長谷工　| 広告ギャラリーただいまのあとに

孫娘がつえを買ってくれた。美しい家具を思わせる、優しい曲線を持つつえだった。それを見て、入院していた病棟を思い出した。そこは設備も実績も申し分のない大病院で、廊下や部屋も広く、常に清潔に保たれていたが、ただひとつ大切なものが欠けていた。どこにも美しいものがなかったのだ。建物の中にも外にも緑がなく、廊下にかけられた絵はおざなりで、インテリアにも心を砕いたあとは見られなかった。その味けなさが日を追う毎に心を蝕むようで、私は退院を急いだ。美しいものは、人の心を救うと思う。幸いにもこの高齢者住宅は、庭にも建物内にも緑が溢れ、ロビーには小品だが心を尽くした絵が並び、私の部屋には、孫がくれたつえが朝陽の中でキラキラと輝いている。