中古マンションの価格は「管理」の良し悪しで変わる? 新評価制度を取材した。

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国土交通省

マンション管理にまつわる二つの新制度が施行されて約半年。両制度の内容や狙い、認定または評価を受けることで得られるメリットとは。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ)メイン画像:© Rainbow/amanaimages

「マンションは管理で買え!」という言葉を聞いたことはありませんか? 長く住むことを考えた時、長期修繕計画の中身を含む管理の状態は、とても重要なポイントになります。

そんなマンション管理にまつわる二つの制度が2022年4月にスタートし、大きな注目を集めています。一つは国土交通省による「マンション管理計画認定制度」、もう一つがマンション管理業協会による「マンション管理適正評価制度」です。

国土交通省が管掌する「マンション管理計画認定制度」は、マンション管理の状況を地方公共団体が評価し、一定の基準をクリアすると「適切な管理計画を持つマンション」として認定を受けられるというもの。その詳細や制度が生まれた背景について、国土交通省住宅局参事官(マンション・賃貸住宅担当)付に伺いました。

 

――まずは、「マンション管理計画認定制度」ができた背景から教えてください。


2021年末の時点で国内のマンションストック戸数は約685万戸に上り、そのうち築40年を超えるマンションは約215万戸。10年後にはこれが約2倍に、20年後には約3.7倍になる見込みです。推計通りに高経年マンションが急増していった場合、そのぶん建物の老朽化による損壊等のリスクが高まっていくと予測されます。

そこで、2020年6月に「マンション管理適正化法」と「マンション建替円滑化法」の二つの法改正を行い、マンションの老朽化抑制や再生を推進していくことになりました。

 

マンション管理・再生ポータルサイト

▲国土交通省「マンション管理・再生ポータルサイト」に両制度の詳細が紹介されている。動画やQ&Aなどの豊富なコンテンツを通じて、マンションの管理・再生についてより詳しく知ることができる。https://2021mansionkan-web.com/

 

――つまり「既存のマンションを適切に維持管理する」「維持や修繕が困難なマンションを建替え等によって再生する」という二方向のアプローチで、マンションの安全性を担保していこうとですね。



そうですね。そのうち、今回のテーマである「マンション管理計画認定制度」に関係するのが「マンション管理適正化法」です。改正により、マンション管理の適正化に資する国の基本的な方針が示されました。この方針に基づき、まずは全国の各自治体が任意で「管理適正化推進計画」を策定します。その後、その市区町村にあるマンションが認定制度を受けられるようになる、という流れです。なお、申請はマンション管理組合の理事長などが各自治体に対して行い、一定の基準を満たせば「適切な管理計画を持つマンション」に認定され、その後は5年ごとに更新が必要になります。



――そもそも、マンションの管理が適切に行われなかった場合、主にどのような問題が起こると考えられますか?



最も大きいのは修繕の問題です。修繕が適切に行われないと建物の老朽化は加速し、最終的には外壁が崩落するなど、マンション周辺にも危害が及ぶリスクが高まります。そして、適切な修繕を行うためには、しっかりした長期修繕計画を立て、計画に基づき着実にお金を積み立てていく必要があります。しかし、なかには管理組合がうまく機能しておらず、必要な修繕積立金が不足しているケースも少なくありません。結果的に、適切な修繕がなされなくなってしまいます。



――逆に言うと、管理組合が機能していれば計画的な修繕がなされ、将来にわたって安心して住むことができる。その意味でも、「適切な管理計画を持つマンション」を認定する制度には大きな意義がありそうです。



この制度が周知され、管理計画の認定を取るマンションが増えると、中古マンション市場のなかで「管理の価値」が上がっていくのではないでしょうか。その結果、管理の質を上げて認定を受けようとするマンションがさらに増加し、管理の適正化が加速していく。そんな好循環が生まれることを期待しています。

 

――では、認定制度の具体的な内容を教えてください。



管理計画認定制度には5つのカテゴリーに全17の項目があり、その全ての基準をクリアすると認定を受けることができます。



【管理組合の運営】

  • 1 管理者等が定められていること
  • 2 監事が選任されていること
  • 3 集会が年1回以上開催されていること

【管理規約】

  • 1 管理規約が作成されていること
  • 2 マンションの適切な管理のため、管理規約において災害等の緊急時や管理上必要な時の専有部の立ち入り、修繕等の履歴情報の管理等について定められていること
  • 3 マンションの管理状況に係る情報取得の円滑化のため、管理規約において、管理組合の財務・管理に関する情報の書面の交付(または電磁的方法による提供)について定められていること

【管理組合の経理】

  • 1 管理費及び修繕積立金等について明確に区分して経理が行われていること
  • 2 修繕積立金会計から他の会計への充当がなされていないこと
  • 3 直前の事業年度の終了の日時点における修繕積立金の3カ月以上の滞納額が全体の1割以内であること

