マンション価格を決定づける価値あるスペックとは? 市場分析の専門家に聞く

  • XX
  • facebookfacebook
  • BingBing
  • LINELINE

ここ数年、マンション価格は上昇の一途。今後の動向について多くのメディアが予測していますが、そもそも、マンションの「資産価値」を決定づける、価値あるスペックとは何なのか。明治大学の山村能郎教授に伺います。

――「今年こそマンションの価格が下がる」など、多くのメディアでマンション価格の動向について予測する記事が目立ちます。ただ、その情報をどこまで信じていいのかということで、マンション購入のタイミングをはかりかねている人もいるのではないかと思いますが、こうした予測はどこまで信用できるのでしょうか?

 

山村能郎氏(以下、山村):経済紙や大手の経済メディアなどで報道されている内容を見ると、公的機関の指標や取引データをもとに分析が行われており、それなりに根拠があるものと思われます。ただ、マンション価格というものは本当にさまざまな要因によって変動するため、予測が難しいのも事実です。

 

たとえば、物件の供給量はその年によって全く異なります。タワーマンションの供給と成約が多く、平均価格が1億円を大きく超える年もあれば、タワーマンションよりもファミリー向けマンションの供給と成約が多い年もある。背景がまるで異なる年の平均価格を単純に比較したところで、果たして意味があるのかという問題もあるでしょう。

▲山村能郎さん。明治大学 専門職大学院グローバル・ビジネス研究科 教授。※所属先・肩書きは取材当時のもの。1991年東京工業大学社会工学科卒業、1996年同大学院博士課程修了(博士(工学))、1996年香川大学専任講師、2002年~2003年University of Cambridge客員研究員、2004年本研究科准教授、2012年より現職

――山村先生も、長年にわたり不動産の価格変動について研究されています。価格変動の背景も含めて正しく把握するために、どのような調査を行なっていますか?

 

山村:市場データをもとに特定のエリアの価格を時系列で算出する分析をしています。ただし、市場における時間的な価格変動は「経済環境の変化による変動」と「商品スペックの変化による変動」に大別されます。ですから、不動産の価格変動を正しく把握するには、これらを分離して考える必要がある。価格変動をその背景も含めて正確に把握するためには、市場データの「補正(品質コントロール)」を行うことが重要だと考えています。

 

 

――ここ30年、東京の不動産価格はどのように推移していますか?

 

山村:大まかに言うと、前半の十数年の価格は、ほぼ横ばいか下落。その後、リーマン・ショックによりいったんは大きく下落しますが、後半の十数年で一気に価格が上昇しています。特に、2012年に民主党から自民党への政権交代が起きて以降は、一本調子で上がり続けました。都心の新築マンションはこの十数年で2倍近く価格が上昇しているという報道もありましたが、実際にはもっと上がっているかもしれません。

 

 

――その最も大きな要因として、どんなことが考えられますか?

 

山村:先ほど、不動産の価格変動は「経済環境の変化による変動」と「商品スペックの変化による変動」に大別されると申し上げましたが、まず経済環境の変化による変動でいえば、金融緩和は大きな要因の一つです。日銀が大規模な金融緩和政策を始めたのは2013年4月ですが、じつはそれ以前からゼロ金利政策などが行なわれ、マーケットにお金が溢れるようになりました。それが長期にわたり、マンション価格の上昇につながったと考えられます。

▲都市部のマンション価格は、間取りや築年数だけでなく、そのエリアの経済活動の活発さ、教育や医療などのインフラなどまでが価格に反映されるそう

――それとは別に「商品スペックの変化」による価格変動もあると。

 

山村:そうですね。特にここ十数年は技術の進化のスピードがどんどん上がっていて、スペックによる差別化がかなり進んでいると思います。ただ、その一方でマンション価格を明確に決定づけるスペックは、30年前からずっと変わっていません。

 

 

――そのスペックとは何でしょうか?

