特集

2024.12.19

建設現場は昔と違う!? 俳優・田中道子さんが最新マンション建設現場をのぞき見!

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大学で建築を学び、一級建築士の試験にも合格した俳優の田中道子さんが、マンションの建設現場を訪問。「3K(きつい・汚い・危険の頭文字を取った略語)」のイメージを覆す、快適で働きやすい現場はどのようにつくられているのでしょうか。

※実際の見学はヘルメット着用の上、安全に十分配慮して行いました

▲田中さんが訪れたのは、長谷工コーポレーションが手がける「ガーデングランデ横浜戸塚」(神奈川県横浜市戸塚区)の建設現場。全499戸のファミリー向け大規模マンションで、敷地内には一般の方にも開放される公園や桜並木のプロムナードも整備される。ガイド役は、建設現場を取り仕切る長谷工コーポレーション 建設部門 第三施工統括部 建設3部(仮称)戸塚区吉田町計画新築工事 総合所長 佐々木良樹さん。※所属・肩書は取材当時のもの

――田中さんは、マンションの建設現場をご覧になるのは初めてですか?

 

田中道子さん(以下、田中):レギュラー出演している『解体キングダム』(NHK総合)で解体現場を訪れる機会は多いのですが、つくる現場を見ることはほぼないので新鮮でした。

▲田中道子(たなかみちこ):俳優。1989年8月24日生まれ、静岡県出身。オスカープロモーション所属。2013年、『ミス・ワールド2013』の日本代表に選出され、世界大会(インドネシア)でベスト30に選ばれる。モデルとしてさまざまなファッションイベントに出演後、2016年からは俳優に転身。ドラマ『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』(16年)や、ドラマ『貴族探偵』(17年)、ドラマ『極主夫道』(20年)、映画『極主夫道 ザ・シネマ』(22年)、ドラマ『大奥』(24年)などに出演。2022年には一級建築士試験に一発合格。@michikotanaka_official

――今回は工事中の様子も含めて見学していただきましたが、感想を教えてください。

 

田中:まず、すごくきれいな現場だなというのが率直な感想です。まだ仮設の足場などが組まれた状態なのに、すでに建物ができあがっているような印象を抱かせるほど整然としていますよね。

 

佐々木良樹総合所長(以下、佐々木):じつは、そこは長谷工が重視しているポイントの1つです。建物をきれいに仕上げるのは当たり前ですが、それをつくる現場も美しくあろうと。たとえば、防護ネットの張り方、安全看板の並べ方、資材の置き方ひとつとってもそう。見た目がいいだけでなく、そのほうが案内も分かりやすかったり、通行しやすかったりと、作業効率や安全性にも大きく関係してくると考えています。

 

また、建設現場の周囲に設置する仮囲いについても、人の目に触れやすい場所にカラーパネルを入れたり、入口の部分だけ色を変えたりと、「見た目のかっこよさ」にこだわりを持っています。完成後には撤去されてしまうものですが、街の人たちには建物ができあがるまでずっと見られているということを意識し、大事にしている部分ではありますね。

▲驚くほどきれいな長谷工の施工中の現場。目立つゴミや埃もない

田中:購入者目線でも、つくる過程が美しいと完成後の期待値が上がりますよね。それに、仮囲いをかっこよくする点もそうですが、工事の段階から街の景観に配慮しているというのは素晴らしいと思います。

 

もうひとつ気になったのは、職人さんたちが使うお手洗いにもエアコンがついていたり、明るくきれいな休憩スペースがあったりと、現場の人たちが快適に働ける環境が整備されていることです。

 

所長:そうですね。建設現場というのは危険が伴いますし、屋外での重労働という側面もあります。それだけに、職人さんたちが少しでも快適に、安全に働いてもらえる環境を整えることも私たちゼネコンの大切な役割です。長谷工の場合、トイレにエアコンやウォシュレットをつけるのはほぼ当たり前になっていて、順守されていない現場には会社から指導が入るくらい徹底されているんです。

 

田中:かつての建設現場には、いわゆる「3K」と表現されるような過酷なイメージもありましたが、今は変わってきているのでしょうか?

