加え、一部の地方都市やインバウンド需要のあるエリア、半導体企業の進出が見られる都市やその近郊などの上昇も目立ちました。地方のマンション価格は、今後どうなっていくとお考えですか?
長嶋:地方であっても、駅前や駅近、開発や誘致のあるエリア、インバウンド需要が大きく見込めるエリアは、今後も当面は強いと思います。しかし、バブル崩壊以降の約30年で、日本の土地総額は約半分になっています。メディアでは、地価が上がったエリアばかりが取り上げられますが、30年以上、地価が下がり続けているエリアもあります。ただ、地価が下がり続けているエリアであっても、駅前には億ションが建つこともあります。大都市と地方の格差が広がる一方で、大都市の中、地方の中でも格差が広がっていくことになるでしょう。
これからの時代のマンションの選び方
――上位10〜15%に入るマンションはすでに高騰しており、なかなか一般的な収入の方には手が届かない水準にまで達しています。その中で、できる限り資産価値が維持されやすいマンションを選ぶにはどうすればいいのでしょうか?
長嶋:都心でマンションを買える“ボーナスタイム”は終わったと考えるのがいいと思います。都心3区や5区にマイホームが持てるようになったのは、ここ20年程度のこと。高度成長期やバブル期は、23区内に家を持つことさえ難しいものでした。だからこそ、当時は都市部だけでなく広範囲で地価や不動産価格が高騰したわけですが、同様のことがこれから起こると思います。
ただ当時と比べると、その広がりは小さいものになるでしょう。高度成長期には、栃木や茨城から東京に通勤する方も見られました。リーマンショック前のプチバブルの頃は、国道16号を超えるエリアでも新築マンションが供給されていましたが、今回はそこまで広がることもないと思います。イメージとしては、町田、相模原、大宮、船橋、柏あたりより内側。これからマイホームを購入される方は、この範囲で『セカンドベスト』を探すことになると思います。駅からの距離を重視するのであれば、この範囲の外側。駅徒歩15分以上やバス便でもいいという場合は、23区も選択肢に入ってくるのではないでしょうか。
――マンションといっても、新築・中古・リノベ済み、築浅・築古とさまざまな選択肢がありますが、これらはどのように選べばいいでしょうか?
長嶋:都市部に近い築古マンションをリノベーションして住むのか、郊外の築浅物件を選ぶかは、好みや生活スタイルに応じて選択すればいいと思います。
マイホームを購入する時には、大きく2つの視点があると思いますひとつは、経済合理性。ここまでお話してきた「資産価値を維持するには」という視点ですね。そしてもうひとつは「夢」が実現するかどうかです。「この地域に住みたい」「こんなライフスタイルを実現したい」という夢と経済合理性をどれだけ重視するかというバランスは、人によって異なるはずです。できればマンションを探す前に、自分や家族がどのような暮らしがしたいのか、マンションに何を求めるのかを突き詰めて考えてみていただきたいですね。
取材・文:亀梨奈美
WRITER
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。
おまけのQ&A
- Q.「立地」以外で、マンションを購入する時に見るべきポイントはどのような点でしょうか?
- A.「管理状態」ですね。近い将来、管理状態がマンションの資産価値に直結するようになると思います。管理状態の詳細を知るには重要事項調査報告書などを見る必要がありますが、マンションの見た目からもある程度の善し悪しは分かります。マンションを内見する時には、専有部分だけでなく、エントランス周りやゴミ置き場、駐輪場、掲示板などの共用部分もよく見てみるといいと思いますよ。