 

山村:「階数」と「ロケーション」です。階数とは、つまり「眺望」のことを指しています。高層階の眺望は、一部の人たちにとっては「根強く価値のあるスペック」であり、実際のデータを見ても階数と価格はほぼ比例して上がっているんです。

 

ただ、もちろん高層階でも周囲に高い建物が多く、眺めが今ひとつというケースもあります。たとえば、湾岸エリアのように新しいタワーマンションの建設が続くエリアでは、近隣に新しいタワーが次々と建ち、既存の物件は高層階であっても価格が下がっていくことが予想できると思います。一方で、都心部では「タワマン規制」に踏み切る自治体も出てきています。この動きが加速すると、都心の「眺めの良い高層階」はますます希少価値が高くなっていくでしょう。

▲マンション価格はここ12年くらい、ほぼ1本調子で上がってきている印象だそう

――つまり、タワーマンションの場合は、自治体の規制や周辺の開発状況を把握することで、正確な価格の予測が立てやすくなると。マンションの価格変動には、本当にさまざまな要因があることはよく分かりました。ただ、結局のところ気になるのは、「これからマンションの価格はどうなっていくのか」という点です。

 

山村:「現在の価格上昇がどこまで続くか」という質問にお答えすることは難しいのですが、政策金利の利上げなどの金融政策変更は市場に大きな影響を及ぼします。利上げは一般的にインフレを抑制するため、つまり物価が上昇しているシチュエーションで行われるもので、今の状況がまさにそうですよね。日銀は2025年1月に政策金利を0.5%程度に引き上げる追加の利上げを決定しましたが、政策金利が上がると不動産価格は下落する傾向にあります。今後、さらなる追加利上げがあれば、マンション価格が変動する大きなファクターにはなるでしょう。

 

また、地方や東京の郊外では空き家が増加していて、これも不動産価格が下がる要因になると思います。ただし、一方で東京都心は今でも人が増え続けていて、今後もこの傾向は続く可能性がある。特にハイスペックな物件はまだまだ需要があり、さらに価格が上がっていくかもしれません。

 

 

――お話を伺えば伺うほど、予測が本当に難しいと分かります。

 

山村:ハッキリと言えないのは申し訳ないのですが、私からすると逆に「こうなる」と断言しているようなメディアや専門家には懐疑的な目を向けてしまいます。予測はあくまで予測です。100%当たるものではないという前提のもと、それでも正しい情報をもとにした精度の高い予測を、必要な人に届けるという姿勢が大事なのではないかと思います。

――正しい情報をもとにした精度の高い予測は、マンションを買う人にとってどんな意義があるでしょうか?

 

山村:投資目的で買うのか、居住目的で買うのかによっても意義は変わります。投資目的の場合、投資のEXIT(出口)を決める必要がありますが、その際に価格の変動は大きなファクターです。重要なのは予測のブレを最小限にすることであり、そのために「このエリアは価格変動のリスクが大きいのか、小さいのか」を分析して世の中に発信していくことは、とても意義があると思います。家を買う際にハザードマップで災害リスクをチェックするのと同じように、投資の際には価格変動のリスクもしっかり把握する。その要素の一つとして活用してもらえるといいのではないかと。

 

一方で、生涯そこに住み続けるためにマンションを買うのであれば、将来の価格を気にする必要はありません。(マンションの評価額によって税額が変わる)固定資産税には影響があるでしょうが。

 

 

――将来の資産価値を気にしないのであれば、マンションのスペックやロケーションの選択肢も広がりそうです。

 

山村:おっしゃる通りです。先ほども説明した通り「高層階の眺望」は一部の人にとっては高いお金を払ってでも手に入れたいスペックかもしれません。しかし当然、そこに魅力や価値を感じない人もいます。資産価値にとらわれなければ、「自分にとって本当に必要なスペックは何か」という視点で考えることができ、どのスペックにどれくらいのお金をかけるかという優先順位が決まってくる。眺望や広さ以外に子育て世代なら教育インフラや買い物の利便性、共働きなら会社へのアクセスなどもです。それらマンションが持つ機能を分解し優先順位をつけて考えてみると良いかもしれません。その結果、自分や家族にとっての適正価格で資産価値が高いと思える理想のマンションを買うことができるのではないでしょうか。

 

 

取材・文:榎並紀行 撮影:石原麻里絵

 

WRITER

榎並紀行
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。X:@noriyukienami

おまけのQ&A

Q.不動産価格にも影響を及ぼす「ロケーション」とは、具体的に何を指すのでしょうか?
A.山村:分かりやすいのは、都心までのアクセス性や治安など。また、子育て世代なら教育環境や買い物環境、共働きなら会社へのアクセス性など、人によって価値のあるロケーションは異なります。そのなかで、たとえば都心までのアクセス性や治安などは、マンション価格にも影響を与えやすい商品スペックといえます。ここでも、資産価値に影響を及ぼす要素と、自分にとって価値のある要素を切り分けて考えることが大事なのではないでしょうか。