会社に返した肩書き

夫が変わった。私にあれこれと「命令」しなくなった。以前は「新聞取って」とか「コーヒー入れてよ」とかうるさかったものだが、それがある日ピタリと止まったのだ。どうしたのとしつこく聞くと、ようやく夫は、「いや、僕はもう部長じゃないから」と、照れながら白状した。長年の会社勤めが終わり、夫の生活は激変した。自分も変わらなければと、彼は彼なりの定年後のルールを考えた。「退職していろんな備品を会社に返した日、僕は部長という肩書きも会社に置いてきた」と言うのだ。私はちょっと感動した。からだの中を新鮮な風が吹きぬける心地がした。そして、 住み慣れたマンションでこれから始まる、私たちの新しい日々を思った。

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