お笑い芸人であり、ごみ清掃員でもあるマシンガンズ滝沢秀一さん。マンションのごみ集積所が汚くなってしまう原因や、住人全体のマナーを改善するポイントを伺いました。
取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:ホリバトシタカ
お笑い芸人であり、ごみ清掃員でもあるマシンガンズ滝沢秀一さん。マンションのごみ集積所が汚くなってしまう原因や、住人全体のマナーを改善するポイントを伺いました。
取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:ホリバトシタカ
――滝沢さんはごみ清掃員のお仕事を通じて、さまざまなマンションのごみ集積所で収集作業にあたってこられたと思います。清掃員として、ごみを収集しやすいのはどんなタイプの集積所ですか?
滝沢:集積所の機能やレイアウトという点では、どのマンションも大きな違いはありません。ですから集積所そのもののタイプというよりも、やはりきちんと分別がなされ、きれいに使われていることが一番ですね。マンションって両極端なんですよ。きれいなところはいつまでもきれいだし、汚いところはどんどん汚くなっていく。ごみがごみを呼んで、汚さがエスカレートしていくんですよね。
▲滝沢秀一さん。お笑いコンビ「マシンガンズ」のツッコミ担当。2023年『THE SECOND 〜漫才トーナメント〜』準優勝。2012年からはごみ収集会社の収集作業員としても働き始め、現在も芸人と兼業。『このゴミは収集できません』『ゴミ清掃員の日常』など、ごみに関する著作も多数
――滝沢さんのTwitterにも、かなりひどい状態の集積所の写真が載っていました。
滝沢:でも、あれはまだ公開してもギリギリ大丈夫なやつで、本当に閲覧注意な状態の集積所もありますからね。写真を見るだけで不快になるレベルのところ。さすがに、そういうのはツイートできないから。
ひどいところになると、瓶や缶を入れる資源回収ボックスに、普通にごみを入れてしまっている。マンションの集積所って、ごみや資源の種類ごとに置くスペースが分かれているじゃないですか。でも、それが守られずにカオスになっているんです。
一度、住人の方が集積所の入り口から奥の回収箱にペットボトルを投げ入れているのを目撃したことがあります。集積所があまりにも汚いから、奥まで入りたくなかったんでしょうね。うまく回収箱に入らず、床に落ちても拾ってくれない。そうやって、ますますひどい状態になっていくという。
――自分自身はルールを守っていても、他の住人のモラルが低いとマンション全体のごみ出しマナーが疑われてしまいますよね。
滝沢:じつは、僕が住んでいるマンションの集積所も、以前はあまりきれいではなくて。分別もいい加減で、ペットボトルのラベルも剥がしていないし、キャップも外していない人が多かった。どうすれば改善できるかなと考えて、ちょっと実験をしてみることにしました。ラベルやキャップがそのままになったペットボトルを見つけたら、僕がひたすら外すようにしたんです。
――それはごみ清掃員のお仕事ではなく、完全にボランティアですよね?
