東急リバブル、日鉄興和不動産、野村不動産。大手デベロッパーのDXを牽引する精鋭が熱く議論を交わす、スタイルポート主催のイベントをレポートします。
コロナで進んだマンション販売のDX化について熱く議論
2023年11月20日、赤坂インターシティAIRにて、マンション業界のプロジェクトリーダーたちが集まるトークセッションが開催されました。「マンション業界DX推進のプロジェクトリーダー達が語る 住宅販売の最先端事例と未来像」と題された、このイベントには、東急リバブル、日鉄興和不動産、野村不動産などの大手マンションデベロッパーのDX推進リーダーが登壇。主催者は不動産テック・ベンチャーのスタイルポートです。
イベントでは、コロナ禍を経てデジタル技術が浸透し、マンション販売の分野に起きている変化について豊富な実例を紹介。オンライン商談やウェビナー(ネット上での説明会)、さらにはメタバース(仮想世界)やAIを駆使したデジタル・トランスフォーメーション(DX)の浸透について活発な議論が行われました。この記事では、イベントをダイジェスト形式で紹介し、DXに関する各社の取り組みは別の記事で詳しく紹介します。
登壇者
2004年に新卒入社し、新築マンション販売に従事。2015年からは販売業務の受託窓口、2017年から自社開発事業計画推進を担当。2020年より営業推進とDX業務に従事。
2011年新卒入社。住宅事業本部で新築分譲マンション開発、販売、自社販売現場責任者を経験。現在は「リビオ」販売、DX、CX施策の企画推進、ブランディングを担当。マンションオンラインストア「sumune」開発、ブランド旗艦店運営も行う。
2013年入社。8年間住宅営業部に在籍し、東京・埼玉の物件販売責任者を経験。2021年から営業推進部営業企画課に異動し、全国の販売物件の営業ツール最適化やオンライン営業対応の企画立案を担当。
VR技術を使用した不動産内覧システム「ROOV(ルーブ)」を開発、提供するスタイルポートの間所暁彦社長によると、マンション業界のトレンドは以下の3つでした。
1. モデルルームの集約化・常設化
従来はプロジェクトごとに仮設のモデルルームを建て、販売終了後に撤去していましたが、最近では首都圏にあった複数のモデルルームを集約し、恒久的な施設として利用する動きが活発になっています。
2. ウェビナーやオンライン商談の活用
コロナ禍で顧客との接点が限られる中でウェブを活用したセミナーである「ウェビナー」や、モデルルームや会社でなくてもできるオンライン商談がスタート。2023年に入り、コロナ禍にあった規制が無くなる中、こういった取り組みをやめてしまうデベロッパーもいます。しかし、アフターコロナで対面での接点がつくれるようになってからも一部のデベロッパーによって継続されています。
3. 接客ツールのデジタル化・オンライン化
パンフレットやポスター、モデルルームの模型などをデジタル化し、一つのUIに集約する動きがあります。これにより、従来紙で配布していた資料をデジタルデータで簡単に共有することが増えています。
マンション販売におけるDXは、顧客体験の向上、効率性の追求が根底にあるようです。特にモデルルームの集約化やオンライン商談の継続、接客ツールのデジタル化は販売にかかる経費を削減し、効率性を高める役割を担っています。これらの変化は、マンション購入者にとっても、よりアクセスしやすく、情報が豊富で理解しやすい購入プロセスを提供することに繋がりそうです。
1991年、矢作建設工業株式会社に入社。不動産企画営業業務を中心に13年間勤務した後に投資法人の上場業務に従事。2006年より矢作地所株式会社にて開発担当取締役として、投資用不動産の企画・開発・運用、分譲マンションの企画・開発を中心とした不動産開発に手腕を発揮。2011年7月、スタイル・リンク株式会社を設立し代表取締役に就任。2017年10月に株式会社スタイルポート代表取締役就任。
日鉄興和不動産はオンラインのみでマンションを販売
日鉄興和不動産ではLIVIOブランドのマンション開発に力を入れています。独自の差別化戦略と戦略的な事業展開で注目を集めています。特にコンパクトな都市型マンションの開発においては、2019年に首都圏で1LDK供給戸数1位を達成するなど、独自のノウハウと経験を持ち合わせています。また、中古マンションの値上がり率が首都圏で7年連続1位という実績があります。
東京都港区内に「LIVIO Life Design! SALON」というデジタル技術とリアルの展示を組み合わせた体験型マンションギャラリーをオープンし、マンション業界の注目を集めています。また、「sumune(スムネ)」というオンラインストアを企画しています。この取り組みでは、マンションをオンラインストアのみで販売するという、非常に先進的なチャレンジを行っています。
東急リバブルはAIを活用した販売促進に注力!
