相続によってマンションが空き家となってしまうケースが増加しています。NPO法人空家・空地管理センターの伊藤 雅一さんに、その要因や空き家にしないための対策などについて話を伺いました。
マンションが空き家になってしまう要因は?
――2024年4月に総務省が公表した「令和5年住宅・土地統計調査」によれば23年の全国の空き家数は900万戸。このうち半数以上の約500万戸がマンションの空き家ということですが、マンション空き家を所有している方からはどのようなご相談が寄せられますか?
伊藤 雅一さん(以下、伊藤):私どもは空き家のワンストップ窓口をしているということもあって、空き家を所有する方々からのご相談をいただきますが、一戸建てと比べると流動性が高いマンションの空き家の売却や活用に困っている方は少ない印象です。
マンションの相談であるとすれば、相続した遠方のマンションの場合です。貸す・売ると決めた方は基本的に私たちのような機関に相談することはありませんので「空き家を相続したけど、どうしたらいいのかわからない」というご相談が大半を占めています。
――相続した不動産が空き家になってしまう主な要因は何でしょうか?
伊藤:空き家になってしまう要因はひとつではありません。相続でもめて空き家になってしまうケースもあれば、多くの家財が残っているために放置されてしまうこともあります。また、これらの問題が複雑に絡み合っていることも少なくありません。
登記や税制、法律などが「わからない」ということも、相続した家を放置してしまう要因になるでしょう。昨今では、空き家を修繕して活用してくれる管理会社や空き家の売却に特化した仲介会社なども見られますが、活用や売却以前の問題で足踏みしてしまっているケースが多いように思います。
――空き家になったマンションはどのように管理していけばいいのでしょうか?
伊藤:マンションは、基本的に一戸建ての空き家のように草木の剪定などは必要ありません。ただ、できれば1ヵ月に一度程度は、換気や通水、清掃のためにマンションを訪れていただくといいと思います。
マンションは一戸建てと比べて気密性が高く、結露しやすいという特徴があります。また、数ヵ月間、水場周りの水を流さないでいると、乾いて配管の臭いが上がってきてしまうこともあります。
▲NPO法人空家・空地管理センター 副代表理事 伊藤 雅一さん
※所属先・肩書きは取材当時のもの
マンション空き家の相談事例と対応策
――具体的に、マンション空き家についてどのような相談事例がありますか?
伊藤:最近多いのが、孤独死があって空き家となってしまったマンションのご相談です。今のガイドラインでは、基本的に自然死は告知事項になりませんが、亡くなってから発見されるまでの時間や見つかったときの状況によっては、マンションの活用や売却がしづらくなってしまいます。
先日、成年後見人の方から「孤独死された方の唯一の肉親である妹さんが天涯孤独で高齢者施設に入っているので、マンションの管理に困っている」とご相談がありました。売るにも売れないということで結果的に国庫に帰属することになったのですが、国庫帰属までの間はマンションを管理していかなければなりません。
高齢の方は家を借りるのも難しいですから、自宅に住み続けられればそれが一番だと思いますが、お一人で住まわれるのであれば見守る体制が必要になってきます。一戸建てにお住まいの方は比較的、近隣の方とのつながりが強いものです。しかし、マンションの場合は、隣戸にさえどのような方が住んでいるかわからないということも少なくありません。
高齢の親御さんが一人でマンションに暮らす場合は、お子さんが管理組合や管理会社に連絡先を渡しておくなどして、見守ってもらえる体制を整えておく必要があるでしょう。
▲東京都では空き家相談の専用窓口も設けられている
――空き家となったマンションを活用するか、売却するか、空き家のまま維持していくかで悩んでいる方には、どのような助言をされるのでしょうか?
伊藤:先日、ご主人を亡くされた奥様が「子どもたちに実家はいらないと言われて、どうすればいいかわからない」とご相談に来ました。まさに、売るべきか、貸すべきか、このまま空き家にしておくべきかで悩まれていたのですが、結局のところ空き家となったマンションを「手放す」か「所有し続ける」のいずれかを選択するしかありません。
マンションは一戸建てより流通性が高いので、希望する金額で売れるかどうかはさておき、手放すこと自体はそう難しいものではありません。難しいのは、所有し続ける場合です。空き家にしておくのがもったいないということであれば「貸す」ということになりますが、多くの場合、賃貸に出すには一定の修繕や改修が必要です。二択とはいえ、かかる費用や得られる家賃収入によっても判断は分かれますので、まずは売却査定額と賃料査定額、改修費用の見積もり額をパートナー事業者の協力をいただきながらご提示しています。
冒頭で申し上げたとおり、「わからない」ゆえにマンションが空き家になってしまっているケースも少なくありません。まずは、判断に必要な材料を手元に取り寄せることが大事になってくると思います。
――相続トラブルが原因でマンションが空き家になってしまった事例もありますか?
