特集

2025.02.27

佐藤健寿の奇になる住まい「コンポンプルックの水上集落(カンボジア前編)」

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“世界の奇妙”を撮り続ける奇界遺産フォトグラファーとしてお馴染みの写真家・佐藤健寿さんの連載がスタート。佐藤さんが新たに見つめるのは「住まい」。これまでマンションプラスで扱ってきた集合住宅から少し視点を広げ、その原点である人々のさまざまな「住」のありかたを取材します。

「カンボジアはだいぶ昔アンコールワットに行ったきり、しばらく行ってないですね。じつはその近くにも行けていなかった場所があって。不思議な集落があるんです」

 

佐藤さんのそんな言葉で始まった今回の取材。

佐藤健寿さん

▲佐藤健寿(さとうけんじ):写真家。TV番組「クレイジージャーニー」でも知られるほか、現在は松任谷由実さんとの企画写真展「写真展 能登 20240101」も話題。『奇界遺産』シリーズ(エクスナレッジ)は写真集として異例のベストセラーに。著書に『世界』『PYRAMIDEN』『CARGO CULT』など。TBS系「クレイジージャーニー」ほか出演多数。写真展は過去、ライカギャラリー東京/京都、高知県立美術館、山口県立美術館、群馬県立館林美術館などで開催。「佐藤健寿展 奇界/世界」は全国6ヵ所を巡回し13万人を動員。

私たちは世界遺産カンボジア・アンコール遺跡群への拠点となる街、シェムリアップに到着。佐藤さんの案内でトンレサップ湖に向かった。

▲市街地を抜けると、舗装された道路は徐々に途切れ、茶色い砂煙が立ち上る未舗装の道へと変わっていく

シェムリアップの市街地を抜けると、やがて視界には広大な湿原が現れた。

 

湿原の脇には、道と並行するように、トンレサップ湖に流れ込むロリュオス川が静かに流れている。車からボートに乗り換え、川をしばらく下ると、細長く伸びた柱で支えられ川面に浮かぶように立つ高床式の不思議な住居が見えてきた。

 

「水上集落自体は世界中にあって、近くのタイとか、アフリカでも見たことがありますが、ここはかなり高床ですね」と佐藤さん。

▲木の支柱にトタンの壁と屋根というシンプルな造りの高床式住居。柱は水中へ深く潜っている

▲トタン製以外にもコンクリート製(写真左)などさまざまなタイプがある

▲軒先をバルコニー化、壁天井にも彩色を施して居住性を高めたカスタム高床式住居

▲コンクリート製で堅牢な高床式警察署

▲教会もある。公共の施設はコンクリート製で強固な造りとなっていることが多い

ボートが進むにつれて高床式住居の立つ間隔が狭くなってきた。コンポンプルック集落の中心部では、南北約1.2kmに渡り、6m近い高床式住居が日本の長屋のように連なっている。

▲集落の中心部では、建物同士が密接して建てられている

▲集落内の往来にもボートが使われる

▲集落住民が利用するボート以外にも、観光ボートの往来も多い

▲住居間の間隔を狭くすることで、ご近所付き合いが行いやすい

▲陸路と水路に沿って建てられた住居が列を成すコンポンプルック集落の中心部

▲住居から階段を降りると、そのまま水上ボートに移動できる造り

どの建物も支える支柱が高く長い。水面の高さをゆうに超えている。

 

その理由は、このトンレサップ湖特有の自然現象に秘密があった。

 

 

▲出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:TonleSapMap.png を参考に編集部で作成

乾季(12月~5月)の間、トンレサップ湖はトンレサップ川を通じてメコン河へと合流し、東シナ海へと流れ出る。

 

しかし雨季(6月~11月)になると、増水したメコン河の水がトンレサップ川を逆流して湖へと流れ込む。この逆流現象によって湖の面積は、乾季の約6倍(約2,700km²から16,000km²)にまで拡大する。

▲佐藤さんの今回のメイン機材はライカM11-P

「ガイドの話では、6m以上、湖の水位が変化する場所もあるそうです。こうした季節ごとの湖の水位変化に対応するために、この水面からかなり高い位置に建物がある独特な高床式住居が生まれたんですね。自分が見てきた他の地域では水面ギリギリの家がほとんどだったので、なんでこんなに高いんだろうと不思議でしたが、なるほど謎が解けました」