【長期修繕計画の策定及び見直し等】

  • 1 長期修繕計画が「長期修繕計画標準様式」に準拠し作成され、長期修繕計画の内容及びこれに基づき算定された修繕積立金額について集会にて決議されていること
  • 2 長期修繕計画の作成または見直しが7年以内に行われていること
  • 3 長期修繕計画の実効性を確保するため、計画期間が30年以上で、かつ、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれるように設定されていること
  • 4 長期修繕計画において将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していないこと
  • 5 長期修繕計画の計画期間全体での修繕積立金の総額から算定された修繕積立金の平均額が著しく定額でないこと
  • 6 長期修繕計画の計画期間の最終年度において、借入金の残額のない長期修繕計画となっていること

【その他】

  • 1 管理組合がマンションの区分所有者等への平常時における連絡に加え、災害等の緊急時に迅速な対応を行うため、組合員名簿、居住者名簿を備えているとともに、一年に一回以上は内容の確認を行なっていること
  • 2 都道府県等マンション管理適正化指針に照らして適切なものであること


――どれも重要だと思いますが、特に「長期修繕計画の策定及び見直し等」のカテゴリーは項目数が多く、内容も細かく定められていますね。



やはり、長期にわたって適切な管理をしていくためには、しっかりとした長期修繕計画が立てられ、定期的な見直しも含めて適切に運用されることが重要です。また、同時に修繕積立金の額が値上がりして区分所有者の負担が増大しないような措置も必要で、そのための基準も設けています。

 

――制度開始から4カ月が経ちました(取材時)。現時点で申請や認定の状況はいかがですか?



6月には板橋区のマンションが第一号の認定を受けました。管理計画認定の申請には総会決議が必要であり、制度がスタートしたばかりですので数はまだ少ないですが、自治体の窓口などへの申請や問い合わせも少しずつ増えていると聞いています。

そのマンションがある自治体が「管理適正化推進計画」を作成していなければ、そもそも申請することができません。そのため、まずは全国の地方公共団体に推進計画を策定してもらうよう、国としても働きかけを行なっています。

なお、制度開始前の2022年6月に全国の自治体に向けて行なったアンケートでは、マンションストック数の多い自治体を中心に計画策定に向けた取り組みが進んでおり、東京23区とすべての政令指定都市が「(推進計画を)作ります」と回答。また、中核都市と特例市の8割弱も同様の回答でした。



――つまり、マンションの多い都市部ほど前向きであると。



そうですね。なお、今後はそれらの都市以外でも作成が進んでいく見込みであり、ストックベースで見ると、令和5年度末時点ではマンションストック数の約8割が申請できるようになる見込みです。



――ただ、対象エリアが広がったとしても、そもそも管理組合が機能していないマンションや、ずさんな管理をしている組合などが積極的に申請するとは思えないのですが……。



確かに、そこは大きな課題の一つです。当面はやはり、現時点で認定の基準を満たしているマンション、少し改善すれば認定を取れるマンションが多くなると想定されますが、そうやって認定の実績が増え、管理の価値が見直されていけば、おのずと多くの管理組合に関心を持っていただけると期待しております。そして、いずれは現時点で適切な管理ができていないマンションにも、管理計画を見直してもらえるきっかけになるかもしれません。



――ちなみに、現時点で国から申請を働きかけるような取り組みはありますか?



認定を受けることで区分所有者にもメリットを感じてもらえるような、さまざまなインセンティブを用意しています。例えば、管理組合が大規模修繕を行う際、共用部分のリフォームにかかる費用について融資(「マンション共用部分リフォーム融資」)を受ける場合は金利が引き下げられます(2022年10月の借入申込受付分より)。また、修繕積立金の運用に特化した住宅債権「マンションすまい・る債」を管理組合が購入する際にも、認定を受けたマンションであれば利率が上乗せされ、より多くの利息を受け取れるようになります(2023年度の募集分から適用予定)。

※「マンションすまい・る債」 https://www.jhf.go.jp/loan/kanri/smile/index.html

他にも、認定を受けたマンションを購入する場合、【フラット35】(住宅金融支援機構)の金利が引き下げられる優遇措置を受けることができます(2020年4月の適合証明交付分より)。金利優遇により購入者側が「買いやすく」なるということは、区分所有者にとっても「売りやすくなる」ということですので、マンションの売却を視野に入れている場合は大きなメリットになるのではないでしょうか。

また、インセンティブだけでなく、管理組合が課題の解決に取り組みやすくなるためのサポートも必要だと思います。これから申請が増えていくにつれ「特にどの項目が(認定の)壁になっているのか?」「どこに問題点を抱える組合が多いのか?」といったことも見えてくるはずです。それらの問題を改善するために必要なポイントや情報を発信していくことも大事だと考えています。

 

WRITER

榎並紀行
編集者・ライター。編集プロダクション「やじろべえ」代表。住まい・暮らし系のメディア、グルメ、旅行、ビジネス、マネー系の取材記事・インタビュー記事などを手がけている。X:@noriyukienami

おまけのQ&A

Q.「マンション建替円滑法」改正についてもう少し知りたい。
A.建替え後のマンションに容積率の緩和特例等を適用できるマンションが拡充され、マンション再生の選択肢が増えました。また、多くの区分所有者が存在する団地型マンションの再生手法として敷地分割制度が創設され、合意形成に向け、柔軟な対応が可能になりました。詳細は「マンション管理・再生ポータルサイト」をご確認ください。
https://2021mansionkan-web.com/