配送、掃除、警備まで人手不足や高齢化に対応――未来のマンションで活躍するロボットとは?

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ファミレスで配膳ロボットが活躍するように、マンションにも当たり前のようにロボットが導入される時代がくるかもしれません。現状の取り組みや課題について、業界のトップランナーに聞きました。

2024年1月から3月にかけ、都内の大規模マンションで行われた「ロボットを活用した荷物配送サービス」の実証実験。集合住宅における搬送課題の解決を目指すための取り組みで、将来的には「ロボットフレンドリー(※)な住まい環境」の構築までを見据えているのだとか。実施したのは、日鉄興和不動産、日建設計、日建ハウジングシステム、ソフトバンクロボティクスの4社。実証実験で浮かび上がった課題や知見をもとに、今後も引き続き検証を進めていくといいます。

 

今回は参加企業の担当者にお集まりいただき、実証実験で分かったことや荷物配送以外のロボット活用方法、ロボットフレンドリーなマンションを実現するための課題、今後の展望などを伺いました。

 

(※)ロボットフレンドリー……ロボットを導入しやすい環境を構築すること

鈴木英太さん

日鉄興和不動産株式会社 住宅事業本部 カスタマーリレーション室 リビオカスタマーサービスグループ 兼 開発推進部 商品企画グループ 鈴木英太さん
※所属先・肩書きは取材当時のもの

古山明義さん

株式会社日建ハウジングシステム 大阪代表 理事 設計部 部長・lid研究所 I³デザイン室 室長 古山明義さん
※所属先・肩書きは取材当時のもの

平川博善さん

ソフトバンクロボティクス株式会社 事業推進統括 プロジェクト推進本部 事業推進部 パートナー推進課 平川博善さん
※所属先・肩書きは取材当時のもの

――今回の実証実験の概要と実施の背景を教えてください。

 

鈴木英太さん(以下、鈴木):実施の場は「リビオメゾン南砂町」という、総戸数218戸の大規模賃貸マンションです。フードデリバリーサービスの出前館さんにご協力いただき、建物の入口から住戸までの荷物(飲食物)の配送をロボットが代行する実験を行いました。ロボットは、ソフトバンクロボティクスさんの配膳ロボットを活用しています。最近、ファミリーレストランなどでよく見る、料理をお客さんの席まで運んでくれるロボットですね。

 

人が運んだ場合に比べてどれくらい時間を削減できるかの調査に加え、最適な配送ルートや円滑な配送の妨げになる課題の検証、さらに、サービスの利点や効果、住人の方の利便性向上などについても考察しています。

▲建物入口で配送員が荷物をロボットに渡し、そこから住戸まで自動で運ぶ仕組み

鈴木:実施の背景は大きくふたつ。ひとつ目は、いわゆる物流の2024年問題です。特に、タワーマンションなどの大規模集合住宅はそのセキュリティの高さから、物流事業者による「屋内での荷物運搬の時間効率」という点で大きな課題を抱えています。

 

――多くの住戸にまとめて配達できるタワーマンションは、むしろ効率が良いのかと思っていました。

 

鈴木:そう思われがちなのですが、受付や解錠カードの手続き、複数箇所のセキュリティ解除、エレベーター待ちなどが必要で、一つの荷物の配達に30分以上の時間を要するケースもありました。また、エレベーターの着床制限があって、一つ荷物を届けるたびに1階に戻ってセキュリティを解除しなければいけなかったり、マンションによっては台車の使用が禁止されていたりと、配送員の方に大きな負担がかかっていたんです。解決策として宅配ボックスの設置などが進められていますが、根本的な改善には至らず、新しい取り組みが求められていました。

 

――それは大きな課題ですね。では、背景のふたつ目は何でしょうか?

 

鈴木:マンション管理の効率化です。管理会社の人手不足や管理人の高齢化、担い手不足などもあり、管理費が高騰しているなかで、マンション管理業務の一部をロボットに代替することが期待されています。

 

平川博善さん(以下、平川):集合住宅の管理や配達における業務プロセスはほぼ共通していますが、ロボットの導入を含むデジタル化はさほど進んでいないように見受けられます。なぜ進まないのか、どのような課題があるのか、それらを明らかにすることも今回のプロジェクトの目的のひとつでしたね。

 

古山明義さん(以下、古山):想定される最大の課題は、マンション側の受け入れ環境でした。ロボットが建物内を移動する際には、通路の幅や傾斜、床の素材、障害物、明るさなどさまざまな課題が考えられます。そこで、既存の建物を使った実証実験を行うことでそうした課題が具体的に抽出され、「ロボットフレンドリーな集合住宅」とは何か、どのような設計をすればロボットと共存できるのかといったことも見えてくるのではないかと考えていました。

 

 

――実証実験を通じ、どんな結果が得られましたか?

