断熱リフォームしたい人必見! 専門家がメリットや補助金について解説

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光熱費の高騰や気候変動が目立つ近年、マンションの断熱リフォームが注目されています。長谷工リフォームの小村直樹さんに、そのメリットやポイント、費用などについてお聞きしました。

――マンションは一戸建てと比べて断熱性能などが高いイメージがありますが、どのようなマンションにお住まいの方が断熱リフォームを希望されますか?

 

小村直樹さん(以下、小村):やはり、築古のマンションにお住まいの方が多いですね。特に1990年代以前は、断熱性能がそこまで重視されていなかった時代です。今では考えられませんが、過去には無断熱の住宅も建築されていました。こうしたマンションは特に北側の部屋の結露がすごく、壁もサッシもカビだらけ……という状況が見られることもあります。近年は気候変動が激しく、夏の暑さも厳しいことから、マンションでも断熱リフォームされる方が増えています。

 

長年マンションに住まわれている方だけでなく、築30年、築40年のマンションを購入される方が取得時に断熱リフォームを実施されるケースもあります。

壁一面や窓周りにカビが発生している様子

▲壁一面や窓周りにカビが発生している様子

――住戸の位置によっても断熱性は変わってきますか?

 

小村:マンション全体で見ると、四方が他の住戸に囲まれている「中住戸」とマンションの外壁に面している「妻住戸」などとでは断熱性が変わってきます。中住戸はお隣の住戸が断熱材の役割を果たすため有利ですが、妻住戸や1階の住戸、最上階の住戸は、中住戸と比べると不利なのでより断熱の対策が必要です。

小村直樹さん

長谷工リフォーム 設計部工事管理課技術部長で一級建築士の小村直樹さん
※所属・肩書きは取材当時のもの

――断熱リフォームにはどのような効果が期待できるのでしょうか?

 

小村:住まいの断熱性能を高めると、夏の暑さや冬の寒さが和らぐということに加え、住まう方の健康にも寄与するというデータも報告されています。夏の暑さが軽減すれば自宅での熱中症のリスクが減り、冬の寒さが軽減すればヒートショックや高血圧症のリスクが低減します。また、結露からくるカビの発生を防止することで、ぜんそくや鼻炎など呼吸器系の疾患の予防にもなります。さらに、冷暖房光熱費の節約にもなります。

断熱性能と血圧値

▲断熱性能が低い住宅は部屋ごとの温度差が大きく、ヒートショックや高血圧症のリスクが高い

――マンション住戸の断熱性能を高めるには、どこをどのようにリフォームすればいいのでしょうか?

 

小村:マンションの断熱性能の鍵を握るのは、熱の出入りが大きい「窓」です。ただ、窓は共用部にあたるため、所有者の一存で改修することはできません。しかし、専有部に「内窓」を設置することは可能です。最近のマンションの窓はほとんどがペアガラスになっていますが、築古マンションの窓の多くはアルミサッシの単板ガラスです。リフォームで「Low-eペアガラス」や「樹脂サッシ」など高性能な内窓を設置すれば、断熱性能は大きく向上します。

 

Low-eペアガラスとは、断熱性能や遮熱性能の高い金属膜をコーティングした2枚の板ガラス面の間に空気が充填されている窓です。空気以上に熱を伝えにくいガスが充填されているタイプもあります。内窓を付けると、断熱性だけでなく遮音性も高くなるというメリットがあります。

専有部に内窓を施工している様子

▲専有部に内窓を施工している様子

――リフォームで壁の断熱性能を高めることもできますか?

 

小村:妻住戸は外部に面している部分が多いため、外壁側の内壁の断熱性能を高めるリフォームが効果的です。内壁をはがせる場合は、コンクリート面に発泡ウレタンを吹き付ける工法も採用できますが、 最近では壁に貼り付けられるタイプの断熱ボードも出てきています。たとえば、LIXILの「ウォールインプラス」という断熱ボードは、熱伝導がほとんどない「真空断熱材」が入っているため非常に断熱性能が高いです。厚さも23.5㎜と非常に薄いため空間を圧迫しません。

 

断熱ボードは既存の壁に貼り付けるだけですので、最短1日で工事が終わります。断熱ボードの上にクロスを張る必要はありますが、リフォームのために家具や家電を搬出したり、一時的に転居したりする必要はありません。

 

LIXILの「ウォールインプラス」

▲LIXILの「ウォールインプラス」
硬質ウレタンフォーム・真空断熱材・石膏ボードで構成されており、既存の壁にクロスの上から両面テープや接着剤で貼り付けられる。石膏ボードの上にクロスを張って仕上げる

LIXILの「ウォールインプラス」

▲LIXILの「ウォールインプラス」
現場に合わせた『ジャストカットパネル』と現場でカットする『規格パネル』の2種を用意

LIXILの「ウォールインプラス」

▲LIXILの「ウォールインプラス」。厚さは23.5㎜と薄いため部屋を圧迫しない

――DIYで断熱性能を高めることも可能ですか?

