「ブランシエラ東京三ノ輪」で働く長谷工コミュニティの永井宣之さんは、ここでライフマネージャーとして勤務し3年目。どんな仕事をしているのか、どんな思いでマンションを見守っているのかお話を伺いました。
社会との接点を求めて選んだライフマネージャーという仕事
——永井さんはいつからライフマネージャーとして働かれているのでしょう。
永井:始めて、ちょうど3年になります。それ以前は商社で営業職を40年間務めていました。その会社を65歳で退職してからも、まだ世の中と接していたいということでライフマネージャーの仕事に就くことに。人と接するのが好きだし、家でじっとしているのがあまり得意ではないので、体を動かして働くライフマネージャーの仕事は合っていると思います。
——ライフマネージャーとは、どんなお仕事ですか?
永井:単なる受付や清掃だけではなく、長谷工コミュニティのマンション担当フロントと居住者や管理組合役員とのパイプ役としてコミュニケーションを図ることや、スケジュール管理などを担当します。
もちろん居住者からの相談対応や設備点検・定期清掃等協力会社との日程調整からマンション内の掲示まで、日常的にマンション運営がスムーズに進むようさまざまな業務を行います。工事による停電・断水などがあれば確実に居住者へ掲示にてご案内します。

▲株式会社長谷工コミュニティ ライフマネージャー 永井宣之さん。商社を退職後に長谷工コミュニティに入社し、現在はブランシエラ東京三ノ輪でライフマネージャーを務める。※所属先・肩書きは取材当時のもの
——他社のマンション管理会社と違うところはありますか?
永井:他社で働いたことがないので単純な比較はできないのですが、長谷工コミュニティでは管理組合の文書管理なども研修で教わります。居住者から申し込まれた提出書類も、管理員事務室で一旦受け付けて、必要な部門と連携して対応します。他のマンション管理会社では「駐車場を申し込みたい」「駐輪場の区画を変更したい」となると、コールセンターに電話してくださいと言われることもあるようなのですが、長谷工コミュニティではマンションに常駐しているライフマネージャーがいる場合は対応します。
文書管理においては原本管理もこちらでやっていますから、何か聞かれたときも、資料を確認して「前回は、こうでしたよ」とか「こういう資料を出してください」などと素早く対応できます。ワンストップでいろいろ対応できるので、居住者のストレス軽減に繋がっていると感じます。
朝7時半始動! ライフマネージャーの一日
——平均的な一日はどのように過ごされますか?
永井:やることは大きく分けて3つです。まず朝一番にごみ出しがあります。こちらのごみ収集時間は7時半から8時の間なので、間に合うようにごみ置場から収集所へ持っていく。そして、ごみ出し後にごみ置場を清掃します。これで大体1時間半くらいかかります。
勤務時間はマンションによって違いますが、こちらのマンションは7時半から15時半となっています。ごみ収集時間が8時と早いので、7時半には作業を始めないと間に合わないため、他マンションより勤務開始が早いかもしれません。その後、外観点検のための巡回と館内清掃をして、それが大体12時くらいまで続きます。
12時から13時まで休憩で、午後からはマンション担当フロントとの連絡報告やレポート作成、提出する資料があれば、その対応をします。最後の1時間はもう一度、館内を巡回して日報を書いて終わりです。その合間に修繕やリフォームなどの施工業者の訪問があれば、立会や共用部の鍵の貸し出しなども対応します。

▲整ったごみ置き場から普段の管理体制がうかがえる
——巡回ではどういうところを見ていますか?
永井:巡回業務では、何か異変がないかチェックします。基本的には館内や敷地全体を歩きながら、たとえば電球が切れていないか、共用設備から変な音がしないかなど、感覚的なもので確認します。エレベーターが正常に動いているかもチェックします。
毎日、見ていると異変にはすぐ気づけるようになります。始めた頃は一生懸命、目視しましたが、慣れてくると自然といつもと違う箇所が分かるようになります。
異変を感じても、設備が故障しているのか、それとも整備の問題なのか分からないこともあります。気がついたことがあればマンション担当フロントに連絡して「ここの動きが悪い」「調子が悪そうだ」と伝え、専門業者に見てもらうように手配していただく。それが巡回の目的ですね。
——ごみ収集作業はかなり大変そうです。
永井:結構大変です(笑)。ごみ置き場から収集場所までは距離があるので台車を使います。60世帯分のごみですから、台車に積んで5、6回は往復します。年末年始は特に量が多くて、大変ですね。
——勤務体系はどのようになっていますか?
永井:今は水曜日と日曜日が休みで、あと火曜日が隔週で休みです。ごみ収集のスケジュールに合わせています。
3月は居住者の入れ替わりがあって忙しくなります。夏は暑くて巡回すると全身汗だくになります。
マンションの高齢化にどう向き合う? ライフマネージャーの視点
——最近のマンション業界では住民の高齢化や空き家の問題が取り上げられていますが、そういったことを感じることはありますか?
永井:ブランシエラ東京三ノ輪は2017年竣工とまだ新しく、居住者も30代から40代くらいの方が中心です。小さいお子さんがいらっしゃるご家庭が多く、高齢化を感じることはありません。
やはり建物が古くなってくると修繕費がかさんできます。その上で、居住者が高齢になると年金収入が中心になっていて管理費の値上げに抵抗感が出てくる。理事会も高齢化してきて、意思決定が難しくなるといったことを聞いたことがあります。そうなってくると、ライフマネージャーもいつも以上に建物の状態などを早めに見極めて、予防的な対応を促すことが必要かもしれません。

