特集

2024.10.01

マンション好き声優の村瀬歩さんと知る、建て替え・再開発の裏側

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マンションの間取りだけでなく、再開発や都市計画にも興味があるという声優の村瀬歩さん。長谷工の担当者に、「中の人」ならではの話をいろいろ聞いてみました。

村瀬歩さん

▲村瀬歩さん。1988年、アメリカ合衆国生まれ。2011年に声優デビュー。声の音域が広く、中性的な役や女性の役も演じる。代表作に『ハイキュー!!』(日向翔陽)、『魔入りました!入間くん』(鈴木入間)、『ひろがるスカイ!プリキュア』(夕凪ツバサ/キュアウィング)、『王様ランキング』(カゲ)など X:https://twitter.com/murase_pipipi

長谷工コーポレーション・小関淳さん(以下、小関):我々は村瀬さんの出演されている作品をよく見ていて、じつは村瀬さんのファンなんです。だから本当は、マンションの話ではなく、声優さんのお仕事について伺いたいくらいです。

 

村瀬歩さん(以下、村瀬):ええ、そうなんですか! うれしいです。マンション業界の「中の人」にそんなふうに言っていただけるなんて。

 

長谷工コーポレーション・菊池わかばさん(以下、菊池):そもそも、マンションにこんなに興味をもっていただいていることに、とても驚きました。

 

小関:私もインタビューを拝読して、村瀬さんは修繕積立金のことまで考えていらっしゃるのか、と感動しました。立地や価格、間取り、眺望なんかは皆さんまず見られると思いますが、マンションを購入した後の生活や維持・管理のことまで考えていらっしゃる方はあまり多くないと思います。プロに近い視点をお持ちだなと。

 

村瀬:もったいないお言葉です! 興味を持ち始めたのも数年前ですし、僕なんてマンションの知識ではまだまだ赤子みたいなものなので……。

小関淳さん、菊池わかばさん

▲株式会社長谷工コーポレーション 都市開発部門 建替・再開発事業部 マンション再生相談部の小関淳さん(写真中央)、菊池わかばさん(写真左)※所属先・肩書きは取材当時のもの

小関:マンションの維持管理ってすごく大事なんですよね。マンションは完成した瞬間から将来の課題をたくさん抱えます。快適な住環境を維持していくために、いつかは建て替えか長寿命化の選択を迫られることにもなります。その「いつか」に備えるためにも、修繕計画や住民同士のコミュニティといった管理の質が重要になってくるんです。

 

増え続ける日本のマンションストック戸数は約704万戸(国土交通省2023年12月末時点)、そのうち長谷工の分譲マンションの施工実績は71万戸超(長谷工総合研究所調べ2024年7月末時点)。約1割は長谷工のマンションであり、業界で断然トップの施工数です。

 

村瀬:すごい戸数ですね……!

 

小関:そうなんです。ですので、私たちは常にこの「購入したあとの課題」についても考え続けなければなりません。

 

長谷工は「住まいと暮らしの創造企業グループ」としてさまざまな事業を展開しているため、マンションの施工だけでなく、土地の取得や計画立案、近隣対応、行政協議、設計、施工、アフター対応から販売・管理・修繕まで一気通貫でやっています。一般的な建設会社はデベロッパーが立てた事業計画に基づいて入札し、工事を請け負いますが、長谷工は自ら仕入れた土地情報をもとに事業計画をコーディネートして、デベロッパーに対して提案営業をすることが主流です。

 

用地企画から行政協議、施工品質、日程管理、そして販売・管理・修繕まで、それぞれを担当するグループ会社があるため、そこで得たお客様のニーズを、また新しい計画にフィードバックできる事業体制になっているんです。

 

 

小関:私と菊池は建て替え・再開発を含む都市再生プロジェクトを担当する部署に所属しています。

 

村瀬:建て替えや再開発となると、権利者さんとの交渉から担当するんでしょうか?

