リユース&リサイクル事業で超高齢社会の課題解決に取り組む! マンションに強い長谷工グループだからこそできることを長谷工グループ・カシコシュの大武敏朗社長に話を聞きました。
マンション特有の処分問題から生まれたリユース事業の価値
――マンションの長谷工がリユース&リサイクル事業を手がけていることに、多くの読者は驚くと思います。まず事業を始められた背景を教えてください。
大武社長(以下、敬称略):長谷工グループがリユース事業に着目したのは、2002年に発足した「都市型新産業研究会」がきっかけです。これは、株式会社長谷工コーポレーションが21世紀の都市型産業の創出に向け企画した異業種研究会を立ち上げたものです。メンバーは、都市生活に密着した環境・安全・教育・通信・物流などの各方面で業界をリードする有力企業10社でした。この研究会では、都市生活者が直面する課題の解決策を模索し、多岐にわたる分野を調査していました。その中で、特にマンション住民にとって深刻な「物の処分問題」が浮き彫りになりました。
マンションは戸建てに比べて収納スペースが限られていて、不要品を一時的に置く場所がありません。また、新居入居の際、家具のサイズが合わない、イメージが違うなどの理由で、多くの方が家具を買い替えるので新築マンションの引き渡し後に大量の粗大ごみが出るという問題がありました。
詳しく調べてみると、お住まいの方からは「まだ使えるものを捨てるのは、もったいないという心理的抵抗がある」「粗大ごみの処分に手間とコストがかかる」「近隣の目が気になり、処分をためらう」といった声が多く聞かれました。
▲株式会社カシコシュ 代表取締役社長 大武敏朗さん。※所属先・肩書きは取材当時のもの
2005年の創業以来、総合リサイクルショップの運営を手掛ける。長谷工グループの管理マンションで生じる問題から不要品買取サービスを開始。リユース&リサイクル店舗の運営で地域循環型リユースモデルを確立。一般社団法人日本リユース機構参事も務める
―― そこからどのようにして事業化されたのでしょうか?
大武:最初は試験的に不要品買取サービスを開始したのですが、予想以上の反響がありました。その要因は、長谷工グループという信頼性、マンションの集会室での即時引き取りという利便性、そして「押し買い(買い取り業者が消費者宅へ訪問し、貴金属等を強引に安く買い取ること)」などの社会問題に対する適切な対応という3点です。この手応えを受けて、2005年に初のリユースショップ「カシコシュ 青梅新町店」をオープンしました。
―― マンションの会社が行うリユース事業の強みは何でしょうか?
大武:リユース業界では「押し買い」など、たびたび消費者トラブルが問題になります。しかし、当社はマンション管理を通じて培った長期的な信頼関係があります。この継続的な関係性があるからこそ、不当な価格設定や強引な営業を絶対に行わない、安心できるサービスを提供できています。
▲店内には家具や家電、衣料品、食品などが並んでいる
▲冬にはウインタースポーツ用の衣料品などが販売されることも
高齢化社会における住環境改善とごみ屋敷防止への取り組み
―― 高齢世帯の増加に伴い、リユース事業の社会的役割も変化してきているのではないでしょうか?
大武:高齢者にとって住空間の整理は大きな課題となっています。たとえば、家族世帯が高齢の夫婦二人暮らしになり、さらに一人暮らしへと変化していく中で、それまで使っていた家具や日用品が不要になるケースが多々あります。しかし、大きな家具などを粗大ごみとして処分することは、高齢者にとって身体的にも経済的にも負担が大きい。そういった課題に対して、私たちリユース事業者が直接支援することができます。
ただし、適切な支援が届かないまま放置されると、次第に「ごみ屋敷」状態に発展するリスクがあります。この問題には複数の要因が絡み合っています。第一に、加齢に伴う体力低下や認知機能の衰え、さらには孤独感や精神的ストレスによって、整理整頓の意欲や能力が失われていく身体的・精神的要因。第二に、「まだ使えるかもしれない」「思い出の品だから」といった物への強い執着が生む心理的要因。そして第三に、社会的な孤立や家族との疎遠化によって、問題の早期発見や解決が遅れてしまう社会的要因です。
▲高齢者宅の整理前の様子。思い出の品々が部屋いっぱいに広がり、生活スペースが限られてしまっている
―― こうした状況は、マンションという集合住宅ならではの課題も生みますね。
大武:残念ながら、「ごみ屋敷」状態が長期化すると、最悪の場合、孤独死に繋がるケースもあります。実際に、私の知人の親族が都心のマンションで亡くなられた事例では、異臭に気づいた近隣住民からの通報で発見されました。このような事故物件となった場合、宅地建物取引業法で定められた告知義務の対象となり、当該住戸だけでなく、隣接する住戸の取引においても、可能な限り事実を開示する必要があります。つまり、一住戸の問題が建物全体の資産価値に影響を及ぼす可能性があるわけです。そのため、管理組合や管理会社としても、予防的な取り組みを積極的に行っていく必要があります。
―― そういった問題に対して、どのような解決策を提供されているのでしょうか?
