特集

2024.12.19

【連載第1回・総合地所 ルネ編】速水健朗、マンションブランドを歩く

  • XX
  • facebookfacebook
  • BingBing
  • LINELINE

共通のシリーズ名を冠する各社の「マンションブランド」は、共通するコンセプトや込められた想い、ブランドごとの個性を有しています。この個性を読み解く本連載の初回は、総合地所「ルネ」シリーズについての考察。

「リカちゃんハウス」に「リカちゃんマンション」が加わったのは、初代ハウス発売の4年後、1971年のこと。広いバルコニーやシャンデリア付きの"超豪華"な設計は、集合住宅というよりも、瀟洒(しょうしゃ)な欧州の邸宅を思わせる。一方、1982年に登場した「リカちゃんニューマンション」では、システムキッチン(ペニンシュラ型)やリビングのテレビ、ビデオデッキが登場し、一転してモダンな路線へと舵(かじ)を切った。子どもたちは、テクノロジーがもたらす現代的な生活により関心を持ったのだろう。また、同時に世間のマンションのイメージも、地に足の付いたものへと変化した。1970年代を通して、マンションが世の中に浸透したのは間違いない。

 

供給量の急増による価格の引き下げによって人々の生活の中にマンションが浸透していく。一方で、1970年代は、まだまだマンションそのものが"ブランド"としての価値を持っていた時代でもある。この流れに前後して、当時のマンションデベロッパー各社は、他との差別化を図るブランド戦略を展開し始める。さらに到来する本格的なマンション時代を見据えていたのだ。

 

野村不動産は、1963年の「コープ竹の丸」でマンション事業に参入し、以降「コープ野村」ブランドを展開。企業名を冠することで安心感を与える戦略をとった。三井不動産の「パーク」シリーズは1971年の「三田綱町パークマンション」に始まり、現在も続く老舗ブランドとなっている。また、1968年には大京が「ライオンズマンション」をスタート。これも古くから親しまれているブランドのひとつだ。

 

「ルネ」が登場するのは1977年。前身となる「安宅産業ルネ」時代を含めれば歴史はさらに古い。現在も総合地所は「ルネ」ブランドで統一してマンションを手掛け続けている。

総合地所 分譲事業部 マンション開発部 開発1課 課長 石井大祐さん。※所属先・肩書きは取材当時のもの

マンションブランドの老舗とは何か。「子どもの頃にルネに住んでいたというお客さまの声を伺ったことがあります」と言うのは、総合地所で商品開発に携わる石井大祐氏。その客は、親元を離れたのちに賃貸住宅に住み、のちのマンションを購入する年代に差し掛かって、子どもの頃のイメージを基に、ルネの物件を選んだのだという。

 

これと似た話として思い出したのは、車の車種である。モデルチェンジを重ねていくうちに、車は外観も中身のテクノロジーもまるで別のものになる。だが、その中でもユーザーが愛着を持てるような継続した特徴を保つことが商品企画の肝となる。時代によって変化するのは、マンションも同じだ。「子どもの頃に好きだった車種」、「小さい頃に住んでいたマンション」、こうしたきっかけが生まれるのは、老舗ならではのものだ。

 

 

「カスタマーファースト」と「クラフトマンシップ」はルネブランドの中核を成す理念だ。周辺環境や景観に調和したマンションづくりや、品質へのこだわりが言葉によって示されている。とはいえ、実際のところ、スキルやノウハウが引き継がれる作業は、血の通ったものであるはず。知りたいのはもっと具体的な継承への取り組みである。石井氏は社員参加による「バス見学会」の存在を挙げる。

 

「バス見学会では、その年の代表的なマンションを実地で見学します。近隣に過去のルネ物件があれば、それも訪問し、当時の担当者の話を聞くこともあります。中には執行役員となった大ベテランが同行することもあり、知恵や工夫を引き継いでいるんです」

▲速水健朗さん。フリーライター・編集者。都市論やメディア論をテーマに、取材・研究中。主な著書に『1973年に生まれて 団塊ジュニア世代の半世紀』(東京書籍)、『東京どこに住む?』(朝日新書)、『東京β』(筑摩書房)など。ポッドキャスト配信中『速水健朗のこれはニュースではない』。X:@gotanda6

