娘のふるさと

都心近くの、小さいけれど瀟洒な一戸建の広告に心を惹かれ、ふと、そんな選択肢もありかなと思った。 娘はまもなく結婚する。夫婦だけの生活に戻る。思い切ってこのマンションを売り、新しい環境に移るという人生の選択だ。うむ、なかなか大胆で魅力的な発想かもしれない。 するといつの間にかそばにいた娘が、絶対ダメ、と言う。「この森のような環境をママがどれほど愛しているか知っているでしょ」それにね、とニッコリ笑ってこう言うのだ。 「パパ、私のふるさとを奪わないで」 ここに入居した翌年、娘は生まれた。娘にとって、25年間の人生のすべてはこのマンションの敷地の中にある。私はその夜、とても大切なことを思い出した気持になった。

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