特集

2025.03.27

ディスポーザーとは? 掃除・交換・使い方を「専門家」に聞いてみた

  • XX
  • facebookfacebook
  • BingBing
  • LINELINE

マンションの中でもとりわけ人気の高い設備、ディスポーザー。「ディスポーザーマニア」としてSNSやブログで情報発信しているフロム工業の武田拓真さんに、仕組みや種類、歴史について聞きました。

――ディスポーザーは、どのような仕組みで生ごみを破砕するのでしょうか?

 

武田拓真さん(以下、武田):モーターが回転することで、生ごみを砕いて流すというのが基本的な仕組みですが、破砕方法には3つの種類があります。1つは「ハンマーミル方式」と呼ばれるもので、回転刃の両端のハンマーの遠心力で固定刃に生ごみを打ち付けて破砕します。ハンマーミル方式は、破砕力が高いというのが特長です。

 

2つ目の「チェーンミル方式」は、ハンマーではなくチェーンで破砕します。噛み込みが起こりにくいというメリットがありますが、破砕力が弱いというのが欠点です。そして3つ目の「ブレードミル方式」は、回転ブレードと固定ブレード間で破砕し、破砕部が丸ごと取外して清掃できるというメリットがありますが、この方式も破砕力が弱いというのが欠点です。破砕方式は、メーカーによって異なります。破砕方式は、メーカーによって異なります。

▲ディスポーザーの破砕方法は「ハンマーミル方式」「チェーンミル方式」「ブレードミル方式」の3つ。破砕方法はメーカーによって異なる

――ディスポーザーが付いていないマンションには後付けできないのでしょうか?

 

武田:基本的には後付けできません。これは自治体の条例が影響しています。ディスポーザーの単体使用、つまり下水道への直接放流は、ほとんどの自治体で認められていません。そのため、ディスポーザーが使用できるマンションには「ディスポーザー排水処理システム」として導入されています。

 

ディスポーザー排水処理システムは、ディスポーザー・専用排水管・排水処理槽で構成されます。台所排水が地下の処理槽に行き、微生物分解によって浄化された後に公共下水に流れるという仕組みです。排水処理システムの導入はマンションの計画段階で決まるため、このシステムがないマンションは基本的にディスポーザーの後付けができないということになります。

▲各住戸で破砕された生ごみは、専用の排水管を通って処理槽(浄化槽のようなもの)に行き、微生物によって浄化された水が公共下水道管に流れる

――ディスポーザーの適切な使用方法を教えてください。

 

武田:ディスポーザーは、水と一緒に生ごみを細かく破砕して流すので、運転中は必ず水を流す必要があります。運転時の水量は、親指の太さの水量(8L /分以上)が推奨されています。ディスポーザの運転時間は製品によって異なりますが30秒~60秒程度で、その間はお水を流してください。あとは、投入してはいけないものがあるということですね。どの製品であっても、残飯や野菜くずはもちろん、魚や鳥の骨くらいの固さのものは破砕可能です。一方、繊維質が強いタマネギや枝豆の皮は破砕されないばかりか、配管を詰まらせる可能性があるため、投入は避けたほうがいいでしょう。多量の卵の殻や貝類など比重が重いものも配管内に堆積するおそれがあるため、こちらも避けるのが無難です。

 

ただ、破砕できるものについてはメーカーによっても多少変わってきます。フロム工業のディスポーザーは破砕力、排出力が強いので、タマネギや枝豆の皮を投入していただいても問題ありません。ただし、弊社の製品でも「髪の毛」はNGです。キッチンで洗髪したり、髪を切ったりする方も多いようですが、髪の毛がモーターの軸に絡まってしまうと異音や漏水などの原因になってしまいます。

 

また、強酸性、強アルカリ性の洗剤の大量使用も避けたほうがいいでしょう。これは、処理槽の微生物が死滅し、浄化機能が低下してしまうおそれがあるためです。お手入れは、基本的に投入口を食器用洗剤で洗う程度で良いと思います。お湯(水栓からでる温度)を流しながら運転すると油分が分解されて汚れが付着しにくくなるのでお湯運転はおすすめです。(※60度以上のお湯は排水管が変形する可能性があるので、流さないようにご注意ください)