▲ご自宅の清掃は家族に任せきりだったが、今ではモップかけも得意になったそう
——高齢の居住者に対してライフマネージャーはどのように接していますか?
永井:高齢の方に限らず、何か相談を受けたときは明るく誠実に応じていくことを心がけています。中でも、特に年配の方は変化に注視するようにしています。しばらく顔が見えないと「大丈夫かな」と気にかけたり、周りの人にも「○○さん、顔を見ないけどどうですか?」と聞いてみたりします。
同じマンションに長く住まれた方は、ここで最期を迎えたいと思う方も多いでしょう。我々ができることは、それほど多くはありませんが、快適に過ごしていただこうと意識することが大切だと思っています。
——最近の傾向として、リモートワークの増加などで日中家にいる人が増えていると思いますが影響はありますか?
永井:他のマンションではリモートワークの増加で、日中の騒音が問題になることもあるようです。リフォーム工事や修繕工事の際にも、気をつけることが多くなったと聞きます。
——災害などへの備えも大切です。
永井:研修でも防災対策はとても重要な項目でした。管理員事務室にはハザードマップや避難場所の地図も置いてあり、確認しています。このマンションの場合は、まずはマンション内にとどまり、安全を確保した後に避難するという対応になります。会社では南海トラフ地震等、大規模災害が発生した場合の行動指針も制定されており何かあったときの行動は常に意識しています。
実習を交え仕事を学べる長谷工技術研修センター
——3年前に全くの他業種からライフマネージャーになられましたが、戸惑いはありませんでしたか。
永井:まず、長谷工技術研修センターでしっかり研修を受けました。建物の構造など「マンションとは何か?」から始まり、マンションに必要な設備の知識、清掃のやり方、立ち振る舞いやマナーなど一通り学びます。
長谷工技術研修センターでは、マンション設備の機器に触れることができ、それを使った実地研修も受けます。たとえば消防設備では実際にベルを鳴らす、止めるという体験ができます。消火器も実際に噴射しましたし、清掃指導員から日常清掃の方法を学ぶことができます。マンションの構造にある免震装置も見られるような設備があって、普段は見ることができない設備も確認できます。
かなり充実した研修で、掃除だけでも半日以上かけてやりますし、モップのかけ方なども全員が実際にやりますからね。私のように全然マンションに住んだことのない人間でも、研修でかなり自信が持てるようになりました。

▲丁寧な対応で住民からの信頼も厚い。営業マン時代に培ったビジネスマナーが活きている
——管理業務の効率化も必要になっていますね。デジタル化などが進んでいると聞いています。
永井:元々は全部を紙でやりとりしていたようですが、デジタル化、データ化が進んでいます。長谷工コミュニティにはマンション専用のポータルサイト「素敵ネット」があり、紙のやりとりがなくてもさまざまな情報にアクセスでき、施設予約、各種申請ができます。管理規約や総会の議事録なども素敵ネットで確認できます。
——女性のライフマネージャーもいますか。
永井:女性は全体の10%くらいと聞いています。女性ならではの細かい気配りも活かせ、問題なく働ける職種ですから、これからもっと増えていくかもしれません。
巡回で階段の上り下りが多いので、一日1万歩くらい歩きます。足腰が丈夫になるかもしれません。清掃が嫌いでなければ、なおさらおすすめできる仕事だと思います。
——同年代の方へのメッセージはありますか?
永井:同年代に言いたいことは働けるうちは働いた方が楽しいよ、ということでしょうか。 私は、体の調子が悪くなければ長く働きたいと考えています。
ライフマネージャーになって良かったことは、社会と接点ができることです。
社会貢献につながり、自分らしく楽しく過ごせればシニアの生活も充実します。
——ライフマネージャーとしてうれしかったことは?
永井:やはり、居住者の方から「ありがとう」と声をかけられたときですね。何か手伝ったり、対応したりした後に感謝の言葉をいただくと、本当にこの仕事をやっていて良かったと思います。「いつもマンションをきれいにしてくれてありがとう」と言ってくださるとうれしいですね。
取材・文:小野悠史 撮影:ホリバトシタカ
WRITER
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。X:@kenpitz
おまけのQ&A
- Q.ライフマネージャーの仕事中に起きた印象的な事件は?
- A.永井:以前のマンションでは防犯カメラを見せてほしいと刑事さんが訪ねてこられたことがあります。目の前の道路で何か犯罪があったようです。でも、私が勝手に判断できないので、管理組合に連絡するだけでしたね。ドラマでは刑事立会いのもと管理人がマスターキーを使って犯人宅の鍵を開けるシーンがありますが、実際には我々は鍵を持っていませんから、あれはできません。刑事ドラマを見る度に少し気になります(笑)。