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2024.05.28

地方都市の中心市街地にいまマンションが増えるワケ

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近年、首都圏のみならず地方でもマンション市場が活況といわれている。その理由をひもとくと、 中心市街地の役割の変化という背景があった。

近年、地方都市を歩くと、中心市街地で新築や築浅のマンションを見ることが増えた。地方都市といえば、人口減少や高齢化で活気がなくなっているイメージがある人もいるだろう。では、なぜいまマンションが新たに地方都市の中心市街地で見られるようになったのだろうか。そこには、まちの役割の変化が背景としてある。

 

中心市街地といえば、百貨店や商店街といった商業機能や、オフィスや事務所といった業務機能が目につきやすい。一方、近年の地方都市ではとりわけ商業機能の衰退が目立つ。シャッター街になってしまった商店街を見たり、まちのシンボルともいえる大型商業施設の閉店のニュースに接したりした人は多いだろう。この記事を読むにあたって、「衰退しているといわれる地方都市に本当にマンションが増えているのか?」という疑問を持った人もいるはずだ。

 

確かに、全国的な人口減少や少子高齢化社会の中、人口が少ない都市や地域の求心力が弱い都市ではマンション建設というのは難しい。しかし、県庁所在地などある程度人口や地域の求心力のある都市ではマンションが増えてきているように感じられる。

▲マンションが増えつつある地方都市の駅前

ここでひとつ、具体例を挙げてみよう。東京から約200キロ離れた県庁所在地の長野市では近年、駅から少し離れた2つの商業施設跡地がマンションに変わっている。この都市では、以前は駅から少し離れた位置にも商店が立ち並び、人がまちを回遊する構造になっていた。しかし、駅ビルの増床や既存商業施設の老朽化で人の流れが変化した。その結果、商業施設を取り壊してマンションとする事業が相次いで着工した。うちひとつは14階建てマンションとして完工し、低層階には食品スーパーが入居している。いま建設中のマンションについても15階建てとし、低層階には商業施設を入れる計画だという。

▲以前の長野市の様子。手前の商業施設が現在解体されてマンションが建設されている。その奥に竣工済みのマンションも見える

この例から見える特徴としては、商業施設の跡地に商業機能を取り込んだ十数階建ての高層マンションを建設しているということだ。こうした例は長野市にとどまらず、全国で見られるようになっている。

 

ではなぜいま、全国の地方都市でマンション建設が進んでいるのか。その理由は2つある。ひとつが「商業機能の弱体化」、もうひとつが「住宅供給・需要双方の増加」だ。

 

 

まず「商業機能の弱体化」について詳しく見ていくことにしよう。

 

従来、中心市街地というのは人が集まる場所として発展してきた。例えば城下町や宿場というのは人が多く住み、集まる。そのため商売で稼げるチャンスが生まれ、市が立ち、稼いだ商人は自分の店を市街地に構えた。

 

近代化後は「市」という形式が徐々に変化し、露店が商店に変わり、集まって「商店街」を形成するようになっていった。そして消費者のニーズの多様化に対応し、多くの品物を扱う「百貨店」や「総合スーパー」が市街地に立地し、商店街と共存して中心市街地は賑わった。しかし、1980年代以降、中心市街地の商業は厳しい局面を迎えるようになった。

▲百貨店のある地方都市の中心市街地の一例。アーケードも目立つ

背景としてあるのは交通やライフスタイルの変化だ。まず、自家用車の普及で自由に中長距離移動ができるようになった。また、鉄道では1980年代に国鉄・JRを中心に地方都市で普通・快速列車の本数が増強され、より大きな都市への移動がしやすくなるとともに、新たな市街地として駅の求心力が高まった。ライフスタイルとしては、市街地の狭い家ではなく、同じ価格で建築可能な郊外の広くて居住環境が良好な家に住み、自家用車で移動する流れが広がった。こうして、中心市街地の求心力が低下し、店舗が中心市街地に集中している必要性は低くなった。

 

そこに追い打ちをかけたのは「ユニクロ」をはじめとする専門店のチェーンストアが、地価が高い中心市街地ではなく、地価の安い郊外の交通量の多い場所に大きな店を構えたことだ。こうした店では広いフロアで、ゆったりと買物ができ、安い商品が購入できるため、支持を集めていった。また、チェーンストアを集めた「ショッピングモール」が、より広い用地が確保できる農地や工場跡に建設され、中心市街地の百貨店や大型商業施設が求心力を失っていった。

▲地方都市では主要道路のロードサイドに店舗が立ち並ぶ。専門店も増え、さながら商店街のようになっているところも

一方で中心市街地はまとまった用地取得の難しさや地価が高いことから、新たな住宅や商業施設は生まれにくくなっていた。そして、駐車料金の発生や渋滞などの要因もあり自家用車のニーズを取り込めなかったことで、来街者も減り、商店の閉店が相次いだ。また、商店街においては店のオーナーが住居兼店舗としていたこともあり、閉店跡に店が新たに出店することも少なかった。こうしてシャッター街が生まれ、中心街の大型商業施設も業績の悪化や老朽化で閉店を余儀なくされた。

 

大型商業施設が撤退すると、まとまった空いた土地が中心市街地に生まれるが、この土地を早く埋めて中心市街地のこれ以上の求心力低下を避けたいという思惑が自治体・地域住民双方に働く。そして、このまとまった土地がマンション用地として注目されるようになった。

