住まいの安全はどう確保? 知っておきたいマンションの消防設備とは

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マンションの火災対策企画後編となる本稿。火災から命を守るための消防設備や法律など、より安心して暮らすために知っておきたい火災対策についてご紹介します。

――前回は火災件数の推移や出火場所や原因、マンションで火災が発生した際の初期行動についてお話を伺いましたが、今回は居住者が知っておきたいマンション内の消防設備や建物を火災から守るために定められていることについてお聞きしたいと思います。

 

渡部さん:マンション火災もそうですが、いわゆるビル火災では、スプリンクラーの水による被害が発生することがある、ということにも留意していただきたい。スプリンクラーは火を感知して自動で消火を始めますが、止まる時は自動ではありません。ですから、火は消えたのにスプリンクラーが作動し続けて、床や壁などにある少しの隙間を伝って下の階まで水浸しになることがあります。自宅に高価なIT機器などを置いている方も多いので、炎による被害はなくても、上の階からの漏水で被害が発生することがあります。スプリンクラーからの放水を止めるには、各階にある制御弁を閉め、最終的にはスプリンクラーのポンプを止めます。制御弁室は各階にありますが、防火管理者の方は、日ごろから制御弁室の位置を把握しておくことが重要です。また、制御弁室は施錠されていることも多いので、スプリンクラーが作動したら、必ず鍵を持って行くことも頭に入れておきましょう。

 

南野さん:マンション住民の方々には消火設備の使い方を知っておいていただきたいですね。また一定の規模のマンションにある屋内消火栓設備も簡単に使える物ばかりではありません。なかには2人がかりでないと使用できない物もあります。地域を管轄する消防署で消火器や屋内消火栓設備の使用法に関する講習や指導を受けることができますのでぜひ相談してください。

▲左)屋内消火栓設備。一定の規模を超えると設置されています。屋内消火栓設備は、住民の皆さんが初期消火のために使用するものです。右)スプリンクラー設備。マンションでは高層階に設置されています。一定の要件を満たす場合、設置されていない場合もあります。

――建築基準法と消防法とは?

 

南野さん:建築基準法と消防法は、建物の安全性を確保するために非常に重要な法律です。建築基準法では建物自体の構造が一定の耐火性能を持つこと、火災が燃え広がらないようにする防火区画、内装の制限などが定められています。一方、消防法では火災を早期に感知するための自動火災報知設備、避難を促すための非常警報設備、消火のための屋内消火栓設備やスプリンクラー設備について定められています。

 

渡部さん:消防法ではマンションなど共同住宅の場合は、居住者50名以上で防火管理者の選任が義務付けられます。マンションと商業施設と合築の場合は、全体の収容人員が30人以上、有料老人ホームなどの福祉施設との合築であれば同じく10人以上で防火管理者が必要となります。もし選任されていなければ消防署から指導がありますし、改善されなければ罰則もあります。防火管理者になるには、一般的には講習を受けていただきます。防火管理者に選任されたら、消防署への届出が必要です。防火管理者の業務としては、まず消防計画を作成して消防署へ届出を行います。そして、消防計画に従って防火管理業務を進めていきます。日常の防火上のチェックはもちろん、各居住者が参加しての自衛消防訓練を定期的に実施する必要があります。

▲火災予防のプロフェッショナル東京消防庁に話を聞いた。(右から)建築物が防火や避難に係る基準に適合しているかの審査検査と共に基準の考え方や運用について、とりまとめる業務を行う予防部予防課 建築係 建築係長 南野秀司さん。火災調査結果から得られたデータを分析し問題点を抽出。同種火災の再発防止や火災予防施策に反映させている予防部調査課 資料係 資料係長 髙橋伸幸さん。災害時の活動や訓練など、事業所における自衛消防活動に関する業務を担当する予防部 防火管理課 自衛消防係 自衛消防係長 渡部亮さん。※所属先・肩書きは取材当時のもの。

南野さん:消防用設備等は、共同住宅の場合は半年に1回の点検、3年に1回の消防署への報告が求められます。商業施設は、年に1回の報告が必要です。消防用設備等には、消火器、屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、泡消火設備、ガス消火設備、粉末消火設備、誘導灯などがあります。非常警報設備はジリジリ鳴る警報器から、館内アナウンスのための非常用の放送設備も点検の対象になります。これら設備は湿気の影響を受ける等環境によって劣化することがあるため、定期的な点検が重要です。

 

 

――海外で起きる大規模マンション火災が日本では起きにくいのは建築基準法や消防法の違いもありますか?