東急リバブルは、自社ブランド「ルジェンテ」のマンション開発に加え、他のデベロッパーが手掛けるマンションの販売受託にも注力。ルジェンテシリーズは、1LDKを中心とした住宅タイプで構成されています。
昨年5月には、集約型モデルルーム「東急リバブル 銀座サロン」をオープンしました。このサロンでは、実寸大のCGデータを壁に投影することで、物件の間取りや広さを直感的に体感できる設備が備わっています。また、AIを活用した販売促進にも力を入れており、デジタル技術を駆使した新しい販売戦略を展開しています。
野村不動産は接客関連のインターフェイスを全社で統一
野村不動産は2021年と2022年にマンション供給数で2年連続1位となり、開発する「プラウド」ブランドをトップに押し上げました。DX面では接客に関連するインターフェイスを全社で統一することにより、デジタル戦略を変化させました。マンションデベロッパーでは担当所長が主導して営業ツールを導入することが多く、拠点ごとに異なるツールを使うことが多いです。しかし、野村不動産はこれを全社で統一することで、効率的にDXを進めることを目指しています。
また、暮らしと住まいの総合サイト「クラスマ」を立ち上げ、非常に使いやすいサイトを提供しています。「プラウドオンラインサロン」では、プラウドのコンセプトやマンション探しのガイダンスをオンラインで受けることができます。さらに、販売プラットフォームの統一も行っており、デジタル戦略においても先進的な取り組みを展開しています。
「SNS」の活用についてやDX化が進んでも変わらないもの
「SNS」をどう活用するのか
東急リバブル・中泉さん
「『味方につける』です。今はマンション購入に関する情報がYouTubeなどにたくさんあります。例えば、最新の住宅ローンに関する情報などは、当社の営業担当者よりもお客様の方が詳しいことも珍しくありません。マンションデベロッパーが情報を独占する時代は終わっていて、顧客に『あのチャンネルを見ましたか?』と尋ねるくらいの姿勢が必要です。営業や販促ツールとして、SNSを活用することが重要だと考えます」
野村不動産・佐藤さん
「私は『ありのまま』と書きました。SNS上には不動産系のインフルエンサーがたくさんいますから、良い発信をしてもらえるとプラスになると思います。ただ、景品表示法の改正や不当表示、ステマの懸念もあります。そのため、情報を変に飾ることなく『ありのまま』を正確に案内することが重要だと思います。販売現場でもLINEなどのアプリを使ったコミュニケーションが増えていますが、お客様に誤解を与えないように、事実をそのまま伝えることが大切だと考えます」
日鉄興和不動産・冨田さん
「私は『苦手』『入り口』と書きました。当社は他社に比べて広告・広報活動がこれまで苦手でした(笑)。地道に汗をかく仕事を重視する社風で外部への発信が苦手なんです。Instagramでは街を紹介するアカウントを運用していますが、マンションブランドとしての発信はまだ進んでいません。ただ、いまやSNSがGoogleのように検索窓口として使われるようになってきています。マンションを探しているお客様が『LIVIO』についてさらに知りたいと思った時に、受け皿になるような発信はもっと必要だと思っています」
デジタル化が進んでも絶対に変わらないもの
野村不動産・佐藤さん
「『個に寄り添う』という当社の理念や経営姿勢は変わりません。お客様との接点だけでなく、マンション企画の起点としても、人が介在する部分は不変であると述べています。デジタル化が進んでも、お客様に対するこの寄り添う姿勢は不動産業界において必要不可欠だと考えています」
日鉄興和不動産・冨田さん
「マンション購入が大きな買い物であること、そして購入されるお客様には住むという目的があることは変わりません。やはり、リアルな体験も重要だと思います。デジタル技術を組み合わせつつ、実際の体験を提供していくことを続けていきます。例えば、車の試乗のように、マンション購入時にも、『ここに住んでよい』と確信を持てるような体験を提供することを大切にしていきます」
東急リバブル・中泉さん
「心や感情の部分は変わらないと考えています。モデルルームを案内する際にも、お客様がマンションでの生活を想像できることが、とても大切です。VRである程度の表現はできても、想像力の部分は人間が補っていく必要がある。迷っているお客様を支えること、人間の心と感情に寄り添う役割は変わらないでしょう」
まとめ
マンション業界のトレンドはモデルルームの集約化・常設化、ウェビナーやオンライン商談の活用、接客ツールのデジタル化・オンライン化の3つです。これらの変化は、顧客にとってアクセスしやすく、情報が豊富な購入プロセスを実現することに繋がっています。
参加企業のリーダーたちは、不動産販売のDX化におけるSNSの活用や変わらない接客の要素についても意見を交わしました。特に、マンション購入者にはデジタルによる接点と同時に優良なリアルな体験の提供が重要であるとの見解を示していました。
各社の詳しい実例やデジタルと向き合う上での考えは、これから別の記事で紹介していきます。
マンションプラス編集部 磯崎堅太
取材・文:小野 悠史 撮影/ホリバトシタカ
WRITER
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。X:@kenpitz
おまけのQ&A
- Q.デジタル活用でなかなか上手くいかなかったことは?
- A.AIアバター(デジタル環境で活動するキャラクター)を使ってマンションの物件情報を説明する企画に取り組みました。これまで営業担当が担っていた物件説明の役割を、アバターに移行することで、より効率的なプレゼンテーションを実現しようとしました。ただ、やはり技術的な問題が多く、会話がスムーズに進まないことがしばしばありました。 一方で、取り組んでみたことで「得るもの」もたくさんありました。すべての領域をデジタル化するのではなく、人間とデジタル技術のそれぞれの得意分野を活かすために、さらなる取組みを推進していきます。東急リバブル・中泉さん