目が幸せな家

ここは目が幸せなマンションだね、と窓辺でしみじみと父が言う。引っ越しをして2ケ月。父母が来るのは3度目だが、今日は近隣の花火大会にあわせて、夜の来訪になった。門をくぐると木々の緑。そのまま進むと花壇の花。部屋に入れば遥か彼方に山々が見えて、「そしてこの夜景だもの」と、眼下に広がる光の大海原を眺めて父は感嘆する。ここを買う時、ちょっと狭くないかと父は心配した。しかし夫はいつになく積極的で「部屋は狭いが、視野は広い」と、笑いながら眺望の素晴らしさを強調した。そして来るたび、父も息子の判断を賞讃するようになった。ソファでは遊び疲れた1歳の娘が眠っている。それを覗きこみながら「私の目の幸せはここにあるわ」と母は微笑んだ。

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