 

小関:します。建て替え・再開発の場合は住民の皆さまのニーズに寄り添いながら、どんな住まいや都市空間に再生するのか一緒に考えることから始まり、多くの皆さまから合意を得ることを目指します。皆さまの合意がとれてから、やっと事業がスタートするんです。

 

菊池:権利者さんの中には、建て替え・再開発をしたくない方も当然いらっしゃいます。年齢や体力、経済的にと理由はさまざまですが、環境に変化が生じるのは不安ですからね。長谷工が顔を出すと喜ばない方もいらっしゃいます。

 

村瀬:えっ! 僕からしたら、こんなに素晴らしいお仕事はないのに。

 

菊池:そうした方々に、実施したらこんな建物・街ができてより良くなるという提案を行い、不安を少しでも減らす方法がないか模索し、再提案を続けて、建て替え・再開発への機運を高めていくんです。

 

村瀬:権利者さんなど関係者に計画を提案し、意見をもらったりするんですね。

 

菊池:そうですね。皆さまと一緒につくっていくイメージです。

小関淳さん、菊池わかばさん

 

村瀬:再開発といえば、僕が最近感動したのは「三田ガーデンヒルズ」のプロジェクトです。旧逓信省簡易保険局庁舎の跡地に14階建ての集合住宅を2棟建設するというもので、歴史的建造物だった旧逓信省の建物を生かした建て替えが行われるそうですね。タイルやステンドグラスを一つずつ外して再利用し、ファサードはもとの建物の雰囲気を生かした格式あるデザインにすると知って、歴史的建造物に敬意を払っているのだなと思いました。

 

菊池:元々あった建物のシンボルを住民の意見で残すのは、建て替え・再開発ならではのマンションづくりですね。長谷工が担当している再開発というと、白金一丁目の再開発事業があります。これが周辺の地図で……。

 

村瀬:ここ、「白金ザ・スカイ」だ! うわあ、テンション上がる!

村瀬歩さん

 

菊池:地図を見ただけで分かるのはさすがですね(笑)。本当は今日の鼎談も、「白金ザ・スカイ」で撮影できたらよかったんですけど。

 

村瀬:「白金ザ・スカイ」で撮影したら、興奮しすぎて鼻血が出ていたと思います(笑)。

 

小関:長谷工では再開発事業で「白金アエルシティ」の計画を担当しました。この辺りは町工場と住宅が混在するエリアで、長谷工が「この街はどうしたらもっと良くなるか」と考えて、建築物を計画しています。

 

村瀬:アエルシティとザ・スカイは少し離れていますよね。

 

菊池:そうですね。元々この辺り全体は、小関が言うように町工場と住宅とが混在するエリアで、建物の老朽化や空き地が目立つようになったことや、古川の水害など、それぞれの地区で抱える課題を解決するために再開発の検討をスタートし始めたんです。

 

小関:また、2000年に白金高輪駅ができたことで大きく変わっていったエリアでもあります。

 

 

村瀬:僕は街によって、マンションの共用施設が違っているのがおもしろいな、と思っているんです。例えば、ファミリーが多い街だとキッズルームや学童保育が敷地内にあったりしますよね。「リビオシティ文京小石川」は、近くにスーパーマーケットがないからか、1階にスーパーマーケットを誘致するとサイトに書いてあって「そんなパターンもあるんだ」と思いました。

村瀬歩さん

 

小関:時代や流行によっても共用施設は違いが出ますね。健康志向のひとが多いとフィットネスジムがあったりします。最近はコワーキングスペースを設置するマンションも多いです。あとはパーティールームやゲストルーム、本が置かれたラウンジなどを備えているマンションもあります。時代にあわせた省エネ・脱炭素といった環境対策や、地震や台風、豪雨に対する防災宅策も最近は特に重要視されています。

 

菊池:スーパーマーケットでいうと、近くにない場合は食料品店までシャトルバスを出すマンションもありますよ。

 

村瀬:シャトルバス! 「リビオタワー品川」のサイトで、品川駅までシャトルバスが出るという情報を見ました。こういう施策は行政が関係しているんですか?

 

菊池:シャトルバスはマンションの管理費内で運営するもので、行政は関係なくスケールメリットがあれば運行できます。

 

村瀬:100戸だと難しいけれど、800戸なら管理費から運行コストを捻出できる、と。なるほどなあ。

 

菊池:共用施設と同じように、建て替え・再開発だと街が抱える問題によって開発の内容も変わります。先ほどの白金での再開発だと、元々町工場が多かったので、再開発の中に町工場をどう組み込むかが考えるポイントになりました。常にその街に合ったアイデアを模索する必要があるので、同じ建て替え事業や再開発事業はひとつとしてありません。

 

 

小関:村瀬さんにお会いできると聞いて、お伝えしたいと思っていたことがありまして……建て替え・再開発って声優さんのお仕事に似てるんじゃないかと思うんです。

 

村瀬:ほう! その心は?

