区分所有者以外の第三者が管理者を担う「第三者管理者方式」。その概要や実態を紹介します。
取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:ホリバトシタカ
区分所有者以外の第三者が管理者を担う「第三者管理者方式」。その概要や実態を紹介します。
取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:ホリバトシタカ
マンション管理組合の管理者は、区分所有者の中から選任されるのが一般的でした。しかし近年では、管理会社など外部の第三者が管理者を担う「第三者管理者方式」が注目を集めています。第三者を管理者として立てることにより、住人は管理組合や理事会の仕事から解放される一方で、住まいの維持管理に対する関心が低下するのではないかという懸念もあります。
そこで、分譲マンション管理組合向けの管理受託サービス「smooth-e(スムージー)」を運営する長谷工コミュニティ業務推進部の恒吉正俊さん、宮野隆洋さんに、第三者管理者方式の概要や実態、さらにはこれからのマンション管理の在り方について聞きました。
――マンション管理における「第三者管理者方式」とは、どんなものなのでしょうか?
恒吉さん(以下、敬称略):管理組合が管理者業務を第三者(管理会社など)に委託する方式のことです。通常のマンション管理は、区分所有者により選出された管理組合の役員などにより行われるのが一般的でした。しかし、2016年に国土交通省の標準管理規約が見直され、所有者以外の外部の専門家を管理者として選任する方法が追加されています。
なお、第三者管理者方式には、基本的に以下の3つのパターンがあります。
1.理事会あり/「管理者=理事長」
(第三者が管理者 兼 理事長に就任)
2.理事会あり/「管理者≠理事長」
(第三者が管理者に就任/区分所有者の理事長は管理者ではない)
3.理事会なし/「管理者 理事長」
(第三者が管理者に就任/理事長がいない)
このうち、「3」は「外部管理者総会監督型」といわれる形態となります。
――特に、理事会を設けない外部管理者総会監督型は、住人の負担が大きく軽減されますね。
恒吉:そうですね。ただし、その場合、管理者に就任する管理会社自らがガバナンスを整備する必要があります。というのも、管理組合と管理会社は立場的に利害が相反します。なぜなら、本来は「管理組合=発注側」「管理会社=受注側」という関係性になるからです。しかし、外部管理者総会監督型では発注側と受注側を兼任する形になるため、利益相反を防ぐために厳格なルールを定めなくてはなりません。たとえば、大規模修繕工事の発注先を選定する際などにも、相見積もりの取得基準を設けたり、管理者の自社・自社グループに対する発注ルールなどを明確化しておく必要があるんです。
▲長谷工コミュニティ 業務推進部 smooth-e運営課 担当部長の恒吉正俊さん。
※所属先・肩書きは取材当時のもの。
――第三者による管理が認められるようになった背景としては、どんなことが挙げられますか?
宮野さん(以下、敬称略):よく言われるのは、高齢化により管理組合の役員のなり手が少なくなっていること、マンションの高層化・大規模化によって管理が複雑化し、専門家以外の方にはハードルが高くなっていることなどです。また、近年は共働きの夫婦やカップルが増え、管理組合や理事会の仕事に時間を割くことが難しくなっていることも、大きな理由の一つではないかと思います。
これらの背景から、従来の理事会方式による管理というものが時代にそぐわなくなり、新しい代替案が求められるようになっています。長谷工コミュニティがsmooth-e(スムージー)という第三者管理者方式のサービスを開発したのも、こうした問題を解決したいと考えたからです。
▲長谷工コミュニティ 業務推進部 smooth-e運営課 チーフスタッフの宮野隆洋さん。
※所属先・肩書きは取材当時のもの。
――長谷工コミュニティが展開する「smooth-e」のサービスの特徴を教えてください。
恒吉:まずは先ほど申し上げた通り、長谷工コミュニティが管理者になることで、理事会を設置する必要がなくなります。区分所有者が輪番で役員に就任するといった面倒もなくなりますし、管理にまつわる難しいことをすべて長谷工にお任せいただくことができます。
また、最大の特徴は、住人の方々が管理にまつわる意見やアイデアを気軽に提案できる、オンライン上のプラットフォームです。smooth-eのWebアプリに「こうなったらいいな」というアイデアを投稿すると、長谷工コミュニティの担当者によって草案化されます。賛成が多い草案は、みんなの投票で実施するかどうか決められるという流れですね。
▲smooth-eのWebアプリ。アイデアや困っていることを住人全員がスマホから簡単に投稿できる。
――たとえば、どんなアイデアが投稿されていますか?