 

南野さん:海外ではロンドンや中国での大規模なマンション火災のニュースがありました。現地を調査したわけでないので我々は火災や大規模な延焼の原因は分かりません。その上であくまでニュースを介しての情報では、建物の外壁に燃えやすい断熱材を使用しており大規模な延焼を招いてしまったともいわれています。日本では建物の外壁には耐火基準がありますが、外装材や断熱材には法的な規制はありません。ただ、日本の設計事務所や建設会社は常識として外装材や断熱材を設置する場合は燃えにくい物を選択しています。

 

また最近は外装に木材や再利用材が使用されることもありますが、これらの材料も不燃加工などの対策が施されていると聞いています。最近では脱炭素社会への取り組みの一環として、高層建築物の躯体にも木材を積極的に使用する動きもありますが、その際にもスプリンクラー設備を義務付けるなどの対策がとられています。海外の建築との違いについては専門ではありませんが、外装材や防火区画などの点で差があると思います。日本では建築基準法に従い、防火区画や耐火構造などの要件を満たす必要があります。また、消防法では自動火災報知設備や消火設備の要件が定められています。これにより、日本のマンションで海外のような大規模な火災が起きる可能性は低いと考えられます。

渡部さん:マンションの居住者が個人で準備できる火災対策用品としては、住宅用消火器が身近ではないでしょうか。建物にも消火器は設置されていますが、基本的に通路などの共用部に設置されているので、取りに行くのに時間がかかります。手元に住宅用の消火器があれば、その分迅速に対応することができます。

 

投げ込むタイプの消火用製品も販売されてはいますが、使い方が難しいです。炎の根元の実際に燃えている箇所に正確に投げ入れる必要がありますが、我々が実験したところ、目標に確実に当てることは難しいという結果になりました。消火器は、住宅用と業務用がありますが、いずれも国家検定を通ったものですので、その方が使いやすく、効果も確実です。

 

また、消火器には、一般的に液体タイプと粉末タイプがあります。布団など厚みのある物の火災に対して粉末タイプの消火器を使用した場合、内部に火種が残っていることもありますので、その時は水をかけるなどして、完全に火を消すことを推奨しています。

 

 

南野さん:また、31メートルを超える高層マンションでは、1階から上まで全部屋でカーテンやカーペットなどは、防炎物品の使用が義務付けられています。個人の住居内には立入検査はできませんが、法律で定められたものですから、「防炎」と書かれた物を使っていただきたい。さらに、防炎製品として燃えにくい素材で作られた布団などもあります。これらは法令上の義務ではありませんが、火災予防の効果は高いので我々からも推奨しています。

 

渡部さん:ニューヨークやロンドンなどの海外の都市では、家庭での避難計画「ホーム・ファイアー・エスケープ・プラン」の作成が推奨されています。「計画」というと大げさかもしれませんが、火災時の行動を普段からイメージしておくだけでも、いざという時にスムーズに動くことができます。例えば、自宅内のこの場所で火事が起きた場合、どのルートでまず逃げるか、そこが使用できない場合はどうするか、ベランダ方向に避難するとしてはしごはあるか、それもだめならどう助けを求めるか、といったことなどを普段から意識しておくことをお勧めします。消防用設備等の点検などの機会に、「わが家の防災対策」を考えるのも、いいと思います。

 

南野係長:東京消防庁のホームページには「住宅防火10の心得」という情報がありますが、最新の動向を踏まえて更新しています。調理中はこんろから離れない、寝たばこを避ける、コンセントの安全使用などが記載されていますので、ぜひご覧になって防火に生かしていただきたいです。

 

取材・文/小野悠史 撮影/ホリバトシタカ

 

WRITER

小野 悠史
不動産業界専門紙を経てライターとして活動。「週刊東洋経済」、「AERA」、「週刊文春」などで記事を執筆中。X:@kenpitz

おまけのQ&A

Q.タワーマンションが東京で増えていることから、消火活動もより複雑になっているのではないでしょうか?
A.消火活動で重要なことは、移動手段と水の確保です。
31mを超える建築物には原則として、火災時にも使用できる非常用エレベーターが設置されています。また、地上7階以上の建築物には連結送水管が設置されており、消火用のホースを地上からのばしていく替わりに連結送水管を活用して水を高層に送り消火をすることになります。
Q.都内で最も高い場所で発生した住宅火災の階数は?
A.最近10年間では、2017年に建物51階の共同住宅の居室から出火した事例があります。