メタバースと不動産販売 野村不動産が切り開く新しい顧客体験

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大手デベロッパーのDXを牽引する精鋭が熱く議論を交わす、スタイルポート主催のイベントレポート第2弾は、マンション販売にメタバースを取り入れた野村不動産の実例を紹介します。

野村不動産は「プラウドオンラインサロン」というオンライン上での新サービスを2021年9月に立ち上げました。このサービスでは、マンションを探すユーザーが野村不動産のマンションシリーズ「プラウド」の考え方や自分に合ったマンションの探し方についてオンラインで学んだり相談することができます。

 

「プラウドオンラインサロン」は、ユーザーに合わせた相談窓口の役割を果たし、コロナ禍をきっかけに多様化した住まいへのニーズに寄り添って、マイホーム選びをサポートすることを意識して作られています。

 

野村不動産の企業理念には「個に寄り添う」という言葉があり、社内でも最も重視されることのひとつです。マンションの商品企画や販売手法も、「個に寄り添う」を起点にしているそうで、「お客様が問い合わせ先に困るケースを無くそう」ということからオンラインサロンの取り組みが始まりました。これまで定休日であった水・木曜日も対応が可能になり、また遠方に住む人にも気軽に相談してもらえるようになったそうです。マンション購入を検討する方向けの入り口をたくさん作り、お客様それぞれの悩みをそのままにしない販売姿勢を体現しています。

▲HP内の予約フォームより希望日時を選べる。

オンラインサロンの取り組みは、自宅からでも気軽に住宅購入の相談ができるサービスとして、コロナ禍で特に好評でした。しかし、従来のやり方ではオンラインサロンで相談したり、通常のモデルルームへ来場したりするには事前予約が必要であり、特に住まい探しを始めたばかりの方にとっては心理的なハードルもありました。そこで、2022年11月にはオンラインサロン内に、メタバース空間を設置。ユーザーはアバター(仮想空間内のキャラクター)を選び、入室するだけで、メタバースの特性を活かし、匿名で住まいの相談ができるように。従来よりも、気軽に利用してもらえるサービスの提供を開始しました。

▲メタバースサロンは、事前予約不要で好きな時間にアバターとなって入室できる。

営業時間内には、野村不動産の担当者のアバターが常駐しており、ユーザーは物件の情報収集や動画視聴、担当者とのアバターを介した音声会話やチャットで、住まいに関する一般的な疑問点を解消することができます。接続状況の問題等、解消すべき問題は多い状況ですが隙間時間を活用して物件情報の収集や担当者への相談が可能で、ポップで可愛い見た目のキャラクターを動かしながら、エンターテインメント感覚で利用できると好評のようです。

 

また、住まいに関する詳細な相談が必要な場合は、他のユーザーが入室できないマンツーマン専用空間に移動し、音声会話で密な相談が可能です。さらに、アバターを介さずに、Zoomを利用した通常のオンライン相談に切り替えることもできます。メタバース空間内のシアタールームでは、住まい探し検討初期のお客様向けに動画を放映し、その後、個別に質問に答えてくれるイベントも開催するなど、様々な活用法も検討中だそうです。

 

野村不動産によると、メタバースを取り入れた結果、ユーザーの反応が分かりやすくなったことで、接客方法も変化してきたそうです。これまで物件を紹介するHPでは、PV数による閲覧回数の把握にとどまり、チャットボット(会話を再現したコンピュータプログラム)を立ち上げても、積極的な質問は多くなかったそうです。メタバース空間では、まだまだアクセス数自体に課題はあるもののユーザーにオンラインサロンにアクセスしてもらい、アバターとしてメタバースに参加してもらえれば、スタッフからも話しかけることもでき、反応もよく分かるようになりました。「個に寄り添う」という理念を発揮できるよう様々な改良を続けていく予定だそうです。

▲パソコンだけでなく、スマホやタブレットからも利用可能。

野村不動産が、こうしたデジタル技術を積極的に取り入れている背景には、マンション価格高騰の影響もあります。建築費や資材費が上がった影響で、新築マンション価格も値上がりが続いている中、販売に関わる費用を削減しながら、より良い顧客体験を提供するための工夫のひとつです。

 

野村不動産では、こうしたDX戦略のひとつとして接客に使う資料をクラウド上のプラットフォーム「ROOV compass」に統一することで、管理コストの削減とリスクの軽減を図りました。この統一プラットフォームの導入により、営業担当者は販売中の物件資料を1つの管理画面で一括して閲覧・編集することが可能になりました。資料差し替えの際にUSBファイルを用いて接客卓1卓1卓へ行っていたデータ差し替え作業がプラットフォームを統一したことで面倒な物件資料の差し替え作業が不要になりました。社員の手間を削減するだけでなく、接客上インターフェイスも統一されるのでユーザーにもストレスなく物件を検討してもらえるようになりました。これにより、営業担当社員は物件資料を準備する手間も減り、より多くの時間を顧客対応に充てることができるようになったことも、顧客体験の向上に大きく寄与しているそうです。

 

マンション販売にデジタル技術を活用する取り組みは、ユーザーの購入体験を犠牲にすることなく効率化や経費の圧縮を実現しています。オンラインサロンは、2023年末の段階で累計接客数が1,000件を突破し、現在も首都圏の物件を中心に利用が続いています。オンラインサロンで条件に合う物件を整理した後、実際の物件への送客を行い、その後の成約は30%を超えるという結果が出ているそうです。

 

野村不動産のDXへの取り組みは、新しい時代のマンション販売手法として、効率的かつ顧客に寄り添ったサービスとして業界全体に浸透してきています。「野村不動産の販売手法を見学したい」という同業者からのリクエストも増加中。これらの取り組みは、不動産業界におけるデジタル化の先進例として、他の企業にも影響を与えるようになってきています。

 

(本文は2023年11月20日に東京都内で行われたイベントの内容を基に再構成しました)

▲スタイルポート主催のトークセッションイベント「マンション業界DX推進のプロジェクトリーダー達が語る 住宅販売の最先端事例と未来像」に登壇したのは、野村不動産 住宅事業本部 営業推進部営業企画課 課⻑代理 佐藤陸さん。2013年入社。8年間住宅営業部に在籍し、東京・埼玉の物件販売責任者を経験。2021年から営業推進部営業企画課に異動し、全国の販売物件の営業ツール最適化やオンライン営業対応の企画立案を担当。※所属先・肩書きは取材当時のもの。

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取材・文:小野 悠史 撮影/ホリバトシタカ

 

WRITER

小野 悠史
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。X:@kenpitz

おまけのQ&A

Q.DXでお客様が希望するマンションは探しやすくなりましたか?
A.閲覧率、アクセス数、デジタルデータの共有率をプラットフォーム導入前の月と比較してみると、野村不動産の営業担当者が情報を共有したユーザー数は約8.5倍、そして共有データへのアクセス数が約14倍になっています。デジタルなら「同居する親とも資料を共有したい」といったリクエストにも瞬間的に対応できます。より多くの情報を基にして、購入の判断ができるようになっています。(野村不動産・佐藤陸さん)