伊藤:相続トラブルや相続の仕方もマンションが空き家になってしまう要因のひとつになります。たとえば、法定相続割合どおりの持ち分で兄弟が円満にマンションを相続したとしても、相続後の方向性の違いから空き家になってしまう可能性があります。
仮に、兄と弟が相続したマンションを共有していたとしましょう。この場合、兄が「マンションを売りたい」と言っても、弟が「売りたくない」と言えば売却することはできません。
どんなに仲の良い兄弟であっても、多くの場合、親の資産を相続するときにはお互い別の所帯を持っているものです。不動産の共有はトラブルの芽になりかねませんので、事前にご相談いただければ、できる限り「兄は不動産」「弟は現金」など、兄弟で相続する資産を分けたほうがいいとお伝えしています。
マンションを空き家にしないために「相続前」にできること
――マンションを空き家にしないために、相続前からできることはありますか?
伊藤:相続前に、ご両親が高齢者施設に入るなどして実家が空き家になってしまうケースも少なくありません。この場合も、所有者に判断能力があればマンションを売ることができます。しかし、認知症を発症するなどで判断能力が欠如しているとされる場合は、マンションを売ることができず、空き家になってしまいます。
親が認知症を発症してしまった後は、法定後見制度を利用するか相続後まで空き家にしておくほか選択肢はありません。一方、親が元気なうちであれば、家族信託や任意後見人の選任、賃貸管理の委託などをしておくことで、空き家になったときの売却や管理を子などに任せることができます。
いずれにしても、マンションが空き家になることを避けるには、親が元気なうちに家族で話し合って準備しておくことが何より大切です。
▲65歳以上の認知症患者数は2025年に700万人以上、5人に1人になると見込まれている 出典:内閣府「平成28年版高齢社会白書」
――具体的には、家族でどのようなことを話し合っておくと良いのでしょうか?
伊藤:まずは、マンションにある家財のことです。売却するにも活用するにも、基本的にはマンションを空室にしなければなりません。遺品整理に、数十万円の費用がかかる場合もあります。一戸建ての空き家の場合は、家財の整理以外にも、隣地との境界や家屋の劣化などが問題になることも多いですが、マンションの活用や売却を阻む大きな要因は家財整理です。
親の気持ちがわからない中で、家族が家の整理をするのは簡単なことではありません。家財をどうするのかに限らず、親の意向や希望を子に伝えておくことが大切になってくるでしょう。
▲国土交通省は2024年6月、空き家問題への対策として、日本司法書士会連合会および全国空き家対策推進協議会と共同で作成した「住まいのエンディングノート」を公表。建物・所有の状況に加えて将来、住まいをどうして欲しいかなどの情報を書き込める
出典:国土交通省「住まいのエンディングノートについて」
――親の意向を伝えるということであれば、遺言書を残しておけば安心なのでしょうか?
伊藤:遺言書を残すことは非常に大切ですが、遺言書だけでは「気持ち」が伝わらない可能性があります。たとえば、長女に自宅を、次女にお金を残すとすれば、なぜ長女に自宅を残すのか、次女はお金なのかという経緯や気持ちを伝えることも大切です。誰にどのような資産を引き継ぐかなどといったことだけでなく、付言(ふげん)事項として遺言の意図を記しておくと、気持ちが伝わりやすくなります。遺言書は何度も書き直せるものですので、早い内から準備しておくと良いと思います。
また、相続する人の気持ちも把握しておくとなお良いでしょう。マンションの価値によっても、相続する人の負担は変わってきます。マンションを渡す人、引き継ぐ人、双方の気持ちを汲んで結論を出すのは簡単ではありませんが、マンションが空き家になって困ってしまうことを避けるには必ずやっておくべきだと思います。
▲NPO法人 空家・空地管理センターが東京都の補助金を受けて発行したフリーペーパー「つなぐって」
WRITER
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。
おまけのQ&A
- Q.マンションの空き家を放置すると将来的にどのような問題が表面化するのでしょうか?
- A.管理組合が機能していなかったり、修繕積立金不足で何年も大規模修繕が遅れてしまっていたりするようなマンションは、一戸建てとは異なり、個人の判断で解体や建て替えができないので、売りづらい上に建て替えもできずと身動きが取れなくなってしまう可能性が危惧されます。このような問題を解決するには、都市計画法や区分所有法の緩和など、大きな枠組みの見直しも必要になってくるでしょう。