大手デベロッパーのDXを牽引する精鋭が熱く議論を交わす、スタイルポート主催のイベントレポート第4弾は、デジタル技術を積極的に取り入れた、独自のマンション販売手法で注目の日鉄興和不動産です。
他社に先駆けて常設のマンション販売サロンを2021年に開設
日鉄興和不動産では「LIVIO」(リビオ)ブランドのマンション開発を行っており、先進的な販売手法で注目を集めています。昨年、東京・品川にオープンした「リビオライフデザインサロン」というブランド旗艦機能を持つ統合型のショールームは実験的な取り組みを行っており、同業のマンション販売事業者の見学も相次いでいて、マンション業界全体が注目しています。
リビオライフデザインサロンは、品川駅の港南口にある日鉄興和不動産が保有する品川インターシティの20階に位置し、2023年の3月にオープンしています。このサロンは、従来の販売モデルルームとは異なる考えで運営されており、品川からおよそ1時間圏内に位置する200戸未満のマンションほぼすべての販売拠点として機能しています。サロンでは、25卓の接客スペースがあり、日鉄興和不動産の社内シンクタンクであるリビオライフデザイン総研が主宰する学生を集めたワークショップや入居者を対象としたイベントを行うなど、マンション造りに関する調査・研究機能も備えています。
また、常設のサロンとして、リビオに住むマンションユーザーとの接点を持続させるための機能もあります。販売後のアフターサービスや、売却・賃貸を希望する顧客の窓口として、まずはこちらに相談することが可能です。また、購入後に分かった不満にもしっかりと向き合って、マンション造りに反映することにも繋がっています。さらにサロンでは契約者、入居者限定で観葉植物講座やお掃除セミナー、クリスマスリースづくりなど、暮らしを豊かにするきっかけになるような色々なイベントを開催しています。売り切れば撤去されてしまう従来のモデルルームとは全く違う効果があるようです。
このサロンを運営することで、現場ごとにモデルルームを作らなくなったので、販売にかかる経費を従来の4分の1にまで削減しました。また、マンション価格の高騰によって販売期間が長期化しているなか、複数の物件をまとめて販売することで効率もアップ。郊外の小規模物件では、販売拠点も小さくなりがちだったようですが、サロンをうまく活用することができるようになり、小規模物件においてもユーザーに提供できる体験が向上したそうです。
▲1〜3LDKのサンプルルームを用意。
実寸大VRで革新的な物件体験をユーザー提供
リビオライフデザインサロンには、実寸大のVRデータを投影する設備があり、従来のモデルルームとは全く異なる体験を提供しています。分譲マンションの販売では完成前の青田売りが主流で、販売物件のなかから限られた間取りや設備をピックアップしてモデルルームに反映していました。しかし、VRを使うことで、さまざまな間取りや設備のマンションを体験できます。販売物件の半分以上をVRで体験することができるそうです。また、希望する部屋の眺望を再現するなど、モデルルームでは得られない感触も掴めます。ただ、当初は販売現場に戸惑いもありました。マンションを設計するなかで、同じ物件内にも人気の間取りと不人気の間取りが出てきます。不人気の間取りまで、VRでじっくりと体感させてしまうと必要以上に悪い印象を与えてしまうのではないかと、現場は考えたからです。しかし、VRによってユーザーはマンションの良い部分と悪い部分をしっかりと理解し、購入判断ができるようになったことで、むしろ販売効率は向上したと日鉄興和不動産は考えています。
デジタル技術の進化に伴い、より個人に特化したブランディングや顧客体験の提供が可能になります。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)においては、形だけのデジタル化ではなく、物件やブランド自体の価値を高めることの重要性が増しています。さらに、SNSを活用したブランドの発信など、リビオのブランドをより多くの人に知ってもらうための取り組みを検討中とのことです。
▲3面LEDパネルを用いた実寸画像が映し出され、設備や家具の配置、大きさ等をチェックできる。
▲窓から見える周辺環境の様子も再現。低層階と高層階での眺望の違いもわかる。