 

 

つぎに「住宅供給・需要双方の増加」について見ていこう。

 

先ほど解説したように、商業機能としてみれば中心市街地の求心力は弱まっていったが、オフィスをはじめとする業務機能は郊外移転の流れもなく、中心市街地は業務地としての求心力はそのまま残った。そのため、中心市街地の価値というのは大きく下落したわけではない。その点も商業施設の撤退や空地を生む原因にもなっていた。

▲地方都市の中心市街地での土地利用例。手前側は駐車場にしているのに対し、奥側には高層マンションが立つ。いま、地方都市の中心市街地では土地利用が写真のように二極化している

一方でこうした商業地は都市計画上、容積率が高く、高層建築を建てやすいという利点もあった。

 

ただ、土地の高度利用はどういった機能を持ってくるかが課題となる。先に触れた通り、商業機能は求心力が低下しており、新たな進出は見込みにくい。業務機能も大都市中心部ならいざ知らず、地方都市には高度利用のオフィスビルの需要はあまりない。しかし、居住機能、特に分譲マンションであれば、購入であるため、投資した資金の回収も早くできる。そのため、とりわけ地方都市ではマンションの建築が進められることになった。

 

また従来のライフスタイルの象徴である一戸建ても課題が出てきている。リフォームや維持も個人で管理や工事の手配を行うために負担感が強い。また、災害対策という意味でも木造家屋では心配だ。そして、家の特性がそれぞれあることや、人口減少や少子化などにより需要が減少しているために中古住宅として売却することも一苦労となる。特に郊外の一戸建ては引き取り手が出ないままに空き家になり、その数も増えている。

▲郊外の分譲地。ここのように十分に分譲が進まなかったような場所では、インフラ維持や空き家問題も深刻だ

一方、中心市街地は業務地に近く、郊外と比較すると資産価値が下落しにくいと見込まれる。また、マンションであれば共同管理のため、個人でする手配や作業の負担感は下がる。災害対策の面から見ると、鉄筋コンクリートづくりの建物には安心感がある。また、間取りがある程度決まっているために、何かあっても賃貸や売却に出しやすい。さらに勤務地によっては通勤が大幅に楽になる場合もある。こうして土地所有者の需要と住宅購入希望者の需要がマッチした結果、中心市街地にマンションが増えていったのである。

 

また、自治体にも新築マンション増加はメリットが大きい。中心市街地の高度利用化はインフラの更新、防災機能の向上、求心力の向上につながる。結果として将来のインフラの維持コストを抑えることにもつながる。そのため、市街地再開発事業への支援制度などで、こうしたマンション建設や居住を後押ししている面もある。

 

 

商業機能の求心力低下と住宅供給・需要の増加が組み合わさって起きている、地方都市の中心市街地でのマンション増加。時代によって交通や社会情勢、暮らしている人々のニーズが変わり、求められる施設や形態が変化していると見ることもでき、まちが新陳代謝しているといえるであろう。

 

まちは変わるものだ。建物の中にあるテナントというミクロな視点で見ると、消費者に支持されない商店や業績が良くない企業の事務所は撤退せざるをえない。マンションやアパートでも住民は同じということはない。むしろ変わっていくことの方が多い。

 

建物で見れば、時代に合わせて求められる素材や建築物の形態も変化していくし、地域に求められる役割や地域を訪れる人の目的が変われば、求められる建物も変化する。
例えば、昔は中心市街地だったところがいまは古い木造建築が立ち並び、観光地化するところもあれば、倉庫街や砂利置き場だったところに需要により大きなオフィスビルが立ち並び、そのまちの中心市街地になるケースもある。

▲中心市街地が別の場所に移った旧宿場町。こうした場所もまちの新陳代謝が起きた結果生まれた見ることができる

むしろこうした変化がないまちは、どことなく古ぼけ、停滞した雰囲気が漂ってしまう。それこそ市街地であれば活力がないように見えてしまい、引いては人口減少に拍車をかけることにもつながりかねない。

 

いま地方都市の中心市街地にマンションが建っているという動きは、中心市街地に居住機能がいま求められているといえ、まちが移り変わっていっているといういいサインともいえる。

 

さらにいえば、中心市街地に新たな住民が増えることで、人通りが増え、商業機能がある程度戻るかもしれない。商業地としての基本は人が集まることである。今後マンションが増えていくことでさらにまちが変化していく可能性が期待できるともいえよう。

 

では実際に、中心市街地にマンション建設が進む地方都市の様子はどうなっているのか。今後2つのまちを見ながら探っていきたい。

 

 

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取材・文・撮影:鳴海侑(まち探訪家)

 

WRITER

鳴海 侑
神奈川県生まれ。現在までに全国にある 700 以上のまちを訪ね歩いた、「まち探訪家」。父親の実家が限界集落にあった経験などから、「この地域はいかにしていまの姿になったのか」という問いを抱き、まちを見て歩き、考える日々を送る。現在は会社員と二足のわらじでウェブメディアへの寄稿をメインに活動中。

X:@mistp0uffer

おまけのQ&A

Q.地方都市に増えるマンションについて、立地以外に目立った傾向はありますか?
A.高層マンションが多いです。物件によっては地域の富裕層を狙って「億ション」として売り出されていることもあります。また、商業エリアに新たに建設されるマンションの場合、低層階に商業施設や医療モールを併設しているケースも多く見られます。