▲ディスポーザーのシンク下部分

――ディスポーザーの歴史を教えてください。

 

武田:ディスポーザーの歴史は古く、1927年に米国で誕生しました。当時から下水道が整備されていた米国では当たり前に普及し、一般家庭の約6割にディスポーザーが導入されているといいます(ディスポーザーマニア調べ)。

 

ディスポーザーが日本に入ってきたのは、1960年頃のことです。当時の日本では下水道が普及しておらず、合併浄化槽も義務付けられていなかったため、台所排水は側溝を経由して一部の河川にそのまま放流されていました。この状況でディスポーザーが米国から入ってきたため、破砕された生ごみが側溝で腐敗したり、河川に放流されてしまったりしたことから、各自治体にディスポーザーの使用自粛要請が下ったという歴史があります。

 

この状況が打開されたのが、ディスポーザー排水処理システムの導入です。同システムが初めて分譲マンションに導入されたのは、1996年のことです。

 

 

――ディスポーザーがマンションに導入できるようになってから、まだ30年弱ということですね。現在は全国的にディスポーザーの導入は見られているのでしょうか?

 

武田:現在、ディスポーザーの年間生産台数は7万台程度と推測していますが、その約7割が関東に集中しています。とはいえ、関東の新築マンションもディスポーザーが導入されている物件は3割程度。地方では1割にも満たないのではないでしょうか。

 

やはり処理槽などの仕組みを導入するとなると費用がかかるため、それだけ分譲価格や管理費が上がってしまいます。大規模のマンションでなければ採算が取りにくいことから、ディスポーザーは、タワーマンションなど規模の大きいマンションに導入されていることが多いというのが現状です。

 

 

――ディスポーザーの導入が一部のマンションに限られるのは、やはり排水処理システムを要することが大きいのでしょうか?

 

武田:そうですね。米国では下水への直接放流が認められているため、ホームセンターでもディスポーザーが販売されていて、主婦の方でもDIYで簡単に取り付けられるようになっていると聞きます。日本でも一部の自治体は直接投入型のディスポーザーの導入を認めていますが、全国の自治体約1700の中、その数はわずか30ほどです。こうした自治体では、処理槽のないマンションも一戸建ても、所有者の一存でディスポーザーを導入できます。

 

やはり生ごみは水分を多く含んでいるため、ごみ出しも大変で、焼却効率も悪いという特性があります。環境にも決して良いとはいえません。中には、補助金を出してまでディスポーザーの設置を推奨している自治体もあるほどです。

 

まだまだ数は多くありませんが、直接投入型のディスポーザー導入を認める自治体も増えつつあります。2024年には日本下水道協会で、直接投入型ディスポーザーの規格が制定されました。これにより、自治体は直接投入型ディスポーザーの導入を認めやすくなると思います。

▲直接投入型のディスポーザーの導入を認めている自治体は現在約30と限定的だが、増加傾向にあるという

――新築時は分譲会社がディスポーザーの機種を決めているため選ぶことはできないと思いますが、交換時には好きな機種を選べるのでしょうか?

 

武田:従来、ディスポーザーの交換は既設と同一製品というルールがありました。しかし、すでに倒産・撤退したメーカーもあり、同一製品へ交換することが難しいケースが増えてきたこともあって、東京都23区では2018年4月から日本下水道協会の認証品であれば届出不要で自由に製品を選べるようになりました。

 

ただ、マンションの管理規約や使用細則によって、交換できる機種が定められていることもあるため事前の確認が必要です。

 

 

――耐用年数はどれくらいですか?

 

武田:ディスポーザーの耐用年数は、一般的に10年前後です。現在、年間生産台数の約半数は新築設備として、そして半数は交換用として出回っています。

 

 

――ディスポーザーの交換で機種を選ぶ際には、どのような点を見ればいいですか?