オンラインで完結するオンラインストア「sumune(スムネ)」の挑戦
また、マンションのオンラインストア「sumune(スムネ)」も大きな挑戦です。2021年に、コロナ禍のなかでスタートしたこのサービスは、オンラインだけでマンション購入を可能にするものです。現在は、テスラの様に高級車がオンラインで売買される時代です。さらに高額な商品であるマンションも「オンラインで購入できるプラットフォームがあってもよい」のではないかと新たな挑戦が始まりました。約2年間の運用で、まだオンラインだけで成約したマンションは無いそうですが、お客様が実際にモデルルームを訪れた後にオンラインで申し込むケースが増えているようです。その一方ですべての工程をオンラインでも対応できるようにしたことで、かつてのように書類を書いてもらうためだけにユーザーにモデルルームや事務所まで足を運んでもらうことはなくなりました。マンションの購入プロセスは多岐にわたり長いため、それぞれのポイントでオンラインとオフラインをうまく使い分けながら、バランスを取ることが重要のようです。
▲マンション購入の検討から申し込み手続きが、24時間365日可能なオンラインサービス。
また、個人情報の提出やモデルルームへの来場が必要だった情報が、サイト上でいつでも自由に閲覧できる点が好評です。掲載されている物件の価格、パンフレットや図面などの資料、すべての住戸の3Dモデルや眺望写真はもちろん、住戸のカスタマイズや価格シミュレーションも行うことができます。不明点や不安がある場合は、コンシェルジュがサポート。対面、ビデオチャット、メールなど、お客様の希望に応じた方法で対応してくれます。
デジタル技術の進化に伴い、より個人に特化したブランディングや顧客体験の提供が可能になります。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)においては、形だけのデジタル化ではなく、物件やブランド自体の価値を高めることの重要性が増しています。さらに、SNSを活用したブランドの発信についても言及し、リビオブランドをより多くの人に知ってもらうための取り組みを検討中とのことです。
マンション業界では「日鉄興和不動産はDXに積極的でデジタル戦略に強い」というイメージが醸成されています。取り入れる先進的な手法に注目が高まるだけでなく、高まる周囲の期待にもっと応えようと社内にはチャレンジに前向きな空気が充満しています。だからこそ、マンションを購入するユーザーのことを忘れてはいけないと考えています。ユーザーにとってマンションは人生最大の買い物です。マンションデベロッパーは自信を持って薦めることができる商品を作り続け、納得するまで体験、理解してもらうことが必要です。「ここに住みたい」と確信を持ってもらうには、デジタル技術とリアルな体験の組み合わせが重要で、総合的なマンション購入時の顧客体験を向上させる鍵になると考えています。
また、リアルサイズスクリーンやその他のツールは顧客が物件をより深く理解するための補助ツールとして理解し、今後も積極的に活用を続けます。日鉄興和不動産では、リビオのブランドはまだ成長途中と考え、デジタル技術とリアルな体験の組み合わせによる販売戦略を進化させていくそうです。
(本文は2023年11月20日に東京都内で行われたイベントの内容を元に再構成しました)
WRITER
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。X:@kenpitz
おまけのQ&A
- Q.リアルサイズのVRスクリーンについて教えてください。
- A.VRモデルルームはスタイルポート社の「ROOV walk」とプロジェクションマップ技術を活用しています。壁面に3DCGを映してインテリアなどをイメージしてもらいつつ、プロジェクションマップ技術で床に間取り図を投影して検討しているマンションの広さなどの感触を掴んでいただきます。しかし、VRの仕様が購入する物件の仕様とすべて一致するわけではありません。細かい仕様の違いなどを、お客様がしっかりと理解されていることを確認しながら、トラブルを回避する努力をしています。このような新しい技術を使ったマンション販売では、どのような事象が起きるか未知数ですが、その都度、適切に対応していきます。(日鉄興和不動産・冨田雄也さん)