 

鈴木:まず配送効率についてですが、ロボット配送モデルは従来の配送モデルに比べ約54%も配送時間を削減することができました。配送員の方からも「入口でロボットに渡すだけでいいのでラク」という声が多く聞かれましたし、それを受け取る住民の方のリアクションも概ねポジティブでした。特に、女性は防犯面と荷物を受け取る際の身なりを気にしなくていいことから、むしろロボットのほうがありがたいとおっしゃる方が多かったですね。

配膳ロボット

▲最近は飲食店で配膳ロボットを見慣れていることもあり、抵抗感が薄れているという

――建物内の移動をはじめ、ロボットを運用する上での障壁についてはどうでしょう。実験により、どんな課題が浮かんできましたか?

 

古山:課題は挙げればたくさんあります。ルートの選定もそうですし、ロボットの台数にも限りがあるため、一気に荷物が届いた場合はそれらを一時的に保管しておく場所が必要です。

 

また、床材に反射率の高い天然石やステンレス素材の鏡面仕上げが使われていると、ロボットの動きが悪くなってしまうことがありました。さらには、外廊下の場合は防水対応のロボットを選んだり、排水側を避けるルートを設定する必要があること、非常時には住人の方の避難経路や防火シャッターなどの妨げにならないようロボットのウェイポイント(※)を設定することなど、さまざまな課題を抽出できましたね。

 

(※)ウェイポイント……ロボットに自律走行させるための経路上の地点

 

――そこはロボット側ではなく、建物のほうを改修するなどして改善をはかると。

 

平川:そうですね。ロボットの技術自体はすでにある程度のレベルまで成熟しているので、今はその価値を多くの人にどう理解していただくか、どうやって社会に広げていくかというフェーズと捉えています。

 

また、そもそもロボットフレンドリーとは、ロボット側に進化を求めるのではなく、建物にロボットを導入するにあたり「施設環境やユーザー側の業務プロセス」を変革し、ロボットを導入しやすい環境をつくっていくことを指します。今回の実証実験もその取り組みの一環であり、こうした知見をふまえて今後の建物に生かしていくことが大事です。

 

――ちなみに、荷物の搬送にあたり、重さやサイズの制限はありますか?

 

平川:小さな台車程度のサイズのロボットでも300kgまでの重量を運ぶことができます。したがって配送業社が取り扱う荷物であれば基本的にどんなものでも問題ないと思われます。サイズに関しても、120cm以上の幅があれば人とロボットがスムーズにすれ違えますので、一般的なマンションの廊下幅なら問題ないでしょう。

 

DeliveryX1

▲実証実験に使われたロボットはDeliveryX1(デリバリーエックスワン)

DeliveryX1

▲配達住戸の前までゆっくりと進むDeliveryX1(デリバリーエックスワン)

――荷物の搬送以外に、マンション内でロボットに代替できる役割(仕事)はどんなものが考えられるでしょうか?

 

平川:オフィスなどではすでに導入されていますが、清掃や受付(コンシェルジュ)、警備などの業務ですね。今回のような検証は必要ですが、技術的にはすぐにでもマンションで活用できるはずです。

 

鈴木:あとは、荷物だけでなく「ごみ」の搬送もロボットに代替できるといいですよね。大規模マンションの場合、各階にごみ置き場があり、現状はそれを管理人がすべて回収しているのですが、かなりの時間と労力がかかっています。また、各階の住戸数が多いとそのぶん廊下も長くなり、置き場から最も遠い場所にお住まいの方はごみを持って50mくらい歩かなければいけないケースもある。

 

たとえば、住人や管理人がボタンを押すと搬送ロボットが近くまで来てくれて、共用のごみステーションまで運んでくれるような仕組みがあるといいですよね。まだいくつかのハードルはありますが、このあたりはすぐにでもやりたいと考えています。