 

武田:日本下水道協会の規格適合評価および製品認証を取得しているのは、現行製品としては「テラル」「安永エアポンプ」「ニッコー」「マックス」と、弊社「フロム工業」の5メーカーだけです。

 

5つのメーカーは、冒頭で申し上げた破砕方法や機能面に違いがあります。破砕方法は、テラル、安永エアポンプ、フロム工業が「ハンマーミル方式」、ニッコーが「チェーンミル方式」、マックスが「ブレードミル方式」です。

 

弊社の製品の特徴でいえば、生ごみの処理を検知して自動で停止する機能が搭載されています。多くの製品はスイッチを入れて60秒で停止するようになっていますが、生ごみの処理が終わった段階で停止すれば省水、省エネになります。

 

交換機種を選ぶ際には、まず現状の課題を整理してみると良いと思います。たとえば、よく詰まるようであれば、破砕力、排出力が強い製品が良いでしょうし、丸洗いしたいのであればブレードミル方式が適しているでしょう。

▲日本下水道協会認定のメーカーは5つ(現行製品)

――「ディスポーザーマニア」として発信している理由は?

 

武田:ディスポーザーはこれまで守られた市場でした。交換時も新築時に導入されているメーカーの製品を選ばざるを得ませんでしたが、ここに来てようやく自由化となりました。まだあまり認知されていませんが、メーカーによってディスポーザーの仕組みや機能は異なります。こうしたことを知ってもらいたくて「ディスポーザーマニア」として、X(旧Twitter)やブログなどでコツコツと発信しているということもあります。

 

 

――ディスポーザーは今後、普及していくのでしょうか?

 

ディスポーザーの仕組み自体は、戦前から米国で利用されていたことから分かるように、非常にシンプルなものです。あとは、条例だけだと思います。日本には下水が普及していなかった時代に入ってきてしまったために悪いイメージがあるのでしょうが、直接投入型の導入を認めた自治体では、ディスポーザーのネガティブな要素とされる「下水道本管が詰まる」「下水処理場がパンクする」といったことは起きていません。

 

2021年に直接投入型ディスポーザーの社会実験を実施したある福岡県中間市では、ディスポーザーを利用することで1人当たり月に7㎏のごみが削減できることがわかりました。同市はごみの焼却1トン当たり2万2,000円の費用がかかっているといいますが、仮に5万人の人口のうち1万人がディスポーザーを利用すれば年間840トンのごみが削減でき、1,300万円の行政コスト削減になると試算されています。(参考:中間市環境上下水道部下水道課 直接投入型ディスポーザ社会実験に係る評価 報告書

 

ディスポーザーは、自治体にとっても地球にとっても、メリットが高いといえると思います。

 

一方、自炊しない方にとっては無用の長物です。現在、マンションは0か100かの二択しかありません。ディスポーザー排水処理システムが備わっているマンションは、たとえ利用しなかったとしてもディスポーザーの導入が義務づけられていることもあります。自治体の条例改定が進んだ上で「使いたい人は使う」「使わない人は使わない」という自由な選択ができるようになればいいですよね。

▲武田拓真さん。フロム工業 技術部 HDクリエイティブデザイナー。フロム工業は、1983年に尾畑宇喜雄(現・代表取締役会長)が創業し、アメリカ発のディスポーザーを日本の食文化に適応させるため、製品改良を重ねてきた国内唯一のディスポーザー総合メーカーです。ディスポーザーマニアとしても活動。X:@MBlperson

 

 

取材・文:亀梨奈美

 

WRITER

亀梨 奈美
不動産ジャーナリスト。不動産専門誌の記者として活動しながら、不動産会社や銀行、出版社メディアへ多数寄稿。不動産ジャンル書籍の執筆協力なども行う。

X:@namikamenashi

おまけのQ&A

Q.SNSやブログで発信活動をされて、どのような反響がありましたか?
A.武田:Xで「ディスポーザーを交換したい」とDMをいただくことも少なくありません。ディスポーザーの専門家は多くないでしょうからね。Xやブログがディスポーザーの仕組みや性能の違いを理解していただけるきっかけのひとつになっているので、コツコツ発信を続けてきて良かったと思っています!