 

佐々木:少なくとも長谷工が手がける現場に関しては、「きつい、きたない……」みたいなことは、ほぼなくなってきていると思います。逆に、みんなで美しい現場を目指して、「かっこいい」「きれい」といった言葉の頭文字をとったポジティブな3Kにしていこうと。そういう現場では、職人さんたちもきれい好きになっていくんですよ。自主的にゴミを拾ったり、休憩所やトイレもみんなで協力してきれいに使おうと。昔のイメージとは、だいぶ変わってきたと思いますよ。

▲女性の現場監督や職人さんも増えている。こちらは女性用の休憩スペース。他に女性用トイレ、専用ロッカーも用意されている

▲ラーメンやカレーなど、温かい料理も提供する売店。メニュー数も豊富で、毎日利用しても飽きない

――他に、最近の建設現場ならではの特徴はありますか?

 

佐々木:昔と大きく変わったところでいうと、環境への取り組みですね。マンションをつくる際に、可能な限りCO2を出さないように努めています。たとえば、この現場では工事現場の入口と事務所の屋上にソーラーパネルが設置されていて、事務所の照明やエアコンなどの電力は一部太陽光発電によって賄っています。重機を動かす際も、通常の軽油よりCO2の排出量が少ない環境配慮型の燃料を使っていますし、この現場ではフル電動のラフテレーンクレーン(※)を試験導入するなど、「CO2削減に向けての現場のあり方」の検証もスタートしています。

 

※ラフテレーンクレーンは建築資材を高所に運搬するための自走式クレーン。この現場では、株式会社タダノが開発した25tクラスのフル電動ラフテレーンクレーン「EVOLT eGR-250N」を試験的に導入していた。

▲フォークリフトやバックホーといった重機も、どんどん電動化している

佐々木:他にも、ノンフロンの断熱材など環境に配慮された部材を使ったり、職人さんたちが近くのコンビニに行く際などに自由に使えるエコバッグを用意したり、本当にいろんな取り組みを進めているところです。

 

田中:職人さんへの啓蒙といった地道なことも含めて、本当にいろいろな取り組みをされているんですね。

 

佐々木:そうですね。正直、建設業界は環境に対する意識の変容が、完全に浸透するまでにはまだ時間がかかると思います。ただ、業界としても安全管理や品質管理と並ぶくらい、環境への取り組みに対するプライオリティを上げていこうという動きがありますし、ゆくゆくはこうした活動も建設現場の常識になっていくのではないかと。

 

田中:環境面でいうと、建設現場から出るゴミの問題もありますよね。

 

佐々木:おっしゃる通りです。建設現場からはさまざまな種類のゴミが大量に出ますので、少しでも環境負荷を減らすためにはゴミの分別と、そもそもゴミ自体を少なくすることが大事なんです。分別に関して言うと、長谷工の現場ではコンクリートや鉄、グラスウールなど22品目に分別してゴミを出しています。

▲ゴミの種類ごとに分けられた廃棄物専用ボックス

田中:そこまで細かくやられているのは驚きです。

 

佐々木:正直、分別を始めた当初はコストダウン目的という側面が大きかったと思います。というのも、分別していないと産業廃棄物の処理費用が割高になってしまうんです。分別すればコストは下がります。そしてそれと同時に、環境への負荷も減らすことができるわけです。同じように、ゴミを圧縮する仕組みなどを導入して量を減らすことができれば、多大なコストダウン効果とともにCO2削減という点でも大きな効果があると考えています。

 

 

田中:建設現場で働く職人さんが不足しているという話もよく聞きますが、長谷工さんではどんな対策を取っていますか?