▲今、見えている陸地も雨季には水位が上がることで見えなくなる

▲乾季になるにつれ水位が下がるので少しずつ陸路が現れてくる

▲集落の先に広がる海のように広大なトンレサップ湖は、東南アジア最大の淡水湖。最も面積が小さい乾季でも、琵琶湖の4倍の面積がある

コンポンプルック集落の成り立ちには、諸説あるが、そのひとつはフランス植民地時代(1863年~1953年)に遡る。当時、カンボジアはフランスの統治下にあり、その時期にフランス側に属していたベトナム人兵士から逃れてきた人々がトンレサップ湖周辺に集落を作ったといわれている。

 

私たちが集落を訪れたのは雨季終わりの時期だったので、陸に上陸することができた。

 

集落は、トンレサップ湖につながるロリュオス川の土手沿いにあり、中心には小さな丘に寺院がたっている。その寺院を中心に南北に伸びる道に沿って、高床式住居が綺麗に並ぶ。そして寺院周辺には、僧坊、集会所、役所、学校といった公共施設が集まっている。

▲集落の中心にある寺院。小さな丘にあるため雨季になっても浸水しない

住居の軒先には観葉植物の鉢植えが並び、路上では子どもたちが遊んでいる。商店や可動式リヤカーなどでの露店も営業していて、一見すると東南アジアのどこにでもある郊外の景色に見える。
ただ他の村と違うのは、すべての建物が高床式の2階建てということだ。

▲子どもの遊び場、乾物づくりや屋台などの仕事の場、人や乗り物の往来などさまざまな形で利用される道も、1年のうち4ヵ月ほど浸水する

▲水路で遊ぶ子どもたち。教育環境としては、集落内に小学校から高校まである

▲前方入口は陸上にあるが、後方は水路に面する住居

コンポンプルック集落は、3つの村が集まって1000世帯4000人程度が暮らしており、住人の9割以上が漁業を行っている。

 

祖父母の代からこの地で漁業を営んでいるイー・ホーンさん宅にお邪魔した。

 

階段を登り2階入口デッキから中に入ると、まず感じた第一印象は「涼しい」、そして「奥に長い」ということ。床板がスノコ状になっているため空気の通りが良く、こもるような湿気も感じられない。

 

また奥に長い家屋は、複数の空間がつながってできている。横幅5m前後、奥行きは15mから中には20m以上の家屋もある。

▲キッチン横の広いスペース

▲壁に掛けられた多数の仏教絵画と家族の写真が印象深い

▲漁で使う網から自転車までが雑多に置かれた物置スペース

▲内部は複数の空間に分かれているが、壁や間仕切りはなく必要に応じてカーテンのような布で区切る

▲カーテンで区切ったスペースが寝室としても使われる

▲沢山の生活道具や衣類が綺麗に整理され機能的に配置されている

▲キッチンは家屋の後方、半屋外のデッキ部分に作られており、熱を外に逃がせる造りになっている。この造りは雨季にあわせた造りであり、多くの世帯では乾季には、1階部分に中間床を造りそこで炊事が行われるとのこと

▲家屋の後方デッキは水路に面しておりハシゴで降りると、そのまま家屋の軒下に止められた舟に乗り込める

▲階下部分。支柱となる杭は地下1.5mくらいの深さでコンクリートで固定されているとのこと

▲イー・ホーンさん一家。かつては最大12人で住んでいたが、今は娘たちが結婚して家を離れ、4人で暮らしている

「祖父母の代からずっとここに住んでいます。集落の住民はほぼクメール人であり漁業に携わって生活しています」とイーさんは語る。

 

10月から6月が漁業の解禁期間。しかし長年、違法漁業による乱獲が行われていて、近年は捕れる魚の種類も量も減少している。そのため、漁業だけでは生活が成り立たず観光業と兼業したり、禁漁期間は都市部へ出稼ぎに行ったりし生計を立てる世帯も多いとのこと。

 

「これまでアフリカ、ベナンのガンビアとかベネズエラのカタトゥンボとか、水上集落は結構色々見てきました。水上集落はそれ自体は珍しいんですが、どこも割と造りは似ているといえば似ているんです。ただここは水量が変化するという珍しい現象があるせいで、かなり床が高い。特に今回は水量の少ない時期だったので、だいぶ不思議な佇まいでしたね。高さのある高床のせいか、家の中にいるのに船に揺られているような不思議な浮遊感があって、のんびりしていていい住まいでした。シェムリアップからも近いので、アンコールワットに来たら、ぜひ訪れてみるといいんじゃないかと思います」

 

カンボジア後編は、トンレサップ湖の新たな水上集落を取材。

 

今度の集落は無国籍?