恒吉:本当にいろいろですね。たとえば「エントランス裏口の照明をもう少し明るいものにしませんか?」や「幼稚園へのバスを待つときにエントランスに時計があると便利じゃないですか?」など、かなり細かいことまで、住んでいる人ならではの意見やアイデアが投稿されています。
宮野:ポイントは、そうしたちょっとしたアイデアを、思いついた瞬間にすぐ提案できることです。これまでは、何か提案をしようと思ったら理事会に対して書面で出さないといけなかったり、それに対するレスポンスも議事録を確認する必要があったりして、かなり面倒だったのではないでしょうか。そこで、smooth-eでは小さな声を上げるハードルを下げるような設計を意識しています。
また、若干ふわっとしたアイデアであっても、それを私たちが文書化し、見積もりをとるなどして検討しやすいプランに落とし込みます。住人の方はそのプランを見て、賛同ボタンを押していただいたり、別の意見があればそれを投稿していただいたりと、「住人みんなで考え、みんなで決められる」仕組みになっているんです。
――実際にsmooth-e Webアプリの決議によって何かが改善された事例はありますか?
宮野:たとえば、エントランス前の放置自転車の問題を、アプリ上で話し合うことで解決できた事例があります。別のマンションでは、共用部のごみ庫に関するルールを決める際にもアプリ上でスムーズに決議できました。こうした日々の小さなストレスを解消する、まさにかゆいところに手が届くようなアイデアを拾い上げ、スピーディーに解決できる。そんなサービスになっているのではないかと思います。
また、アイデアの投稿が増えれば増えるほど、そのぶん弊社のノウハウも溜まっていきます。それにより、アイデアをプランに落とし込む際の引き出しが増え、解決までのスピード感もどんどん上がっていくはずです。
――気軽に意見を提案できるプラットフォームがあることで、住人がマンションの管理に対して関心を持つきっかけにもなりそうです。
恒吉:私たちも、まさにそこに期待しています。従来の理事会方式の場合、自分に理事の順番が回ってきたときには関心を持ってやらざるを得ません。ところが、1〜2年の任期を終えたあとは、どうしても関心が薄れてしまう。100人の区分所有者がいたとして、理事会の人数はせいぜい5〜6人程度ですから、大半は無関心ということになってしまいます。
しかし、smooth-eの仕組みがあれば、常にマンションの管理状況を簡単に知ることができます。自分が積極的に投稿しなくても、アプリを開くだけでさまざまなアイデアを閲覧したり、決議に参加したりできますから。それに、長期修繕計画をはじめ管理会社に委託されている業務についても確認できますので、ご安心いただけると思います。
――第三者管理者方式だからといって、そこに暮らすのは自分自身。すべてを第三者に委ねてしまうのではなく、ある程度は管理に関心を持つことも必要かもしれません。
恒吉:そうですね。一般的に、第三者管理者方式はすべての管理を専門家に丸投げし、住人の方々は何もしなくていい、何も考えなくていい施策のように思われがちです。もちろんそうした側面もありますが、やはり現状の管理がどうなっているのかについては、ぜひ気にしていただきたいと思います。
というのも、第三者管理者方式はまだスタートしたばかりで、法整備やルール化が十分ではありません。そのため誰でも管理者になることができ、なかには杜撰な管理を行う業者が出てきてしまうかもしれません。そうした業者を排除するためには、国がガイドラインのようなものを示して管理の適正化をはかることも必要ですし、住人のみなさんが管理に関心を持ち、おかしなことが起きていないか目を光らせることも大事です。
――それこそ、smooth-eのように管理の状況を可視化できるシステムがあれば、不正を防止することができそうです。
恒吉:我々としては、この仕組みを専売特許にするつもりはありません。むしろ、他社さんにもどんどん取り入れてほしいと思っています。そうすることで、本当にお客様のためになる第三者管理者方式が広がっていくはずですから。これからも長谷工コミュニティだけでなく業界全体でサービスの向上に努め、マンションの管理をもっと楽に、より良いものにしていきたいですね。
取材協力:長谷工コミュニティ 業務推進部 smooth-e運営課
長谷工グループが2021年8月よりサービス提供を開始した分譲マンション管理組合向けの受託サービス「smooth-e」。「住人みんなが主人公になれる受託管理サービス」として、理事会を非設置とする一方で、区分所有者全員参加型のサービスとなっている。