 

小関:漫画原作のアニメだったら、漫画がアニメという違うメディアの作品に生まれ変わるわけですよね。元の良さを活かしつつ新しいものを創り出していくところが、建て替え・再開発みたいだなと。都市計画や建築計画を立てた上で、権利者やデベロッパーなどさまざまな関係者の意見を聞いて、「マンションの未来」や「住民のこれから先の人生」を考え、みんなが良いと思える方向に向かっていくところも、夢があるアニメの作品づくりに近いんじゃないか……なんて、やや強引でしたかね(笑)。

 

村瀬:いや、たしかにそうかもしれません。アニメ制作では、僕が権利者で、製作委員会や原作者の方がデベロッパーという時もあれば、原作者が権利者という場合もある気がします。作品によって関係性は変わるけれど、たくさんのひとが関わって、意見をすり合わせながら良いものをつくっていこうとする点では共通していると思います。

 

その中で、誰かの「こうしたらどうか」といった提案が出て、現場の雰囲気や出来上がった作品がガラッと変わることがあるんです。制作現場で起こる人間同士の化学反応っておもしろいなと思っています。

 

菊池:マンションづくり、建て替え・再開発でもそうした化学反応があるんですよ。

 

小関:ひと次第という部分がありますよね。時間もかかるし、スムーズにはいかないけれど、多くのひとが協力しあって建て替え・再開発に関わり、街の特性に合わせて「ここがもしこう変わったら、もっと良くなるのではないか」という気づきを得て、創造していくものなんです。新しい街のカタチを提案し、快適な暮らし・コミュニティを創造するお手伝いができる。ここが、私たちが建て替え・再開発に関わっていておもしろいと感じるポイントです。

 

菊池:関わっている方々の想いを大切にして、協力しながら街の再生・建物の再生を進めていく。それが結果的に街の未来と関わった方の幸せや利益につながると思いながら、日々の仕事をしています。

 

小関:高度経済成長期はとにかくたくさんのマンションを建てれば良かったけれど、今はそういう時代ではありません。人口が減少し、空き家も増える中で、本当に生活者のニーズに合っているマンションを造っていかなければ、選ばれないと思うんです。だからこそ、村瀬さんのようなマンションに強い関心を持ってくださっている方々の声に耳を傾けるべき。そういった方々が積極的に発信してくださることで、供給側もニーズを取り入れる流れができるのではないでしょうか。

 

村瀬:じゃあもっと好きなところを言っていこう。ワイドスパン! アウトフレーム工法!(笑)

 

小関:建設費用を抑えつつ住むひとファーストでどこまでやれるかが、設計や施工の腕の見せどころですね。毎日の生活の場である住まいは暮らしの根幹となるもの。皆さんが快適に安心して住めるように、持続可能なマンション再生を促進していくことが、マンションメーカーである長谷工の使命だと思っています。

 

村瀬:かっこいい! しびれるなあ。マンションの話って本当に楽しいですね。あと3時間くらい話していたかったです。声優をしていて、こんなにマンションの専門的なお話を聞ける機会があるなんて思わなかったなあ。ごほうびみたいな時間でした。

 

 

[あわせて読みたい]「マンションにはまってQOLが上がった」村瀬歩さん流のマンションの楽しみ方

 

 

取材・文:崎谷実穂 撮影:清水純一
撮影場所協力:長谷工不動産「PLAY江古田」

 

WRITER

崎谷 実穂
ライター。書籍のライティングを中心に活動する傍ら、ウェブメディア・雑誌などでビジネスや教育に関する取材記事を執筆している。アニメ・声優関連もいくらか詳しい。

X:@yaiask

おまけのQ&A

Q.アニメ制作で「権利者」である場合、どんなタイプだと思いますか?
A.僕は事前に自分なりの演技プランを立てていき、アフレコの時に監督から要望があれば、それに合わせて変えていくスタイルです。権利者でいえば、自分なりの考えはありつつも、関係者と合意できる妥協点を探るタイプ、といえるでしょうか。声優の中には、いるだけで現場の空気を変えてしまうようなスタープレイヤーもいます。そういう方は演技プランも確固たるものがあって、周りがそれに合わせて演技する。きっと権利者の中にも「これは譲れない」と、自分の意見を通すタイプの人がいるかもしれませんね。