滝沢:そうです。半年くらい、ひたすら続けました。そしたら、そのうちみんなラベルとキャップを外して出してくれるようになったんです。人って見本があると、ちゃんとやるようになるんだなと思いましたね。同時に、誰かが出したごみは他の人にも影響を与えることを改めて感じました。
――他の住人のごみ出しマナーが気になっていても、直接注意するのは勇気が要りますし、トラブルに発展しかねません。見本を示して改善を促すというのは、良いアプローチかもしれませんね。
滝沢:童話の『北風と太陽』じゃないけど、そういうやり方もありなのかなと思います。なかには、ルール違反を咎める張り紙だらけの集積所もあるんですよ。かなり激しい言葉で書かれているケースもあるんだけど、あまり効果はない気がします。それに、そういう張り紙だらけのマンションに住みたいと思う人は少ないと思うから、資産価値みたいなものにも影響しちゃうんじゃないのかな。
▲怪我防止のためにも手袋はマスト。100均で購入したもので、特にこだわりはないそう。
――マンションだけでなく地域の集積所も含めて、滝沢さんが良いと感じた取り組みがあれば教えてください。
滝沢:奈良県生駒市のあるごみ集積所で、椅子を置いたら、ごみ出しに来た人がそこに座るようになって、同じくごみ出しに来た人と世間話をするようになったそうです。そのうち「どうせ集まったんだから」と、そこでコーヒーを淹れて飲み始めたり、DIYでその場所に置く机をつくる人が現れたり。いろいろなコミュニケーションが生まれ始めた。常に人がいるようになって、だったらそこにリユース品を置いて、きちんと分別してくれた人に渡したり、おじいちゃんが子どもに分別の仕方を教えたり。どんどん発展していったと。
――ごみ出しが地域コミュニティの活性化につながっていますね。
滝沢:そうやってお互いの顔が見える関係になると、ごみ出しのマナーって格段に良くなるんですよ。やっぱり知っている人の目があると、下手なことはできないじゃないですか。結果的に、みんなが分別のルールを守るようになり、集積所自体もきれいに保たれる。
――マンションでいえば、普段から住人同士の交流があり、お互いの顔が見えるコミュニティが築かれていれば、自然とマナーもよくなるかもしれませんね。
滝沢:それはあると思います。あとは、やっぱりごみってどこか人任せみたいなところがあって、多少ルール違反でも集積所にさえ放り込めば「どこかの誰か」が何とかしてくれるだろうって思ってしまいがちなんですよね。でも、そこには分別されていないごみを仕分ける管理人さんがいたり、収集する清掃員がいたりするわけです。そういう人たちの存在を認識することで、少しは意識も変わるかもしれません。実際、コロナ禍でエッセンシャルワーカーの存在がクローズアップされたときには、清掃員に温かい声をかけてくれる人も増えましたからね。
――他にも、集積所関連で参考になる事例はありますか?
滝沢:和歌山県のとある自治体で、地域ごとの集積所をなくしたケースがありましたね。その代わり大きな資源ステーションを設けて、直接そこへ持ち込んでもらうようにした。するとやっぱり面倒なので、なかなか頻繁にはごみを出せなくなるんですよね。ある程度、まとまった量になってからステーションへ持っていくようになる。そしたら、どうなったと思います?
――どうなったんですか?
滝沢:缶やペットボトルの中身を、きちんと洗い流してから持ち込んでくれる人が増えたそうです。要するに、みんな家に長く置いておくから、においが出ないようにきれいにするんですよ。
ちなみに、それまでに持ち込まれていた瓶・缶などの多くは業者にお金を払い、ごみとして処理をしてもらっていたのですが、きれいに収集されるようになってからは「資源」として売れるようになって、200万円くらいの利益が出たらしいです。
――すごい。本当に一人ひとりのちょっとした心がけで、ごみになるか資源になるかが変わってくるんですね。
滝沢:そうですね。だから、僕はそろそろ「ごみ集積所」っていう名前自体も変えたほうがいいと思うんですよ。たとえば、自動販売機の横にある空き缶・ペットボトル入れも、今は「ごみ箱」じゃなくて「リサイクルBOX」と呼んだりするじゃないですか。ごみ箱っていうと、みんなあそこに空き缶以外のものも捨ててしまうんですよ。そういうちょっとしたことで、人の意識って変わりますからね。
――それは本当に大事なことですね。マンションでも「ごみ集積所」ではなく「リサイクルセンター」みたいな名前に変更するなど、ちょっとしたところから始めてみるといいかもしれません。
滝沢:賛成です。それで最初は少人数でも意識が変わってマナーが改善されていけば、他人のふりみて自分も改める人が増えていくんじゃないかと。先ほど、ごみがごみを呼んで汚さがエスカレートしていくと言いましたが、逆にきれいになればみんな汚すことを躊躇うようになり、ますますきれいになっていくと思いますよ。