大手デベロッパーのDXを牽引する精鋭が熱く議論を交わす、スタイルポート主催のイベントレポート第3弾は、テクノロジーを活用し新築マンション・戸建ての受託販売分野で多くの成果を出している東急リバブルの取り組みをレポート。
VR活用で多様な物件を一箇所で比較検討できる東急リバブル銀座サロン
東急リバブルは、不動産売買仲介事業を主業としながらも、他社デベロッパーが開発した新築マンションや戸建ての販売代理業(受託販売業)も行っています。その一方で自社のマンションブランド「ルジェンテ」シリーズを開発しており、都市型のマンションシリーズとして存在感を発揮。「ルジェンテ」は総戸数30~50戸前後の規模が主流で、最寄り駅まで近く、かつ都心のアクセス性を存分に享受したい、というニーズに応える形で始まったシリーズです。
東急リバブル銀座サロンは、東京・銀座1丁目にある複合ビル(キラリト銀座)の8階に2022年5月にオープンした常設のサロンです。ここでは、自社ブランドの「ルジェンテ」シリーズに加え、新築マンション、戸建て、自社取扱い中古物件など様々な物件を取り扱っています。
▲気軽に見られる、尋ねられるオープンなサロン。
銀座サロンの大きな特徴として、モデルルームを用いない展示方法が挙げられます。デジタル技術を駆使して、原寸大の室内空間を再現することにより、一つの拠点から複数の物件をリアルに体感できる新しい販売手法に挑戦しています。
VR技術の進歩は目覚ましく「モデルルームが無くても、検討していた間取りが見られてよく理解できた」という評価も多いそうです。従来はさまざまなオプションを盛り込んだ、豪華なモデルルームを使って説明するのが、マンション業界の常識でした。豪華なモデルルームは気分が高揚して、購入意欲が高まるというメリットはありました。その一方でユーザーが検討しているそれぞれの部屋のイメージとの違いが分かりにくい、というデメリットもありました。技術の高まりで、VR技術がマンションを探すユーザーのイメージを充分に補完できるようになっています。
▲大型スクリーンで原寸大の室内空間VRや間取り、眺望を体感することができる。
インサイドセールス活用でサロンへの来場率向上
東急リバブルは、その他のテクノロジー活用にも積極的で、次々と新しい販売手法に取り組んでいます。特に注目されるのが、インサイドセールス専門チームの取り組みです。インサイドセールスとは、一般的なモデルルーム公開日より前からEメールやウェブ面談などのデジタルツールを活用して行う販売方法のこと。従来のマンション販売プロセスでは、デベロッパーは物件エントリーをもらいパンフレットなどを送付すると、そこからモデルルームなどが完成するまでの数ヶ月間はユーザーを放置してしまうことが多くあったそうです。しかし、インサイドセールスを導入することで、この間もユーザーとのコミュニケーションを継続し、より新鮮な情報を購入検討者に提供できるようになりました。なかでも、動画コンテンツを使った定期的な情報提供は購入検討者からも好評で、その後のモデルルームやサロンへの来場率が向上、その後の購入率も向上するなど、大きな成果につながっています。
AI技術の活用も進めています。特にAIによる不動産査定は、中古住宅の価格をビッグデータを基に高精度で査定できるようになっています。社内ではREINS(レインズ)のデータを活用した物件ピックアップAIや取引事例比較法を用いる価格算出AIなどが活用されており、営業社員の業務効率化に貢献しているそうです。
▲オンライン専用ブース。専門スタッフによりオンライン商談を随時実施。
※写真はリニューアル前となり、現状と一部異なります。
「真水の営業時間」に人間でしかできない形でユーザーと向き合う
一方で、すべてのテクノロジー導入がすべて成功しているわけではなさそうです。例えば、実験的に試行した「AIアバター接客システム」は購入検討者との会話の成立に技術的な問題があり、一部の質問や要望に適切に応じることが困難だったようです。一方でこういった経験から多くの教訓を得ることができました。テクノロジーの活用による効率化を図りつつも、人間の感情や心理に寄り添う部分はやはり人間が担わなければいけません。これでさらなるテクノロジー活用の骨格が定まったそうです。
価格査定などでAIを使って効率化した分だけ、マンション探しをするユーザーと向き合うための時間を増やす。東急リバブルでは、これを「真水の営業時間」と呼んで、大切にしています。さまざまなDX化の取り組みでは、会社全体で多数の時間を削減できました。家探しのプロセスや物件案内の際の人間ならではの想像力や感情の共有は、テクノロジーでは代替できない重要な要素として捉え、ユーザーとの関係構築や細やかな対応は、DX導入以降も変わらない価値として重視し続けているそうです。
東急リバブルはテクノロジーの活用と、人間の感情や心理に寄り添うアプローチのバランスを重視し、不動産業界における新たなビジネスモデルの展開を続けています。
(本文は2023年11月20日に東京都内で行われたイベントの内容を元に再構成しました)
WRITER
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。X:@kenpitz
おまけのQ&A
- Q.AIの価格査定の精度はどのくらいですか?
- A.一般的なマンションに関しては実際の人間が行う査定とAIの査定は誤差率1.98%(中央値)しかありません。従来はマンションの売却や住み替えについてご相談を受けてから、売却査定額をお伝えするのに数日〜1週間が必要でしたが、AIを導入してからは、その場で大まかな査定額をお伝えできるようになりました。今まで以上にスピード感をもって、お客様の課題解決に寄り添う事が可能になりました。(東急リバブル・中泉圭介さん)