 

――管理業務の効率化だけでなく、住人にとっても大きな価値になりますね。

 

古山:さらに言えば共用部だけでなく、各住戸のなかにもロボットが入っていける余地は十分にあると思います。たとえば、高齢の一人暮らし世帯が増えていますので、シニアレジデンスの各世帯に1台ずつ見守りや癒しのためのロボットを配置するとか。オペレーションの問題さえクリアできれば、実現できると思います。

人型ロボットの「Pepper」

▲人型ロボットの「Pepper」。人型である特性を活かした会話力と愛らしいキャラクターですでに介護施設での活躍が広がっている

――今後、ロボットフレンドリーなマンションを増やしていく上で、建物の設計以外ではどんな課題がありますか?

 

古山:一番はやはりコスト面だと思います。大規模マンションなら導入費用は賄えても、その後の維持管理コストをどうするのか。管理費に乗せるにしてもどれくらいの価格が妥当なのか、それに見合う価値があるのか。そのあたりを、しっかりと精査する必要があります。

 

ただ、これは世の中の動き次第というところもあります。たとえば、このまま物流業界の人手不足が改善されなければ、配送料の値上げや、再配達の際に別料金が必要になることは十分に考えられます。再配達料のことを考えれば、むしろロボット導入分の管理費を支払うほうが安上がりかもしれません。また、そもそも現在の人力に頼る宅配事業そのものが成り立たなくなる可能性もゼロではありません。そうなる前に、ロボットをうまく活用する道を探っておきたいですよね。

▲身近な生活環境に、多くのロボットが当たり前に存在する。近くそんな時代がやってくるかもしれない

――では最後に、マンションでのロボット活用促進に向けた、各社の今後の取り組みについて教えてください。

 

平川:ソフトバンクロボティクスとしては、引き続き配膳ロボットや清掃ロボットを、世の中のさまざまなシーンに普及させていくお手伝いをしていきます。もちろん、マンションを含む集合住宅もそのひとつです。

 

もともと、私たちが今回のプロジェクトでやりたかったのは、実証実験で得られたデータをオープンにし、大規模マンションにおける配送がどれほど大変なものなのか、多くの人に知ってもらうこと。そして、これに共感し、課題解決に取り組むプレーヤーを増やすことでした。この課題は、ソフトバンクロボティクスだけでは解決できません。物流会社やデベロッパー、管理会社はもちろん、他社のロボットメーカーさんにも参入いただきたいと考えています。今回の実証実験の結果を、市場に参入するかどうかの判断材料のひとつにしていただければありがたいですね。

 

古山:今回の実証実験も日建設計と日建ハウジングシステムで連携して取り組みましたが、現在、日建グループではロボットフレンドリーな環境構築に向けた研究や実証実験を積極的に取り組んでいます。先日もグループ主催でロボット関連のイベントを開催しましたが、すぐに定員が埋まってしまうくらい、世の中的にも注目されている分野だと感じますね。

 

そのなかで、集合住宅を取り扱う日建ハウジングシステムとしてはやはり、「ロボットフレンドリーな設計とは何か?」を他社に先駆けて確立していきたいと思っています。

 

鈴木:私たち日鉄興和不動産はデベロッパーとして、「これからのマンションでできること」を考え続けていく使命があります。そのため、まずは今回のロボットと物流というテーマに限らず、他業種の方々と一緒に新しいマンションの未来をつくる共創活動に取り組んでいきたいと考えています。

 

ロボットフレンドリーなマンションについても、今回は実証実験という形でしたが、実際にさまざまな形でロボットが活躍するマンションを数年のうちには実現したいですね。具体的な企画も動き始めていますし、ぜひ楽しみにしていただけたらと思います。

▲取材終了後も意見交換。今後のロボット活用について期待が膨らむ

 

 

取材・文:榎並紀行 撮影:宗野 歩

 

WRITER

榎並紀行
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。 X:@noriyukienami

おまけのQ&A

Q.ロボットを導入しやすいマンションのタイプは?
A.基本的には大規模なタワーマンションで、なおかつ、都心の賃貸マンションのほうが比較的導入しやすいと考えています。まずはそこから導入を進め、徐々にエリアや規模を問わず普及させていきたいです。(鈴木英太さん 日鉄興和不動産株式会社)