どんな家、どんな街に住むと“いいアイデア” が生まれるのか? 佐久間さん流のノウハウを伺いました。
会社員時代は仕事と生活の場を分けて発想を得ていた
――若手の時はどんな家に住んでいたのでしょうか?
佐久間宣行さん(以下、佐久間):テレビ東京のADだった頃は、編集所の近くに住んでいました。南麻布の四ノ橋付近ですね。当時は白金高輪駅がなかったので広尾駅まで徒歩15分くらいの場所。そこに家賃8万円くらいの部屋があったんですよ。今思うと、若手時代にあそこに住めたのは大きかったです。
――編集所が近いからですか?
佐久間:それもあるんですけど、業界の匂いがしないところも気に入ってました。僕は仕事と生活は切り離したいタイプなんです。業界の人は中目黒とか六本木に住みたがるんですけど、そうなると仕事と生活が混同してしまう。
当時住んでいた四ノ橋には、昔ながらの商店街があったんです。おじいちゃんとかおばあちゃんが歩いているような街でした。休日はその商店街でもつ焼きを食べながらのんびり過ごす。心の平静を保てたのは、仕事と生活を切り離していたからだと思います。それでいて編集所が近かったので仕事はしやすい。最高の環境でしたね。
若手に戻れるなら「おもしろい場所」に住みたい
――佐久間さんが今テレビ東京に入社したての若手だったら、どんな場所に住みますか?
佐久間:今の時代はリモートで仕事ができるので、仕事場が近いという基準では選ばないかもしれません。谷根千(谷中・根津・千駄木)とか、おもしろそうな場所に住むと思います。
この前も先輩に谷根千エリアの焼き鳥屋に連れてってもらったんですよ。路地裏にあるような雰囲気の店。そこがまぁうまかった。都心には近いんだけど、ローカルな商店街やレトロな建物が多い。そんなおもしろい街に住みたいですね。
――やはり「おもしろさ」を盛り込むんですね。
佐久間:生活の中に「おもしろさ」があることは大事だと思っています。そっちの方がフレッシュでいられるからです。たとえば何か新しい企画を考えている時、「新しいもの……新しいもの……」と考えてもなかなか思い浮かびません。
でも生活の中におもしろいことが溢れていたら自然と見つかります。わざわざ探さなくても「そういえばこんなおもしろい店あったな」「商店街にこんなおもしろい人がいたな」みたいに。そういう企画のタネみたいなものが、おもしろい街には多い気がします。
「自分らしさ」の基盤は好きな場所、好きなことにあり
――「休日も仕事にどっぷり」というイメージがあったので、仕事と生活を切り離すという話は意外でした。
佐久間:仕事と関係なく自分が好きな「場所」や「時間」があると、個性になりやすいと思います。ADさんによく言うんですけど、僕らのようにバラエティ番組を作っている人間が「芸人さん大好き」とか「お笑い大好き」というのは、アイドルが「笑顔が特技です」と言っているようなものだと思うんですよ。
それは当然のことなので個性にはならない。だから自分なりの何かを掛け合わせる必要があると思います。それが生まれるのは仕事と切り離した自分だけの「場所」や「時間」かなと。たとえば僕なら、映画や舞台、小説や漫画などですね。学生時代からエンタメを見続けているので、それは僕の個性につながっていると思います。
――積み重ねが個性になっていくんですね。
佐久間:僕の場合は30代で娘が生まれたことも大きかったです。この業界は結婚が遅めの人が多いので、30代で子どもがいるのは結構珍しかったんですよ。業界の人とは違う生活を送っていたのは僕の個性になりました。たとえば娘を幼稚園に送ったり、お弁当を作ったりという経験。その結果、得たものは大きいです。
たとえば『ピラメキーノ』という子ども向けの番組は娘がいたからできた番組です。親の視点で「子どもを子ども扱いしない番組を作りたいな」と思ったのは、娘を見ていたからですね。
アイデアメモをストックしておく
――企画づくりのために普段からメモなどはされているのでしょうか?
佐久間:気になることがあったら1行ぐらいのアイデアメモを残しておきます。昔はメモ帳に書いてましたが、今は自分宛てにLINEを送ることが多いです。それを後日、他人が見ても分かるように2行くらいに要約します。たとえば『君の名は』だったら「男女が入れ替わる恋愛物語なのだが、じつは大きな悲劇を食い止める物語でもある」みたいな。
それから作家さんと一緒に企画を練り上げます。「こういうアイデアがあるんだけどどう思う?」と投げかけて一緒に揉んでいく。そうしてできた企画をストックしておき、「何か企画はありませんか?」と聞かれた時、ニーズに合わせて「これなんてどうですか?」と提案していきます。
――どんな流れで企画になるのでしょうか?
