花の親になる

また雨だね、とため息まじりに窓の外を眺めていると、あら、私は嫌いじゃないわ、と台所で夕食の仕度をする妻が言う。「花を育てるようになってからはね」 そうか、と僕は僕たちの何よりの自慢である広いテラスに目をやる。そこではこのマンションに来て2年、妻が丹精を尽くす色とりどりの花が、夏の薄暮の中で風に揺れている。 思えば、天気がいい悪いと言い立てるのは人間の都合である。花にとって雨は生気の源であり、暑い日盛りに子どもたちが歓声を挙げて水浴びをするように、花もまた、天空からの恵みに狂喜しているに違いない。 この星は、子育てが終った人間にもいのちを育てる歓びを用意している。そんなことを考えながら、僕は花たちに見とれていた。

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