大武: 私たちは「共感」を軸にした整理の支援を心がけています。「片づけができていない」と批判するのではなく、物への愛着や背景に共感する姿勢が重要なんです。批判や押しつけでは心理的な壁が生まれ、片づけが進みません。
こういった課題への具体的なサービスとして、2018年に業務提携を開始した宅配収納サービス「caraeto(カラエト)」があります。これは一時的に物を預けて、捨てるか捨てないか考える時間を提供するもので、物への愛着を尊重しながら整理を進められます。また、大量の写真をデジタル化して家族間で共有できるデジタル収納サービスも提供しています。
その他、整理収納アドバイザーによる定期訪問で、片づけ後の環境維持もサポートしています。我々はマンションに出向いての不要品買取り会も定期的に行っています。そういった取り組みを何カ月かに1回やって、孤立しないような接点をつくっていくことが大事だと考えています。
▲マンション管理の信頼関係をベースに、高齢者の生活支援やコミュニティー形成へと広がりを見せている
―― ごみ屋敷解消の成功事例を教えてください。
大武:たとえば、80代の女性の方のケースがあります。サービスを利用して住環境がすっきりしたことで、遠のいていた家族も頻繁に来るようになり、交流が増えました。また、若い世代では育児用品や家具のリユースによる環境負荷の軽減とスペースの有効活用、他にもお悩みの多い片づけには定期的な片づけや整理収納アドバイザーの提案など、それぞれのニーズに合わせた支援を行っています。
安心・安全なリユースで実現する持続可能な社会への貢献
―― お店をのぞくと新品同様の商品がたくさんあります。いわゆる一点物みたいなものばかりではないのですね。
大武:そうですね。実はそれらは新品なんです。食品スーパーや家電量販店では、輸送中に箱が変形したり、ラベルに傷がついただけでも店頭で販売できなくなってしまいます。私たちは日本リユース機構という団体に加盟し複数の同業者と協力、そういった商品を買い取って各店舗で事情を説明したうえで安価に販売しています。これまでは処分されていたものを有効活用できるので、社会的な意義も大きいです。安くてお得な商品は誰にとってもうれしいですからね。
▲シャンプー類など消費財も販売されている
――引き取るのが難しいものも多いのではないでしょうか。
大武:もちろんそういったものもありますが、日本では販売できないけど、十分使えるものならば海外でリユースすることもできます。それも難しいものは、マテリアルとして、材料のリサイクルに出すこともできます。生ごみとかそういうものを除けば、ご自宅に眠っているものの、かなりのものがリユース・リサイクルできるはずです。
▲リユース事業を「住民の生活を豊かにする価値創造の手段」と位置づける大武社長。リユース事業から社会課題の解決に挑む
―― カシコシュ社として、将来的な展望をお聞かせください。
大武:超高齢社会が加速する中、私たちはリユース事業を「住民の生活を豊かにする価値創造の手段」と位置づけています。その核となるのが3つの柱です。まず、高齢者や多忙な世帯の負担軽減による「生活空間の改善」。次に、住民間の交流促進による「コミュニティー形成」。そして長谷工グループならではの「安心・安全な暮らし」の提供です。
住宅を主軸とする企業グループとしては、リユースを通じた片づけ支援や高齢者サービスは不可欠な要素となっています。今後、企業には利益追求だけでなく、より強い社会的意義が求められることになると思います。カシコシュでは、リユース事業を通じた住環境改善と生活支援により、住民の暮らしの質向上とコミュニティーの活性化に貢献していきたいと思っています。
取材・文:小野悠史 撮影:ホリバトシタカ
WRITER
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。X:@kenpitz
おまけのQ&A
- Q.リユースショップの便利な使い方を教えてください。
- A.大武:売るなら趣味の道具がおすすめです。カメラや時計・ホビー用品などは欲しい人がたくさんいるので、高値が期待できます。買うなら子ども用品です。成長が早い時期の衣類や用品は、新品にこだわる必要はありません。「売る時は趣味、買う時は子ども用品」、これが賢い使い方のコツです。