 

 

▲ラーメン餃子宮崎
https://maps.app.goo.gl/Ds9B5LYkXMykHcuPA

突然だが、佐藤さんは和食好きである。旅1日目であろうと、その街に日本食店があれば迷いなく暖簾をくぐる。食べ慣れないものを食べて体調を崩すリスクを避けるという意味もあるが、元来日本食を愛している。もちろんラーメンもしかりだ。そんな彼がカンボジアで舌鼓を打つラーメン屋に出会った。

 

「世界中のラーメンは割と食べてきた方だと思うが、ここはかなり美味しい。店構えも海外にありがちなオリエンタルな感じではなく、地方の隠れ名店みたいな素朴な店名と佇まいでとてもいいですね」

 

シェムリアップに行かれた際はぜひ立ち寄っていただきたい。

 

遺跡の後に食べたいラーメン度 ★★★★★(5/5)

 

 

佐藤さんが旅先で選んだお土産をマンションプラス読者の皆様へプレゼントします。

 

今回は「木彫りの象」。割と重いです。

 

 

「ある店で見かけて、これは他の店になさそう、と思って選びました。でもそのあと歩いていたら結構いろんなところに売っている王道土産だと判明しましたが、ぜひ」

 

1名様にプレゼントします。

【応募方法】
1.マンションプラスXアカウントを「フォロー」@mansion_plus
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※キャンペーン投稿はアカウントプロフィールページに固定します
3. 応募完了
※コメントや引用リポストいただけると嬉しいです!
※既にフォローされている方は「いいね」&「リポスト」で応募完了です。

ぜひご友人やご家族と一緒にキャンペーンへご参加ください!

【応募期間】
2025年3月20日 23:59まで。

【プレゼント内容】
カンボジア土産の木彫りの象

【ご当選者】
1名様

【ご当選について】
当選者の方には Xアカウント @mansion_plus から、3月下旬頃までにDMにてご連絡致します。

【注意事項】
※ご応募前に、必ず応募規約.pdf を確認し、同意の上で応募してください。
※日本国内にお住まいの成人の方のみご応募いただけます。
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※当選のご連絡は当アカウントからのみ行いますので、偽アカウントにご注意ください。
※当選の際に、カード情報の入力を求めたり、外部サイトのリンクをお送りすることは一切ございません。
※当選者の発表は、当選された方へのご連絡をもって代えさせていただきます。落選された方へのご連絡は行いませんので、ご了承ください。また、当選状況に関するお問い合わせには対応できかねます。
※当選後、DMにてご連絡いたしますが、指定の期限内にご返信がない場合は無効となります。
※本キャンペーンはお土産プレゼント企画のため、当選者の方には、お土産を受け取った後にご自身のアカウントで感想を投稿していただくことが条件となります。
※天災や不可抗力の事由により、キャンペーン内容が変更となる可能性がございます。あらかじめご了承ください。

応募規約.pdf

 

 

撮影・取材:佐藤健寿 文:山忠

PHOTOGRAPHER

佐藤健寿
写真家。TV番組「クレイジージャーニー」でも知られるほか、『奇界遺産』シリーズ(エクスナレッジ)は写真集として異例のベストセラーに。写真展は過去、ライカギャラリー東京/京都、高知県立美術館、山口県立美術館、群馬県立館林美術館などで開催。「佐藤健寿展 奇界/世界」は全国6ヵ所を巡回し13万人を動員。

https://kikai.org Instagram @x51  X @x51

WRITER

山忠
マンションについて勉強中の旅好きライター。ランニング、和菓子が好き。
 

おまけのQ&A

Q.佐藤さんが世界で見た不思議なマンションは?
A.佐藤:集合住宅の原型は洞窟だと思いますが、20年ほど前、中国貴州省にある洞窟の村を撮影にいきました。高さ約50m、幅約120mの洞窟で、その中に家々が並ぶ形で人々の集落が形成されていたんです。洞窟は南向きで、日中は奥深くまで日が差し込みます。貴州省は降水量が多く、山岳地帯で平地が少ないので、洞窟が一番快適な空間だったんですね。歴史上最後の洞窟村でしたが、残念ながら今は残っていないそうです。