こうした取り組みが、ブランドの継承や強化に寄与しているとのこと。

 

 

「ルネの名作」と呼ばれるマンションの代表作を取り上げていこう。

 

「ルネ・アクシアム」(2001年竣工)は721戸の大規模マンションで、広大なセンターガーデンや噴水や水しぶきといった水景が特徴になっている。子どもが遊ぶための空間が前提となっており、バーベキュー設備やフィットネスルームがある。販売初日に完売した案件であるというのは、会社の中で伝説的なエピソードとして語り継がれているという。

▲千葉県船橋市「ルネ・アクシアム」。総戸数721戸のビッグコミュニティ

2011年竣工の「ルネ花小金井」は、共用棟の大浴場(ふれあいスパ)を設け、家族で映画やスポーツ観戦をするためのシアタースタジオを完備している。

▲東京都小平市「ルネ花小金井」。エントランスアプローチの隣には提供公園が設置されている

ルネが得意とする分野は、郊外における大規模集合住宅だ。大規模の物件だからこそ、共有施設を充実させることができる。その中で工夫を凝らしたプランを取り入れる挑戦が、商品企画担当に課せられる。ここが難しいところでもある。目新しさや流行の設備を追求するのではなく、長期的な視野が求められるのだ。

▲今回のインタビューに際し訪問した「ルネ松戸みのり台」では「ルネ」ならではの専有部設備にも注目した。こちらはアウトフレーム構造の採用で居室をレイアウトがしやすい空間とした上で各居室の収納を廃止、家族全員の収納を1ヵ所に集めた「ラージストレージ」を設置する「Be-Fit」

一見、普及しそうに見えても、のちのち運用やメンテナンスコストがかかるために使われなくなる設備もあれば、当初はニーズがあってもすぐに飽きられる設備もある。「ルネ花小金井」の大浴場やシアタースタジオは、家族が一緒の時間を増やすというコンセプトから生まれた企画。目新しさや流行に左右されるのではなく、家族のあり方や働き方の変化に即したマンションづくりを心がける。それが「カスタマーファースト」「クラフトマンシップ」から生まれている。

▲「ルネ松戸みのり台」のキッチン。シンクに水や食器類があたる音を軽減する静音設計のワイドシンクが採用されていた

2021年竣工の「ルネ横浜戸塚」では、木造の共用棟にカフェを兼ねたコワーキングスペースが導入されていた。コロナ禍で、オンラインミーティングや在宅勤務への企業や個人の対応が課題とされたが、この「ルネ横浜戸塚」の共用施設は、新型コロナの流行の前に企画されたもの。働き方の変化を踏まえたマンションづくりに以前から取り組んでいた成果といえる。

 

 

最後に触れたいのはルネのロゴの話だ。レトロで親しみが持てるデザイン。ルネのマンションを知らない人でもこのロゴから伝わるものがあるはず。このロゴからは「リカちゃんマンション」時代の「瀟洒なマンションのイメージ」すらも漂ってくるよう。

▲総合地所のマンションブランド「ルネ」のロゴ

もちろんロゴが気に入ったからといってマンションを購入するということはない。とはいえロゴを守り続けることも老舗であることのこだわりのひとつ。ブランドという言葉から連想する、信頼や高級感、品質といったものよりも大事な何か。親密さや親近感といった感覚が伝わってくる。

 

 

 

取材・文:速水健朗 撮影:高嶋佳代

 

WRITER

速水 健朗
フリーライター・編集者。都市論やメディア論をテーマに、取材・研究中。主な著書に『1973年に生まれて 団塊ジュニア世代の半世紀』(東京書籍)、『東京どこに住む』(朝日新書)、『東京β』(筑摩書房)など。ポッドキャスト配信中『速水健朗のこれはニュースではない』

X:@gotanda6

おまけのQ&A

Q.「ルネ」という名前の由来は?
A.人間性の尊重と新文化の創造を目指したルネサンスに由来します。「ルネ」に加え、ハイグレードレジデンス「ルネグラン」、都市型レジデンス「ルネモア」、タワーレジデンス「ルネタワー」、戸建分譲「ルネテラス」、都市型賃貸レジデンス「ルネフラッツ」のブランドシリーズをラインナップしています。