 

佐々木:これは本当に悩ましい問題で、今は現場間で職人さんの取り合いが起こっている状況です。職人さんの数自体が不足していることもありますし、働き方改革関連法で時間外労働の上限規制が適用されたことによる影響も大きい。労働力不足の根本的な解決策はなかなか見つかりませんが、この労働力不足問題に対し長谷工では例として次のようなことを行っています。

 

たとえば、コンクリート部材を工場で生産して現場へ運搬し、それを現場で積上げていく、あるいは並べていく工法を用いることで、躯体工事の現場作業負担を軽くするのもひとつ。トイレやウォークインクローゼットなども、組立てて固定するだけで施工が完了するような工法を用いることで内装工事の現場作業負担を減らしています。

 

田中:システム化・ユニット化することでコストも抑えられますか?

 

佐々木:現状はまだ導入数が少ない工種は、かえってコストがかかってしまう事もあります。ただ、今は将来を見据え、少ない人手でも無理なく安全に現場を進捗させることを優先すべきだろうと。それに、このやり方が定着して大量に生産できるようになれば、そのぶんコストも下がっていくでしょうから。

▲現場で一から作るのではく、工場で製造したユニットを運んで設置することで現場作業を効率化

佐々木:効率化でいうと、長谷工では建設現場のDXにも取り組んできました。たとえば、以前は手書きでチェックしていた資材搬入車の出入り状況や作業の進捗管理なども、すべてデータで管理するやり方に変わっています。また、効率化という側面ではありませんが、VRを使って職人さんに高所での作業をバーチャル体験してもらう安全教育も導入するなど、あらゆる場面でデジタルを活用しています。

 

 

▲工事に携わる協力会社は40以上。約250名の職人が働く大所帯だ。毎日の朝礼ではハーネスチェックなどの安全確認も実施

――先ほど「3K」の話もありましたが、建設現場の職場環境や働き方に対してネガティブなイメージを持つ人もいると思います。田中さんは今回の見学を通して、認識の変化はありましたか?

 

田中:じつは、私自身はもともと建設現場に対してネガティブなイメージを持っていませんでした。大学で建築を学んだ同期には現場でバリバリ働いている人もいて、環境が良くなっている、働きやすくなっているという話もよく聞いていましたから。ただ、今回改めて最新の現場を見学させてもらって、それをより実感できましたね。

 

佐々木:確かに、まだまだ建築の仕事に対して、ネガティブな印象を抱いている方は少なくないと思います。私たちが現場の環境改善に取り組む背景には、そうしたイメージを変えたいという思いもあるんです。もう3Kじゃないんだよと。それに、そもそも職人さんはカッコいいんだよ、稼げるんだよ、ということを若い人たちにもっと知ってほしいですね。

 

田中:そう、稼げるんですよね。私の周囲にも驚くほど高収入の「一人親方」がたくさんいます。

 

佐々木:少なくとも、この現場に入ってくれている職人さんたちは、それなりに稼いでいると思いますよ。

 

田中:そう言い切れるのはすごいですね。でも、すごく大事なことだと思います。

 

佐々木:もちろん、現場によって条件や状況は異なりますし、今回ご覧いただいた現場のように立地条件や配棟が作業しやすいケースばかりではありません。だからこそ、我々としては少しでも効率よく仕事をして稼げる環境を提供したいですし、若い職人さんにはそうした現場を経験して、この仕事に対して希望を持ってほしいと思っています。現場の職人さんのモチベーションが上がり、自信を持って働いてくれることが、ひいては品質の良いマンションにつながるはずですから。

 

 

 

取材・文:榎並紀行 撮影:宗野歩 ヘアメイク:山田典良 スタイリスト:青柳裕美

 

WRITER

榎並紀行
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。X:@noriyukienami

おまけのQ&A

Q.田中さんが「現場監督」をやるなら、どうやって現場のモチベーションを上げますか?
A.田中:工事に携わった人はマンションを安く買えるなど、何かしらの「特典」があるといいですよね。もしくは頑張ってくれた職人さん、効率化のアイデアを出してくれた職人さんを表彰する制度があってもいいかもしれません。そのほうがモチベーションも上がりますし、自分がつくった建物に対する誇りをより強く持ってもらえると思います。