佐久間:たとえばNetflixで放送した『トークサバイバー!』は、『テラスハウス』を観ている時に思いつきました。ちょっと言い方は悪いのですが、テラスハウスのある回を観ている時に「この男女の会話に全然中身がないけど、なんで笑っちゃうんだろうな?」と思ったのでメモしておいたんですよ。
そのメモから「振りかぶってトークせず格好つけて話すと、情けない話やしょうもない話はより面白く感じる」とアイデアを膨らませ、本格的なドラマの中で芸人さんが演技しながらトークするという企画を作りました。かっこいいセットを用意して、ドラマのような音楽も流す。その中で俳優のように演じてもらい、合間にトークを挟むとおもしろい番組になるかなと。それが『トークサバイバー!』です。
手当たり次第、新鮮な情報を得る
――どんな時にメモを取ることが多いですか?
佐久間:映画や小説、それに舞台など、他の作品を観ている時が多いですね。映画を観ている時に半券の裏にメモすることもあります。前回言ったように、料理や掃除など単純作業をしている時に、過去にストックしたメモが頭の中で結合して企画になることが多いです。
――数多くのコンテンツを観ていると思うのですが、どのように選んでいるのでしょうか?
佐久間:もう手当たり次第ですね。取捨選択はしません。気になった舞台があればとりあえず観る。気になる小説があればとりあえず読む。そしておもしろい感想を言っている人をチェックして、自分に感性が近いと思えばその人が薦めている作品はとりあえずチェックする。この流れが多いですね。
佐久間:あとは娘から企画のタネをもらうことも多いです。勉強に飽きた娘が、夜中に僕の部屋に来て仕事を妨害するんですよ(笑)。そこでの会話から企画が生まれることもあります。
たとえば、「韓国ではファンが推しのために広告を出す」みたいな話は娘から聞きました。誕生日にその子を応援するためにファン一同で何かを贈る、みたいな。僕ら世代の感覚だと、広告は運営が出すものじゃないですか。それをファンが出してくれるのは新鮮でした。そういう話が企画のタネとなり、やがてコンテンツ化することもあります。
――若い人ならではの視点が得られると。
佐久間:僕たちだけでは話題に挙がらない情報が入ってきますからね。他の例でいうとVTuberもそう。存在は知ってはいるけど僕らの世代は馴染みがない。だから「なぜVTuberはこんなに人気なのだろうか?」と疑問だったんですよ。
でも娘の話を聞いていくうちに「なるほど。顔が分からないからこそワクワクするんだな」など気づきがあって、それも企画のタネになります。
――家族との団らんが毎日の糧にもなるし仕事にも繋がっているんですね。
そういえば……そんな娘にこの前「キャラ弁を作ってくれ」と言われて、こんな弁当を作りました。
佐久間:プーさんをイメージしたんですが……丸い卵焼きを作るのは難しいですね(笑)。
――この写真は記事に使っていいですか?
佐久間:娘は完成形を見ていないんですよね。どんな反応が返ってくるかによって写真を公開できるか判断させてください。著作権は娘にあるので(笑)。
取材・文:中村昌弘 撮影:ホリバトシタカ イラスト:高木ことみ
撮影場所協力:長谷工不動産「スペーシア麻布十番Ⅰ」
WRITER
ライター。「なかむら編集室」代表。住まい・暮らし系のメディアでの取材記事、ビジネス系の書籍の執筆などを手掛けている。 X:@freelance_naka
おまけのQ&A
- Q.最近どんなミュージシャンの音楽を聴いていますか?
- A.Laura day romance、Lamp、おとぼけビ〜バ〜、for sibyl、フリージアン、LAUSBUB、THE LAST DINNER Partyとかですね。Spotifyで適当に検索して聴いています。最近はこういうバンドばかり聴いているので、勝手にレコメンドされます。
- Q. 愛用している仕事道具はありますか?
- A.pomeraはたまに使いますね。小さいノートパソコンみたいな形状で、文章を書くことに特化した電子機器です。外出する時はpomeraだけ持って行くこともあります。溜まったアイデアを文章にまとめる時は、紙のメモとかpomeraとかアナログなツールの方が僕は好きなんですよ。ネットに接続できないので余計な情報は遮断できる。意外と仕事がはかどります。