 

小村:DIYとなると完全に自己責任となりますが、たとえば窓に断熱性の高いブラインドを取り付けるだけでも一定の効果はあると思います。最近では、DIYで取り付けられる内窓キットも販売されているようです。DIYがお好きな方はチャレンジしてみるといいかもしれませんね。

 

 

――マンションの断熱リフォームはどれくらいの費用でできるものなのでしょうか?

 

小村:使用するものやリフォーム業者によって異なりますが、60㎡から70㎡程度の3LDKのマンションで共用廊下側とベランダ側の壁・サッシを断熱性能が高いものに改修し、それに合わせて部屋全体のクロスも張り替えるとなると120万円程度の費用になります。たとえば東京都ですと、国と都から補助金が出ますので、実質的には80万円ほどでできると思います。東京都以外であれば、85万円強になるでしょうか。

 

 

――マンションの専有部の断熱リフォームに利用できる補助金制度を教えてください。

 

小村:2024年度ですと、国土交通省をはじめとした国や地方公共団体の次のような補助金が利用できます。

 

ただし、補助金はあくまで審査のうえでもらえるものなので、必ずしも満額もらえるとは限らず、減額となる場合もあることをご認識ください。また、補助金制度には予算があります。期日が定められていても、それ以前に受付終了となる可能性があります。その他、適用要件やその他の補助金との併用の可否など、それぞれ異なる条件をよく読みこんで申請することが大切です。

 

 

――専有部だけでなく、マンション全体の耐震性能や断熱性能を向上させることもできるのでしょうか?

 

小村:耐震性の向上は、耐震診断、耐震設計、耐震補強工事が必要ですので管理組合が行います。共用部の省エネルギー性能向上工事は、窓、ガラス、玄関ドア交換、屋上や外壁の外断熱などができます。具体的には、窓ガラスをLow-eペアガラスや真空ペアガラスに交換します。

 

サッシが古い場合は、サッシごと「カバー工法」で交換します。カバー工法とは、もともとある枠を残し、カバーをかけるようにかぶせて施工する方法です。屋根は、防水のやり替えと同時に外断熱にします。外壁も断熱材を貼る外断熱工法があり、住みながらの工事ができます。

窓のカバー工法Before/After

▲窓のカバー工法Before(左)、窓のカバー工法After(右)

――マンション全体の改修も補助金が利用できるのでしょうか?

 

小村:既存住宅の断熱リフォーム支援事業は、専有部の所有者に加え、管理組合などの代表者も申請していただける補助金制度です。マンション全体となると、他にも次のような補助金制度があります。

 

ただ、個人の区分所有者向けの補助金と同様に、必ず補助されるわけではないという点には注意が必要です。また、マンション全体の改修に対する補助金の多くは、施工業者が申請する形となります。そのため、まずは施工業者を選ばなければなりません。費用やプランの比較に一定の期間がかかることに加え、総会決議も必要となりますので、リフォームの1~2年ほど前から準備されることをおすすめします。

 

――補助金の交付が受けられたマンション改修の事例をお聞かせください。

 

小村:弊社は、過去10年のマンションの共用部のリフォームで31件、補助金額ですと約10.5億円の受給実績がございます。2014年に工事が完了した東京都多摩市の「エステート鶴牧4・5住宅」は、国土交通省の「住宅・建築物省CO2先導事業」に採択され、第4回日本不動産ジャーナリスト会議プロジェクト賞や、第26回住生活月間功労者表彰 国土交通大臣賞という栄誉ある賞もいただきました。

 

改修時点の築年数は33年。3度目の大規模修繕を控えている時期で、改修前は屋根からの雨漏りや低い断熱性・気密性、カビの発生などの課題を抱えていらっしゃいました。主な改修内容は、外断熱改修・サッシ改修・電力の見える化改修の3つです。大規模な改修となったため、改修前にはモデルルームをつくり、外断熱仕上げ工程を再現したり、改修工事についての説明パネルや工事手順動画、各種サンプルなども展示させていただきました。

 

改修後は、冬期の室内環境調査で居室の温度の変動幅の縮小や非居室の室温上昇などを確認しました。居住者アンケートでは、冬の暖房前の過ごしやすさの満足度が20%から85%に上昇、結露の発生状況については「不満」や「とても不満」の回答割合が59%から6%に減少。数値上も体感上も、室内温熱環境が大幅に改善したことが確認できました。

 

取材・文:亀梨奈美 撮影:石原麻里絵

 

WRITER

亀梨 奈美
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

X:@namikamenashi

おまけのQ&A

Q.内窓や断熱ボードなど簡単に施工できる商材が増えていますが、これらのデメリットはありますか?
A.内窓を設置すると窓が2つになりますので、窓を開けて空気を入れ換えたり、ベランダに出たりする際に少々手間どるかもしれません。また、内窓も断熱ボードも既存の窓や壁との間で結露が発生する可能性があります。これを避けるには、サッシ・窓ガラスの交換や壁内への断熱材の施工が必要です。